ザイデン家族、天空王国へようこそ! 4 水石は凄いんです!
そして、果物畑に着いた。
ザイデン家族にとっては初めての天空王国の土地を眺めながら車で走って、観光気分で着いた場所は果物畑。ほのかに甘い匂いを漂わせている果物畑に、午前中に食べた果物を思い出させて唾液が滲んでくる。
魔物がいない安全の地。果物はたわわに実っている。
エリーにとっては完全に旅行気分だ。
とりあえず、この果物畑の管理人のシンを探しに大臣達が自宅と倉庫に探しに行った。
若夫妻のシンとメラニーは、お手伝い、というか、雇われの奥様達と倉庫で午前中に収穫した果物の仕分けをしていた。
結婚して果物畑を管理するようになって毎日が忙しい夫婦である。
だが、その顔は満たされていた。
業務は、数えきれないほどある果物の種類を把握して、毎日、数種類の果物を適当量収穫して、夕方にお城に配達するだけである。
果物畑の天空王国での知名度は口コミで広がるのみなので、普通の家庭の人が買いたいと言って来たら、銅貨1枚貰って「適当に収穫して持って行って」と言うだけである。
何故って?
まず第一に人が足りない。
第二に、果物の価格が決まっていない。
第三に、これが一番重要かもしれない。
サチが天空王国の土地に、死の大地に合わせて品種改良をした果物なので、毎日、果物が復活するのである。気候関係なしに。
前日に果物を全部取って坊主になった木が次の日には、また、たわわに果物が実っているのである。魔法の木だ。ミラクルである。
なので、お世話と言えば、果物を収穫する。果樹に水をまく。収穫した果物を仕分けしてお城に届ける。たまに来る近所の人に果物を売る。銅貨1枚取り放題で。これだけである。
それでは、倉庫で大臣がシンとメラニーを見つけたところまで遡ろう。
大臣はシンとメラニーにザイデン家族の3人を紹介した。
果物畑は国営だ。シンとメラニーのお給料は国から出ている。すなわち上司は農業大臣。
いきなり上司が来て緊張しちゃう!
なんて事は無い。
天空王国の国民性に『性格が穏やか』というものがある。まあ、大多数がそうであって違う人もいるのだが。
でも、上司が来たら「ようこそ〜」と迎えて、「まぁまぁ、お水の一杯でも飲んで休憩して行ってください」という感じである。
お茶はお城での贅沢品であって、農家では一般的ではない。
これは国王と神だけが知る常識なのだが、水石から出る『水』には人が1日を生活出来る最低限の栄養が含まれている。人は『水』と『塩』と『食物』が無ければ生きていけない。天空王国の始まりの人が生きていく為に必要だったので水の神が誕生し、作物が取れない時期を水石から出る水だけで生きたこともある。
この歴史は国王の日報に記載されている。
ので、水だけでもすごく美味しくて、身体が満たされる感じがある。何しろ神様が作った水だからね!
なので、シンとメラニーが驚いたのは『地上人』と『煌びやかな服』にである。
「はぁー、地上人は凄いんだな」と思った。
そして大臣がシンとメラニーに果物の値付けを今からすると言って、困ったのはシンとメラニーである。
手元にその果物が無い。
地球の果物なので鑑定しても名前が出てこない。
なので、シンとメラニーが、どうやって果物畑を管理しているのかというと、区画ごとに区切ってそこに「こんな色のこんな味の果物が収穫出来る」とメモしているだけである。
サチ、痛恨のミスである。
アラタカラの鑑定で出るように創った時に『名付け』をしなければいけなかった。
サチは挽回する為に「サチ検索」で急いで調べた。
そして、出て来た!天空王国で収穫出来る果物一覧!
これがあればサチの能力で現物が創造出来る。
サチがラズに説明して、ラズから大臣とシンとザイデンに伝わって、果物の試食会が開かれる事となった。
だって、食べなければ値付けのしようが無いからね。
サチが果物の木を生やした時に知っているもの、サチサイトやサチ検索で調べた果物が季節・気候関係なく実っている。
中には販売に向かない「桑の実」なども実っているので、サチがいかに手当たり次第に植えたのか分かろうというものだ。
桑の実はジャムにすると美味しいんだけどね。手間が物凄いかかるけど。口の中が紫色になるけど。
そして何故か「グミの実」まで実っている。誰が収穫するんだろうね?子供のおやつだよ。
てな訳で、試食会にはなるべく多くの意見が必要との事で、地上代表はサチとラズ以外の6人全員!天空王国代表は大臣2人とシンとメラニーと手伝いの奥さん2人で行う事になった。
大変だー!大人数だー!
と言う事で、サチは慌てて【天空王国果物冊子】を造った。
【天空王国果物冊子】とは?
果物がカラープリントで写真のように現物を載せてあり、果物の名前と地球の一般的な味の品評などが載っている。
これを4冊創造した。ついでにペンも。
サチとザイデンと大臣とシン用である。
わかりやすい。解説しやすい。そして一瞬で名付けが完了した。
アラタカラに地球の果物が定着した瞬間である。
これを見ながら試食して、冊子の空欄に値段を書いていけば確実に取り引き出来るはずである。
サチは冊子を見ながら順番に果物を創造し、試食しないラズとお手伝いの奥さん2人は果物のカットを担当することになった。
膨大な数があるので、試食するのは各果物一口だけ。(お腹がいっぱいで食べられなくなっちゃうからね)
それで議論を交わしながら値付けする。完璧だ!
ラズと奥さん2人!頑張って果物をカットしてくれ!
1つ目!桃!
「う〜ん、高級な味がする」
「甘い!とろける!」
「美味しい!」
果物の味は上々だ!そして、議論!実際の果物1個の重さや大きさ、柔らかさ、取り扱いのしやすさ難しさを総合して値段を決める!卸値と一般販売額だ!
そして、ここで問題が発生した!思いもよらない問題だ!
天空王国組。
「これだと1リンかな?」農業大臣。
「ふむ、2リンでもいけるかもしれない」財政管理大臣。
「私は1リンの方が買いやすいわ」お手伝いの奥さん。
そんな馬鹿な!!
という顔で天空王国の試食組を一斉に見る地上組!
「いやいや、これは銀貨1枚でしょう!?」ザイデン。
「いや、大銅貨1枚で」エレナ。
「いや、それは安すぎる。大銅貨5枚だ」ライデン。
「う〜ん、一般価格で銀貨1枚ね」エリー。
1リン=10円
大銅貨1枚=1000円
大銅貨5枚=5000円
銀貨1枚=10000円
お分かりだろうか?
天空王国と地上の物価の違いを。
およそ100倍!それ以上もある!これは誤算だ!
天空王国の物価に合わせたら、ザイデンが儲けすぎてウハウハである。罪悪感を抱くだろうが。
そして、地上の物価に合わせたら天空王国で気軽に買えない値段になる。そこに、食べれる果物があるのに!
意見は割れた!
ザイデンが真面目に大臣に説明する。
リー商会は誠実がモットーだ。
生産者も納得する値段で買い取り、損をしない適正価格で販売し、消費者から信頼を得る。
アコギな商売はしないのだ!
農業大臣も財政管理大臣もザイデンに訴える。
天空王国の一般人の平均月収を!
天空人が買える現実的な果物の値段を!
地上の金額にしたら天空人が果物を買えない現実を!
ザイデンも大臣もお互いの主張を理解したが、相入れないものがそこにはあった。
常識の違い。
意見は膠着状態になったかのように見えた……。
が、サチがラズに耳打ちする。
ラズが理解の色を示して、試食組に向き直る。
「ザイデンさん、果物の収穫し放題で月に一定の金額を国に納めるのでいいのでは?」
ザイデンは頭がいい!理解した!
「大臣、まずは、果物の地上価格を決めて、天空王国での販売価格と分けて考えれば良いのではないですか?」
大臣達2人は理解出来ない。クエスチョンである。
「そうですね。このモモを地上への卸値では100リンと決めます。そして、天空王国の国民が買う値段は1リンにするのです。どうでしょう?これは例えですが。その上で私共のリー商会が果物を1月収穫し放題で、んー、大金貨1枚とします。例え、ですからね?どうですか?」
理解した大臣2人。慌てた!
「そ、それでは、ザイデンさんが損をしてしまいます!駄目です!」
農業大臣が声を上擦らせて言った。
財政管理大臣も慌てる心があったが、頭の冷静な部分が「美味しい提案だ!」と悪魔の囁きをする。
ここで第三者だ!ラズ!いけ!
「落ち着いて下さい。まずは、地上価格と天空価格を決めたらいいと思います。それから、地上と天空での意見のすり合わせを提案します!そうしないと試食会が終わりません!」
最後に本音が出たー!
しぶしぶという雰囲気ではあったが、ラズの意見に反対は出なかった。
地上組は地上組で価格を決め始めた。
天空王国も奥さん方の意見を参考に決め始めた。
うん、順調だ。