ザイデン家族、天空王国へようこそ! 1
ザイデン達と別れたサチ達は明日の為に早めに就寝した。
寝起きはぽけぽけしたサチだったが、朝食を食べたらシャキッとしてザイデンの家まで瞬間移動した。
玄関前では門番の1人が待機していて、取り次ぎを頼まなくても家の中に入れてくれた。
ザイデンの同行者は、サンティとエリーの親子3人だった。
昨日、ラズが天空王国の国王様に挨拶をしてもらいますと言ったから、夫婦同伴になったらしかった。
リー家は、いつも綺麗な服を着ているけれど、今日の服はパーティ一歩手前の少し豪華な見栄えの服を着ている。
これは、一国の国主に会う為の魅せる服だ。気合いが入っている。
比べて、サチ達教会組は旅装以外はいつも同じデザインの服を着ているから気軽かもしれない。それが正装なのだから。あ、騎士の正装は別にあった。
騎士は、旅装・警備服・正装だ。
今の騎士達は警備服だ。
「じゅんびは、いいでしゅか?」
ザイデンが答える。
「はい。このマジックバッグに全部入っています」
ザイデンがサチから以前に購入したマジックバッグを掲げて見せた。
サチがうむ、と偉そうに小さく頷いた。
「しょりぇでは、いどうしましゅ」
瞬間移動する前に一言言えるだけサチも成長したのかもしれない。
そして、天空王国のお城の前に、瞬間移動した。
お城を見た方が天空王国に来た実感が湧くだろうと思って。
お城の正面入り口から500mほど離れた位置に。
だって朝から出入りする人の邪魔になったらいけないからね。
ザイデンは仕事で中央都市に支店を構えている都合で神聖教国の宮殿を見たことがある。
なんと、真っ白で大きく優美な宮殿かとうっとりとした覚えがある。自身のいる国が誇らしく思えたものだ。
だが、目の前の城は規模が違う。
大きく無骨ながらも巨大で、歴史を感じさせる城だ。
ただただ圧倒される。
ザイデン達家族は、正気に戻るのに5分ほど時間を要した。
ザイデン一家が正気に戻った所でラズが言い聞かせる。
「地上人は決して天空人に言ってはいけない事があります。それは『浮遊石』と『水石』を欲しいと言ってはいけないということです。
天空王国には、小神が3柱いらっしゃいます。実際に目撃いたしました。その神は、天空の神・水の神・守りの神です。今現在も天空王国を守っておいでです。神像がありますので礼拝堂でお祈りしてみるのも良いでしょう」
ザイデンは若干震えていた。
伝説の浮遊大陸は小神に守られている。だからこそ存在を許されているのだ!
「見てください。城の入り口に飛んで入っていく人々を。あれは浮遊石が埋め込まれたスナーと言う乗り物です。我々地上人には貸し出しさえしてくれません。欲しいと言ってはいけませんよ。
水石は天空王国の全ての水の源です。憶測ですが、水石を天空王国から持ち出すとどうなるかは神のお心次第、といったところでしょう」
ザイデンは決して愚鈍ではない。
商会を率いてきたのだから、頭は良い方だ。
「サンティ、聞いたか?国が変われば常識が変わる。それに合わせてこそ生き残れるのだ。間違ってはいけないぞ」
サンティも未熟だが、馬鹿じゃない。
「はい、商会長。心に刻んでおきます」
サンティ、仕事モードだ。
「それでは皆さん行きますよ。遠くないですけど、疲れたら言ってください」
一行は歩き出した。サチだけ飛んでいるが。
エリーが若干歩きづらそうだ。仕方ない。足のシルエットがわかるデザインだからだ。
まあ、城の入り口まで500m。
そこから国王の部屋まで中央の階段を登ってすぐ。
ちょっと新セグウェイに乗ってたせいで距離感覚がおかしくなってる気はするけど。多分遠くない、はず。
一行は歩き続けた。黙々と。
いや、エレナがエリーを気遣って話しかけて気を紛らしている。気がきく女だ。
それに、カイザーも大人しくしている性分じゃないからサンティと話しをして歩いている。年齢が近い事もあるかもしれない。
サンティは使徒様の御付きの聖騎士と話せる事が嬉しくて仕方がないようだ。
ザイデンも空気を読んで、ラズに話しかけている。情報収集だ。
商人は情報が命なので。
まさか、天空王国の国王様自らがお茶を入れてくれるほど気さくな方だとは思ってもいないザイデン一家だった。
話していると時間を忘れてしまうのは人のサガかもしれない。
あっ!というまではないけれど、体感的に早く国王の部屋に着いたのは確かだ。
ザイデン一家の顔が固くなる。
そこをラズがノックして、返事が無いのはわかっているので扉を開けた。
そこにサチが飛び込む!
ある事を懸念したからだ。
「おーしゃま!おはようごじゃいましゅ!」
「おー、サチ様。おはようございます。ソファに座っていてください。今、お茶を入れ……え?え?何ですか?」
懸念したとおりだ。
サチ達が来たら国王様がお茶を入れに行くと思った。
サチは国王様の後ろからアタックして、ソファに誘導する。
ザイデン達がおめかしして来ているのに、国王様に威厳が無ければガッカリすること請け合いだ。
サチに続いて入って来た一行のザイデン達にラズが国王様を紹介する。
「こちらに座られている方が天空王国の国王様です。ザイデンさん、挨拶をお願いします」
ザイデン、エリー、サンティは、教育された通りに上位者に御目通りする為に礼を取った。
驚いたのは国王様だ!
何々?この人達、誰?である。
だって、見たこともない綺麗な格好しているし!
「お初にお目にかかります。神聖教国にリー商会を構える商会長のザイデン・リーと申します。お会いできました事、光栄に存じます。一緒に居りますは妻のエリー・リーと息子のサンティ・リーにございます。
創造神の使徒様のサチ・スメラギ様の紹介にて、果物の取り引きを任されました事誠に行幸にございます。末永くお取引きが続く事を願って、挨拶とさせていただきます」
国王様、面食らっちゃった。
雰囲気に呑まれたとも言う。
執務室がシーン、とした。
大臣達も驚いていたのだ。
こんなにかしこまった挨拶、聞いた事も無い。
ここは、国王様と国民の垣根が低い天空王国。
飛び込んで来たザイデン一家は当たり前の挨拶をしただけだけど、最上級の言葉遣いを出来る商人だった。
一方、我らが天空王国・国王様。
教育は先代から受けたけども、由緒も正しいけども、庶民派国王様。
ザイデンが言った事は何となくわかったけれど、何と声をかければ良いのかわからなかった。
ここで、ラズが動く。
サチ様の為にはスムーズにお取引きをまとめなければならない。
つつがなく進行するのは当然なのだ。
「ザイデンさん達、国王様の向かいのソファに座ってください。国王様は皆さんを歓迎しております。
ね?国王様?」
国王様も今、動くべきだと空気を読んだ。
「あ、ああ、座ってくれ。果物を買ってくれるのだろう?ありがたいことだ」
ザイデンは国王様の御尊顔を正面から拝見することは失礼にあたるので、斜め下を向いたまま流れるようにソファに座った。
エリーもそれに付き従い、サンティも倣った。
正面に居るのに目が合わない事実に国王様は困惑した。こんなの初めて。
ラズがザイデン達に聞こえないように国王様の耳元で囁く。
「国王様、顔を上げるように言ってください」
「顔を上げてくれ」
そこでザイデン達は、初めて国王様を見た。
あれ?あれれ?と目を疑う。
服が村人だ。偉そうにも見えない。
むしろ、優しそうなおっちゃんだ。
自分達の方がよほど豪華な服を着ている。
ザイデン達の頭の中は少し混乱したが、国主の前である。失礼な事は出来ない。服装を貶める発言はするべきでは無い。
ここで、この場にいつのまにかいなかったサチが登場した!王妃様を連れて!
「おうひしゃまでしゅ!」
エリーさんの相手は王妃様!と、独断でサチが連れて来た。
ザイデン達が一斉に立ち上がる。
そして、礼を取った。
王妃様、え?何事?である。
王妃である以外に普通の奥さんである。
料理も洗濯もしないが。
子育ては、している。
ラズが王妃様の耳元で囁く。
「座るように言ってください」
「みなさん、すわってください」
王妃様、言わされた感がいっぱいである。
ザイデン達が座るが、また、視線が斜め下である。
ラズ、また王妃様に囁く。
「顔を上げるように言ってください」
「かおをあげてください」
ザイデン達が顔を上げる。
サチに背中を押された王妃様が国王様の隣に座る。
エリーさんの前だ!
ラズは素早くサチをキャッチして、王妃様とは反対の国王様の隣に座った。
6人掛けソファである。
普段は国王様が部屋の奥に家族と昼食を取っているので、大臣達6人で座る為のソファ席である。
サチ達一行もザイデンも応接の為の席だと思っているが、大臣達の席である!
そんなこんなで、謁見?交渉?が、始まった。