冒険者ギルドで売却
いつもと同じ時間にラズが起こしに来た。お出かけはバレていないみたいだ。
「最近はサチ様の寝起きが良くて嬉しゅうございます」
「しんじゅにょちぇいでちゅ」
口の中が乾いているサチだった。
ラズに抱っこされておうちの中に入る。洗面所に行って顔を洗い歯を磨いてトイレをする。
それから礼拝堂でお祈りする。なむなむ。
おうちから出て、おうちを収納にしまう。
ラズは「あ、ライデンがおうちの中に」と思ったがすぐに「朝食を終えたら帰ってくるしいいかな」と思った。
そのまま部屋を出て朝食に向かう。
食堂について料理を待っていると大盛りの料理が出て来た。昨日の教皇様の脅しが効きすぎである。
みんな食べれるので「まあ、いいか」と食べ出した。教皇様一家も食べすぎのようだ。「お腹が苦しい」と言っている。料理長の職があやうい。
食事が終わったらサチが言った。
「いまかりゃ、ぼうけんしゃぎりゅどにいきましゅ」
聞いていた神聖騎士は走った。出掛ける準備をする為に。
サチ達がバルコニーで手を振った後、宮殿の出入り口に着く頃には、馬車と神聖騎士が待っていた。
サチはいつものようにネックレスを配って、馬車に乗り込む。暑いので神聖騎士達も含めた範囲を冷却する。いきなりひんやりしたのに驚いた神聖騎士は異常が無いか確かめたが、何もないので使徒様のおかげだろうと普通に歩き出し、馬車が出発した。
朝だから人混みは少ない。馬車はすいすいと進んでいく。サチとラズは街並みを見て楽しんだ。
中央都市は大きいから壁の近くにある冒険者ギルドは遠い。
1時間20分程で冒険者ギルドに着いた。ラズとカイザーとエレナと神聖騎士2人がサチについて歩きだした。
冒険者ギルドの中に入るとサチが飛んでいるのに周りからざわめきが起きた。
受付に特級ギルド証を渡す。
「今日のご用事は何でしょうか?」
「ぎがんでしゅにょかいたいをしてほしいでしゅ。にくははんぶんだけうりましゅ」
「ぎがんでしゅ?どのような魔物ですか?」
「すみません、ぎがんでしゅではなくてギガンデスです。中央教会並みの大きさがあります」
ラズが訂正した。
「ギガンデスですね。そんなに大きいのですか?」
「肉食竜です。多分、門の外でないと解体できません」
「わかりました。少々お待ちください」
受付が何処かに行った。サチはラズに抱っこされたが視線はギルド中から集まっている。エレナとカイザーと神聖騎士は警戒している。
受付が40代くらいの男性を連れて帰ってきた。
「失礼、ギガンデスをどうやって持っているんですか?」
男性が言った。
「サチ様は空間収納をお持ちです」
サチの出番はない。
「そうですか。一部だけでも出せますか?」
サチはラズにゆすられた。
「ぎりゅどにょしょとでにゃら、つめだけだしましゅ」
「分かりました。外に行きましょう」
男性とサチ達はギルドの外に出る。そこでサチはギガンデスの爪を1本だけ出した。凄い迫力である。男性は息を呑んだ。
「本物、ですな。ギルドの中でしばらくお待ちください。緊急依頼を他の冒険者に出します」
冒険者ギルドの中に入ってラズとサチは椅子に座ったが、カイザーとエレナと神聖騎士2人は警戒するように立ったまま警護を続けた。
しばらくして先程の男性が大声を出した。
「緊急依頼を出す!興味がある者は見るように!」
依頼ボードに紙が貼り付けられた。冒険者達が殺到して見る。先程から見ていたが、どう考えてもサチ達関連だろうからだ。
依頼書には門外での解体作業の警護と書かれていた。これなら多少、実力がない者でも受けれる。冒険者達は受付に駆けつけて手続きする。
人数が集まったら依頼書を取り下げる。
「サチ・スメラギ様はいらっしゃいますか!」
ラズはサチを抱っこして立ち上がって受付に行った。もちろん護衛も一緒である。
「解体メンバーが集まりました。今から誘導しますので一緒に移動してください」
「わかりましゅた」
サチ達は外に出て馬車に乗った。ゾロゾロと冒険者と解体チームが出て来た。誘導はさっきの男性だ。
「おーい!みんな!ついてこいよ!」
解体チームは馬車で行くらしい。冒険者は歩いているが。サチ達も出発する。サチはまた冷却をした。
門の外に出て少し道から外れた場所に行く。
先程の男性が来た。
「すみません、サチ・スメラギ様。ここでギガンデスを出してくれますか?」
「はい」
サチは馬車から出て飛んだ。集まった人達をギガンデスの下敷きにしないように収納から出す。谷で狩ったギガンデスを出した。まだ、人を食べたギガンデスを持っているが、自分で食べる気にならない。今回は自分達で食べる分を解体してもらう。
ズシンと重い音を立ててギガンデスの死体を出した。
見た者は口を押さえたり、小さく叫んだりした。どうやってこんな化け物を狩ったのか想像もつかない。
解体チームが動き出してギガンデスに登っていく。
「冒険者も等間隔に広がって魔物の警戒をしろ!血の匂いが広がるぞ!」
冒険者達も慌ててギガンデスと森との間に広がった。
男性はサチに言う。
「この大きさですと、受け渡しは明日になります。ご予定はありますか?」
「だいじょうぶでしゅ。あしたとりにきましゅ!」
「そうですか。それはよかった。後は我々にお任せください」
「おねがいしましゅ」
サチとラズは馬車に乗って帰る。後ろから解体担当者の威勢の良い声が聞こえた。
「サチ様、まだ持っていたんですね。これで無くなりましたか?」
「まだしぇんびきぐりゃいありましゅ!」
「はい?」
さすがのラズも聞き間違いかとおもった。
「せ!ん!び!き!でしゅ!」
「千匹!?どこで!?」
ラズ驚きすぎて敬語を忘れている。珍しい。
「ぎがんでしゅにおしょわれたむりゃにいったあとに、ついせきいましゅた」
「それで、あんなに帰ってくるのが遅かったんですね……千匹もいたなんなんて大災厄級です。人類滅亡一直線です。サチ様が居てくださってよかったです」
ラズはたった2匹のギガンデスにサチ以外手も足も出なかったのを覚えている。ラズとエレナとカイザーはただ振り回されただけだ。実際に2匹で村1つが壊滅したのだ。千匹なんて想像しただけで恐ろしい。ラズはサチをぎゅっと抱きしめた。
サチはラズが小刻みに震えているので。サチからもぎゅっと抱きつく。怖がらせてしまったかもしれない。でもギガンデスはもういない。サチが倒したから。ラズのように戦う術の無い人は怖いだろう。サチも驚いたのだ。あの時は村に生き残りがいただけで奇跡だった。
もう、初めてラズとお出かけした時よりもサチは精神的に強くなっていた。人の命が失われるのは悲しいが、サチにも出来ない事があると気づいたから。全てを救おうなんて傲慢な考えだと気づいたから。サチは拾える命だけ救うのだ。
ラズとサチは絆を深めるように抱き合った。
ー40代の男性・ギルドマスター視点ー
「これは、首を一切りだ。綺麗な切り口だ」
いまだに血が流れる首の近くでギルドマスターは唸った。
受付から創造神様の使徒様が来てギガンデスを解体してほしいと持って来たと聞いた時は驚いた。興味だけで竜種の名前はしっていたが、実際に見た事は無かった。今、自分は本の中に入ってしまったのかと錯覚してしまう。
使徒様可愛かった。
ちょっとだけ現実逃避をしたギルドマスターだった。
ギガンデスを見る。恐ろしい顔に大きさだ。使徒様はこれを何処でどうやって仕留めたのだろうか。聞いておけばよかった。いつ何時こんな化け物に神聖教国が襲われるか分からないのだ。こんな化け物に神聖教国の高い壁などあって無いものと同じだ。一蹴り、一撃で崩されて街の人は食い尽くされるだろう。
ぶるっと震える。血の匂いで魔物が来た。冒険者達が戦っている。
今日のギルドは大忙しだろう。ギガンデスの使える臓器も調べないといけないし、早くギルドに帰るか。竜種は捨てる部位が無いと言われているからな!ギルドのマジックバッグの中も空にしないと臓器や肉が入らないな。
ギガンデスの素材が売れたら、ギルドはボーナスだ!
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