宿屋『あしたが来る』 事件の始まり
朝ラズに起こされた。よく寝た。宝石の輝きが見える。うっとり。
ラズに強制抱っこされた。ああ、宝石が〜。
朝の準備をして、宿屋の部屋に出る。
みんな出たら、おうちを収納にしまって、1階の食堂に行く。
泊まりの客だけなのか、中は半分ほど席が埋まっていたが、昨日ほど混んでいなかった。
「食事を4人分頼む!」
「はい!2階のお客様ですね。お待ちします」
待っていたら、パンと野菜と肉の炒め物とスープが出てきた。私の分は細かく刻んである。嬉しい。
みんなでいただく。塩だけの味つけだけど、絶妙にうまい。料理の腕が大分いいな。私のパンにはジャムがつけてあった。嬉しい。控えめな甘さだけど酸味のないジャムだ。どんどんパンが食べれる。
野菜も美味しい。この近くで育てているのだろうか?シャキシャキしてる。肉は昨日の肉だ。なんて名前だっけ?トドヤンだったか?美味しい。最後にスープを飲む。口の中の油が流されて胃が落ち着く。
ほぅ、と満足の息を吐き出す。ここは当たりの宿だ。頭の中の地図にマーキング出来ないかな?出来た!また来よう。
「鍵、返すな。ありがとう」
「ありがとうごじゃいましゅた!」
「はい!こちらこそ、ありがとうございました!また、お越しください!」
名前見た時は、どんな宿かと思ったけど、良い宿で良かった。
門を出て車を出す。みんな乗り込みラズが私をチャイルドシートに乗せてくれる。車が発進する。神聖教国で過ごす最初の町は良い印象で終わった。
身分証が3つになったから、神聖教国は教会の身分証でいいとして、他の国に行ったら商業ギルド証を出そう。1番平凡だ。身バレしにくく騒がれにくい。
私はストローマグで麦茶を飲む。美味しい。日本人だわー。天使だけど。
ラズがほっこりした顔で見てくる。私がストローマグを使うとこんな顔で見られる。いい父親になりそうだよ。
車で魔物を吹っ飛ばしたりして、車は進んで行く。
車内に音楽をかける。みんないきなりした音にビクッとしていた。私が笑うと「サチ様の仕業か」と納得された。
車は本当にイメージのまま出来ている。あの人が生きていた時のように。懐かしい音楽を聴きながら車は走る。
ふんふん鼻歌を歌っていたら、カイザーが速度を緩めたようだ。
「サチ様、ちょっと緊急事態だ。馬車が潰されている。見てくるから待っていてくれ」
「わかりましゅた」
車が止まり、カイザーとエレナが車から降りる。
ラズと2人で車内に残った。物悲しく歌が流れる。
「まもにょでしゅかにぇ?」
「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」
ラズにしては曖昧な表現だ。どういうことだろう?
「サチ様、死体もあるが、全て収納に入れてくれるか?多分だが事件だ。次の街で通報する」
ラズがベルトを外してくれる。飛んで車の外に出る。嫌な匂いだ。血の匂い。
馬車と死んだ人が3人親子だろう。成人した男女に7歳くらいの女の子。カイザーとエレナが身なりを整えてくれたのだろうが、匂いは隠せない。これは女性が乱暴された匂いだ。とても濃い。それに母親と女の子の顔が真っ赤に腫れている。
猛烈な怒りが湧いてきた。犯人を許さない!!絶対に!女と子供の敵だ!!
手を合わせて収納に全てを収めた。証拠は持って帰るからね。
まさか、3人は私が気がついていると思って無いだろう。
私は自分の子供も成人した、いい大人だったんだ。性の知識ぐらいある。
まだ新しい死体だった。進行方向から見ても私達が行く街に犯人がいるだろう。
索敵よ!犯人達を探せ!
赤点が8つ見えた。街の中でバラけている。これで絶対に見失わない。
車内でチャイルドしーとに座って麦茶を飲む。
許さないからね。敵は取るから。安らかに眠れ。
車内は音楽の音だけ聞こえて、みんな無言だ。みんな知っている。
創造神様、今回だけは許せないんです。人の行いにもとる行動を取ります。許してください。
【許そう、サチよ。犯人を八つ裂きにするのだ】
神託が聞こえた。私だけだろうか?カイザーが車を止めた。
「今の聞こえた、か?」
「聞こえたわ。サチ様を許すって、犯人を八つ裂きにしろって」
「サチ様!危ない事をなさってはいけません!我々がしますので!」
ラズが慌てているが、私は手を出して静める。
「わたちはしってましゅ。おんなのひとが、りゃんぼうしゃれたのを。しょうじょうしんしゃまは、わたちが、はんにんをやつじゃきにしても、ゆりゅしてくりぇましゅ。こりぇはゆじゅりぇましぇん」
3人が息を呑んだ。サチ様に知られていた。何故?どうしてわかったのか?創造神様の許しがあったと言うのなら、先に願ったのはサチ様では?
みんな言いたい事を飲み込んで、車が走り出す。
ラズは手が震えてきた。サチ様がいつものサチ様じゃない。神託を聞いたカイザーとエレナも同じ気持ちだった。恐れ多い。言葉のとおりだ。恐ろしい。このまま街についてもいいんだろうか?犯人は許せないが、サチの怒りの方が恐ろしい。
サチに対してこんな事を思ったのは、初めてだった。
車は走る。みんなの複雑な気持ちを乗せて。
街門の入り口に着いた。サチは静かにベルトが外されるのを待つ。
ラズに抱っこされて車外に出て、車を収納にしまう。ラズの腕は緊張に強張っていた。サチは真顔で静かに怒りを心に抱いていた。
カイザーもエレナもそれは感じているようだ。
門番の前に来た。
「はい、身分証を出してください。カイザー、聖騎士ね。ご苦労様です。次、サチ・スメラギ、創造神の使徒……わわ、わあ!隊長〜〜!!使徒様が来ましたよ〜〜!!」
門番が慌てて奥に行った。残りの門番は唖然とした。創造神の使徒様?教皇様より尊い?
門番が全員跪いた。列に並んでいる一般人は騒ついた。
「使徒様?」「使徒様がいらっしゃるのか?」と。
神聖教国では大事件だったのだ。教皇様からのおふれ。
神の次に尊い御身が現れたと。天使。創造神様からの使徒。
門の奥から、凄い勢いで男達が走ってくる!使徒様を一目見んと!
「門番の隊長です!創造神様の使徒様に会えて幸運でございます!門番、入街手続きを」
「はい!間違いありません!使徒様です!」
歓声が上がった。「使徒様」コールだ!おもわず顔が緩んだサチ。それを見て涙目のラズ。カイザーとエレナは警戒!
次はラズが身分証を見せる。それからエレナが。歓迎されて街に入った。
カイザーは門番に警備隊の本館を聞く。教えてもらった通りに歩いて行く。
緊張が戻ってきた。ラズの抱っこは温かいが。サチの胸に燻った思いは消えない。
着いてしまった。
3人はサチの行動が予測出来ない。不安だ。
警備隊本館に入る。中にいた警備兵に告げる。
「事件だ。それも悪質な。広い場所に証拠を出したい。場所を用意してくれ」
「こちらへどうぞ」
兵士が何か合図をしたら警備兵が5人ついて来た。
先導する警備兵に続いて歩いて行く。
普段は警備隊の訓練に使われているのだろう場所に来た。
「証拠品を出してください」
「サチ様、いいですか?馬車と死体です」
サチが収納から出すと、嫌な匂いが広がった。警備兵も顔を顰めるが、死体に近寄っていく。検分する為だ。
他の警備兵がカイザーに詳細を聞く。
また、死体を見たサチは怒りが広がるのをおさめれない。
「りゃず、しんぱいしにゃくても、かえってきましゅからにぇ」
「え、サチ様?」
ラズの腕の中からサチが消えた。ラズの悲鳴が響き渡る。
「サチ様ー!!」




