ザイデン家族、天空王国へようこそ! 5
夕方。
試食会は継続されていたが、参加者のお腹がいっぱいになってきてしまった。口から果物の汁が出そうである。
そして、暗くなると大臣と奥さん方が家に帰れなくなる。
しょうがないと試食会を中断して、明日また再度の値付けを約束して別れる事となった。
見本となって触られまくった果物達はザイデンがお土産に貰って帰れることとなり、マジックバッグに入れている。
お留守番した家族が喜ぶだろう。
大臣とザイデンは握手をして、明日の午前中のお腹が空いた頃にまた試食会をしましょうと約束して別れた。
予定の狂ったシンとメラニーは大臣に城の厨房への伝言を頼んだ。
「今日の納品は出来なくなりました。明日の朝、納品します」と。
シンとメラニーも暇ではないのだ。明日また、予定外の試食会があるし。
サチはスナーに乗って帰って行く大臣達を見送った後、ザイデン家族を瞬間移動で家、いや、屋敷に送り届けた。
「あっという間ですね。サチ様ありがとうございました。また、明日もよろしくお願いします」
屋敷の玄関前に送り届けられたザイデン、エリー、サンティは、飛んでいるサチを見てお礼と明日の約束をした。
「わかりましゅた。またあしたきましゅね」
サチはバイバイと手を振って消えた。
いつ見ても見事な消えっぷりだ。
「帰られたよ」
ザイデンは気の抜けた声を出した。
今まで気を張っていたのだ。
そして、エリーとサンティを抱き寄せた。
「2人共、今日はありがとう。立派な態度だったよ」
「あなた……」
「父さん」
3人は、リー商会の代表から、普通の家族に戻った。
ザイデンが「明日も行くかい?」と聞くと、「服装は変えるけど行く」と言う応えに、3人で笑った。
まさか、一国の王より立派な格好をしてしまい困惑していたのだ。
エリーも王妃様の格好が普通の町人みたいで困った。
サンティはいい経験をしたと思った。いろんな人がいると。
「明日は普通の格好で行こうな」と屋敷の中に入った。
その夜、大旦那様と大奥様とムエルナが果物に大喜びしたのは言うまでもなかったかもしれない。
サチは瞬間移動で果物畑に戻って来たら、ラズにお説教された。「1人で行ってはいけません!」と。
そうなのだ。ザイデン達3人をサチは1人で瞬間移動して送り届けて来たのだ。
置いて行かれた、エレナ、カイザー、ライデンは、「まただよ」と少し諦めモードだった。最近存在感が薄いかもしれない。
ラズだけ心が燃えていた。
そして、帰って来たサチを抱っこして離さない。
「しりょにょへやに、かえりましゅ」
「全員で、ですよ?」
ラズは嫌味ではなく本気で言った。言葉に力が入っていた気がしなくもない。
「はい」
返事をした後に全員で瞬間移動した。
そして、サチはおうちを出して飛んで中に入ろうとしたら、飛べずに困惑したサチだった。
「りゃず、おうちのにゃかにいきましゅ」
「おうちのどこですか?」
「おふりょでしゅ」
「お風呂ですね。一緒に入りましょう」
そして、スタスタとおうちの中に入って行った。
エレナとカイザーは顔を見合わせて、小さく笑った。「ラズの病気が出たぞ」と。
その病の名は『サチ様構いたい病』である。
旅に出てからこっそりと2人で病の名前をつけていたのだ。
お腹いっぱいの護衛3人もお風呂に入ることにした。夕飯はお腹に入りそうも無い。
果物が口から出て来そうなもので。
ラズは少し困惑しているサチの服を脱がせたら、素早く自分の服を脱いで、サチを抱っこして洗い場まで行った。
神官の服は少し面倒くさいのに。慣れ、かな?
サチを適温の湯で、丁寧に綺麗に洗った後、サチと2人でいる空間に満足して機嫌よく自分を洗うラズ。
そこにカイザーとライデンが入ってきた。
気にせずに洗い終わったラズはサチの浸かる湯船に入った。
サチを近くに寄せて翼を撫でる。
最近のサチは自分で飛んで移動する事が多いので、ラズは心の中でもやもやしていたのだ。
だから、手の届く所にサチがいると安心する。
ラズは憎くも可愛いサチの翼に頬擦りした。ふわふわだ。
「りゃず、にぇこりょびゆに、いきましゅ」
「はい」
サチは寝転び湯に入りたいらしい。
コロコロするサチもかわいいだろうなと思いながら、サチを抱っこして移動するのだった。
そして、寝転び湯で寝そうになったサチを救出して、お風呂を後にした。
寝ぼけから回復したサチは、試食会をしなかったラズと2人、ダイニングで和食を食べていた。
風呂上がりにカウの乳を飲んでまったりとソファに座っていたところ、護衛達はお腹がいっぱいで食事が出来ないといったので、ラズと2人きりなのだ。
ラズは旅に出てから、ずっと我慢していた事がある。
それは、教会に居た頃のようにサチに料理を『あーん』したいのである。
だから、2人のこの機会に自分の食事を早く食べて、サチに構いたいのだ。
そんな野望を知らないサチは、のんびりと食事をしていた。
小さいお口でもぐもぐと。
うん、やっぱり和食は落ち着く。刺身が美味しい。
サチのお口はワサビだってへっちゃらだ。嗜好が変わったりもしていない。
醤油で唇が汚れているけども。
その、汚れているお口を綺麗にしたいラズが食事を終えた。
サチの自動で動くカトラリーをハシッ!と掴む。
そしてサチの真横に椅子を寄せた。
サチの為のご飯をカトラリーですくい、サチの小さなお口にツンと触れた。反射で口を開くサチ。ご飯がお口の中に入った。
???と頭にクエスチョンを浮かべて、お口をもぐもぐするサチ。
ラズが次の料理を構えて待っている。
ラズの顔をチラリと伺うと、何故か珍しく満面の笑みでサチを見ていた。
これはとても珍しい。
最近、と、言うより、旅にでる前からラズは少し微笑みながらサチを見るけれど、満面の笑みはとーっても珍しいのだ。
サチがラズに問いかけようと口を開くと刺身が口の中に入ってきた。
また、もぐもぐと食べる。
料理に罪はない。美味しいモノは美味しい。
サチは味わうことに専念した。
その顔は目を閉じて、うっとりとしている。
ラズの心も満たされる。
ああ、いつもサチと2人きりの食事だったらいいのに……。
この可愛い存在に胸をきゅんきゅんさせながら、ラズは考えるのだ。
無理だとわかっていても。
そうだ!今日はサチをラズの部屋に招待して、一緒に寝よう!
良い事を思いついて、更ににっこりとするラズだった。
サチはマグロが美味しすぎて、ジンッとした。震えではなかったと思いたい。
そして、口を開くとブリが入ってくる。脂がのっていて美味しい。
また、ジンッと感動した。
それを見ている人は誰もいなかった。
食事を終えて、サチが食器を片付けたら、素早くラズに拉致られたサチがいたとかいなかったとか。
いたよ?
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