サチ 中央都市を去る。 エルフと出会う
「きょうこうしゃま。もうしょりょしょりょ、ちゅうおうとしを、でようとおもいましゅ」
カイザーまでお休みが一巡したある日、サチは教皇様に言った。
「は!?それは本当ですか!?まだまだ、居てくれていいんですよ!?」
「たびにもどりましゅ。おしぇわしてくりぇて、ありがとうごじゃいましゅた」
「……そうですか。意思は固いですか。ここをサチ様の故郷と思い、いつでも帰って来てくださいね」
「はい!ありがとうごじゃいましゅ!」
肩を落とした教皇様に言われてサチはニコニコと笑顔でお礼を言った。
「して、いつ頃、旅立たれますか?」
「あしたにでもでましゅ」
「そんなにお早く!ああ、サチ様、抱っこさせてくださいませ」
どさくさに紛れて願望を口に出す教皇様。サチは嫌じゃないので、教皇様の腕の中に収まった。
教皇様は優しくサチを撫で撫でして、心を落ち着けた。
「明日は宮殿の皆、総出でお見送りさせていただきます」
「だいじょうぶでしゅ。こっしょりでていきましゅ」
「そうですか。サチ様がそう言うなら、そうしましょう」
残念そうに教皇様が呟く。サチが宮殿に来てくれた影響は大きい。サチが居る日常に慣れた教皇様は残念のため息を吐いた。
サチ達は神聖教国最後の日をゆっくりと過ごした。
が、旅立つ前にすることがあったので、ナタリーのお店にお邪魔する。
新しく時間停止・不壊・容量無限のマジックバッグを作り、その中にお皿と鍋とフライパンを山ほど入れて、親父店主にお願い事をする。
「こりぇにつくったりょうりを、いれてくだしゃい。おかにぇはわたしましゅ」
サチはミスリル貨1枚を渡した。渡しすぎである。
旅の間の料理が少なくなっていたのだ。親父店主が金額に怯えた。ラズがフォローする。
「一気に作らなくていいです。毎日少しずつ作って、その作った料理の分の金額を貰ってください」
親父店主はホッとした。両替に行かなくてはいけない。
サチ達が瞬間移動で帰ったら、お兄ちゃんと親父店主は商業ギルドに両替に行った。大金に怯えながら。
実はマジックバッグの方が高価なのだが、知らない方が幸せなこともある。
次の日の朝、朝食を食べて長いことお世話になった宮殿を車で後にした。教皇様と側近達と神聖騎士が見送ってくれた。
ライデンとナタリー夫婦はおうちで会えるから大丈夫だ。ナタリーの許しがあれば中央都市にも帰れるし。
門に来たら、門番に身分証を出して「使徒様お出かけですか?」と聞かれたので、カイザーが「旅に出るんだ」と言ったら嘆かれた。中央都市の信仰は厚い。
車の窓を開けて、手を振ってお別れした。門番が整列してお見送りしてくれた。
蛇足だが、その日教皇様だけでバルコニーに出ると、民衆は落胆した。教皇様、何も悪くないのに。
それから、使徒様が中央都市から去ったと話が行き渡ると皆、涙を流した。使徒様ブームが落ち着いた。
名残惜しむ者は皆、等身大・創造神様の隣のサチの像を見に来た。元気に飛ぶサチ、神聖騎士に守られるサチはもう見られないと知って。
2ヶ月後、サチは仕立て屋に現れるんだけどね。みんなの服を受け取りに。
門から離れたサチ一行は車を止めて、ライデンに運転の仕方を教えていた。ライデンは飲み込みが早い男である。カイザーと運転を交代して、ややゆっくりめだが、運転をものにした。安全な男ライデンである。
魔物が出て来たら、倒すライデンと収納にしまうサチ、それとサチがまた食べられないように警戒するエレナが外に出た。完璧な布陣である。
サチは暇つぶしに走っている辺りをマップ化していたら大きな村を素通りした。サチのレーダーに引っかかる村だ。
Uターンして村に乗り込んだ。
そこはエルフの村だった。サチ歓喜である。
何か珍しい物はないかと村人に聞くと、神官服が良かったのか「子供が多いですよ。見て行きます?」と聞かれて、喜んで見にいった。
幼稚舎みたいな学校みたいな建物があり、子供達が遊んでいた。みんな耳が尖っている。みんな美形で可愛い。和む。みんなサチより大きいが。
闇奴隷商に狙われないのかとラズが学校の先生に聞くと「邪な考えを持つ人は、この村に来られないんですよ」と答えてくれた。何か魔法で細工してあるらしい。
確か、ナイトライヤの宝石はエルフの涙だったな。と思うと、子供が転けて泣き出した。先生が慌てて子供の近くに行って泣き止ませると、容器を取り出して子供の涙を採取した。おお!ナイトライヤのエルフの涙はこうやって集められているらしい。ラズが怪我を治してあげたら、子供は「ありがとう」とお礼を言ってくれた。
エルフの生態をそこら辺にいる老人に聞いてみたら、エルフは500年ほど生きるらしい。「わしももうすぐお迎えがくる」とブラックジョークを言っていた。ジョークだよね?
エルフの大きな村(畑があるけど、もう町だよね)を観光すると、昼食を村で食べて、またサチ達は旅に出た。昼食は素朴な味だった。なんとなくエルフらしいなと思った。とりあえずお腹いっぱい食べれるのは幸せだ。
沢山のエルフを見て満足した私はご機嫌でストローマグから麦茶を飲む。暑い日は麦茶なのだ!
車から流れる音楽に身を任せて、ご機嫌で鼻歌を歌う。さりげなくライデンが驚いていた。真面目に運転しているが。ライデンはちょっとだけ、いや、最高にサチに夢を見ている。車もさり気なく「使徒様凄い!」と思っていたのだ。
そんなサチがリラックスして車に乗っている。自分の運転する車に。ライデンの心は歓喜で満ち溢れる。安全運転な男ライデン。サチも満足である。
15時頃に街に到着して身分証を見せると、まだ神聖教国なので門番に大層喜ばれた。サチは門番と握手もした。有名人は大変である。
大人しくラズの腕に収まって、サチは車を収納に入れた。みんなで歩いて街の観光をする。古い街のようで、歴史が感じられる。
カイザーの希望で酒屋に行く。通行人に聞くのもカイザーならお手のものだ。
歩いて酒屋まで行くと、歴史を感じる酒屋さんに着いた。カイザーとサチの期待が高まる。
立て付けの悪い扉を開いて中に入る。木と酒の匂いがした。
「いらっしゃい」
落ち着いた男性がカウンターの中にいる。紙に何か書いていたようだ。
「どんな酒をご所望ですか?」
「美味い酒が欲しい」
カイザーが答える。落ち着いた男性は眉毛をくいっと持ち上げた。
「うちは店主自ら仕入れに行ってるから、美味しい酒しかないよ」
自信が溢れる言葉だ。サチは光る酒を探したが、ここには無かった。でも美味しい酒なら持っていても良いかもしれない。
カイザーが交渉を始める。酒の試飲をお願いしているのだ。
店員は快く酒を出してくれた。カイザーの「うめぇ!」と言う言葉が響く。当たりの酒屋さんみたいだ。
魔物を売ったお金もあってカイザーは大樽での購入を決めたようだ。お金を払っている。カイザーはお金が貯められないんじゃなかろうか。
「わたちもおしゃけをかいましゅ」
「サチ様がですか!?どの酒をいくつ買いますか?」
「ぜんしゅるい、にたるずつかいましゅ」
「分かりました。交渉して参ります」
ラズも何回もすれば交渉にも慣れてくる。カイザーを巻き込んでいたが。私はエレナに抱っこされた。ライデンは興味がないのかと見てみると、珍しそうに瞳がキョロキョロとしていた。
「りゃいでんはかわにゃいでしゅか?」
「私はお酒はあまり飲まないですね。何時警備に不備があってはならないですから」
「にゃたりーにょおみしぇだで、だしゃないでしゅか?」
ライデンはちょっと頬を染めた。そして一樽ずつ買うのを決めたようだ。
ライデンはもうナタリーの家族だもんね。
夜、ナタリーの家に行って、親父店主に酒の事をライデンが聞いたら「うめぇ酒は買い取るから旅先でかってくれ!」と言われたらしい。
妻の実家に頼られるお婿さんも大変だ。
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