美容看護師異世界に行く
…勝手をお許しください…
どうか…どうかお願い…この世界を…救って、、、
何かを訴えるような、すがるようなそんな声が聞こえた気がした。
「もし、大丈夫ですか?」
先程とは違う声。薄れゆく意識の中、扇のようなもので顔を隠した女性の姿を見た。そして、私は再び意識を失った。
「ん、、、。ここは?」
目覚めた時、私は芝生の上の木の下で知らない女の人に膝枕されていた。
「あ、気付かれましたね!ご気分はいかがですか?」
目の前には扇で顔を隠している金髪の女性。目元しか見えないが優しい声でこちらに微笑んでいる。
恐らく先程の夢で見た女性だ。いや、どうやら夢ではないらしい。
私はゆっくりと起き上がり周囲を見渡した。
そこには草原が広がっており、近くに道のようなものがある。草原の奥には森のようなものがあった。
「ん?ん?ここは?あれ、私何してたんだっけ?」
ゆっくりと思い出してみる。
確か私は浜辺にいて…
私の名前は吉岡かな、27歳。
職業は看護師だ、というか美容看護師だ。
看護大学を卒業後、病棟で1年間働き、その後はずっと美容クリニックで働いている。
元々看護師には、女の子は資格を持っていた方がいいからと親に言われて何となくなった。これからの時代は手に職をつけていた方がいい、高齢化社会で機械化が進んでも看護師は食いっぱぐれがないからと。
今考えるといかにも頭の固い公務員の考えという感じだ。
私の両親は2人とも教師で昔から教育にはうるさかった。趣味でならといろいろ好きなことはやらせてくれたが、好きなことを仕事にすることは許されず、いつも進路は親が決めていた。
私は美容が大好きだ。趣味は化粧品集め。
小さい頃は母の化粧品をこっそり使っていた。
中学・高校では美容雑誌を読み漁り、お小遣いでこっそりコツコツ化粧品を集め、親が厳しかったのもあり、夜中にメイクの練習をしていた。もちろん収集した化粧品は親にバレないように鍵付きの引き出しに入れていた。当時は何か悪いことをしている気分だったが、、、。
大学では遂にメイク解禁!本格的に化粧品集めができるようになった。自分もいろいろなトレンドのメイクをしていたが、友達にメイクをすることも大好きだった。メイクをして友達が喜んでくれるのが好きで、よく頼まれて友達にメイクをしていた。大学の友達にはなんで美容の専門学校じゃなく、看護師なの?とよく言われていた。見た目もいわゆるギャルだったため、大学ではかなり浮いていた。お世辞かもしれないが成人式の前撮り写真でメイクさんにプロみたいだねと言われたこともあった。(実際、私の方がそのメイクさんよりメイクするのが上手かったとは思っているが)
そんなこんなで学生時代はそこそこ美容という趣味に没頭できていたのだが、就職して社会人になり中々趣味に打ち込むことができなくなった。
上京して看護師として総合病院に就職し、循環器内科をはじめ、主科が7つある急性期の混合病棟に配属され、業務に忙殺される日々。1年目だ。ある程度は覚悟していたが、覚えることが多すぎて間に合わない。睡眠時間も削って勉強し、夜勤等体力も消耗。ごはんもまともに食べれないのでサプリで済ませたりしていた。休みの日も勉強、勉強。ある程度勉強したら爆睡する、そんな日々を過ごしてふと鏡を見るとどんよりとして顔色も悪く、不健康に痩せていて、肌もくすんでいる自分がいた。まともに食事をせず、サプリ生活をしていたことで口の中も口内炎だらけだった。
その時、あれ、私なんでこんなことをしているんだろうと思ってしまった。
正直、看護師はやりがいはある。
だが今の生活は好きではない。看護師は好きではない。
何故看護師をしているのかわからなくなってしまったのだ。日々精一杯で仕事に追われガムシャラに働いて考えることを放棄していたが私はそもそも好きでもないことを仕事にできる程割り切れる器用な人間ではないことをその時悟ってしまった。
転職を考える様になり、今度は好きなことを仕事にしようと思った。正直、とりあえず3年は働くべきと言われている中で転職するのは勇気がいる。働ける場所があるかも不安だったが、一度嫌だと思ったら我慢できない性格なので転職することにした。
求人サイトを調べてみると社会人1年目で他職種へ入職するのは中々難しそう、、、。
やはり看護師で探すしかないかと思って看護師の求人を探してみると美容クリニックの看護師、美容看護師という言葉を見つけた。
これだ!!
今まで美容クリニックは知っていたが、地元が田舎だったのもあり、あまり美容クリニックには馴染みがなかった。
だが、私は美容クリニックの求人をみて、私にピッタリだと思った。
そうして、美容クリニックに転職した。
現在、私は病棟を辞めてからずっと美容整形外科、美容皮膚科の看護師として働いている。昔友達にしていたように自分が施術をすることでお客様が綺麗になって笑顔になることはとても嬉しく、働きながら自分も綺麗になれる。社割で色々な美容施術を受けられるし、化粧品も試せるし美容まさに美容看護師は私の天職だと思う!
そして、私は本来の自分を取り戻した。
今は仕事をしながら、休日は趣味である化粧品探しをしている。
メイク大好き、美容大好き女子復活〜!
沖縄に旅行中のある日、それは起こった。
「ふ〜。今日も買っちゃった。今日も大量!」
最近は旅行した先で新しい化粧品の開拓中である。
化粧品を買い漁った後、ビーチの砂浜に横になっていた。
それにしても今日は化粧品以外にネックレスも買っちゃったな。散財しすぎた。それにしてもなんか怪しいお店だったけど、調べたら値段も相場だったし、ま、これも何かの縁だよね!
最近、美容関連で新しいことを始めたいと思い、開運効果もあるというネックレスをお守りがわりに買ったのだ。あの販売員のお兄さんと話すのも楽しかったし、ノリで買っちゃった。あのお兄さんも自分で何かをすることや美容の仕事も合ってるって言ってたし、頑張ろう。
私はそのネックレスを太陽にかざして、見ているとキラッと光った。
そこから世界が真っ白になった。
ーそして現在。
どこだ、ここは?
先程、話しかけてきた女性に尋ねてみる。
「あのー。ここは?」
扇で顔を隠した金髪の女性は怪訝な表情をする。
「ここは我が領地、グラシア領の端。あなたはそこの道の上で倒れていたのですよ。」
「グラシア領?ってどこ?あのー、ここは沖縄では?というか日本じゃないの?」
「あの、日本とは?それにしても道の上に倒れられていて驚きましたわ。あなたに何があったのですか?」
待って待ってー。どうなってるの。日本を知らない?いや、でも日本語話してるじゃん!てか、領って何?貴族的な?領主的なあれ?
近くに馬車もあるし、目の前の女の人も中世ヨーロッパ?のような格好をしている。
まさかのタイムスリップ???いや、まさかアニメとかで見る異世界??あーなんか考えすぎてぐるぐるする。
「あの、どうされました?」
目の前の女性が心配そうにこちらを伺っている。
「…大変申し訳ないのですが、記憶が混乱していて、、、。ここは何と言う国ですか?(そもそも国ですか?)」
目の前の女性が目をまん丸にする。
「もしかして記憶がないのですか?!どこか痛いところでも?頭を打ったりはしていませんか!?こちらでも念のため確認したのですが、、、。」
「いや、ご心配ありがとうございます。大丈夫です。どこも痛くないです。そうですね、あまりよく思い出せなくて。それより、ここは?」
「まさか記憶が失くなっているなんて、、、。ここは、世界の始まりの国。女神様降臨の地。ウツクシクナイト王国です。」
「美しくないと王国??」