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あの家を敵に回したら

作者: ひいらぎ

皆様は言葉をどのようにとらえていますか?


1.自分の知る文字通り、字面通り受けとる

2.言葉を発している人の思いを受けとる

3.その人の知る文字通り、字面通り受けとる


ほかにもあるかもしれません。

他の言語の意味でとらえるとか。


よく言われます。


同じ内容でも話の流れや話手の表情やトーン、関係性で受けとり方は変わる。


そんなこと知っている。

耳にタコができるぐらい言われて育ってきたのだから。

だから私は先にあげた三つの受けとり方も、他言語でも。表情も場所だって考えて受け取ってきました。

ですが。

これはどうしたって無理なのです。

どんなに他の意味を探そうと。

込められた想いを読み取ろうと。

たった一つの意味しかとれないのです。


「貴様を、国外追放とし、ここにいるリルラ嬢を私の妻とする」


私は10年婚約者として対応してきた方にそういわれたのです。


どうしたのもでしょうか。


さて。現状の確認をしましょう。

今私がいるのは学園の講堂。

目の前にいる私の婚約者であり、この国の第2王子フィール様。

その横でふわふわと笑っているのが、貴族階級では同じのリルラさん。

学園創立190周年パーティーに参加している。

在学生はもちろん、卒業生も参加されている。


「王子。発言された内容の意味をお聞きしても?」

何事にも確認は必要。もしかしたら私が不出来ゆえに王子のこの発言にはなにか隠されたものがあるのでは?

「はっ! 聞かねばわからぬほどバカだったとはな。それでよく王族に名を連ねようとしたものだ。だが寛大な私は教えてやろう。まず。貴様は私の婚約者だったが、それを白紙とする。そして婚約者はこのリルラ。リルラに悪質な嫌がらせをした罪により、追放。貴様の家族は赦してやろう。今後我ら王族に付き従うのならば。だがな」

鼻で笑われ、私を見下している。

「丁寧かつわかりやすい説明をありがとうございます」

深く頭を下げ礼をつくす。

「今さら殊勝な態度をとったところで、なにをだ」

声に嫌悪しか乗せていない。

リルラさんは表情を変えていないが、目が笑っていない。

私の解釈だが、私のことを嫌っている目のように思える。


さて。

どうしたものでしょう。

私が耳にし、頭のなかで文字でおこし、理解した内容とそう差がなく。

ここの間に齟齬はない。

周りはここからの流れが気になるのか静観している。

ことの本質を見極めてから動く。

こちらもまた耳にタコができるぐらい言われている。

あまり悠長なことはしていられないのは私側の問題。このような状態を見られるわけにはいかないのです。

私の敬愛なるお兄様たちに。


「まず。婚約白紙についてですが、陛下はご存知なのでしょうか」

一つ一つ紐解かないと。

急ぎたいけれど雑にしていけない。

「明日、報告する」

「ではその際に新たな婚約者、追放という流れでしょうか」

「ああそうだな。なんだ? 急にこわくなったのか?」

バカにしていると思われる声。

怖いわけではない。

婚約は当事者間だけの話ではない。

ましては王族の婚約となれば政治的背景があるのは想像にかたくない。

「ではこの話は明日陛下と共に。今日はやめませんか」

今日は特別な日。

「190周年パーティーです。卒業されていった先輩方もおこしです」

「そうやって、引き伸ばしにして、リルラに危害を加えるつもりだな! 野蛮なやつだ」

抱き寄せられたリルラさんは瞳を大きく見開いている。

「……表情が変わったな。やはりその考えがあったんだな」

勝ち誇ったような顔をされているが。

表情を思わず変えてしまったのは私の問題。

危害を加える。

そんな発想はなかった。

そもそも私が知っているリルラさんについての情報は、この学園に昨年転入してきた二学年下の生徒。転入理由については特に知らされていない。が。

人の口に戸は立てられない。

学園の運営に関するものであれば知っている。

その程度。お話したことも数える程度。

転入してからすぐ、フィール様と親しく話をされ始めて。少し距離が近いようだったので、いさめるようなことはしたけれど、それ以上はない。

そういえば、私が悪質な嫌がらせをしたとか。

そんなこと覚えがないのだけれど、フィール様の中では点と点がつながったのでしょうね。

「ここにいるものが全員証人だ! この女は嫌がらせだけでなく、命まで奪おうとしているのだ!」

大きな声で高らかと。

講堂は音がよく響く作りになっている。

はあ。

お兄様たちが到着される前にはおさめたかったのに。

「私たちの婚約の意味をご存知ですか」

「国益のためだろう。農作物の生産において貴様の家を越えるものはない。だが、私がなぜ、国益のために好きでもない、いやむしろ嫌いなやつと生涯を共にしなくてはならない? 王子だからか? 第2王子にそこまで必要か? 王には兄上がなる。婚約者ぐらい好きにしてもいいのでは? そう私の目を覚ましてくれたのかリルラだ」

うっとりとお互いを見つめあっている。

「王子だからすべて国益のためにしなくてはならないのか? 兄上は相思相愛の婚約者がいる。だが私はどうだ?」

と言われてもなのだけれど。

表情を変えずに聞き続ける。

「一つ一つバカみたいに確認してきて、齟齬があってはいけないから? 私の心をわからないものが妻であるなど笑わせる。心休まるときもない。その姿もだ。静かに聞いているが、仮面のように表情が変わらず、何を考えているのかわからない。その点リルラはよく笑いよく理解してくれる。私を想ってくれている」

こちらに一瞥もされない。

「お気持ちを察することができず申し訳ありませんでした」

「そうやって言えばゆるされるとでも?」

赦すも何もない話だと思ってしまう。

赦さないから婚約の白紙、追放なのだろうから。

破棄ではなく白紙。

リルラさんが破棄に関与したと思われないようにかしら。

破棄では、婚約の話があったうえでのことになる。白紙ならもともとその話事態がないのだから、略奪ということを言われないようにするためだろうか。

「フィール様。私怖いです」

甘ったるい声がした。

「ああそうだね。怖いね。大丈夫。私が守る。……いつまでそこにいる。この場にふさわしくないものがいつづけるのだ。この学園に貴様のようなものが生徒であるなど吐き気がする」

……。

そこまで言われる覚えもないのですが。

「ライル! ライルはいるか」

「大きな声を出すべきではないですよ」

「……空気が悪い。せっかくの記念日なのに」

お兄様たちの声がする。

静まり返っていた会場が嘘のように騒ぎ出した。

「お兄様。私はこちらです」

小説などで見たことがある。スッと人がよけ、道ができた。

私とお兄様たちをつなぐ道。

「おお。ここにいたのか。さすが我が妹だ。会場に中心にいるのだな。遅れてすまない」

「とてもきれいなドレスですね。似合っています」

「……周りが遠巻きに見ているけれど何かあったの?」

お兄様たちが私に近づくにつれて、フィール様の顔色がどんどん悪くなっていく。

「せっかくのパーティーを私のせいで、悪い空気にしてしまいました」

「何をいっているのですか? 我々の妹が場の空気を悪くすることなどありえません」

「そうだぞ。ライルはそんなことしない」

お兄様たちの優しい言葉に、申し訳なくなる。

「いえ。私は大罪を犯しました。我ら一族にとって、この学園にとって、赦されない罪です。創立190周年パーティーを私用により、皆様に不快な思いをさせてしましました」

膝をついて、頭を下げる。

大罪。そう。私たちにとって。赦しがたいこと。

「何を言っている? 罪? やめないか。立ってくれ」

私を立ち上がらせようと引き上げるお兄様。

「私から説明させてくれないか。ソル。それが、私にできるお前への罪滅ぼしだと思うから」

「デリカ。来ていたのか」

人ごみをかき分けて、現れた姿は、第1王子のデリカ様。

「ソル。サージュ。カルム。君たちの妹は悪くない。ライルさん。君が頭を下げる理由などどこにもないし、罪など犯していない」

「どうして兄上が? 今日は欠席のはずじゃあ……」

「ああ。サバーフが体調を崩したから、側にいる予定だったが彼女が行ってきてほしいと。多くの学友が来ているのだ。行くべきだと言ってくれてね。急なことだったから、警護等考えて迷惑をかけてはいけないと思い、内密に参加していた。ことの次第は全て見ていたよ。フィール。お前はライルさんの配慮を無視したな。私用で場を壊したのはお前だ」

ソルお兄様とデリカ様は学友で、とても親しくされていた。サバーフ様はサージュお兄様と同学年で、四人でよく学園で過ごされたとか。サバーフ様は私にも優しく、姉のように慕わせていただいていた。

「この様子を彼女が見なくてよかったよ。ライルさんのことを妹のようにかわいいと言っていた。

彼女は一人っ子だからね。ソル。本当にすまない。サージュ、カルム。こんなことになってしまい、なんといって詫びればいいのか」

デリカ様はとても丁寧に、フィール様の発言を一言一句違わず説明された。

どんどんお兄様たちから笑顔がなくなり、空気が冷たくなっていく。

はあ。

「そうか……。話してくれてありがとう。デリカ。俺を友人だと思ってくれるのなら、これから俺がすることを黙ってみててくれるか?」

「何をするかだけ聞いても?」

「王族に対し、無礼を働く」

これからされようとしていることは無礼なことだと明言された。

「いいよ。こちらが先に無礼を働いたのだ」

「すまない」

どんどんと足音を立てて、ソルお兄様がフィール様に近づいていく。

「な……なんだ……」

後ずさりするフィール様の顔面、ソルお兄様のこぶしが吸い込まれていった。

「きゃー!」

吹き飛ぶフィール様に慌てて駆け寄るリルラさん。

「ありえない! 第2王子に対して暴力をふるうなんて。なんて家なの? せっかくこの女だけを追放して、家は守ろうとおっしゃった寛大なフィール様のお心を踏みにじるなんて」

「は?」

サージュお兄様が目線を合わせて。

「これでもソル兄さんの行為は寛大ですよ。命を奪っていないのですから。それに第1王子に許可を得ていますしね」

「そっそれがおかしいのです! 兄なら弟をかばうのでは!」

「弟とさえ思いたくない。はあ。このような多くの方がおられる場でこんなことをしたのだ。救えない」

「そんな……」

「……あんたも終わったね。静かにしていれば、何事もなく卒業できて、婚約者だってどうにかなったかもしれないのに」

「なんなのよ……」

先ほどまでの甘ったるい声はどこにいったのか。

カルムお兄様が冷たい目で見降ろしている。

「……君がどうしてこの学園に転入してきたのか。知ってるよ。前の学園で、婚約者がいる男子生徒ばかりに声をかけ、親しくなり、何人もの男子生徒をたぶらかし、学園の秩序を乱したと。そうそう。教師にも手を伸ばしたとか。相手にはされなかったようですけれど。全く見境がない。相当な面食いなんですね。全員そういう方ばかりでしたし。婚約破棄とかにならなかったのが救いですね。皆さん結果婚約者のもとに残りましたし。まあ? あなたとは遊びだったということですね。しかしこちらの方はだめだった。あなたを選んだ。あなたとしては嬉しいことかもしれませんね。まあ数をこなせば何事もうまくなると言いますが、まさか、男をとるのがうまくなるとは。他の事に時間を割けばいいのに」

カルムお兄様の声もとても冷たい。

「え……なんでそのことを……」

「……この学園の学園長が誰か知らないんですか? そこにいるじゃないですか」

「やめてください。まだ学園長というにはあまりにも仕事を覚えていません」

「え?……学園長はそこにいるおじいちゃんでは……」

「あの方は僕が引き継ぐまで、先代学園長から繋いでくださっています。遠い親族です。無知なあなたに教えて差し上げます。この学園の創設者は我が一族です。代々、学園長を務めてきました。残念なことに、我々の両親は幼くしてなくしているので、私が引き継ぐまでお願いしていました。卒業後現在その地位につかせていただいています。なので、あなたが学園に転入すると聞いた時、特別家柄も学力も問題がなかったため、理由を聞きました。転校理由をご両親から聞いた時は、条件を出しました。この学園ではそういったことがないようにと。はあ。ご両親には隠していたのですね。とてもうまく隠されたのですね。カルムのいうように、他の事にその力を使ってほしかったです」

呆れているサージュお兄様。

私も聞いていた。

後輩にそういう子がくる。

少し気にかけてほしい。様子がおかしければ報告をと言われていた。

でもフィール様とのことは伝えなかった。

確かにフィール様は整ったお顔だちだけれど、聞いていた男子生徒たちに比べればいくぶんか劣る。

「で。我が妹が嫌がらせをした? そんなことをして何になる?」

ソルお兄様は終始にらんでいる。

「嫌がらせだろう! 現に彼女は学園でつねに一人だった。貴様が私との仲に嫉妬し、忠告していた。それにより周りも彼女をさけた。醜いものだ。自分よりも愛くるしいからか? 自分よりも優れているからか? そうやって暴力に訴えるしかできない野蛮な男の妹だな。卑劣だ」

……それは聞き捨てならない。

「いくら第2王子とはいえ、私の兄を愚弄することは赦しません」

一歩近づく。

「は? どの立場でものを言っている」

「それはあなたです。フィール様。ここにいるのは私の兄です。ソルはあなた方王族を守る近衛兵です。命を懸けてお守りするものです。現近衛兵のなかで、最強とし陛下からも信頼され、この国の平穏を守っております。サージュはこの学園の学園長です。王族をはじめとする多くの貴族のご子息ご令嬢が通う場を守り、育て、この国の教育の一端を担っています。生徒のなかには他国の方もおられます。国の未来を創る場です。カルムは安定した農作物の栽培と売買を確保するため、日夜研究しております。どの領土でも農作物を作ることができるように。輸入に頼る作物を。農作に向かないと言われてきた領土でもできるものはないか。国全体での我々の食料確保に努めています」


私の兄はあなたにバカにされるような人ではない。


「剣も満足に持てないあなたが、自分の命をまもれるのですか? 王族としての知識だけでなく、他国のついてもどうやって学ぶのですか? 今日、このパーティーに並んでいる食事を作れるのですか?」


なにもできないだろう。


「小麦がなければパンがつくれません。知識がなければ、他国に騙されます。武力がなければ、自分も愛するものも、民も守れません」


なにもできないのだ。


「すべてあなたができるのであれば、どうぞ愚弄ください。どのような言葉も受け入れましょう。他の貴族も同様です。それぞれがこの国のため。敬愛なる陛下のもと、家業にいそしみ、繁栄の一助となればと日々過ごしております。あなたにそれが担えますか?」


王族だからなにもかもできるわけではない。


何倍も優秀であるデリカ様はいつも仰っている。

「すべての事をできる王にはなれないため、力を貸してほしい」と。

「まだ何もなしていない私に対し言うのはかまいません。ですが、私の兄に対しそれ以上の発言は」

……。

これ以上はやめておこう。

令嬢としてよくない。

品位に欠ける。

「学園長。学園創立190周年記念の場にそぐわない行いをいたしました。お詫び申し上げます。本日は失礼させていただきます」

「……わかりました。また明日、しっかりと話しましょう。みなさん。今日の事不用意に口にしないように。この学園の生徒にふさわしい行動をお願いいたします」


翌日、陛下に謁見した。

陛下と王妃様がとても悲しそうな表情をされている。サバーフ様もご体調が優れないのにデリカ様のそばに控えておられた。

「デリカより聞いた。記念の場においてなんということをしたのだ」

あきれられている。

「これが悪いのです! か弱いリルラを虐げた悪女なのです」

リルラさんもご一緒。ご家族も。

「そちらの令嬢をライル嬢が? どのようなことをした?」

「ですから! 醜い嫉妬で罵詈雑言を浴びせ、周りのものを遠ざけ孤立させたのです!」

陛下に必死に訴えている。

「そうなのか? リルラ嬢」

「さようにございます。私にフィール様に近づくな。立場をわきまえろと」

相変わらず甘ったるい声だ。

確かにそのようなことはいった。

「ライル嬢」

「はい。確かにフィール様との距離が近いようでしたので、適切な距離をと。また、私は転校の理由を知っておりましたので、学園での立場を少し考えるべきだとお伝えしました」

サージュお兄様のおっしゃっていた条件。それを私は知っているから。

「陛下……」

おそるおそる声を発したのはリルラさんの父親。

「発言を許す」

「ありがとうございます。申し訳ありません。この子はただ自分の思いにまっすぐなのです。けして困らせよう、奪ってやろうなどという気持ちはないのです。どうかお許しを」

「そういってあなたは娘を学園への転入を求めましたね。転校すれば、自分の行いを省みて、大人になるだろうと。ちゃんとできる子だと。そしてまた同じようなことがあれば、提示した条件を受け入れると」

サージュお兄様が一枚の紙を陛下に手渡した。

「ここにその記載が」

「……同じことを繰り返した場合、娘を国外追放とし、自身も領地を返還し平民となる。か」

「ええ。この契約の際には、この娘とあるリルラ嬢も納得されていました」

だから諌めたのだ。

親でさえも見捨てているのだから。

「きっとこの事はフィール様もご存知だったはずです。リルラ嬢を追放されないために、我が妹を陥れた。この契約の破棄を求める予定だった。家を守りたければと」

ソルお兄様がいないことが陛下たちへの配慮。

カルムお兄様がどうにか見張ってくださっているけれど、それも長くは続かないだろう。

手早く済ませるためにサージュお兄様が話を進められる。

「これまでは婚約破棄だの白紙だのにはいかなかったので穏便に済ませてきましたが、まさか王族に手を出すとは。ましてや婚約者がいるというのに。自分が勝てると思っていたのですね。確かに家柄と学力だけで見えば、特別差がないと思いますが、王族に名を連ねる素質があると思ったんでしょうか」

「私はフィール様をお慕いしております。フィール様も私といるときが癒しだと! そんな女と一緒にいても何も嬉しくないと! 婚約者でありながら、何一つわかっていないと!」

私の方がふさわしいと言いたいのだろうか。

そういう話でもないのだけれど。

「陛下、発言をお許しください」

「ああ。構わない」

「ありがとうございます。陛下。私がフィール様の事を理解できていないということですが。反対にフィール様は私のことをご存知なのでしょうか。婚約のお話をいただき、10年間、私は婚約者としてフィール様の事を想ってまいりました。学園でも時間があればお話しさせていただきました。フィール様が贔屓にしている菓子屋に頼んで、お菓子をお渡しさせていただきました。ですが、お口に合わなかったのか、すぐに捨てられてしまいましたが。また、お誕生日の際には何かしら送らせていただきました。ですが。フィール様からそういったことは一度もございませんでした。お話も私から。一度も話しかけられたことはございません。もっといえば、名前をお呼びいただいたこともございません。それゆえ、フィール様のお考えがわからず、お言葉の意味を説明いただいたり、何度も確認させていただきました。それが煩わしく、自分の心をわかってくれるリルラさんがいいと。……その点に関しては、リルラさんのほうがフィール様のことを想っていると言えるかもしれません」

ゆっくりとフィール様に近づいて、膝をついて下から顔を覗き込む。

「フィール様。私の事。ご存知の事なんでもかまいません。お願いいたします」

目が合わない。

そらされ続ける。

「どうした? 10年。10年あったのだぞ」

陛下のお言葉がとても冷たい。

「そっそもそも! 私はこんな女と婚約したこと自体嫌だったんだ。勝手に親が決めて、そんなので想いなどあるわけないだろ!」

「私たちも陛下たちと両親によって決められたものですが、デリカ様はとても私のことを想ってくれています」

「お前は、私たちが相思相愛であることを例に挙げていたが、お前と同じ年数を過ごしてきた。その時間をかけて、私たちは関係を紡いできた。お前はそれを怠った。歩み寄り、理解する。ライルさんがお前に歩み寄ってくれたのに、それをことごとくお前は……。大切な友人の妹だ。この国のためにともに歩んでくれる者たちの大切な妹だ。今日ここにソルがいないのは、お前に対する配慮だ。どこまでもお前を想ってくれているライルさんのことをどうして見ない」

デリカ様がフィール様の胸倉をつかみ、投げられた。

「陛下。私に弟はいません。王族に名を連ねるなど、耐えられません。これと同じなど嫌です」

「兄上!」

「私もこれが息子だと思いたくありません。人生の伴侶となりえる方を大切にできないものに、王族として民を想うことなどできるはずがありません」

王妃様が陛下に頭を下げられた。

「母上まで!」

「……ああ。そうだな。では。フィール。お前は廃嫡。リルラ嬢については、ここに記載のある通り、追放、身分はく奪とする」

「なぜです! 婚約を白紙にしただけなのに!」

「婚約の意味を理解していたのだろう? お前がしたことは国益に反する行為である、王妃のいうようにそんなものが民を想えるなどありえん。また、お前は敵にしてはならない家を敵にしたのだぞ」

陛下のお声が震えている。

「どういう……」

「陛下。ご英断にございます。感謝いたします。これで、兄ソルも剣をおさめるでしょう。私も引き続き、学園運営に邁進できます。カルムも成果を出しているようですので、ご報告させていただきます」

「やはり武力で父上を支配しているのだ! それでいいのですか! 王族が一介の近衛兵ごときに」

「ごときではない! ソルは……他国からも一目置かれている。ソルがいることで、こちらが優位に立てたことが何度かある。かの者はなくてはならないのだ」

引きずられるように、連れていかれるお二人は最後まで騒ぎ立てながら、とぼとぼと後をついて歩くご両親。

「ライルさん」

「はい」

サバーフ様が私の手をとって。

「よい話を必ず私が用意いたします。あなたには幸せになってほしい」

私には兄しかいない。

きっと姉とはこの方の事を言うのだろう。

「ありがとうございます。……お姉様とお呼びしたかったです」


ーーーーーーー


聞いたか?

聞いた。

第2王子、廃嫡だって。

あの娘もいなくなって、家族は平民としているってさ。

この前見たよ。別人だった。

こわいね。

あの家を敵にするとかほんと何考えてんだろうね。

そりゃあ無視するよね。あんなことしてんだもん。

あの家のおかげで、国の警備力あがって。

あの家のおかげで、他国の有力貴族とつながりができて。

あの家のおかげで、食料自給率あがって。

自分たちの家も恩恵受けてるもんな。

だれが、婚約者になるかな?

まずあの兄たちを超えないと。

それに、王子の婚約者、次期王妃のサバーフ様のお眼鏡にもかなわないと。


ーーーーーーー


「お兄様」

「ライル!」

「おかえりなさいませ」

「ああ。ありがとう。陛下にこれまでの成果を報告してきました」

「……とてもほめてくださった」

「これからもがんばるぞ! この国の繁栄のため。我ら一族がこの国に価値あるものだと示していこう!」





ご精読ありがとうござました。

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― 新着の感想 ―
> 「……ああ。そうだな。では。フィール。お前は廃嫡。リルラ嬢については、ここに記載のある通り、追放、身分はく奪とする」 > 聞いたか? > 聞いた。 > 第2王子、廃嫡だって。 「廃嫡」…
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