村の危機
昼食は途中で車を止めて車中で食べて、各々トイレ休憩をした。その後、エレナが運転を代わり、多分、夕方の4時頃だろう、村に着いた。今日はここに泊まるらしい。
収納に車をしまって、歩いて行く。私はラズに抱っこされている。エレナとカイザーが前後を護衛してくれる。あ、第一村人発見!
「すまん、そこの村人。村長の家を教えてくれないだろうか?」
「へ、へえぇ、聖騎士様ですか?」
「そうだ、とある方の護衛をしている」
「なんと!案内しますだ」
親切な村人に案内される。いい人だ。
他の家より大きい家に着いた。村人にお礼を言うと「へぇ、へぇ」言いながら去って行った。村の言葉だろうか?
「村長はおるか!誰かおるか!」
カイザーが声を張り上げる。慌てて青年と奥さんらしい女性が来た。
「は、はい、村長代理です。なんのご用事でしょうか?」
少し怯えたように聞いてくるが、瞳を輝かせている。
「とある方の護衛をしておる。一夜の宿を提供してはくれまいか?対価は払う」
「はい、それは構いませんが、聖騎士様とお見受けします。神聖魔法を使える方がいらっしゃいますか?」
チラリとカイザーが私を見てきた。私は頷く。
「おられますが、何用か伺っても?」
「私の両親を治療していただきたく思います。それを対価にしても構いませんか?」
「構わん。世話になる」
「ありがとうございます!案内します」
男女の後について行く。家は教会とは比べ物にならないが、これが村人の家だろうか?タイムスリップしてしまったようだ。
一つのドアを開けると中年の男女が横になっていた。顔に斑点が出来ている。
「なに!?流行り病か!?」
「そうです。この村の老人と子供が病にかかっております。どうかお助けくださいませ!」
土下座するようにお願いされた。私達は顔を見合わせて頷く。
「よい。喜捨を貰えれば受けよう」
「我が村は金銭が少のうございます。なにとぞ他の物でご勘弁を!」
「野菜1つでも構わん。対価として貰う事が大事なのだ。これは神聖魔法使いを守るためにある。納得してくれるか?」
「ご配慮ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「村の者に知らせてくるがいい。治療場所の提供はしてもらうぞ」
男女が相談して男性が駆け出して行った。女性が病気の男女の元に案内してくれる。
〈病気よ無くなれ!健康になれ!〉
横になっていた男女が咳き込んで口から歯を吐き出した。あ、ラズと同じで虫歯だ。
女性が驚いた声を上げた!
「斑点が消えた!お義父さん!お義母さん!大丈夫!?」
「びょうきだけじゃなくて、じぇんしんちりょうしたかりゃむしばがでた。くちのにゃかをきりぇいにしてあげて?」
「病気だけでなく、全身を治療した。虫歯が口の中にあるだろうから綺麗にしてやってくれ」
「なんと、お礼を言ったらいいか……ありがとうございます!!」
「早く面倒を見てあげなさい」
「はい!」
この村、全体を浄化するように祈る。
古ぼけた家が綺麗になった。驚いた。浄化すると綺麗になるんだ。
「両親もじきに目を覚ますと思います。集会場に案内しますので、そこで治療をお願いします」
「わかった。案内してくれ」
目をキラキラさせた女性について行く。
村長の家の隣が集会場だった。ラズと抱っこされた私だけ椅子に座り、エレナとカイザーは立って護衛をしてくれる。女性は少し離れた場所に控えていた。いや、ござを敷いてくれているのか。喜捨を置く為に。
村人達が続々と来た。
喜捨を女性が受け取って、私が治療する。多分村人にはラズが治療してると思われてるだろうな。
治療したとたんに、虫歯を吐き出す人が多い。この世界では虫歯の治療が出来ないのかもしれない。
それより、村人の列が途切れない。何故だ?こんなに村人が病気にかかってたのか。あれ?さっき見たような顔の人がいる。あっ!もしかして全身治療してくれるから村人全員が来ちゃったのかも!あちゃー。寝るのが遅くなる。みんなに申し訳ない。
外が真っ暗になる頃に治療が終わった。喜捨は山盛りの野菜だ。収納にしまうと女性に驚かれた。案内されて村長宅に帰る。村長代理が私達の食事も作って待っていてくれた。
「今回はありがとうございました。これで村が救われました。あなた方を遣わしてくれた神様とあなた方にお礼を申し上げます」
村長代理が土下座で言ってくれた。汚れるから立ちなよ。
「立ちなさい。お礼は受け取りました。食事の用意をありがとうございます」
「いえいえ、こんな事しか出来ませんで。どうぞ召し上がってください」
いつもより少ない食事だが精一杯のおもてなしだろう。ありがたくいただく。
ラズにあーんされて食べる。よく煮込まれていて柔らかい。それに優しい味だ。
カイザーが付け合わせの野菜を食べようとしたら、弾かれたようにフォークを落とした。悪意を弾くはず。毒か!?
「どくでしゅ!」
「何!我らを害そうとしたか!?」
カイザーが剣を抜く。村長代理の夫妻は腰が抜けたように座りこんだ。索敵で2人を見る。青だ!多分、いい感情を抱いてくれている。
「まってくだしゃい!かいじゃー!しりゃにゃかったんでしゅ!きっと!」
「なんですと!?村長代理、すまん。驚かせた。だが、尊き御身を守る為に我等がおる。理解してくれるとありがたい」
「い、いえ、毒を混入させてしまった俺が悪いのです。どれが毒か教えてくれますか?」
カイザーが落とした料理を見る。赤い野菜が毒だ。
「あかいやしゃいでしゅ」
「赤い野菜だそうです」
「そんな!昔から村で食べられている山菜です。毒があったなんて!」
「明日、村人達に注意しなさい。食べないようにと」
「はい、そのようにします。あの、申し訳ありませんでした」
「いえ、しなくていい食事を用意してもてなしてくれたのです。ありがとうございます」
山菜の入った料理はさげられた。食事が少なくなってしまった。収納から鍋を取り出す。
「みんにゃでたべてくだしゃい」
「サチ様の気遣いです。ありがたくいただきましょう」
村長代理の夫妻が不思議そうに私を見てくる。たくさん喋っちゃったからね。幼児が長文話したら驚くか。
食事が終わり、鍋に残ったおかずを提供すると感謝された。部屋に案内してくれて、布団を敷いてくれる。
みんなでトイレに行ってから、私はおまるだけど、布団に横になったら、全身がかゆくなって眠れない。
「あーーー!!」
叫んで起きると、みんな跳ね上がるように起き上がった。
「サチ様!?どうされました!?」
「かゆくてねむりぇましぇん」
情けなく言うと、みんなホッとしたみたいだ。
「仕方ないです。仮宿とはそういうものです」
「がまんできましぇん。『おうち』をつくりましゅ」
旦那が生きていた頃に住んでいた家と、教会を合わせた家を想像する。ベッドは教会ぐらい大きいワイドキングサイズがいい。洗面所もいる。お風呂も男女で付いて温泉があったらなおいい。野宿する時も家があるといいから、空間魔法で内部を最大限に広げる。見ためは犬小屋でいい。いや、大人が入れないから高さだけ2メートルで、いきなり外に出て魔物に出くわしてもいけないから小屋から3mほど結界を広げて、ダイニング、リビング、キッチン、洗面所、洗濯場に男女別のお風呂、各人に寝室にベッド。ちょっと豪華な家の中。外敵は弾く。許可した人しか入れない。
〈いでよ!おうち!庭もついてるといいなぁ。〉
想像したとおりの犬小屋を縦に大きくしてドアがついている。
みんないきなり出てきた小屋?に驚いている。
「サチ様、これは何ですか?」
「おうちでしゅ。みんなはいりましゅ」
ドアを開けて、みんなを迎え入れる。
「あ、くつはにゅ、ぬ!い!で!くだしゃい」
そのまま入ろうとしたカイザーが慌てて靴を脱ぐ。玄関は思ったより広い。みんな入ったのでドアを閉める。
入ってすぐには礼拝堂がある。はて?礼拝堂はイメージしたかな?教会っぽくはイメージしたけど。ちゃんと8柱の大神像が並んでいた。礼拝堂の右は庭が広がっている。礼拝堂の奥に『ゆ』と書かれたのれんが男女わかれてある。お風呂だ!その隣にキッチンとダイニング、リビングが続いている。それを奥に行くと部屋の扉が並んでいる。
「へやをきめましゅ。みんにゃどこがいいでしゅか?」
「1番近い場所はサチ様がいいでしょう。私はその隣で」
「じゃあ、その前の部屋2つを私達で使わせてもらおう。それでいいかエレナ?」
「ええ、それでいいわ」
「おふりょにはいりましゅ。かりゃだがかゆいでしゅ」
「ここはサチ様の空間です。危険は無いでしょう。みんなで風呂に入りましょう」
「そうだな。エレナは1人で寂しいな?」
「サチ様!いつか一緒にお風呂に入りましょうね!」
「はい」
今日はラズと入るらしい。エレナと一緒に入るのもいいなぁ。




