タニエ村の村長との別れ
村長について行くと野菜を山盛り積んだ馬車の所に着いた。
「ボイス、今日は頼むぞ」
「へい、村長。わかりました」
村長は私を三輪車から降ろして、三輪車を掴もうとしたが掴めずに不思議そうにして自分の手をじっと見た。
三輪車いらないのかな?私は収納にしまった。
「空間魔法持ちか。凄いなサチ」
頭を撫でて褒めてくれた。ちょっと得意な気持ちになる。魔法があるなら多少の事は大丈夫だろう。
村長は私を抱っこして、御者の隣に座る。
馬車が出発した。村長の膝の上に座ってるけど、振動が伝わってくる。文明があまり進んでいないのかもしれない。
村の中を通って門にたどり着く。門番さんに挨拶して村を出た。さようなら、みんな。
道を馬の二頭立ての馬車で進む。馬は軽快に走っている。よく世話をされているのだろう。村の馬にしては綺麗に見える。
30分くらい走った頃?大きな門前に着いた。長い壁がある。壁の高さは3m、いや、4・5mはあるだろうか?とにかく大きくて長い壁だ。
列が出来ているので列に並ぶ。ボイスが列が進むたびに少しずつ馬を進めて門にたどり着いた。立派な門だ。村の木の門とは比べ物にならない。
「よお、ボイス。今日は1人じゃないんだな?身分証を見せてもらうよ」
「おう、村の村長だ。用事があるみたいでな」
「子供の身分証は無いんだな。どうしようか」
「警備隊の本館に行って、手続きする。多分いいところの子供で迷子だ。通してくれるか?」
「はい、それならいいよ。顔が平民じゃないよな。信憑性がある。行ってよし!」
門を潜って街の中に入る。結構簡単に入れたな。小さい子供だったから良かったのかな?
門を潜ったら喧騒が聞こえてきた。賑やかだ。雑多なようで整頓されている街並みだ。
キョロキョロと周りを見る。みんな元気だ。ここは朝市だろうか?馬車はどんどん進んでいき、ある店の隣で止まった。
「村長、4の鐘が鳴る時に出発ですが、いいですかい?」
「十分だ。ありがとう。また4の鐘の時にな」
村長は私を抱っこして馬車から降りた。何の迷いも無く歩いていく。
「おもたい?わたち、にょりもにょ、の!る?」
噛んだのが悔しくて力を入れてしゃべった。だが村長は否をしめした。
「いや、サチは軽いよ。大丈夫だ。抱っこのまま行こう」
村長は大通りを避けて住宅街を進む。この辺りの家は木造なんだな。子供の声や生活の音がする。
住宅街を抜けると大きな建物があった。村長とその中に入る。
揃いの制服を着た人がいっぱいいる。
「何かありましたか?」
「はい、村に迷子の子供が来まして、家族を探してやってほしいのですが」
「そうですか。手続きしましょう。こちらへ」
村長と制服を着た人が向かい合って机を挟んで椅子に座る。茶色の質が悪そうな紙を用意して質問をしてくる。
「いつ、どこで迷子の子を見つけましたか?」
「タニエ村の門です。昨日の夕方頃に来ました」
「ふむ、その時は1人でしたか?」
「見た事がない乗り物に乗って1人でした」
「見た事がない乗り物。それは何処にありますか?」
「サチ、出せるかい?」
「うん」
収納から三輪車を出す。
調書をとっていた人が三輪車を触ろうとするが触れない。
「空間魔法!小さいのに凄いですね。う〜ん、触れないな。魔道具か。これに乗って来たんですね?」
「はい」
「子供の名前は?」
「サチ、名前を言って」
「さち・すめりゃぎでしゅ。す!め!ら!ぎ!でしゅ」
「サチ・スメラギさんね。名字持ちとは貴族か裕福な所の子かな?」
「そうだと思うのですが、親がいないと言うのです。それと山から来たとも。どういうことでしょうか?」
「う〜ん。わかりませんね。我々警備隊は届け出のあった魔物被害者か、迷子の子供くらいしか取り扱いしませんし、あとは犯罪関係ですかね。人攫いとか。とりあえずは孤児院で保護してもらって該当したら家族や親族に引き取ってもらいますから。もしかしたらそのまま孤児院でずっと暮らしてもらうかもしれませんしね」
「そうですか」
「あとは家族に関係する持ち物はありましたか?」
「サチ、あるかい?」
「にゃい。かじょく、いにゃい」
「無いし、家族がいないと。痩せて無いところを見ると最近まで誰かに面倒をみてもらってたのかい?」
「ちやう、ひとりでいた」
「う〜ん、それは無理があるなぁ。歳はいくつだい?」
「いっしゃい」
指を1本立てる。
「1歳ね。これで調書は終わりです。他に何かありましたか?」
「いえ、とくに無いです」
「それではサチさんをお預かりします。よろしいですか?」
「はい。サチ、元気に生きるんだよ」
村長の膝から降ろされる。温かい体温が離れていく。ここでお別れなんだ。小さな幼児の身体が震えて、涙がポロポロと流れてくる。笑顔でお別れしないといけないのに。
そうだ、村長にお礼を。何がいいかな?服を作る反物なんかいいかもしれない。綿100%で。色は薄緑がいいかも。
〈いでよ!大きめの反物!〉
大きい、倒れる!慌てて能力で浮かせる。
「そんちょ。ありがとうごじゃましゅた。もりゃってくだしゃい」
「サチ、泣き止みなさい。永遠の別れじゃないさ。サチが会いに来てくれればね。くれるのかい立派な反物だ。ありがとうよ」
村長が持ってくれたけど大きすぎて重たいかもしれない。
重量を感じない時間停止のマジックバッグを作ろう。
〈いでよ!マジックバッグ!〉
皮でできたトートバッグみたいなのが出て来た。
「そんちょ、にゅにょいりぇて、こにょにゃか」
「ん?布をその鞄に入れるのかい?入らないと思うけど、わかった、わかったよ。入れるよ」
私が村長のズボンを引っ張ったら入れてくれる気になったようだ。ズボンを引きずり下ろされると思ったのかな?
反物はするするとトートバッグの中に入っていった。
「じかんていしだかりゃね。あげゆ」
「え!?サチ、それは駄目だ。サチの為に使いなさい。駄目だって、サチ!サチ?サチ?取られると危ないから床に置いて離れないで。わかったよ。貰うよ。ありがとうなサチ。かわいいサチ。元気でな」
村長の足の上にトートバッグを置いたら貰ってくれた。村長は最後に私の頭を撫でて抱きしめてくれ、振り返りながらも去って行った。
お別れだ。
「ひっく!うえ〜ん!あ〜〜う!ひーん!」
調書を取ってくれたおじさんに迷惑をかけて泣いた。一晩だったけど大切にしてくれてありがとう。
調書を取ってくれたおじさんに言われて三輪車をしまい、抱っこされて孤児院に連れて行かれた。
孤児院に着いたときには、泣きすぎて頭がぼぅっとした。