サチ 村に着く
サチが飛んで山を下り終わったら、日本の住宅街の道路ほどの道に出た。ここを左にずっと行くと例の緑と黄色の集団の場所にでる。
どんな人がいるかもわからないのに飛んでいくなど、自殺行為だ。人かどうかもわからない。
ならば他の移動手段。歩いて行くのは論外だ。1歳児の幼児の足では明日になってもたどり着くかわからない。
それならば、どうする?
新しい乗り物、1歳児が乗れる乗り物を作るのだ!
構想はある。飛んでいるうちに考えてきた。三輪車にバイクのように手元で速度を調節し、ブレーキをかけれるようにして、タイヤが回り過ぎると危ないので少し浮いた状態で実際にはタイヤは回らずペダルでこいだ時だけ走行していると他の人には勘違いさせるのだ。
まぁ、浮いて三輪車が飛ぶとも言う。
安全に三輪車が走行出来るように魔物が襲ってきても無事なように結界を張っておく。
イメージは抜群だ!
〈いでよ!三輪車!〉
道に慎ましく現れたのは白いボディの三輪車。日本で見る三輪車より小さいかもしれない。早速乗ってみる。
ふむ、乗り心地は悪くない。ペダルにも足が届くし、実際にこげる。ちょっと浮いてるので空回りだが。
グリップを握って右手を回すと動き出す。目的地まではこのまま行く。
少しずつ速度をあげて、時速30kmほどで走る。結界が張ってあるから軽快に進む。
日本で見たら目を疑うだろう光景だ。三輪車の爆走。大人が車やバイクで走るなら違和感が無いが、三輪車だと携帯で撮られてネットに上げられる事態だ。
サチは目的地はどんな所か想像しながら移動していく。そこに自分が周りから見たらどんな状態か意識しているふしはない。
ここは異世界だから、それでいいのだけども。いや、やっぱり幼児が1人で危ないかもしれない道を爆走するのはいけないかな?
頭の中の索敵マップで集団のいる場所が近づいてきた。速度を緩める。ペダルに足をつけてこぐふりをする。
馬車が止まっていたので、その後ろに止まる。人がいるみたい。御者の人と誰かが話をしているようだ。索敵マップの黄色の点は人か。
馬車が動き出したので、後ろに着いていくと木で作った門が開いていた。
馬車を見送っていた男が後ろに着いていくサチを見つけてギョッとした。
「あー!待て、待て、ちょいと、そこの子供!」
馬車も一緒に止まった。サチも止まる。声を掛けた男が近寄ってきた。
「どうした?何かあったか?」
田舎の馬車に乗っている御者が声をかける。
「いや、おまえの馬車の後ろに子供がいてな。どこの子だろうな?」
「子供ぉ?村の子じゃねぇのか?」
「珍しい乗りもんに乗ってる。村の子じゃないだろ。おい、おまえどこの子だ?名前は?」
声をかけられたので、サチは答える。
「さち・すめりゃぎでしゅ」
「こりゃおったまげた。名字があるのか。誰かに連れられてきたか?ん?」
「ひといでしゅ」
「ひとい?ひとりか?」
「そうでしゅ」
「親は何処にいるんだ?」
「おやはいましぇん」
「親がいないだと!こりゃ困った。ボイスちょっと頼まれごとしてくれねぇか。この子を村長の所へ連れて行ってくれ」
「ああ、いいけどよ、厄介ごとはごめんだぜ?」
「あー、じゃあ村長を呼んできてくれ。俺はここから離れられんからよ」
「あい、頼まれた。じゃあな」
馬車はそのまま進んで行った。村長が来るまではここから動けないようだ。まぁ、幼児が1人でいたら何事かと思うだろう。ましてや村の外からだ。緑の点もわかった。馬にマークがついてたから、多分、普通の動物だ。
「サチか?おまえもここで待っていてくれ。俺も一緒にいるからな?」
「わかりまちた」
「何処から来たんだ?」
「やみゃからきまちた」
「やみゃ?って何処だ?」
「や!ま!でちゅ」
「山か。山!?おまえ、魔物に合わなかったか?無事だから大丈夫か。強運だなサチは」
多分、門番だろう男と話して待っていると、中年から初老にさしかかった、真面目そうな男が来た。
「ボイスに呼ばれて来たがどうした?この子供が原因か?」
「そうです。この子供が名字があるみたいでボイスの後からきたんでさぁ。親も連れもいないみたいで、どうしようかと」
「ふむ、街に連れて行った方がいいかもしれんが、今日はもう日が暮れる。君、名前は?」
「さち・すめりゃぎでしゅ」
「サチ、私に着いて来なさい。一緒に行くよ」
「はい」
村長が一緒に行ってくれるらしい。何処に行くのやら。
それにしても、子供舌は話すと噛んでしまう。普通に話せないものか。気合いを入れるとなんとか話せるみたいだが。
あー、話す練習がしたいな。