サチとじいの出会い
サチが『お菓子の家』を配ったのは、天空王国の駄々っ子末っ子ちゃんの為に造った1つと、タニエ村の村長宅に1つ。それと芸術品のような『お菓子の家』をモルート教会の枢機卿アイザック・カムペトリーに1つ。
哀れ、教皇様はサチの中では優先度が低いようだ。あんなにお世話したのに。
きっとサチが渡したら国宝とかに認定されただろうが。
だが、神力が手に入るなら年月を経て時の権力者に悪用されたかもしれないから、これでよかったのかもしれない。
まあ、とりあえずサチは天空王国の滞在費の代わりに、肉と布とマジックバッグと果物と家畜を提供?したので、堂々と(今までも潜んでなかったけど)天空王国に滞在できる。
さて、サチは朝食を食べておうちのリビングのソファに座ってまったりとしている。急ぐことも無いしね。隣にはラズが座っている。
サチは頭の中にマップを展開して、天空王国と目的地の西の小国・パラナラ王国までの距離を確認した。
天空王国の浮遊島?浮遊大陸?自体の速度は空を飛んでいるから障害物は無いし、魔物の襲撃も無いから速い。
あと、7〜10日くらいで目的地の近くまで飛んで運んでくれそうだ。
「サチ様、今日は何かなさりますか?」
ラズがサチに問いかける。
手にはアイスコーヒー。某ゴルフ場の至高の一杯だ。サチはこれ以上に美味しいアイスコーヒーを飲んだ事はない。
もちろんサチの手にも至高のアイスコーヒーミニ。似非1歳児だから飲んでもいいのだ。多分。多分……ね?
サチはストローからコーヒーを飲む。
至福……。
もう、何もやりたくない……。
でもね、天空王国を満喫したかと言うと、全然してない。
天空王国は広大だ。
その領土のほとんどが農地として使われている。でもサチはそれを知らない。
サチは地上ではお目にかかれない天空王国を満喫したいと思っている。
ちゅるり、ずーっ。
サチはアイスコーヒーを飲み干した。
しばし、余韻に浸ってから、ラズに返事をした。
「てんくうおーこくにょ、かんこーをしましゅ!」
最後は気合いを入れた!だってリビングの居心地が良くて、動きたくなくなりそうだから。
サチからの返事を根気よく待ったラズが返事をする。
「そうですか、護衛はどうしますか?全員で行きますか?」
「みんにゃでかんこーしましゅ!」
仲間はずれはいけないのだ。
そういう訳で、お城の前にサチ親衛隊のバイク部隊集結!
と、いうかみんなでバイクに乗って観光するだけね。
あ、サチは飛ぶ。というか、先導する。
さて、360°回転して見る。
平坦な農地、農地、農地、農地、農地……?
本当に観光する所があるの?
サチは飛びながら回転して、ピタッと止まった。
そして、視線を定めて小さな手で指差した!
「こっちでしゅ!こっちにいきましゅ!」
「「「「はい!」」」サチ様!」
みんなの意見はまとまった!いざ参らん!
サチが一直線に飛び出したら、それを追いかけるバイク集団!サチ暴走族だ!ぱるぱる!!(しかし皆教会の服装)白服集団だ!ちょっとだけ怪しいかも。
サチは生暖かい空気を楽しみながら飛ぶ。
どこまでも、どこまでも広がる農地……。
この世界に来てからは見た事のない風景が広がっている。
何かあるのもいいけど、何にもないような穏やかな景色は心が洗われるようだ。
サチは知らず知らずのうちに高度が上がっていた。
それを上方を見てバイクを走らせる集団はヘルメットもかぶっているせいか首に負担がかかっている!
サチは上空をアクロバット飛行をしながら、楽しんで飛んでいた。小さな身体はコロコロと回転しながら飛ぶ。
目が回らないから楽しくてしょうがない。
ポツンとある、少し大きめの民家を見つけた。寄って行くのもいいだろう。原住民との交流だ!
「おーーー!」
サチが一直線に高度を下げておりていく。バイク集団の首も下がる。
「ぉーーーぃ!」
その声はどこからか聞こえた。
家の周りで遊んでいた子供達のスナーの練習をしていた一番年上のリーザが気がついた。
リーザは8歳の子供だけど、弟妹や従兄弟はもっと小さい。
リーザはスナーを止めた。考え事をしながらスナーに乗る危なさを知っているので停止したのだ。
「ぉーーーぃぇーー」
「やっぱり聞こえる」
リーザがキョロキョロと辺りを見回すと、近くにいた弟妹や従兄弟も止まる。
「ねーちゃん?どうしたの?スナーしようよ!」
「ちょっと待っててね」
近くに寄って来た、やんちゃ盛りの妹をあしらう。
他の子も「どうしたの?」「なになに?」と集まってくる。
ぶぅーーーん。
と、音が近づいてくる。こんな事、初めてだ。
リーザは責任感の強い子供だったが、天空王国特有の危機感の無い農家の子供だった。
「にゃにしてりゅにょーーー?」
上から聞こえた声に顔を上げれば、小さな子供が飛んでいる!?
リーザは家畜の鳥が飛ぶらしいと言うのは聞いていたが見たことは無い。全部の鳥が飛ばないように羽を切られていたからだ。
そして、人が自力で飛ぶのを初めて見た!
それから、ちょっと離れた場所から、こちらに歩いてくる白い人達を見て、狼狽えた。
天空王国は滅多に強い風は吹かないが、そよ風は吹く。
白い服など着ていたら土埃や垢が服について土色や黄ばみが取れなくなるので染色して色を誤魔化している事実がある。
石鹸は自然由来のものしか無い。洗浄力に期待してはいけないのだ。
以上のことから、白い服=高貴な人と言う図式が成り立つ。
教会も権威付けとして白い服を着ているから、そういう側面があるのも否定しない。
だが、たまたま天空王国と地上の認識が重なった瞬間である。
「きゃあ!みんな!家に入って!早く!」
リーザは生きてきた人生初めての混乱した頭で、客に失礼があってはならないと弟妹と従兄弟達を家に入れようと、少し乱暴に行動してしまった。
その中の1人の妹・ミラがスナーに躓いて転んでしまった。
「っ!う、う、う、あ〜ん!」
泣いた4歳の妹の方をリーザが向いた所で、横に子供が降り立った。
「どうしたにょ?あ、ちがででりゅ」
この頃、よく喋るようになった小さな従兄弟のような話し方をする幼子だ。
リーザが幼子に気を向けている間に、ミラがこけた時に地面に手をついて擦りむいて血が滲んでいたのをサチが能力で治した。
まだ「いたぃえーん」と泣いているミラにサチが声をかける。
「にゃおったよ」
サチを見つめていたリーザはミラの手を見る。血が滲んでいたのに綺麗だ。
「ミラ、ミ〜ラ!泣き止んで!手が治ってるよ!」
リーザは事実だけを言い聞かせた。そして、辺りを見回したら、白い集団に囲まれていた。
「ひっ!」
思わず、引き攣った声が出てしまった。ミラをぎゅっと抱きしめる。
「どうしたね?どちらさんですか?」
「おじいちゃん!」
リーザは助けが来てホッとした。玄関先でスナーの練習をしていたので、おじいちゃんがすぐに外に出てきてくれたらしい。
おじいちゃんは最近、足が痛くて畑にあまり出ないようにしていたのだ。
白い綺麗な服を着た人がおじいちゃんに挨拶する。
「はじめまして。お城でお世話になっています、ラズと申します。ここに来たのは我が主のサチ様が気が向いて来たとしか言いようがないのですが……」
おじいちゃんが呟く。
「白い服……神官、様、ですか、な?」
「そうです。神官です。あ、サチ様、こっちに来てください」
サチは呼ばれたので、てけてけと歩いて……転んだ。
ラズが起き上がらせて抱っこする。
「こちらが主のサチ様です」
「こんにちわー、さちでしゅ」
おじいちゃんの顔が孫を見る目に変わった。
「サチちゃんな。わしのことはじいと呼べばいい」
「じい」
サチとじいの中で何かが繋がった。……ような気がした。
「ここでは、なんです。家に入ってください。お話も聞きたいですからね」
サチ達は畑の中にポツンと佇む大きな古い家に招かれた。
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