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学園の三悪人 1



 あるときは槍の修行に勤しみ、あるときは死体啜りの森の主としての務めを果たし、そして、新たな春が来た。


「ソル、がんばるんだぞ!」


「ソルちゃん、一人でも泣いちゃだめよ……!」


「わかっておるのじゃ!」


 我は制服に身を包み、愛すべきアップルファーム開拓村を発って再びユールの絆学園へと足を踏み入れた。なおパパとママは校門に入るギリギリまで着いてきたが、ここから先は「保護者はここまでです」と門番に止められてちょっと押し問答になってた。まったく、あれだけ学校に行けと言うておったのに、いざ行くとなると我よりも渋るから困ったものである……まあ、パパとママのそういうところも嫌いではないのだが。


 校門をくぐれば、学園長が植えた桜という木が咲き誇っている。

 まるで我の入学を祝福しておるようではないか。

 愛するパパとママに別れを告げて故郷を旅立った我に相応しい景色である。


「新たなる戦いの日々を予感させるではないか。父母と別れた無聊も慰められるというものよ」


「週末には帰れるじゃん」


「それでも寂しいものは寂しいのじゃ!」


 エイミーお姉ちゃんがツッコミを入れるが、エイミーお姉ちゃんだってちょっと寂しそうである。

 足取りがいつもよりおっかなびっくりじゃ。

 ホップ・ステップ・大ジャンプではなく、ホップ・ステップ・ステップ・小ジャンプくらいの勢いである。やれやれ、この調子であれば我がしっかりエイミーお姉ちゃんを守ってやらねばならんな。

 入学早々、友達もできずにボッチ飯とか可哀想であるし。


「あっ、エイミーちゃーん! 久しぶり!」


「エイミーくん! やあ! また会えて嬉しいよ!」


「おっ、エイミーが来たな!」


「みんなー! ひっさしぶりー!」


 ……と思ったら、いきなりもみくちゃにされておった。


 めちゃめちゃモテモテである。


「ソルちゃん、前の体験入学のときに知り合った子たちだよ。で、みんな、この子がソルちゃん。アップルファーム開拓村の最終兵器!」


「最終兵器ってなんじゃい!?」


 我の抗議など木にせず、エイミーちゃんがあははと笑う。


「だってほら……色々やってるじゃない?」


「確かに色々やっておるが」


「村の特産品を作ったり……」


「シャイニングルビーだっけ。ありゃ美味かったなぁ」


「病に伏せてた人が立ち上がったとかも聞いたぞ」


「それをこんな小さい子が!?」


 う、うむ。

 ぜーんぜん大したことはしておらんのじゃが、まあ、褒めてくれるならば素直に受け取ろう。


「【竜身顕現】で空を飛んだり……」


「なにっ、この年で竜人族の奥義を使いこなすのか!?」


「すごいな……獣人族だって獣の力を宿すのに十代半ばにならないと難しいのに」


「空を飛んで行方不明になったと思ったら犬型の魔物の背中に乗ってひょっこり帰ってきたり、暗黒領域の境界近くで魔物をタコ殴りにして帰ってきたり……」


「どういうこと」


「流れ変わってきたな」


「あとソルちゃんのお母さんは冒険者ギルド出禁で、人間凶器とか怒れる竜の咆哮フューリーオブドラゴンとか呼ばれてるし……」


「ヤバいぞ」


「属性盛り過ぎじゃないか」


「そういえば聞いたことがある……アップルファーム開拓村に天使のような破壊神のような幼女がいると……」


「ドン引きされるの納得いかないんじゃが!?」


 好き放題言われるうちに皆の視線が称賛から恐怖に変わってきた。

 事実だけど、事実だけども……!


「となると……特進科に行くんじゃないか?」


 エイミーお姉ちゃんの取り巻きのインテリ枠男子がそんなことをぽつりと言った。

 単にメガネかけてるからインテリ枠と思っただけだが。


「とくしんか?」


「基本的にはここの学生は皆、同じカリキュラムを受けることになるのだが……今年から才能ありと認められた子供たちを集めた『特進科』が創設されるそうなのだ」


 才能ありと認められた子供たち。


 なるほど、我のことか。他に我のようなブリリアント・ダイヤモンドのごとき輝かしき才能と魂の持ち主がおるかは少々疑問ではあるが、悪い気はせぬ。


 でもその特進科に入ってどうするというのであろう。


「……それ、なにかいいことあるのじゃ? 食事にデザートが付くとか、お昼寝タイムが長いとか」


「恐らくだが……授業が長い」


 インテリメガネ男子が、メガネをきらりと輝かせて言った。


「……ん? なんで?」


「卒業後は国王親衛隊に推薦されるとか、勇者魔術師団の一次試験をパスできるとか、色々と噂はあるが、特進科を卒業した者がいないから噂の域を出ない。とにかく授業の密度が濃くなったり宿題が増えたりするのだけは確実だ」


「いっ……いやじゃあ! そのような酷いことがあってよいのか!?」


「それだけ多くの学びを得られるということだよ? 素晴らしいじゃないか」


 メガネ男子が不思議そうに首をひねる。

 こやつ……人の心がない……!


「メガネくんよ! 人間の生活には潤いがほしいと思わぬのか!」


「メガネくんじゃないよ。彼は人呼んで千里眼のラシッドくん。学園の情報通だよ」


「ふふふ、なんでも聞いてくれ」


 メガネ男子がメガネをきらりと光らせて自慢げに笑う。

 エイミーお姉ちゃんは変な子に妙に好かれるのよのう。


「ところで他にはどんな子がいそうなのかな」


 エイミーお姉ちゃんが、我の苦悩に気付くこともなく質問した。


「いい質問だ。特進クラスの筆頭はソルくんだが……若くして古代の火焔魔法を操り、古文書を読み解く天才魔術師がいて……お、丁度来たな」


 メガネ男子が指差す方向には、どこか張り詰めたような空気をまとった少年がいた。

 炎が得意にしてはずいぶんと冷ややかだ。

 他の同級生とおぼしき子らも、少年に話しかけるのを躊躇っている。


「彼がその天才魔術師のブレイズくんだ」


「……ほほう」


 若者ながら、立ち居振る舞いが堂に入っている。

 少々気張りすぎにも見えるが、才能人にありがちな油断や甘さが感じられない。

 まるで挫折から立ち上がったばかりのような、そんな匂いのする少年である。

 ジェイクにも似ているのやもしれぬ。鍛え甲斐がありそうじゃな。


 と、そんな風に少年を見ていると、少年の方も我らに気付いたようだ。

 つかつかとこちらに寄ってきて、我の正面で止まった。

 いや、立ちはだかったというべきか。


「……お前がアップルファーム開拓村のソルか」


「その通り。ソル=アップルファームである。人の名を呼ぶ前に自分で名乗るべきじゃろうが」


「そっちこそ、ひそひそと噂話をする前に挨拶くらいしたらどうだ。礼儀を知らない連中ばかりで困る」


「なっ、なんじゃとぉ……!」


 こやつ……鼻持ちならぬ……!

 少々負けん気が強いくらいであれば可愛いものだが、取るに足らんものとしか見ておらぬ。


「失敬。僕がきみのことを紹介していたのだ。同じクラスになるだろうと思ってね。ああ、そういえばあそこの彼女……ではなく彼もきっと級友になることだろう」


 インテリメガネ男子が穏やかに話に割り込み、ある方向を示した。


 そこにいたのは、まるでお人形のような淑女であった。


 髪は黒髪、服は黒一色でありながら、レースやフリルのついた可愛らしいデザインの服を身にまとっていて、しかもそれがよく似合う。まるでその子の周囲だけ音をなくしたような神秘的な佇まい。


 ……と、思ったら、呼ばれたことに気付いたのかパッと華やぐような笑みを浮かべた。


「わ、わたしのこと呼んだかな……?」


「彼はトリアナイト。キミが古代の魔法を復活させた天才なら、彼はオリジナル魔法を作り出した天才にして、地上に舞い降りたエンジェルだよ」


「うん……うん?」


 こやつは何を言っておるのか。

 魔法の天才はともかく、地上に舞い降りたエンジェルと言われても、その、なんじゃ……困る。

 確かに可愛らしい女の子で、アップルファーム開拓村にはいなかったタイプではあるが。


「ていうかなんで彼と呼ぶのじゃ?」


「トリアナイトくんは男の子だ」


 ……嘘じゃろ。




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