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学園の三悪人 2


「嘘だろ」


 ブレイズも呆気にとられておる。

 今だけはこやつと同じ気持ちだ。

 スレンダーな体つき、白磁のごとき肌、少し潤んだ瞳。

 どこをとっても女の子……と言いたいところじゃが、あ、腰と肩はフサフサで男の子っぽさをうまく隠しておる。女子制服を切ったり付け加えたりして、自分に似合うよう改造しておるようだ。


「ご、ごめんね。でも可愛いの好きで……えへへ……」


 パッと見の態度は控えめだが、入学初日に自分の個性を押し出して来るのだから意外に肝が太い。


「わたしほどじゃないけど、キミもとっても可愛いよ」


 その可愛らしい顔から、なかなか高慢なセリフが出てきおった。


「かわいいのは認めるが、ふん、アップルファーム開拓村のダイヤモンドたる我を差し置いて頂点を名乗るとはおこがましいぞ」


「あっ、キミがソルちゃんなんだ! わたしが一番カワイイのは譲らないけど……カワイイ仲間は大好きだよ!」


 トリアナイトが嬉しそうに我の手を取ってぴょんぴょん跳ねる。

 気安く触るでないわと振り払おうと思ったが、こやつ、なんか楽しい気分にさせるのが上手い。

 入学の浮かれ気分もあって、まあ乗ってやるかという気持ちになる。


「顔を誇りにするとは、小者のようだな」


 が、ブレイズがそこに冷水を浴びせかけてきた。


「ちょっと恥ずかしいのを思い出させるのでないわ!」


「……うーん、おかしいなぁ? わたし、何か変なこと言ったかなぁ?」


「おぬしは率直に変じゃし、ブレイズはデリカシーがない。まあ、ふたりとも変じゃの」


「なっ……僕が変だと……! こんなのと一緒にするな!」


「えっ……こんなの?」


「そうだ。初日から制服を改造して来る時点でおかしいだろう。ここが学園ではなく騎士団や軍団だったら懲罰を受けてもおかしくないんだぞ。それにお前に影響されて制服を改造する生徒が増えたらどうするんだ」


 それはそうである。


「規律として認められないのはもちろん、すでに完成されているものに素人が自慢気に手を加えるなんて自信過剰なんじゃないか?」


 その辛辣な言葉にトリアナイトがショックを受ける。

 よよよと後ずさりし、目も潤んでいる。


「そんな言い方……ひどいよ……キミとも仲良くしたいのに……」


 こやつ、自分の可愛らしさに絶対の自信があるのに泣き虫なところがあるのう。

 とはいえ流石にブレイズの態度と言葉が強すぎるのも事実だ。周りもトリアナイトを同情するような雰囲気が集まる。だが規律を重んじる生徒はブレイズの方に賛同してそうだ。どうにも場が混沌としてきた。


「それに制服だってこんなに可愛くできたんだもん。自信過剰じゃないもん」


「僕は可愛いとは思わない。映えあるユールの絆学園の生徒してみっともないんじゃないか?」


 可愛いとは思わない。

 その一言がトリアナイトの逆鱗に触れた。


「んじゃとぉ……大人しゅう聞いてりゃつけあがりやがって。なめ腐っとんのか?」


 トリアナイトのお人形のような雰囲気がガラリと変わり、口調も一転して荒々しくなった。

 鋭い視線に、荒っぽくも堂々とした振る舞い。繊細な可愛らしさが危うい魅力へと変わっていく。


「なっ……やっ、やめろ! 離せ!」


 そしてブレイズの襟首を掴み、片腕で持ち上げる。

 思ったより力は強そうで、ブレイズくんの友人と思しき生徒が引きはがそうとするがびくともしない。その細い姿からは思えぬほどの膂力だ。


「ヤバいよ! トリアナイトちゃんに『可愛くない』は地雷なんだ! あれのおかげで何度乱闘になったことか……!」


「あれさえなけりゃなぁ……」


「でもそういう二面性もちょっと好きなんだ……!」


 トリアナイトの取り巻きがよくわからぬことを言っている。

 というか止めぬのかい。


「このっ……! 離せ……!」


「ごめんなさいの一言も言えんのか、ええ?」


 ブレイズくんが反撃しようとするが、腕力に抗えぬようだ。


「ソルちゃん、どーしよどーしよ!」


 エイミーお姉ちゃんがパニック気味だ。


 さて、どうするか……と思ったがちょっとまずいの。

 ブレイズの右手に魔力が集まっている。何かの魔法でこの場を切り抜けるつもりであろうが、これではますます喧嘩の規模は大きくなる。


「よし、任せよ。エイミーお姉ちゃんは窓を開けておいてくれ」


 我が二人に近づき、ケンカに夢中になっている二人を丸ごと担ぎ上げた。


「なっ!?」


「なにすんじゃいワレ!」


「こんなハレの日に喧嘩をする方がなにするんじゃという話であろう。せめて場所を変えよ」


 ブレイズを右の肩に担ぎ、トリアナイトを左の肩に担ぐ。

 そしてエイミーちゃんが開けた窓から二人を連れて飛び出す。


「よいせっと」


 そこは敷地の内外を区切る壁があるだけの中途半端な広さの空き地だ。

 窓から離れ、周囲の視線が届かないあたりで二人を下す。


「喧嘩をするなら人目につかぬところで、正々堂々とやるがよい」


「バカが増えたみたいだな……憂鬱だ」


「邪魔するなんてひどいよー! ていうかわたしもバカ扱いされてるしぃ!」


 ブレイズはぱんぱんと土ぼこりを払い、取り澄ました顔でため息をつく。

 トリアナイトはさっきまでの迫力のある顔はどこへ行ったのか、また泣き顔を浮かべている。


「騒動を起こしてるのはそっちじゃろがい! 他人のことをバカとか言える口ではなかろうが! おぬしもさっきのドスの利いた声を出して喧嘩しておいて、可愛いがどうとか聞くでないわ!」


「馬鹿だと……?」


「また可愛くないって言った……言ったよな?」


 どっちも言っておらぬが?

 だが、我に喧嘩を売る気なら大歓迎である。


「おう、言うたとも。二人まとめて相手してやろうぞ」


 我は右拳を左の掌を合わせてぱしんと音を鳴らす。

 二人が猛烈な敵意を込めて我を睨み、あるいは二人同士で睨み合い、我もこやつらを睨む。


「威勢のいいことを言うのはやめておくんだな。負けてから言い訳されては困るからな」


「おのれこそ吐いた唾飲まんとけよ」


 ボルテージが高まり、みょんみょんと空気が歪むような音が聞こえる気がする。

 最初に動いたのはブレイズだ。腕力はそこまでなさそうだが意外に素早い。どこかで見たようなステップで距離を詰めてくる。そして拳に迷いがない。意外に喧嘩慣れしておるな。


「だが甘い」


「くっ……お前も馬鹿力か……!」


「避ける必要もなかっただけじゃぞ」


 ブレイズの拳を左手で受け止める。

 ふむ、トリアナイトに持ち上げられていた割には、しっかりと鍛えている。これが意味することは一つ。


「隙ありぁ!」


 可愛い姿に似合わぬ乱暴な、まるで獣の如き勢いで殴りかかってくる。

 威勢はよいが軌跡が見え見えだ。これならば簡単に防いで……。


「うぬっ!? 重っ……!」


「淑女に向かって重いだとぁ!?」


「女ではなかろう……!」


 その体に見合わぬほどのパワーがある。

 実は鍛えているという雰囲気でもない。恐らくは魔法か何かで無理矢理パワーアップしているような感じだ……であれば、技で封じ込めるが上策。


「あいたぁっ!?」


 弾丸のごとく飛んできた右拳を避けて肘関節を極める。


「痛いだけじゃ、怪我はさせぬ」


 これはママに教えてもらった護身術の一つだ。

 折らぬように適度に極まったところですぐに解放して距離を取る。

 情けをかけたわけではない。

 ブレイズがこちらを狙ってきている。ゆえにトリアナイトの背中を蹴り飛ばしてブレイズの方に行かせた。


「わぷっ!?」


「こら、邪魔だ!」


 もみ合いながら二人とも地面に転んだ。

 少なくとも格闘においては我の方が一日の長があるようだ。


「……一時休戦だ」


「うん、わかった」


 それを二人とも理解したのであろう。

 すぐさま意識を切り替えて連携する姿勢を見せてくる。

 やっぱりこやつら、妙に喧嘩慣れしておるな……?


 だが我も体が温まってきた。

 いざ、決戦の火ぶたが切って落とされ……。


「やめなさーい! はい、確保確保ー!」


 落とされなかった。

 気付けば我らは教師陣に囲まれており、周囲への注意が散漫になった瞬間を狙われてズタ袋を被せられてしまった。


「暗いよー! 怖いよー! なんでー!」


「なんでじゃありません! 入学初日に裏庭でケンカするなんて、まったくもう!」


「まあまあユフィ―。元気でいいじゃねえか。こういうガキがいると俺はホッとするよ」


「ディルックはもう少し先生らしくして!」


 ズタ袋の中の暗闇で響いたのんきな声は、どこか聞き覚えのあるものであった。




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