イヴォークとアンジェリカの家
戦争の原因をラズに見せる。
ラズはサチの寿命が減ったことに憤りながらも、冷静に集まっている全員に現状を把握してもらう。
「ひゅーしゅとんおうじを、ぱらにゃりゃおうこくにょ、こくおうにわたしましゅ。こうしゃくは、りゅいとんおうこくにょ、こくおうにわたして、しょばつしてもりゃいましゅ」
サチの非情とも言える判断に護衛達は応えた。
「「「「はい!」」お供します!」」
農民のアンジェリカとイヴォークにとっては雲上人の話をされて、思わず涙も止まってしまうアンジェリカだった。
ここで、大事なことをカイザーが言う。
「昨日、サチ様が倒れてから俺等まともな食事をしてねぇんだわ。食事にしよう」
時間を忘れていたが、今は夜。夜食でいいかもしれない。
「だいにんぐに、いきましゅ」
「サチ様!肉!あったかい肉が食いてぇ!あとスープ!」
「はい」
サチが倒れて迷惑をかけたみたいだし、美味しい食事を出しますかね。
ダイニングのテーブルは6人掛けなので、もう1つ6人掛けのテーブルを引っ付けた。
そして、みんなの前に料理を出す。
サチ一行には、やわかいけどお腹に溜まるパンに牛肉ステーキとハンバーグ。スープは鶏肉の入ったシチュー。飲み物はお茶だけど、カイザーだけビールを出す。
イヴォークとアンジェリカは鶏肉の入った卵雑炊とシチューとお茶。お腹を壊すといけないからね。
「「「「あまねく神々に感謝を捧げます」」」」
「あまにぇく、かみがみに、かんしゃをしゃしゃげましゅ」
いきなり食前の祈りをし出した教会組にイヴォークとアンジェリカがギョッとして、食べようとした手を止めてしまった。
それに気がついた意外と柔軟なカイザーが言う。
「お前らも料理が温かいうちに食えよ。美味いぞー」
気軽にいわれて気が抜けたので、サチに「いただきます」と言って食べ出した。
パラナラ王国は作った人に感謝して食べるようだ。
本当は一般的に家長が席についてから食べる風習だ。
家長がこなければ、いつまでも食べられないとも言う。
王家も同じで、国王様が食事の席につかなければ食べられない。初めから来ないと分かっていれば、次に偉い人が席に座った時点で食べられる。
上下関係に厳しいのだ。
あ、教会は全世界共通で神様に祈りを捧げるからね。
昨日には考えられなかった豪華な料理を食べて、「満腹って幸せ」と考えている面々に、ラズに強制的に拉致されそうになったサチは慌ててラズを止めて、アンジェリカとイヴォークを部屋に案内する。
アンジェリカはラズの隣の部屋。将来的に結婚するのを見越して部屋を隣にしたのだ。
イヴォークは予定になかったので、シャーロの隣の部屋にした。
これで、もういいだろうと、ラズの部屋に拉致されたサチは薄水色の服に着替えてラズに抱き寄せられて眠った。
もちろんシンジュは出したけど、凄い勢いでアタックされたサチだった。ゴミをいっぱい出しておいた。
夜中にこっそりとアンジェリカが父の部屋に入っていったけどね。
ラズの結婚には、お互いまだまだ遠そうだ。
そんなあくる日、みんな安心したのか寝坊した。
朝9時だけどね。
サチの独断で餅が食べたくなったので雑煮に和食のおかず。おかわりは自由で。
本当はモチの名前を連呼していた時から食べたかったのだ。
サチの丈夫な歯で、伸びる餅を噛み切ってもっちもっちと食べる。サチ満足。
そして各々準備を終えて、イヴォークの部屋に集合!
今からイヴォークの部屋の中にイヴォークの家に繋がる扉をつけるのだ。
何故、アンジェリカの部屋じゃないって?
ラズと結婚する為に里心を少しでも残さない為のサチの策略だ。
イヴォークの部屋の壁にイヴォークが望む場所に繋がる扉を創造する。
それをラズが説明してから、慎重にイヴォークが扉を開けた。
「ミューナ!」
イヴォークが誰かの名前を呼んで飛び込んでいった。
続いてアンジェリカが扉を潜ろうとして、弾かれた。まだ、入れる人設定してないんだよ。
エレナが興奮するアンジェリカを落ち着けている間に、サチ一行が通れるように設定する。アンジェリカも含めて。
もう入れる!と分かった途端にアンジェリカが飛び込んで行った。
エレナが1番最初にイヴォークの家だと思われる部屋に入ってから、サチを呼んだ。
ので、ラズに抱っこされているサチだから、ラズ同伴で家の中にお邪魔する。
そこは、サチが今までで見てきた、どの家よりも小さくてボロくて、狭い部屋だった。
イヴォークがベッドと言えるのか、藁の中に寝かされた痩せた女性と会話している。
アンジェリカは10歳くらいの男の子を抱きしめて褒めていた。
「サチ様、アンジェに聞いたところ、母親が不治の病らしく治療が必要です」
「りゃず、がんばりゅ?」
一応、ラズの訓練になるかと思って聞いてみる。
「はい、やってみます」
気合いは充分のようだ。
エレナがイヴォークに声をかけて下がらせる。
そこにラズがエレナにサチを預けて、女性にかけられていた薄い布を取る。
すると、排泄の匂いがいした。お世話がちゃんとされていなかったのだろう。
ラズが女性の頭から順番に下に向かって手を当てていく。
女性の下腹部に手を当てて止まった。サチの目にはラズの癒やしの力が注ぎ込まれているのが見える。
ラズがポタリと額から汗を落とした。
サチはラズが汗をかくのを初めて見た気がする。
「さ、サチ様、私では未熟で、駄目でした。サチ様、治療をお願いします。下腹部に嫌な気配が集中しています」
ラズが下がったので、サチが飛んで、〈病気よ治れ!健康になれ!怪我も治れ!〉とスペシャル3連発をかました後に、もう一度ラズに見てもらった。サチの治療はいい加減なので。
女性の全身を見たラズが言った。
「やっぱりサチ様は凄いです。女性が健康になりました。病気が無くなってます」
それを聞いたイヴォークとアンジェリカが感動で泣き出した。
サチは『特殊な温泉の湯』を出して、エレナに女性に飲ませるように言った。
肌もとぅるんとぅるんになって、今よりもっと健康になるだろう。
エレナが飲ませて戻ってきたので、アンジェリカ家族全員に飲ませるように指示した。全員健康になるのだ!そして、とぅるんとぅるん。
アンジェリカの弟のお腹の鳴く音が聞こえた。
『特殊な温泉の湯』を飲んで胃が動き出したのだろう。
よく弟君を見ると骨のように痩せている。
イヴォークとアンジェリカに声をかけて、サチが出した卵雑炊を母親と弟君に食べさせるように指示する。
弟君は卵雑炊に目線が釘づけだ!食事に困っているのだろう。
食事を食べる部屋があるのか、アンジェリカが弟君を連れて移動している。
サチは家の中をもっと見たいので、アンジェリカについていく。
ラズ?疲れていてサチの後を追うのに体力を使っているよ。サチの抱っこまでは出来ないようだ。
あ、特殊な温泉の湯をエレナからもらって飲んでいる。サチのエキスなのに!
ハンカチで額の汗を拭って回復したラズは元気にサチを追いかけた。
小さな日本のちゃぶ台みたいな四角い机で、がっつくように弟君が卵雑炊を食べていた。熱くないのだろうか?
サチも座るが、よく床を見ると、踏み固めた地面だということがわかった。ここまで貧しいとは思っていなかった。
ラズは座るのを躊躇して立ったままだ。エレナも護衛で立ったままだけど。
米粒1つ残さずに食べた弟君はお姉ちゃんに礼を言っている。サチが出したと訂正しているけど。
不思議そうな顔をした弟君がサチの近くに来た。サチの手を握ってお礼を言ってくれた。
「いいでしゅよ。おにゃかいっぱいに、にりましゅた?」
何を言われたかわからないらしい。姉に助けを求めている。姉はエレナに助けを求めた。
「お腹いっぱいになったか?って聞いているのよ」
「お腹いっぱいになったよ!久しぶり!」
サチは安心して食器を片付けた。
それから、飛んで、ラズにキャッチされた。
「どこに行くのですか?サチ様?」
「いえにょしょとにいくにょ」
「お供します」
エレナがおうちからライデンを呼んだ。外に出るなら男手がいいだろうと。
サチはアンジェリカの家から外に出た。




