サチ達 門で止められる チョコレートの香り
領境を超えて、街を目指す。
村を過ぎて町を超えて栄えている街に着く。
車から全員降りて、収納に車をしまう。
街に入場待ちをしている人からどよめきが起きた。
私達は能力はひけらかさないけど、我慢することはしない。ありのまま過ごすと決めた。これもその一環だ。
警備兵が何事かと来る。私達を見て、教会の一行だと分かったみたいで、帰って行った。入り口の列に並ぶ。
順調に列が進み、私達の番が来た。
「身分証を拝見します」
カイザー、私、ラズ、エレナの順番で身分証を出す。
「カイザー様、聖騎士ですね。はい、次、サチ・スメラギ様、創造神の使徒……使徒!??少々、お待ちください!!」
「だいしきょしゃま、しょのままみぶんしょう、つくったのでしゅ」
「まさかのまさかですね。大司教様、素直すぎでしょう」
「きっと、教会まで話が行くわ」
みんなでため息を吐く。
待っていると上司が来たようだ。
「ここの隊長だ。今、教会に確認をとってるから、用意する別室で待っててくれ。じゃなければ中に入れられん」
「べっしつでまちましゅ」
「なんだ、流暢に喋る赤ん坊だな。案内する。ついて来てくれ」
隊長だと言う体格のいい兵士の後をついて行く。
応接室だと思われる場所に着いた。促されるままソファに座る。カイザーとエレナは背後に控えたままだ。
隊長が部屋から出て行った。私達だけになる。
「サチ様の身分証がな〜」
「街に入るたびにこれなのかしら?」
「サチ様のせいじゃないんですけどね」
「だいしきょしゃまのしぇいでしゅ」
「そこまで、ハッキリ言わなくても」
「いや〜、でも、そうなんだよな〜」
「みんにゃでけーきたべましゅ」
みんな大好き、チョコレートケーキを出す。もちろんホールだ。お皿とフォークも出す。勿論、濃い味のチョコだから、お茶も出す。紅茶のアールグレイだ。
「あらやだ、いい香り」
「これはちょこですね」
「これが例のお菓子か」
「りゃず、きりわけてくだしゃい」
ラズに包丁で切ってもらい、皿に取り分けてもらう。カイザーとエレナが向かいのソファに座った。
みんなフォークを手に取り、神に祈りを捧げて食べ始める。
「何これ!すっごい!おいしい!」
「おお〜〜うめ〜〜!!」
「もぐもぐもぐもぐ」
「ん〜、おいしいでしゅ」
濃厚なチョコレートは大人の味だが、サチの舌にも合った。紅茶を飲むと更に美味しく感じる。勿論、小さなサチサイズの茶器だ。
トントントンとノックの音がしたが誰も相手にしない。
もう一度なったが、みんなの耳には聞こえない。
待ちきれん!とばかりにドアが開いた。甘い匂いが漂う空間だ。隊長は見た。護衛がソファに座って何か食べているのを。
隊長と一緒に来た男は待ちきれんと言わんばかりに隊長を急かす。
「創造神様の使徒様はどちらですか!?」
「あ?ああ、あの赤子だ」
男がソファの横に来た。
「ああ!使徒様!お会いしとうございました!司教のファイン・ダレーンと申します!使徒様?使徒様?」
机に置いてあるチョコレートケーキにみんな夢中で聞いてない。
「なあ、おかわりしてもいいか?」
「私も食べたいわ」
「仕方ないですね。残りは3等分ですよ」
「くそ!小さいが仕方ないか」
「くそとは失礼な」
「そうよ、ケーキに謝りなさいよ」
「もぐもぐ」
隊長と司教は困惑した。なんでこいつらこんなにマイペースなんだと。街に入れないかもしれないのに。
ケーキを食べ終わって、カイザーとエレナが入室者に気がついた。取り繕って、すまし顔でサチ達のソファの後ろに立つ。
サチは食べた後の食器を綺麗にして、その他も収納にしまう。
そこでサチは隣の男に気がついた。
見られた男は顔を輝かせる。
「使徒様!司教のファイン・ダレーンと申します!お会いしとうございました!身分証を拝見いたします」
サチは身分証を渡した。司教は震える手で身分証を確かめる。教会関係者しか知らない本当の身分証の印を見る。本物だ。この方は本当に使徒様なのだ!
「確かに確認いたしました。隊長!身分証は本物です!この方達は教会が身分を保証します!」
「そうですか。創造神様の使徒が本当に居たとは驚きです。それならば、どうぞ、街へお入りください」
隊長はサチを穴があくほど見た。
かわいいが普通の赤子に見える。可愛すぎるが。
隊長は先導した。
後ろにカイザー、サチは飛んで行く。その後にラズとエレナ。1番最後に司教だ。
司教は驚愕した。使徒様が飛んでいる。赤子が飛んでいるのだ。目をぱちくりぱちくりした。飛んでいる!
「飛んでいる!」
「司教?どうかなさいましたか?」
隊長が振り返る。カイザーがいる。その後ろにサチがいる。サチがいる場所がおかしい。カイザーの顔の真後ろにいる。隊長は覗いた。サチが浮いている。浮いているのだ!
「浮いている!?」
いつも冷静だと言われている隊長の顔も驚愕にいろどられた。
カイザー達は「あーー」と言わんばかりの顔だ。仕方ないいつものことだ。
サチは飛んだらいけないのかと、ラズの腕に収まった。しょせん抱っこだ。だが遅すぎた。隊長と司教は見てしまったのだ。動き出すまで、もう少し時間がかかりそうだった。
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