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学園の三悪人 3




 この学園の講堂は中々に綺麗だ。


 綺麗な板張りの壇上があり、そこから扇形に広がるように座席が並べられている。調度品はどれも豪華かつ新品で、アップルファーム開拓村の集会場とは比較にもならぬ。


 ピカピカの新入生たちは皆、豪華なふかふかの椅子にお行儀よく座っておる。


 我ら以外は。


「くそっ……僕としたことが、こんなバカどもに巻き込まれるなんて……」


「バカと言う方がバカなのじゃ」


「二人とも、静かにしないとまた怒られるよぉ……?」


 我らは喧嘩した罰として、一番後ろでおしりをぺたんと床に着けて出席することになった。体育座りという姿勢だそうだが、ふかふかの椅子に座らせてもらえぬことには変わりない。


 そしておしゃべりする我らを、ユフィ―先生が「静かにしなさい」とばかりにクワッと怒った形相で見てくる。その隣ではディルック先生が笑いをこらえている。


 ぐぬぬ……喧嘩の罰とは言え、ちょっと恥ずかしい……! 他の生徒もチラチラこっちを見てきおるし……!


 とはいえ大半の生徒は、壇上から聞こえる話に耳を傾けていた。

 こういう畏まった場での大人の話は退屈であると相場が決まっておる。厳しい訓辞を垂れたり、お決まりの叱咤激励をしたり、代わり映えせぬものである。飽きておしゃべりする者もよくいる。我とエイミーお姉ちゃんはよく叱られたものだ。


 だが、このユールの絆学園の学園長、ベルグトゥー先生の話は意外に面白かった。誰もおしゃべりすることなく話に耳を傾けている。


「古代の世界は、今とは比べものにならないほど豊かで、多様性に満ちていました。知っていますか? 太陽神があくびをするだけで嵐が巻き起こり、少しうとうとするだけで冬が訪れて雪が降ったのです。人々は荒れ狂う自然を恐れつつも楽しみ、強靭な力で自由な世界を謳歌していました」


 佇まいは威厳のある大人といった雰囲気だ。

 神官のような服装も、清潔に整えた短い黒髪も、頼り甲斐や渋みを感じさせる。

 かといってそれをひけらかそうとはせず、穏やかな口調で生徒たちに語りかけてくる。

 まあ、渋いイケメンといってよいであろう。

 パパほどではないが。


「ですが今の時代は平和なかわりにどこか不自由で窮屈で……誰もが孤独を抱えている。その自由を謳歌するためにこそ、自分でこの学園に来たという同じ決断をして、同じ場所で暮らす者を友とし、家族とし……得難い絆を結び合ってほしい。きっとそのときこそ、古代の人間が謳歌した魂の自由が得られる。私はそう思うのです」


 そう言って学園長の話は終わった。

 話の結びは真面目だったが、全体としてはざっくばらんで洒脱な内容であった。

 皆、楽しそうな顔をしている。


 だが一部は、学園長の姿を見て少しばかり緊張していた。

 外見や雰囲気の奥底から、底しれぬ強さを感じる。歩法は完璧で、油断しているようでまったく隙がない。魔力には淀みがなく、風のない日の湖面のようだ。


(魔力や体力はユフィーたちと変わらぬ気がするが……それだけでは言い表せぬ何かがある……。ともすれば、ママに匹敵するやもしれぬ)


 そして学園長の話が終わって教は解散となる。

 次の日からクラス編成や学園生活の説明が始まり、そこからようやく授業スタートだ。

 ようやく本格的に、この学園生活が始まろうとしていた。


「はぁ……お前たちと同じクラスじゃないことを祈るよ」


「わ、わたしだって二人みたいな乱暴な人とは一緒にいたくないもん」


「おぬしがそれ言う?」


 またも険悪な空気が流れ、ふん、とそれぞれそっぽを向く。


(うーむ、アップルファーム開拓村にいないタイプであるし、どうもやりにくいのう……)


 ま、こんな騒動を起こしたことであるし、同じクラスになることはなかろう。







 同じクラスであった。


 あの二人とめちゃめちゃ同じクラスであった。


「ちっ」


「えーとぉ……お、お手柔らかにぃ……」


「ブレイズもトリアナイトも、不機嫌を露骨に顔に出すでないわ。修行が足りぬぞ」


「肘をついて耳かっぽじってるお前に言われたくはない」


 これには理由がある。

 このクラスは優秀な子を集めた特別なクラス……『太陽』である。

 他の一般生徒は『月』、『星』、『風』といったこの地の自然の名を関しているだけでこれといった区別はないが、我らがクラス『太陽』だけは試験や評定で一定以上のスコアを上げているものだけで構成されている。

 素行とかケンカしたとかはあんまり関係なかったようだ。


 ていうか多分、他のクラスよりもケンカは多い。ブレイズやトリアナイトのみならず、他の生徒たちも鼻っ柱が強いように感じる。恐らくだが、我の村にシャーロットちゃんがスカウトに来たように、招かれたり推薦を受けたりここに来た生徒が多いのであろう。


 ちなみにエイミーお姉ちゃんは『月』のクラスだ。


 隣の教室は和気あいあいとしていて、授業が終わった後はクラブ活動をしたり寮を抜け出してカフェに行ったり、校庭の一番でかい木の下で告白して付き合ったり別れたりしているらしい。付き合うとかはよくわからぬがめちゃめちゃ楽しそうな雰囲気だけは伝わってくる。羨ましい。


「しかし隣のクラスがよかったのう」


「私も……」



 トリアナイトは我と同様、そこまで学業に真剣というわけでもない。

 魔法の実技は好きなようだが他はちょっとゆるい。

 一番熱心なのはブレイズであろう。


「真面目に授業を受けろ。ここはもっとも優秀な『太陽』のクラスなんだぞ」


「ほらそこの三人組! 話を聞く! あとお友達を呼び捨てにしない!」


 先生が我らに注意を飛ばし、くすくすと周囲の忍び笑いが漏れる。


「はい……すみません」


 ブレイズくんが代表して謝罪する。

 我も、致し方無しと姿勢を正して黒板の文字を写し取る。


「くそっ……この僕が問題児扱いなんて……」


 ギリギリとブレイズくんが歯ぎしりをして不満をひそかに漏らす。

 まあ隣りに座っている我には聞こえておるのだが。

 そんなギスった空気の中でも、無情にも授業は進んでいくのであった。


「さて、歴史の次の授業は剣術です。着替えたら道場に集合ですよ」







 ぱしん、ぱしんという小気味よい音が鳴り響く。


 ここは学園が作った道場だ。

 講堂よりは小さいが子供たちが運動するには十分な広さがあり、天井も高いので飛び跳ねたりするのも問題はない。逆に言えば飛んだり跳ねたりしなければいけない授業がある、ということだ。我はこういうの大好きであるが。


「くっ……何なんだお前、その動きは……!」


 この学校では算学や語学、古典、音楽といった教養科目の授業もあれば、魔法や剣術といった騎士や冒険者になるための授業もある。

 今は剣術の授業で、竹刀という模擬刀を使っての模擬戦をしておる。

 流石は『太陽』のクラスと言うべきか、剣術の素人であってもすぐに身のこなしや剣術の基礎を覚えたし、すでに腕に覚えのある者もちらほらおった。こやつらもしっかり鍛えればよい戦士になるであろう。

 とはいえ、ママ仕込みの槍術を覚えた我が負けることはないであろうが。


「ふふん! 剣術では我に勝てる者はおらぬようじゃのう!」


 ブレイズくんも決して悪い動きはしておらぬ。

 足さばきも手さばきもしっかりと基本を抑えている上に、イザというときは賭けに出て攻撃を放つ覚悟もある。十歳くらいの子としては上の中、あるいは上の上といったところか。


 しかし、あくまで子供の中での話。

 大人や魔物と渡り合うとなるとまだまだ弱点が多いと言える。例えば互いに距離を取って見合っている状態から、少しだけ我が隙を見せると好機とばかりに飛び込んで唐竹割りを仕掛けてくる。速く、鋭く、しっかりと力が乗った一撃を返せる子供は少ないであろう。だが。


「真っ直ぐすぎて読みやすい」


「くっ……舐めるな……!」


 避けてもよかったが、あえてこちらも剣で受け止めて鍔迫り合いに持ち込む。


「おぬしはこの形に持ち込まれない方がよいぞ。右利きなのに右の力が妙に弱い。怪我でもしたのか?」


「余計なお世話だ!」


「これは授業じゃ。指導を受ける側になることは甘んじて受け入れるがよい」


 鍔迫り合いの状態からブレイズくんを弾き飛ばし、倒れたところで竹刀をブレイズくんの首に突きつける。


「はい、そこまで!」


 先生が我の勝利を告げると、我らをじっと見ていた一部のクラスメイトが歓声を上げた。


「見ろよソルちゃんを……すげえパワーだ」


「流石ソルちゃん! ユールの絆学園の麒麟児!」


「覇王の降臨だぜ! お前らモヤシっ子は道を空けるんだな!」


 ちょっとガラの悪い応援が我の背後から響く。

 こやつら魔物に似ておるのう。我も前世のときは、こうして生きの良い連中に囲まれておったものである。


「……ふん。学生の本分は勉学。座学で一度でも僕に勝ってから大きな口を叩け」


「わ、わたし……野蛮なの苦手なんだよね……。はやくシャワー浴びて中庭に涼みに行きたいなぁ……」


 ブレイズくんが立ち上がり、やれやれと減らず口を叩く。

 トリアナイトちゃんは早く終わらせたいとばかりに呟いている。こやつは運動系の授業ではいつもおっかなびっくりだ。身のこなしや腕力は足りているのに試合を組んでもどこか腰が引けていて負け続きだ。トリアナイトちゃんのファンらしき生徒が「大丈夫? 水飲む?」と甲斐甲斐しく世話をしておる。うーむ、ぶちキレているときとのギャップがすごい。


「ソルちゃん、処す? 処す?」


「やっちまいましょうや姐御!」


 初等部ながらムキムキテカテカの男子のマーズくんと、なんかマスク付けて目付きの悪い女子、ウェンディちゃんが我を促すが、友達が怒ってくれるとなんだか自分の怒りが静まる。


「これこれ、処すとか言うでないわ」


 我の取り巻きは気の良い奴らなのだが、ちょっと喧嘩っ早いのが玉に瑕だ。

 ついでに言うと『太陽』クラスの中には、こやつらのような『スペックの高い脳筋』がぼちぼちいる。アホではないがバカである。あるいはバカではないがアホである。そしてあやつらの取り巻きも、似たようなものであった。




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