意外な招待
神聖教国の道を走り、教国の中央に向かう車の中。
エレナが運転し、カイザーが助手席、ラズがサチのいるチャイルドシートの隣にいた。
サチはお気に入りのストローマグで麦茶を飲む。今日もおいしい。
サチは車内がいきなり暗くなったので、窓を見ると何か顔が潰れた魔物?が張り付いていた。
「ぎゃ〜〜!!」
幼児と思えぬ悲鳴をあげて、車が止まる。
「サチ様!どうしましたか!?」
「カイザー!エレナ!魔物です!魔物が窓に引っ付いています!」
「馬鹿な!この車は結界で守られているんだぞ!」
「外に出て見て来ます!」
エレナとカイザーが外に出て警戒する。すると窓に張り付いていた魔物?が窓から顔を離した。
カイザーとエレナは初めて見るが、それは薄ピンクの羽を生やした妖精族だった。1mほどの身長の可愛いピンクの髪と目をしている。服は物が良いのか輝いて見える。ミニスカートのようだが、膝までのズボンを履いている。
「貴方達が、この乗り物の持ち主?」
「いえ、主の所有する車といいます。貴方は何故車に引っ付いてなどいたのですか?」
「珍しいものが好きなの!初めて見る乗り物だったから、思わずへばりついてしまったわ。透明な窓って新鮮ね!」
危険は無いのでサチとラズに知らせにカイザーが戻った。
「サチ様!ラズ!引っ付いていたのは妖精族だった。危険は無い。大丈夫だ」
「妖精族って引きこもりのあの妖精族ですか?」
「そうだ、あの妖精族だ」
ラズの言い方が酷い。
グラン先生の授業で習った。妖精族は他族とのかかわりを最低限にして、自身に宿っている強大な魔力で住む里と仲間を守っているらしい。邪な考えを持ち近づいてくる不届者を成敗して世俗にあまり関わらず独自の文化を持っているらしい。
見た目が珍しく小さい体に昆虫のような羽を持ち自在に空を飛ぶという。生態はあまり知られていないようだ。闇奴隷商が狙っているが成功した事は無いとされている。それほど珍しい種族だ。
世界各地にいるとされているが、情報も定かではない。
成功した商人が関わりを持っているだけで、たまに珍しい妖精族の里産の物が出回る事もある。
サチが手に入れた『妖精の宝石アシュタリスク』と『御神酒』の酒は数少ない妖精の里の物である。
「りゃず!ようしぇいしゃんにあいたいでしゅ!」
「それではベルトを外しますね。一緒に行きましょう」
ラズに抱っこされて車から降りて外にいる妖精の元に行く。
「あら?貴方から不思議な力を感じるわ。う〜ん、神様に近いわね」
「鋭いですね。サチ様は創造神様の使徒、天使です。貴方は何の目的で近づいてきたのですか?」
「目的があって近づいたんじゃないのよ!その乗り物が珍しかったから、ついへばりついちゃったわ!創造神様の使徒ね!よかったら里へ招待するわ!爺婆様も無下にはしないはずよ!」
「いきたいでしゅ!ようしぇいのしゃと!」
カイザーとエレナも好奇心がむんむんと湧いてくる。妖精の里など行きたいからと行けるものではない。
「それじゃあ私をその乗り物に乗せてちょうだい!それで里まで行くわ!」
そういう事になった。
助手席のカイザーが後部座席に乗り、妖精が助手席に座る。物珍しげに車の中を触りまくっている。
「妖精殿、それでどこに行けばいいですか?」
「来た道を戻ってちょうだい!それとわたしはシャーロよ!」
「分かりました。道案内は頼みます。シャーロ殿」
Uターンして来た道を戻る。すると「森の中に入って!」と指示が飛んできた。
一度車を止める。森に入ったらすぐに木にぶつかるからだ。
「シャーロ殿、それは出来ません。木にぶつかってしまいます」
「大丈夫よ!私がいるから木が避けるわ!」
「それは本当ですか?」
「本当よ!人族は怖がりだと聞いていたけど、本当にその通りなのね!」
エレナはちょっとだけカチンときたが、シャーロの言う通りに森にゆっくり入った。木にぶつかる!と思ったその時、木が避けた!道が出来る!本当に木が避けたのだ!
「木がどいていく!?どういうことだ!?」
思わずカイザーが叫ぶ。
「妖精族の里は隠れ里よ!こうやって道を隠して棲家を守っているの!常識よ!」
妖精から常識を教わるとは思わなかった。車内の妖精以外の全員が驚いている。
「貴方達、以外だと取引きのある商人がたまに来るわ!楽しみなの!」
妖精は心底楽しいとばかりに告げる。車からの景色も楽しんでいるようだ。多分、身長から空しか見えないだろうが。
サチは妖精にアイスクリームのシングルコーンを作り、ラズに渡してもらう。
「あら?何かしら?甘い匂いがするわ!」
「おやつでしゅ。たべていいでしゅよ」
「ありがとう!いただくわ!ーー冷たい!甘い!おいしいわ!」
車で5分ほど走った頃にひときわ大きい木に見える門が見えた!その隣にはかなり小さな扉がある。そちらは妖精用なのだろう。
「シャーロ殿、どうしたらいい?」
「門の前で止まってちょうだい!わたしが門を説得するわ!」
言い方がおかしい。門を説得するとはなんだ?みんな窓を開ける。この動作もサチから覚えたものだ。
シャーロが車から出て話す。
「シャーロよ!お客さんを連れてきたわ!怪しくないから門を開けて!」
『ちょっと待て。客人を見る。ーーいいだろう。通りなさい』
何処かから声が聞こえて門が開いた!シャーロが車に戻ってくる。
「シャーロ殿、今、何処からか声が聞こえたが」
「門に意思と力があるの!植物魔法の使い手が作ったのよ!凄いでしょ?」
「凄いですね」
「しゅごいでしゅ」
「物語の中に来たようだ」
「本当に」
みんなも驚いたようだ。いつのまにかシャーロはアイスを食べ切った。
門を潜るとそこは小人の村のように建物が小さい。それに可愛い。車が通れる道はあるが。どこの家にも屋上がついているようで、妖精が沢山飛んでいる!車はゆっくりと走る。
「わあ!すごいでしゅ!」
「夢みたいだ」
「ええ、凄い光景ですね」
カイザーが後部座席から身を乗り出している。それほど目を離すのが惜しい光景だ。
里を囲む壁は広い。王都ほどあるのではないか?サチとラズ以外は王都に行った事がある。勿論、教会の仕事でだ。年1回、教会責任者の集まりがある。その時に新人の聖騎士の警護訓練をするのだ。
シャーロに言われるまま車を進めるとやっと人族が暮らせそうな場所の建物の前に来た。
「ここよ!ここで爺婆様の許可を取るの!一緒に行くわ!乗り物はここに置いておいていいわよ!」
ベルトをはずされながらサチが答える。
「だいじょうぶでしゅ。しまいましゅよ」
「出しておいて!そんな事したら他の子が悲しんじゃうわ!」
何をと思って、ラズに抱っこされて車から出ると、わらわらと妖精達が車に集まってきていた。
「何だこれは」
「動いてたぞ」
「新しい乗り物か?」
「綺麗だわ」
なんだか妖精が車の周りに多い。確かに車をしまったら悲しむだろう。
サチは車をそのままにしておくことにした。妖精とは好奇心があるんだなと思った。
シャーロに促されて家の中に入る。天井は低いが2mはあるみたいだ。2m以上の人が来たら大変だな。カイザーでも狭苦しそうだ。
シャーロの先導で歩いて行く。そんなに歩かず1つの部屋についた。ドアは無く中には妖精族が複数人いた。年齢は分からない。鑑定すればわかるだろうが、今は必要ない。
「爺様!婆様!凄い人を連れて来たわ!創造神様の使徒で天使ですってよ!」
「シャーロか」
「またシャーロだよ」
「嗅覚だけは凄いの」
「嗅覚と言うのかのう」
「して、何をしに来たんだい?」
「里を案内しに来たのよ!出入の許可は貰える?」
「まあ、よかろう。悪い人は居ないようだからのう」
「あまり騒がんようにの」
「静かにせいよ。まあシャーロだからの。無理だな」
「客人、土産はないのか?」
「土産の催促とはやるのう」
どうやらお土産が欲しいらしい。アイスはシャーロの食いつきが良かったが、土産には向かない。素材にこだわったバームクーヘンでもだそう。大きさに驚くはずだ。手の中に箱に入った円形のバームクーヘンを出した。重い。カイザーに渡してもらう。
「これは見た事ないのう」
「何かのう」
「綺麗だのぅ」
「これは何だ?」
「おかしでしゅ。きってたべましゅ」
「何!食べ物か!?」
「味が想像つかないな」
「新しいな」
「切るとな!勿体ない」
「貴重な物をありがとうよ」
「これでいいでしょ!もう行くわね!」
「待ちんしゃい。魔法を掛けねば」
1人の妖精からほわほわと4つの光の玉が飛んできて私達を包み込んだ。そして光が消えた。
「何をしたんだ?」
「妖精の里に入る許可よ!これで妖精の里が分かるわ!行きましょう!」
妖精の爺婆に挨拶してシャーロに着いて建物の外に出た。
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