サチ達に声を掛けたのはザイデン・リー
サチ達に声を掛けた馬車が止まった。
馬車から人が降りてくる。
「こんにちは、教会の方々。呼び止めて申し訳ございません。私はエレイザーで商会の主をしておりますザイデン・リーと申します。早速ですが、貴方がたが乗っているその走る物は何か教えて頂けますか?売っている場所、お店も教えていただきたいのですが」
私達は顔を見合わせる。とりあえず悪意があるか無いか知りたい、と思ったらザイデンさんが輝いて見えた。悪意は無いって事でいいんだよね?
「こりぇはばいくでしゅ。わたちがつくりましゅた」
「えっ?こちらのお子さんは?」
「サチ様は私達の主です。創造神様の使徒様です」
これには馬車の人々も驚いたようだ。皆、馬車から降りて跪き祈ってきた。ここはまだ神聖教国だ。信心深い人が多い。
「これは失礼をいたしました!使徒様!お会いできて光栄です!」
「光栄です!」
「何という偶然か!」
「ザイデン様のおかげ!」
「お小さい」
「可愛い」
ザイデンの旅仲間達がボソボソと私の話をする。否定的な意見は無いようだ。
「だいじょうぶでしゅよ。りゃくにしてくだしゃい」
「皆、楽にしてくださいとサチ様が申されています」
1人1人と立ち上がっていく。ザイデンはまだ跪いたままだ。
「使徒様に失礼申し上げます。そちらの乗り物は神の乗り物でしょうか?」
「ちがいましゅよ」
ザイデンがホッとした顔をした。だが、目がギラついている。油断ならない顔だ。
「使徒様に申し上げます。我らの街はここから4時間程の場所です。一緒に来ていただけないでしょうか?」
「にゃんででしゅか?」
サチの噛んだ言葉に場が和む。だが、和んでばかりいられないのがザイデンだ。
「使徒様がお乗りの物に興味があるのです。在庫などがあれば売っていただきたく存じます」
「むー、いいでしゅよ。しょうぎょうぎりゅどで、にぇだんをつけてもりゃってかりゃでしゅが」
「それで構いません。それでは一緒に来て頂けますか?」
「いっしょにいきましゅ」
「ありがとうございます!!」
ザイデンは商談が纏まった時並に喜んだ。
カイザーはちょっと不満顔だ。バイクで飛ばせないと悟ったのだろう。止めたのカイザーなのに。
こうなってはバイクでトロトロと走るとちょっとみんなの不満になるかもしれない。馬車の後ろから車でついて行くのがいいだろう。
「ばしゃにょうしりょについていきましゅ」
数多の商売人を相手にしてきたザイデンには分かった。
「は!使徒様の準備が整い次第に発車いたします!」
サチ達は馬車列の最後まで走り、三輪車とバイクを収納にしまって車を出した。運転手はライデンだ。慣れる為にね。みんなで車に乗り込んでいつ出発しても大丈夫なようにする。サチはチャイルドシートだ。ストローマグで麦茶を飲む。
ザイデンの馬車列は少しずつ進み出した。車だとゆっくり走るのはもどかしいかもしれない。ライデン頑張れ!
ライデンとザイデン、名前が似てる。
のどかに馬車について行き、昼食は村に立ち寄って食べた。
ザイデンが食事がいるか伺いに来たが、持っている料理で済ませた。その時に車にも大変興味があるみたいだった。
それから動き出して、15時頃にエレイザー街に着いた。
門をすんなりと通る為に商業ギルド証でサチは通った。哀れ門番。サチの事を使徒と知らずに通してしまった。会いたかっただろうに。
待ってくれていた商隊の最後尾について行き、ザイデンの大きな倉庫付きの店に着いた。敷地が広い。大店らしい。
「使徒様御一行様は、今日は私の屋敷でお休みください。今、案内の物を手配します」
「ありがとうごじゃいましゅ」
「いいえ、とんでもないです!私の都合で来て頂いたのですから」
少し待つと若い青年が馬を引いて来た。
「使徒様御一行様ですか?」
「そうだ」
「リー家の屋敷までご案内しますのでついて来てください」
青年はひらりと馬に跨って車の前を歩き出したので、ついて行く。サチはお店にチェックを入れた。
サチがチャイルドシートから立ち上がって窓から外を見ると、危なっかしかったのかラズが脇を支えてくれた。街並みは賑わっている。景気が良い証拠だ。馬車はどんどん中心部に近づいているようだ。高級店街を過ぎて富裕層の館が見えてくる。
内門、内壁があるようで身分証の確認をしている。青年が兵士にこちらを示して話しかけている。この車も通れるようにしてくれと言っているのだろう。大分警備が厳重な街のようだ。兵士がこちらに来た。窓が叩かれる。ノックのようなものだが。ライデンが窓を開けると驚かれた。
「すみません、身分証の確認をいたします」
全員身分証を出して、サチは教会の身分証を出した。こっちの方が効果的だと思ったからだ。
「聖騎士、神聖騎士!司教、創造神の使徒……!!」
兵士が車の中と身分証を交互に見る。
「創造神様の使徒様はいらっしゃいますか?」
恐る恐る聞いてきたので「はい」と後ろの窓から手を出した。バッとサチの正面に来てバチッと目が合うと静かに泣かれた。手を振ってあげると手を振りかえしてくれた。いい人だ。
「身分証を、お返しします。そのまま、お通りください」
「ありがとう」
ライデンが全員分受け取った。サチは門番に手を振ったまま通過した。他の門番も手を振ってくれた。良い人が多い。
サチの通過した門番達は、検問した兵士に創造神様の使徒様が乗っていたと知って驚くのだった。若干悔しがっている者もいたが。(俺が検問していれば!)
馬はそのまま進んでいき、角を曲がる。ライデン安全運転だ。
高級そうな屋敷ばかりだ!サチは目をキョロキョロさせた。もうすぐサチを支えるラズの手が辛そうだ。というか、チャイルドシートを挟んでサチを支えている姿勢が辛そうだ。
サチが車から頭を出した。(良い子はマネしちゃいけません)ラズが必死に繋ぎ止める。サチが飛べると分かっていても心臓に悪い光景だ。
交差点で馬の足を緩めて進む。車も注意して進む。
門番が居る1つの屋敷に着いた。門番が門を開けてくれる。その後に続く。
ロータリーでサチ達は屋敷の玄関に着いたので全員降りて、車を収納にしまう。
ラズは今、身体が痛いのでサチは飛んでいる。
案内してくれた青年は馬を人に預けて、改めて挨拶してくれる。
「先程は窓から失礼しました。ザイデン・リーが子、サンティ・リーです。まずは家に入りましょう」
サンティが扉を開けてくれると、メイドさんが慌てて来た。
「若様!こんなに早くお帰りとは存じませんで。お客様ですか?」
「すまないね、中途半端な時間に。父上のお客様だよ。創造神様の使徒様とその御一行だ。丁重にもてなしてくれ。客間の準備は大丈夫かい?」
「創造神様の使徒様!?屋敷の皆に通達いたします!客間は日中にチェックが終わっているので、何処をお使いになって頂いても大丈夫です」
「そうかい、ありがとう。僕は使徒様と御一行を客間に案内するから夕食の支度を頼んだよ」
「はい、承りました。お客様もごゆるりとお過ごしくださいませ」
メイドさんは礼をしたまま、お見送りしてくれた。微妙に飛ぶサチを見ていたけど。
玄関前の目立つ大階段を左手に上がり、3階の客室に案内してくれた。
廊下は魔道具の照明で明るく、客間にもスイッチがあり部屋が明るくなった。
「この部屋は使徒様ともう1方ご利用ください。他の3方には別の部屋をご案内します」
「いや、警備の都合上、サチ様と全員一緒の部屋で構わない」
カイザーが言うとサンティは驚いたように言い返す。
「一緒の部屋ですか!?この屋敷の警備は万全です!ご信用ください!」
「そういう訳にはいきません。信用しているしていないの問題では無く、我々の業務です。寝る場所なら大丈夫です。サチ様がご用意してくださいます」
カイザーが珍しく丁寧な話し方をしている。いつもと同一人物だろうか?
サンティはちょっと不満そうにしながらも納得してくれた。サチはこの部屋もチェックする。迷わないように。
「夕食までごゆっくりしてください。何かあれば廊下にメイドを待機させておきますので、ご用をどうぞ。それでは失礼します」
サンティは出て行った。
サチ達は全員でソファに座ってお茶をする。一部ジュースを飲んでいるが。お茶受けにエ◯ルセを出して食べる。この何層にも折り重なっている生地がサクッとした食感とほのかな甘みを伝えてくる。繊細な舌が鍛えられる味だ。いくらでも食べれる。
ちょっと取り合いになりながらも、おかわりを出してしのぐ。
「あー!金持ち商会だぜ!サチ様、バイク売るのか!?」
そんな大声出したら外のメイドに聞かれるのに。
「しょうぎょうぎりゅどしだいでしゅね」
「いくらになるのか想像もつかねー!」
「高価になるのは確かでしょうね」
「今まで見たことないもの。サチ様だけの特製でしょう?」
「たぶんわたちがもっていりゅにょだけでしゅ」
話し合いになるとライデンは静かだ。気は張ってるのだろうが、お茶とお菓子を味わっている。賢い選択だ。
お菓子を食べ終わると、サチはベッドに飛ぶ。そしてゴロゴロと転がる。
う〜ん、宮殿のベッドの方が良い。
宮殿のベッドと比べたらベッドが可哀想だ。サチがおうちで寝るのが決定した。
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