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【2巻3/24】辺境領主令嬢の白い結婚 〜殿下の命をお守りするために結婚しましたが、夫は毎日楽しそうにお過ごしです〜【コミカライズ】  作者: 藍野ナナカ
本編

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毒持ち(2)


 再び止まった馬車から降りようとメイドが扉に手をかけた時、扉は外から開かれた。そこに立っている人の華やかな金髪が輝いている。

 トゥル様は私に手を差し出してくれた。


「お手をどうぞ」

「……ありがとうございます」


 ゆっくりと降りながら、私はトゥル様になんと申し上げればいいかと悩んだ。

 地面にしっかり足が着いて、騎士隊長が用意した木陰の簡易椅子に向かいながら、エスコートしてくれるトゥル様をそっと見上げた。


「申し訳ありません。その、またアリアードのおじさまが……」

「構わないよ。翼狼をゆっくり鑑賞するいい機会だ」

「……本当に申し訳ありません」


 それ以上の言葉が思いつかない。

 身を縮めながらもう一度つぶやいた時、遠くからチリリンと涼やかな音が聞こえてきた。

 翼狼だ。他家の領内に入る騎獣は、友好的な訪問であることを示すために鈴などをつけることが多い。アリアードのおじさまの翼狼にも取り付けている。

 空を飛翔しながらこちらに向かっているが、それほど速度は出ていない。でも翼狼の本領は、地面を走る時だ。

 はっきり見えてきた翼狼は三頭だけ。

 今回はおばさまは来ていない。それだけはよかった。


「あら、あの翼狼は黒金ですね。とても珍しい毛並みです」


 漆黒の中に、まるでトゥル様の金髪のような金色の毛が混じった翼狼は、その美しさと俊敏さのために大変な高値で取引されているらしい。

 それに、黒金の種は忠誠を誓った主人にはとても忠実で、命を失ってでも主人を守ろうとするとも聞いている。

 椅子に腰掛けた私は、そういう説明をトゥル様にしようとして……トゥル様が翼狼を見ていないことに気付いた。

 どうしたのだろう。


「……オルテンシアちゃん。あの魔獣は君のペットかな?」

「え?」


 トゥル様は私の背後を見ていた。

 振り返ろうとした時、突然トゥル様が私の腕を引っ張った。

 体ごと抱え込まれるように引き寄せられ、直後にヒュンと突風が吹いた。


 いや、何かが飛んできた。

 私がいた場所を、私が直前まで座っていた簡易椅子の真上を通っていく。直後に、椅子が倒れながら砕けた。

 鋭い何かに切り裂かれたように四散する。あのままそこに座ったままだったら、私は……。

 ぞっとするのに、私の目はまだ通り抜けたものを追っていた。騎士たちが走ってくる。

 上空から銀鷲が降下して、私たちに向かってきたものを鋭い爪で押さえつけた。大型の犬くらいのものが、苦しそうに暴れている。


「魔獣か! お嬢様、お怪我は!?」

「……大丈夫です。アリアードのおじさまは?」

「翼狼が反応したようで、一旦離れました」


 騎士隊長がそこまで言って、ハッとしたように剣を抜いた。銀鷲は押さえていた魔獣の首を捩じ切って絶命させて、新たに襲いかかってきた魔獣へと爪を向けた。

 新たな魔獣も一瞬で捕えられ、別の一体も騎士たちに切り伏せられる。

 魔獣が複数いる。複数いた。だが私たち一行は、人数は少ないけれど第一級の防御力を有している。襲いかかってきた魔獣は、それほど時間をかけずに全て絶命させていく。

 残りは一体。鋭い牙と鹿のような敏捷さを持つ魔獣だ。だがそれも背後に回り込んだ銀鷲の爪で切り裂かれ、騎士たちに囲まれて悶絶している。絶命も間も無くだろう。


 一瞬ほっとしかけた私の耳元で、チリーン、と小さな音がした。金属が鳴り響くような音は、護身用の魔獣カートルの鳴き声だ。警戒を促している。

 私が身を固くした時、すぐ近くで銀色の光が見えた。カートルではない。剣だ。そして鮮やかな金髪も揺れている。

 トゥル様が剣を抜いていた。

 慌ててそちらへ目を向けると、トゥル様が地面を見ていた。真っ二つに断ち切られたそれは、まだうねうねと動いている。

 蛇のような形だ。でも目はなく、尾は二股になっていて、八対の脚がついている。


「これは、毒持ちです!」


 素早く観察した騎士が注意を促す。別の騎士が頭部を刺し貫くと、やがてそれは動かなくなった。

 カートルが、チリリ、と鳴いた。

 安全を告げる合図だ。

 騎士たちはまだ剣を手にしていたが、トゥル様は剣を一振りしてから鞘に収めた。でも、そのきれいな顔から表情が消えている。感情を含まない青と緑の間の色の目は、動かなくなった毒持ちの魔獣を見ていた。



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