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・・・しちゃいけない人

作者: 鈴音あき

運転免許を取得したら、運転が楽しいと思う。でも少なからず真逆な人もいるはず。

筆者がそう。

運転こわい。

何もかもが中途半端で不器用な人、それが私。


なぜそういう人間になったのかも分かっていないし、そういう人間だったんだとその時に初めて知った。


両親がいて兄弟がいて、ごく普通の家庭で育ったつもりだから。


ただ、何でも周りがやってくれていたから、面倒なことも起こらず挫折も経験したことがなかったし、平凡平穏な日常生活を送っていた。


そんな私でも、何か資格を持っておこうと一念発起で、自動車運転免許を取得しようと教習所に通った。


マニュアル通りにしか行動できない私が、免許を取得するなんて本当は無謀なのだろう。


適正検査でも、仮免学科試験でも、運転に適さないという結果がでていたにも拘らず、とにかく免許を手に入れたらゴールだと、それだけを目指して突き進んだ。


路上教習でも指導員に「免許取ったらどこに行く?」と聞かれて、私は「どこにも行かない」と答えてコミュニケーションをバッサリと切り捨ててしまった事がある。


運転に適さないことは自分でも分かっているけど、本当に、取得出来たらそれで良いと思っていた。


だから運転は真剣に、慎重に、丁寧に、教えられた通りに、本当に頑張った。


おかげで、運転免許試験場での受験は一発で合格して本物の免許が取得できた。


家族にも試験合格を帰宅してから伝えると、「じゃぁ、これからはお迎えをお願いできるね」と当然のように嬉しそうに言ってきたけど、「え、無理」とお断りした。


「何のための免許!?」


と突っ込まれた。


まぁ、仕方のない反応だろう。


「…………身分証明?」


と、思っていることを伝えた。


そして、家族全員が深い深いため息をついた。


「なんて無駄な費用……」


父がぼやいた。


「いいじゃん、私が働いて自分で稼いだお金なんだから」


私は口を尖らせた。


「あのなぁ!」


「それに、ちゃんとした理由もあるもん」


「なに?」


「最初に適性検査があったんだけど、私は運転に向いてないって判定されたの」


「は?」


兄の目が点になった。変な顔。


「卒業試験の後にもアンケートがあって真面目に答えてたら疲れちゃって、思ってること素直にマークしてたら、やっぱり運転しないほうが良いって」


「えー……」


「何でそこを素直に答えちゃったかなぁ~」


「だって、めっちゃいっぱいあって、読むのが疲れたんだよ。テストでもあんなに文章読んだことないよ?」


「それにしても、うちの子がこんなにおバカだったなんて……知らなかったわ」


母は呆れてしまって本音が漏れている。


あ、私は母の血が強かった?なんて変なところで思考が引っかかってしまう。


「分かった。じゃぁ、お前は単独で車に乗るな。俺たちが一緒にいる時だけ運転していいことにしよう」


「いやもう、運転はいいよ。しないほうが良いって。絶対に事故るから。身分証明になるだけで十分だって」


「お前、どんだけ運転に自信失くしてんだよ?」


「え、聞きたい?」


「…………聞きたく、ないような……」


「S字カーブで脱輪。急ブレーキが遅い。指示器を逆に出すのは毎回のことで~。アクセルとブレーキの踏み間違い。教習所で一通りのやったらまずい事を全部やったかな。路上教習で事故を起こしかけたことは何度もあって、他の車からクラクション?だっけ、ププーって鳴らされたこともあって。指導員からハンドル握られてびっくりしたし、アクセル踏んでるのに勝手にブレーキかかったこともある。あれ怖いよねー」


「…………」


家族が俯いた……。


お通夜ですね。


「それでもちゃんと教習所卒業できたし?」


「指導員~。どんな教え方したらそうなるんだ……」


「ちゃんと丁寧に教えようとはしてくれてたんだけどねー。何でか運転ができない私」


「にっこり笑顔で言ってんじゃねーよ」


「だって、他に言いようがある?」


「ない」


「でしょー。じゃ、そういうことで、私の免許証は身分証明書に決まりね」


「いや、ちょっとくらいは家族を乗せてドライブしてみような?」


「…………私、責任取れないよ?」


「何というネガティブなドライバー!」




そして、家族を乗せて、一度だけの県一周のドライブに出かけたのだが。


散々な結果に、家族は疲れ切った表情になってそれぞれのベッドに潜り込む。


「恐ろしい子……」


「あんなに運転が出来ないなんて信じられん……」


「どうやったら渋滞が出来るんだ……?」


「だから、何で山道を走らせるかなぁ!? 渋滞できるの当たり前じゃん! 若葉マークつけてるから運転初心者! 山道のグネグネカーブを走ったら怖くてスピード出せるわけないって! すれ違う車がぶつかってきそうで更にビビるし! 何あのヘアピンカーブ! 峠を攻めに行くバカのレース場か!? 怖かったよーっ!」


半泣きで慎重に車をゆっくりと走らせていたら、後ろに長蛇の列が伸びていた。


「私の後ろにいた何十台もの車が、きっとイライラしながら早く走れよとか、煽り運転だとか思われていたらどうしようって、ずっと考えてしまっていたんだからね!」


峠を越えるまでに物凄い渋滞を作ったことで、トラウマになっているにも関わらず、まだ家族は私に運転させようとして、無理やり運転席に座らせた。


少し変形した敷地の飲食店の駐車場にて、バックで駐車しようと私なりにも頑張ろうとしたけど、父からいろんな注意をされて運転できなくなった。


「駐車するのに『ハンドルを切れ』ってどういう状態にしたらいいのか意味不明だったよ!ハンドルを切るって何!? ハンドルを包丁で切るの?のこぎりで切るの?切れるの?半分に切っていいの? 教習所ではそんな言葉は一度も聞かなかったし、運転好きには通る常識でも、私には言葉の意味も分からなかったよ? 分かる言葉で運転の説明をしてほしかったよ!」


この時は本当に泣いた。


泣きながら、休憩のために入った飲食店でご飯を食べるよりも先に家族会議が開かれた。


それからは、家族はもう私に運転しろなんて言わなくなった。


帰りの運転は父がした。


やっぱり、自動車の運転はしたい人がすればいいんだ。


私の運転技術が壊滅的に下手だと分かってもらえたので、晴れて免許証は身分証に変わった。


「運転しなきゃ免許取り上げられることってないでしょ。良かったよ」

実話をポロポロと暴露してます……。

家族には呆れられてますよ(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰にでも向いてないことの一つや二つ、あって当然。 それが自動車の運転だったというのは…… 御愁傷様です…
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