教会での目覚め
話を聞けば、また創造神様の一方的な神託だ。巻き込まれる人が可哀想だって。大司教様と護衛達が立ち上がらないもん。
まあ、孤児院に入れられてどうしようと思っていたから渡りに船だけども。
院長先生やマリー先生には迷惑かけたな。廊下で話していたのはこの件だったか。私のこと守ろうとしてくれたんだよね。昨日会ったばかりの私を。嬉しい。
ここを出たら、もう、私の事を幼児だと思う人はいないと思う。院長は使徒だと知っても私のこと『サチちゃん』て呼んでくれる。1人の子供として見てくれる。なんて、ありがたいんだろうか。
ソファに座っている院長に抱きつく。抱きしめ返してくれる院長。院長には『慈愛』の意味を持つこの宝石をあげるよ。
〈いでよ!サファイア!〉
コロンと親指の爪ほどのサファイアが出てきた。
「いんちょ、ありがとうごじゃいましゅた。これは『じあい』のいみをもちましゅ。いんちょにふしゃわしいほうしぇきでしゅ。もりゃってくだしゃい」
「あら……あら、あら、こんなに嬉しいプレゼントがあったかしら。ふふっ。ありがとうね。サチちゃん。元気で過ごすのよ?無理しちゃダメだからね?」
あら、のところで院長が涙を流した。ポロポロと綺麗な涙が落ちてくる。みんなのお母さんの院長。忘れないからね。私は教会に行くよ。ありがとう。
「はい。やくしょくでしゅ」
これで、お別れだね。この世界は良い人しかいないのだろうか?
「だいしきょしゃま。きょうかいにいきましゅ」
「おお、おお、これは嬉しいお言葉。さぁ参りましょう」
大司教に向かって抱っこのポーズで立つと、大司教様が眩暈を感じたようによろめいた。抱っこダメだったかな?
あ、しゃんとした。優しく抱っこしてくれる。あったかい。やっぱり人の体温はほっとする。
院長室から出ていく。孤児院よ、さようなら。
あ、マリー先生とマグちゃんにもダイヤモンドをあげたよ。お世話になった(した?)しね。気持ち、気持ち。
何故宝石かと言えば、前世は宝石鑑定士だったから。1番イメージしやすいよね。詳しいし。
教会って隣なんだって。近いね。
なんか豪華な服を着た集団の先頭が大司教に抱っこされた私なんて似合わないよね。正しく言ったら先頭は聖騎士らしい。そうです。めっちゃ護衛されてます。大集団ですよ。院長室には大司教様と護衛しかいなかったんです。他の人は廊下にずらーっと並んでたよ。
それが今は隣だとしても大移動。めっちゃ目立ちます。思わず歩いてる人が避けちゃうくらい。思わず立ち止まってガン見しちゃうくらい。
大司教様にきゅっと抱きつく。一瞬ぴくりと震えたけど、ちゃんと抱っこしてくれてる。
大司教様、良い匂い。服の匂いかな?お昼寝前だったから眠くなっちゃう。ふわ〜あぁ。ちょっと寝ようかな?
寝て起きたら豪華なベッドの上だった。ここ教会だよね?なんか、部屋が白くてキラキラしてる。
「起きられましたか?」
あ、人がいた。アホ面、見られたかも。
「おきましゅた。どうしたりゃいいでしゅか?」
「どうぞ、まずは水分補給をされてください」
高価そうなコップに入った、お茶らしき物。私、幼児だから大きいのは持てないんだよね。
「のめましぇん」
「よろしければ介助をいたしますが」
「よりょしくおねがいしましゅ」
ゆっくりと丁寧にお茶を傾けてくれる。幼児さんの面倒を見てたことがあるのかな?
お茶が多かったからお腹いっぱいになっちゃった。ただでさえ、きゅー◯ーみたいなのに。あ、体型ね。髪はふさふさだよ。ちょっとふわふわしてるけど。子供の毛だからね。
ここでは使徒だって天使だって隠さないでもいいんだよね?トイレトイレ。足のボタンを外して、パンツを脱ぐ。ベッドから飛んで降りて翼が出る。おまるを出して、しーする。
あ、お世話してくれた人が固まってる。ごめんね。出ものはれもの我慢出来ないって言うじゃない?ちっちゃくぷっする。あ、我慢できない。
ふー。拭き拭きしておまるを収納して手を綺麗にする。パンツベッドに忘れてきたから飛んで戻ってパンツを履く。バタバタしてたらお世話の人が近づいてきて、履くのを手伝ってくれた。幼児に羞恥心は期待しないでね。ボタンに手間取ってたけど、慣れたらぱちんぱちんと、とめてくれた。大人の手は早いね。
「どこにいけばいいでしゅか?」
「大司教様の所へ行きましょう。抱っこは必要ですか?」
聞くってことは飛んでいってもいいんだ。
「とんでいきましゅ」
「わかりました。私に着いて来てください」
翼を出して飛ぶ。はー。楽だなぁ。抱っこも癖になるけど、飛ぶのは開放感がある。
「おにゃまえ、にゃんでしゅか?」
「私ですか?ラズと申します。スメラギ様」
「さちでいいでしゅ」
「呼び名ですか?それではサチ様とお呼びします」
「しゃまいりゃにゃいでしゅ」
「それはご勘弁をサチ様を呼び捨てにしては首が飛んでしまいます」
「くび、とぶ」
教会、怖い〜!洗脳教育でもしてるの?それじゃあ、これから毎日、様様つけて呼ばれるんだ。んー、自由があるから我慢しないといけないかな?
あっ、すれ違った人が固まってる。翼、初めて見る人は驚いちゃうかな?慣れてもらわねば。
止まったついたかな?
トントントン
「大司教様、サチ様がお越しです!」
声を張り上げないと聞こえないのか。インターホンみたいなのがあったらいいのに。
あ、手にインターホンが出て来た。大司教様の部屋につけれるかな?
ドアの横にハマれー!ハマった。能力便利。あとは部屋の中に画面をつけないと。
ドアが開いた。大司教様とドアを開けてくれた人が跪いている。
「りゃくにしていいよー」
「では、ありがたくーー何をしておられるのですか?」
「いんたーほんをつけてましゅ」
「いんたーほんですか?」
画面と操作板を壁に埋める。これで使えるはず。廊下に出てチャイムを鳴らす。
ピンポーン
で、画面を見る。誰もいない。
「りゃずしゃん、りゃずしゃん、ここにたってくだしゃい。しょりぇかりゃここをおしてくだしゃい。だいしきょしゃまたちはここでしゅよ」
ピンポーン
ラズさんの顔が見える。大丈夫だ。
「おお!こんな素晴らしい物をこの部屋につけてくださるとは!ありがとうございます!」
大司教様がお礼を言う。いちいち大袈裟だなぁ。
「スメラギ様の翼は綺麗ですなあ!眼福です!なればこその創造神様からの贈り物だったのかもしれません!」
「おくりもにょ?」
「こちらにございます!」
うやうやしく、捧げてくれた。手に取る。なんかキラキラした布?襟がついてるから外套?なんかとめるところにキラキラした飾りがついてる。
「にゃんでしゅか?こりぇ?」
「マントにございます!恐らくはスメラギ様の翼を隠す為の物だと愚考します!」
「さちってよんで」
「は?」
「さちってよんで」
「サチ様?」
「うん」
「感激にございます!ありがとうございます!」
だぱーと泣かれた。どこに感激するツボがあったのか分からない。大司教様はお笑い要員になりそう。