教会の厨房に肉を差し入れ
起きたら朝だった。
昨日、5の鐘は聞いたかなぁ?お風呂で聞こえなかったかもしれない。
お腹は空いてるかなぁ?わからないや。
もしかしたらこの体食べなくてもいいのかもしれない。
いや、食べるの好きだから食べるけどね。
「あ、サチ様、お早いお目覚めで。おはようございます」
「りゃず、おはようごじゃいましゅ」
顔を洗う水を持ってきてくれたみたいだ。いつもありがとうねぇ。贅沢に慣れそうだ。
顔を洗ったらすかさず拭く布を渡された。気遣いが染みるよ。
「サチ様、昨夜、男湯で不思議な事があったようです」
「えっ!にゃにかありましたか?」
「悪い事じゃないですよ。良い事です。聖騎士の古傷が治ったそうです。なんでも、お湯がほのかに金色に光っていたらしいです。もしかしたら、サチ様がお湯に浸かったからかもしれないですね。私も身体の調子が良いですし」
たしかに、私の身体もいい具合にほぐれてる。お風呂に入ったからじゃないの?いや、お風呂に入っただけで古傷は治らんか。じゃあなにか?私の出汁が出た風呂の湯だったから良かったのか?謎だ。出汁って。
「今日も1番風呂に入りましょうね。大司教様の伝達で今日は女湯に入ってほしいそうです」
女の私が女湯に入るのは良いけど、ラズは大丈夫か?女湯に入って来た女性とばったりきゃーな事にならないか?
「それでは朝食に参りましょうか。よろしいですか?」
「はい、いきましゅ」
靴を履かせてもらって、ラズの後ろに付いて飛んで行く。
教会内の人も大分、私に慣れたみたいだ。今は出会っても立礼で終わらせてくれる。私は「おはよう」と声を掛けて飛んで行く。
食堂でお誕生日席に座り、ラズを待つ。
教会の朝は穏やかだな。みんないい顔でごはんを食べている。
ラズが戻って来た。
今日は雑炊の卵とじのようだ。朝からお腹に優しそう。
ラズが熱いからふーふーしてくれる。気遣いが嬉しい。
あーんしてくれるかと思ったら、ラズがパクリと食べてしまった。ラズが「あっ!」って顔してる。だんだんと顔が赤くなる。
「申し訳ございません。新しい朝食を貰って参ります」
無意識に食べちゃったのか、ラズかわいい。
でも、ごはんはそのままでいい。
「りゃず、だいじょうぶでしゅ。しょのままたべましゅ。しょれとも、りゃずがたべましゅか?」
「いいえ、わ、私はもう、いただきましたので……申し訳ありません」
「だいじょうぶでしゅよ。りゃず。いつも、ありがとう」
「もったいない、お言葉です」
あーあ、ラズが落ち込んでしまった。勉強の時間にお腹に溜まる美味しいお菓子でも食べますかね。
◇◇◇
雑穀の卵とじを食べたら、礼拝堂に行く。今じゃ大司教様の隣で祈っている。私も出世したもんだ。ラズは隣にいる。
神様、この世界にも少しずつ慣れて来ました。今日も勉強を頑張ろうと思います。
お祈りを済ませたら、部屋に行き、先生が来るまでゴロゴロする。
その間にラズが雑事をしてくれる。
「サチ様、お着替えしませんか?もう、何日も同じ服を着られてますよね?」
「こにょ、ふくは、かみしゃまのとくべちゅしぇいに、にゃっていて、よごりぇましぇん」
「神様からいただいた服だから汚れないのですか?凄いですね」
心底感心したとばかりに頷いている。替えの服を準備してくれたのだろうか?それなら悪いことしちゃったな。もっと早くに言っておけば良かった。
「ふく、よういしてくりぇましたか?しゅみましぇん」
「いえ、孤児院に寄付すれば良いことですので、お気になさらずともよいですよ」
あっ!孤児院で思い出した!肉!
「いまかりゃ、ちゅうぼうにでかけましゅ」
「厨房ですか?ご案内します」
不思議そうな顔をしていたけど、案内してくれるそうだ。ありがたい。靴を履かせてくれる。もう、慣れた動作になってきた。ラズがいなきゃ生きていけなくなったらどうしよう。
食堂の隣が厨房だった。ラズが中の人に話を通してくれている。
「サチ様、どうぞ、お入りください」
「しつりぇいしましゅ。……みんにゃ、たちあがってくだしゃい」
「サチ様が立ち上がってくださいと申しております。立ってください」
中に入ると料理人達がみんな跪いていた。衛生的に悪いよ。みんな〈綺麗になぁれ〉と願う。うん、綺麗になった。立ち上がった人達は戸惑っている。
そうだ、用件を伝えないと。
「びっぐぼあのおにくを、わたしにきましゅた。何処にだしぇばいいでしゅか?」
「び、ビッグボアの肉ですか。ありがとうございます。この机の上に出していただければ」
「わかりましゅた」
収納からボアの肉を出していく。いくつ出せばいいのかな?山になってきたけど。
「いくつだしぇば、いいでしゅか?」
「も、もももも、もう、十分でございます!ありがとうございます!」
「「「ありがとうございます!」」」
「はい。いつもおいしいごはんを、ありがとうごじゃいましゅ」
「とんでもございません!食べていただけるだけで光栄でございます!」
「いしょがしいとこりょ、しつりぇいしましゅた」
「いえ!いつでもおいでくださいませ!」
何か、体育会系的なノリだった。元気いいなコックさん。
「りゃずも、ありがとう」
「当然のことです」
つんとしてそうで、おっちょこちょいなラズ。かわいいね。
部屋に戻りながら話す。
「りゃずは、にゃんしゃい?」
「21歳にございます」
「りゃずのかじょくは?」
「私は孤児なので、孤児院で一緒に育った仲間が家族ですかね」
だから、子供の世話が上手いんだ。でも、孤児かぁ。寂しかっただろうな。
「おひりゅかりゃ、こじいんにいきましゅ。おにくのしゃしいりぇでしゅ」
「そうですか。ありがとうございます」
完全に孤児院が実家の発言だ。実家が隣って良いのかも。
成人て15歳だよね。ラズは結婚適齢期じゃないのかな?
「りゃずは、けっこんしましゅか?」
「結婚ですか……懇意にしてる異性は居ないのでわかりませんね」
それはいけない!ラズが結婚しないなんて人類の損失だ!
「りゃずにめいじましゅ!やしゅみをとって、けっこんあいてをしゃがしてきてくだしゃい!」
「は?命令ですか?」
「しょうでしゅ!」
困ったって顔してる。ちょっと無理言ったかな?能力でラズの運命の相手を探せないかな?いや、探すんだ!ラズの運命の相手!
頭に、もやっと地図?が浮かんだ。現在地がここで、ラズの運命の相手がここ。
遠い!!場所が遠いぞ!創造神様!
「やっぱり、とりけしましゅ」
「はぁ、ありがとうございます」
ラズがホッとした。人の恋路に命令はいかんな。
だが、ラズの運命の相手を見つけたぞ!待っていろ!
◇◇◇
勉強の休憩時間。
ラズのためにフルーツたっぷりのタルトを出した。タルトを薄い包丁で切ってもらう。ふっふっふっ。まるごとホールで出したから、お代わりも自由。ラズよ食べたいだけ食べなさい。
「これは美味しいです!サチ様!」
「本当に美味しゅうございます」
「うん!おいしいにぇ」
フォークでぶっ刺すだけだから、ラズも自分が食べるのを優先してくれる。たまに口元を拭かれるけど。幼児は口が小さいんだよ。
「いやーサチ様の勉強係になれて良かったよ。美味しい物も食べれるし、ここじゃない世界の話も聞けるしね!」
「しぇんしぇーのべんきょうは、ためになりましゅ」
「そう言っていただけるとありがたいですね!」
黙々と食べると、最初は遠慮してたけど、ラズと先生でホールのタルトをたいらげてくれましたよ!お腹は満たされた?ラズ。