ボロい宿 飯は美味い
ちょっとボロいが食事が美味しい宿。
ちょっととは、どのぐらいのことを言うのだろうか?
目の前の宿は、お化け屋敷に見える。無駄に広い。まあ、おうちを出すのでいいのだが。カイザーも怖気付いている。
カイザーが勇気を出して扉を開ける。あれ?中は思ったより綺麗だ。リフォームしたのかな?
「すまん!誰かいるか!?」
「はい」「にゃん」「はい」「にゃん」「はい」「にゃんにゃん」
2人のそっくりな幼児の女の子が出てきた。変な歌を歌いながら。
5歳くらいだろうか?獣人で可愛い。歌のとおりに猫獣人か?
「おきゃくさまです」「いらっしゃいませ」
「可愛い店員さんだな。他の従業員はいるか?」
「おかあさんはかいものにいっています」
「そうか。じゃあ父ちゃんは?」
「おとうさんはといれでふんばっています。べんぴです」
「そうか、それじゃ呼べないな。他に人は?」
「おねえちゃんがいます。すきなひとのえすがたをみてにやけています」
「そうか、姉ちゃんを呼んでくれ」
「はい」「にゃん」「はい」「にゃん」「はい」「にゃんにゃん」
2人でかけて行った。なんとも可愛い双子だ。
「かわいいでしゅね」
「サチ様に言われたく無いと思う」
「しつりぇいでしゅにぇ」
他の宿泊している客が通った。宿泊している人がいるんだ。以外に思う。ちょっと失礼だが。
「にゃんにゃん」言いながら双子が来た。
歳の離れたお姉さんらしき人も一緒だ。にやけていた姉ちゃん。こちらも獣人だ。
「にゃんにゃん言うのはやめなさーい!客に仕込まれて。私達は狼ですからね!」
あ、狼だったらしい。「にゃん」どころか「ワン」か「ウォン」だ。「アオーン」でもいいかもしれない。ていうか、狼と意味が通じたのが不思議だ。似た動物に言語翻訳されているのかもしれない。
「あっ!お客様が4人も!いらっしゃいませー!何泊でしょうか?」
「一泊頼む。4人で食事有りだ」
「お一人様、大銅貨6枚で、銀貨2枚と大銅貨4枚になります」
サチは銀貨3枚のお金を出す。
「まあ!赤ちゃんが!大銅貨6枚のおつりね〜。落とさないようにね〜」
丁寧に接してくれるのは嬉しいが、何故みんな赤ちゃんだと言うんだ。抱っこがいけないのか?抱っこか?
おつりを収納にしまう。
「お部屋にご案内します」
お姉さんの足元をちょろちょろする双子。お姉さんの尻尾であしらわれている。尻尾便利。双子ちゃんがちょろくて危ない。
中庭がある。洗濯物が干されているけど。内部だけ見ると高い宿に見える。
2階の部屋に案内された。2階に縁があるな。
サチは今まで宿泊した宿の気遣いに気がついていない。
小さなお子さんがいると高い階段は危ないから低い階に部屋を取られている。あわれ、鈍感なサチ。
部屋の中も綺麗だった。ベッドの上に乗るがふわふわだ。やっと出会えたふわふわベッドだ!サチは嬉しくて転がる。
お姉さんは鍵を渡して出て行った。知る人ぞ知る宿だ!
「ふふっ、サチ様、嬉しそうですね」
「べっどがふわふわ!ここいいやど!」
「そうですね。珍しい。外観はボロいのに」
「これならもっと値段が高くてもいいはずよ」
「入ってくる客が少ないんだろ。見た目がな〜」
全員でゆっくりする。サチはその内うとうととしてきた。
3人はサチの邪魔にならないように静かにする。
完全にサチが寝入った。それを珍しく見る3人。
サチの寝顔は天使のようだ。天使だけど。いつのまにか翼が飛び出している。リラックスしている証拠だ。不思議と翼はサチの寝返りの邪魔をしない。不思議な翼なのだ。
3人はこっそりと話をする。
「サチ様、相当この宿が気に入ったみたいよ」
「サチ様が翼を出すなんて」
「寝顔、初めて見たけど、可愛いな」
「そうね、可愛さ爆発よ!」
「爆発はしねぇけど」
「サチ様が、可愛いのはいつものことです」
「「親バカ」」
「親じゃありません。どちらかと言えば、お兄さんです」
どっちも家族じゃん。
と口には出さないが2人は思った。
サチが寝ているので、おうちにも行けない。みんなベッドで横になった。
◇◇◇
ラズが寝ているサチを起こす。
「サチ様、夕食ですよ!起きてください!」
サチはむーむー言っている。眠りが深かったようだ。
ラズはサチに神のマントを付けてから抱っこする。
サチがむずがるように居場所を探す。モゾモゾが落ち着いた。
カイザーとエレナに護衛されて、ラズは歩く。
歩く振動でサチの意識は覚醒に近づいていた。
1階の食堂は盛況だった。知らない少年がいる。あの姉妹に似ているから兄妹だろう。姉と少年が頑張っている。
双子は「にゃんにゃん」言いながら、お捻りを貰っていた。可愛い。邪魔してるのか、アイドルなのかわからないところだ。
少年が、気づいて話しかけてきた。
「兄ちゃん達は食事の人ですか?」
「食事だ4人分な。宿泊してるけどな。ほれ、鍵だ」
「じゃあ、定食だ!そこに座ってください」
少年に言われた所に座る。それにしても客が多い。料理が美味しいのは期待出来そうだ。
サチがラズの膝の上でむーむー言っている。寝起きが良くないようだ。
例の事件の後からサチの寝起きが悪くなった。心に影響を与えているのだろう。小さいのに痛ましいことだ。時間が癒してくれるのを祈るしかない。
料理が出来たようで持って来てくれた。
「赤ちゃん大丈夫?ごはん食べれる?」
「大丈夫だ。残ったら俺達が食べるからな」
「そう!良かった!今日は鍋だよ!他の人の分も持って来るから待っててね!」
小さい鍋に肉と野菜が煮込まれている。暑そうだ。真夏に鍋はきついが美味しそうなのも確かだ。
少年が次々と鍋を持って来た。ごはんと飲み物もだ。勤労少年よ、素晴らしい。
ラズが煮汁をスプーンで掬って冷ましてから、サチの口にスプーンをあてた。反射で口が開いたら口の中に煮汁を入れる。サチが口をむぐむぐすると、サチの目が開いた。
「サチ様、起きましたか?夕食ですよ。食べれますか?」
「おいちぃ。たべゆ。ごはん、たべゆ」
まだ、寝ぼけているようだが、食欲はあるようだ。ラズがあーんで食べさせると、だんだんと意識がはっきりとしてきたようで、1人で椅子に座って料理を食べ始めた。「おいちぃ、おいちぃ」と1人で食べる。
自由に動き回るカトラリーを少年が目撃して驚いていた。サチの事を気にかけてくれていたのだろう。
それからもサチと少年はたびたび目が合った。サチは健康な少年に首を傾げる。
少年が転けそうになった!サチは咄嗟に能力で少年と料理を浮かせた。
食堂が静かになった。少年を下ろしてから料理を持たせる。
食堂が湧き立った!みんな口々に少年に何をしたか聞いている。何もしてない少年は知らぬ存ぜぬを貫くしかなかった。いつもより忙しい日だった。
食事が終わったサチはカイザーに約束通りに松◯梅の酒樽と升、柄杓を出してあげた。サチに飛びかかりそうなほど喜んだ。
どうやって開けるか聞いてきたから、確かハンマーで開けるんだよなと用意したら、「そんな勿体ないこと出来ない」と言われたので、サチが蓋を能力で開けてあげた。
さっそく飲んだカイザーは澄んだお酒を大切そうに飲んだ。とても美味しそうだ。
サチは少ない塩を小皿に入れて升の隅に置いた。それを口につけて飲んだカイザーは目をひん剥いて驚いていた。
誰かと旨さを語り合いたくなったのだろう。酒も大量にあるし。食堂に行って誰かと飲むそうだ。カイザー、独り占めしないなんて男らしい。また、出してあげようかな。
サチはラズとお風呂の時間だ。
服を丁寧に脱がされてお風呂で洗ってもらう。今日のラズも丁寧だ。あわあわをざーっと流されて、まるっと洗い終わったら湯船に入る。極楽極楽。余は満足じゃ。
精一杯ふんぞり返っていたら、ラズに変な顔で見られた。なんぞ!女児の裸を見て変な顔をするとは!
ラズをつつき回っていたら、捕まえられた。風呂の湯の中で抱っこされるとは新しい。
2人共、つるんつるんのお肌だから触り心地もいい。湯船でまったりしていたら、ラズに抱っこされて露天風呂に行った。外の空気も素晴らしい。
ラズの体温と温泉の温度で暑いくらいだ。外の風が丁度いい。
心配症のラズは早く上がる。
いつも、もうちょっと浸かっててもいいんだけどなぁ。明日も朝風呂入ろ。
おうちは出しておくが、サチは珍しく宿のベッドで眠った。ラズもエレナもカイザーも警戒の為、宿のベッドを使う。
風呂に入ってすぐにサチは寝入った。やっぱり寝起きが良くなかったのが原因だろう。
カイザーは夜更かししたが。
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