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虹色騎士 クールナイツ ~cool knight~ “another story”  作者: 彼方 菜綾
♮1 母を見舞う少女と盲目の少年
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#5 少女とリハビリに励む少年

 世の中はゴールデンウィーク――。

 わたしの住む街の隣には四季の国というテーマパークがあるんだけど、大抵の人はそこに遊びに行ってるんじゃないかな?


 本当はわたしも親友の星奈ほしなから四季の国に遊びに行こうと誘われていたんだ。

 でも、もちろん断った。

 空手の試合があるからと嘘をついて――。


 実は星奈にはお母さんのことは話せていないんだ。

 星奈ってね、元気ハツラツで見た目は抜けてる感じがするんだけど医療には意外と知識があるんだよね。

 確か、家族全員が医療従事者だったかな?


 だからこそ、お母さんのことは話せないんだ。

 決して、いろいろと聞かれて鬱陶しいからとかじゃないからね?!


 医療に詳しいからこそ星奈はすごく心配してくれる優しい子なの。

 だから、もしも星奈がお母さんのことを知ってしまえば気を遣わせちゃうかなと思ってね――。


 さぁて、しんみりとしたお話はおしまい!


 わたしはいつもの如く病院に顔を出していた。

 だけど、まず初めに向かったのはお母さんの病室ではなく、ひとみくんの病室――。


『なぁ千尋ちひろ――。また会えるよな?』


 瞳くんが入院している病院に来ているのに、こんなこと言われておきながら会わなかったら絶対にバチ当たるやつじゃん!!

 まぁお母さんに会うついでだから全然苦ではないからいいんだけどね。


 わたしは瞳くんの病室の扉をノックした。

 しかし、返事がない。


 もしかして、まだ寝てるのかな?

 いやでも、いつもより早めに顔を出したとは言え9時は過ぎてるよ?

 さすがにお寝坊さんにもほどがあるでしょ――。


 わたしはもう一度、瞳くんの病室の扉をノックした。

 しかし、やはり返事はない。


「瞳くん、入るよ?」


 わたしは扉を開けた。

 すると、そこにはきれいに畳まれた布団があるだけで瞳くんの姿はなかった。


 あーもしかして退院しちゃった感じ?

 あれから結構間空いちゃったもんね――。


「あら、千尋ちゃん」

「ひぃ?!」


 看護師さんに背後から声をかけられて思わず変な声が出ちゃった。


「人様のお部屋にこっそり侵入するなんて悪い子ね?」

「いやいやいやいや!これはですね――」


 シーッとわたしの唇に人差し指をあててくる看護師さん。

 病院ではお静かにだったね――。


「安心しなさい。瞳くんはリハビリに行っているだけよ」


 瞳くんがまだ病院にいると知ったわたしはホッと胸を撫で下ろした。


「――ついてきなさい」

「えっどこに?」

「瞳くんに会うために早々と病院に来たんでしょ?場所を案内してあげるからついてきなさい」


 う゛っ――。

 当たってるから何も言い返せないのが悔しい。

 なので、わたしはおとなしく看護師さんの跡をついて行った。


 しばらく歩くと、たくさんの人がリハビリを行う空間に辿り着いた。

 その中で見つけた。

 壁に沿いながら必死に歩く瞳くんの姿を――。


「千尋ちゃん、前回瞳くんに会ったときに何かやる気になることでも言ったの?」

「いえ、言った覚えはありませんが――」

「あの子、千尋ちゃんに会った次の日からリハビリを始めたのよ。今までどれだけこちらがリハビリをさせようとしても頑なに拒否してたのにね」


 へぇそうなんだ――。

 でもわたしに会った後、すぐにリハビリを始めたのなら数ヶ月は経ってるはずだよね?

 何で松葉杖を使って歩いてるんだろう?


「さぁ思う存分、話してきなさい」


 看護師さんが背中を押してくれたものの、いきなり何か話せと言われてもなぁ――。

 瞳くんとは軽く話したことがあるだけで、めっちゃ仲がいいわけでもないし――。


「瞳くんにこっそりと近づいてみたらどうかしら?そこから自然と会話が生まれるかもしれないわよ」


 う~んと頭を悩ませるわたしを見かねたのか、看護師さんがアドバイスをくれた。

 まさか看護師さんからそんなアドバイスが出るとは思わなかったけど、面白そうだから採用!


 わたしは足音を立てずにゆっくりと瞳くんへと近づいていった。

 途中、瞳くんの近くにいたトレーナーさんと目があったけど、わたしは人差し指を唇に当てた。

 すると、トレーナーさんは軽く会釈してくれた。

 どうやら、わたしの想いは伝わったみたい。


 わたしは再びゆっくりと瞳くんへと近づいていった。

 あと少し、もう少し――。


「なぁにしてるんだ、千尋?」

「え゛っ――」


 やばっ、変な声出た――。


「人違いではないでしょうか?」


 わたしは鼻を摘んで、無理やり声を変えてみたんだけど――。


「声を変えても無駄だぞ?呼吸音と足音でおまえって丸わかりなんだから――」

「何その理由キモっ?!」

「キモいとか言うな!!」

「こら、2人とも!!」


 トレーナーさんに声を上げられ、わたしの身体は少しだけ震え上がった。

 病院ではお静かにだったね――。


 わたしはチラッと瞳くんを見た。

 トレーナーさんに怒られたことがあまりにもショックだったのか、瞳くんは少しだけ落胆していた。

 その姿が可愛くて、わたしは思わず吹き出してしまった。

 さすがに怒られるかなと思ったけど、瞳くんも吹き出してしまい2人して仲良く笑いあった。


 あとで聞いた話なんだけど、視力を失った瞳くんは聴力がよくなったんだって――。

 それで、呼吸音や足音などで人を判別できるようになったんだとさ――。


 よくなったのは聴力だけじゃなくて嗅覚、味覚、触覚もらしい。

 瞳くんはその理由は分からないって言っていたけど、看護師さんは聴力、嗅覚、味覚、触覚が失われた視力を補おうとしてるんじゃないかって言ってた。


 ちなみに、看護師さんが瞳くんを驚かせることを提案してくれたのはこうなることが分かっていたから――。

 もちろん、わたしの反応を見てクスクスと看護師さんは笑ってたよ。


「そうだ、トレーナー」


 ふと、瞳くんが口を開いた。


「トレーナーさん、でしょ?」

「――トレーナーさん。こいつとこのまま外で散歩してきてもいいか?」

「外での練習をしたこともないのに許可するわけないでしょ」 

「そこを頼む!本当に少しだけでもいいから!!」


 そう言うと、瞳くんはトレーナーさんに向かって深々と頭を下げた。


「本当に困った子ね――。どうしてあなたはそんなにもわがままなの?」

「千尋は言ったんだ。俺と一緒に歩きたいって――。今日を逃すと次はいつになるか分からない。俺は千尋のために今日まで頑張ってきたんだ。だから、頼む!!」


 ――?

 わたし、そんなこと言ったっけ?


「――分かった」


 えっトレーナーさん、まさかの許可出しちゃうの?!


「ただし、時間は15分。15分経ったら何が何でも連れ戻します」

「あぁ分かった」

「よし、じゃあ行ってきなさい」

「あぁ――」


 瞳くんはそっけなく反応すると、そのままその場を離れていってしまった――。


「確かに千尋ちゃん、言ってたわねぇ。次は一緒に歩けるようになるといいねって――」

「えっマジですか?!」


 やっば――。

 全然覚えてないや――。

 もしかして、看護師さんの勘違いだったりしないかな――。


「何が彼をやる気にしたのだろうってすごく不思議で仕方なかったのだけれど、なるほどね――」

「いえいえ!わたしは決してそんなつもりで言ったわけでは――」

「はいはい。言い訳はいいから、早く瞳くんについて行ってあげなさい。時間は有限なのよ?」

「別に、わたしは瞳くんの顔が見れたからもうそれでいいかなって――」

「本当にいいのね?次に千尋ちゃんが来たときには瞳くんが退院しているかもしれないけれど――」

「――瞳くん。そっちに行ったら病室だよ?」

「えっマジで?!」


 もう瞳くんとは会えないかもしれないと分かったわたしは、そのまま瞳くんに付き合うことにした――。

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