9、お茶会からの〜−1
4人で話しながらちょいちょい移動して、他の人とも交流していく。
だけど、1人じゃないと思うと不思議と緊張が解れた。
目立たないように無事終わりますように。
大抵、そんな事を言うとフラグを立てるものだ。
はい来たー! 王子のテーブル。
ラティウス第1王子んとこ。
王子の後ろには王妃陛下と似たような歳の女性がいた。
えっ? これって何かのオーディションですか?って言うくらいこちらをガン見してくる。
1人1人ご挨拶させて頂くそれにいちいち会者をしながら応えていく、大変だよなー王妃とか王子とかって。
笑顔で王妃陛下や王子殿下の品格を保っている。
王子って友達とくだらない話しとかってやっぱりしないのかな?
『あー、煩い!面倒臭い!!』とかって言ったりしないんだろうなー!
内心 妄想を掻き立てる。
いきなり王妃陛下に話しかけられて心臓止まる。
「そなたはアルベル・デバールと言ったか?」
「はい、左様でございます」
「マイヤー騎士団長のご子息と婚約したとか?」
『は? なんで知ってんの?』
「はい、左様でございます」
肯定すると王妃陛下は驚愕の表情を見せて、その後確信を得たかのような顔になった。
『なんなん? イヤんやめてや、怖いやんけ。兎に角 攻略者関係とは仲良くしたくないねん』
「そう、おめでとう。騎士団長のご子息が婚約されたと聞いたから覚えていたのだ。おめでとうお幸せにね」
だが言葉とは裏腹に、残念そうな顔でアルベルを見る。
『やな感じ』
「勿体なきお言葉、有難う存じます」
その後は特に絡まれる(失礼)事もなく、別のテーブルへ移動。
まあ、ついでなので他の攻略者も横目でチェック。
噂や情報から、どうやら攻略者は全員ゲームの相手と婚約していた。
『こちらはザ・政略結婚って感じだね。節度あるお付き合いって感じ。…でも美男美女でお似合いなんだけどなぁ〜。
ヒロインちゃんはまだ見つけられないや、顔はゲームで知っているから分かると思うんだけどな…。
おおぅ、生のキャメロン様の所作の美しいこと。完璧な令嬢って感じ。
全く何が不満なんだつーの! リアーナ様発見! およ? ヒュー!それぞれの取り巻き発見! ザ、派閥! 勉強になるぅ〜。あー! シェネル様もいた! ウィリアム様と一緒にいるー! ひゃーーー! 本当にゲームと一緒だー!! ってことはーギルバートも発見! 生きて動いて目の前にいるよぉー!!
はわぁぁ、本当に私ゲームの中にいるんだぁー。しかも一応振られる婚約者ポジで名前がでる。怖いけど、いよいよ、始まるんだな、気を引き締めて行かなくちゃ!!』
見ていると、今は皆良好な関係に見える。
『これが恋愛感情もないのに歪み合うなんて信じられないな。
あっ、あの人クラーク侯爵家のお茶会で見かけた人だわ。あ、あの人も。そっか、クラーク侯爵家のお茶会は高位貴族のみだったものね。今考えるとマーガレット叔母さんグッジョブ!』
数人と挨拶を交わし、一息つく。
「カレン、少しあっちの友人にも挨拶してくるな」
「うん、分かったわ」
「カレンとヨウムも仲が良いのね」
「ええ。母同士が姉妹なの。姉妹仲良くてお互いの家にもよく泊まりに行くから自然とね。それに同じ年って事もあって、母同士が話し始めると長いから、2人で遊びながら時間を潰していた感じよ」
「婚約とかは?」
「しないわ…」
その顔はすごく悲しそうで、それ以上聞いてはいけない気がした。
「私はね…気づいた時には好きになっていたわ。でも血が近いから出来れば他で探せなんて言われて…。他にお見合い話を持って来られたから、今は忘れるための時間が欲しいって言ってるの」
「一緒にいると自然で素敵な関係に見えたもの…辛いですわね」
「今のところ…ヨウム以外なら誰でも同じって感じ、ついてないなぁ〜。私もアルベル様みたいにただの幼馴染だったら良かったのに…」
『こんな時なんて言うのが正解なんだろう?』
言葉が見つからなくて何も言うことができなかった。
「そんな顔しないで、大丈夫。これから学園に通うようになったら素敵な出会いがあるかもしれないですし! もしどうしても駄目だったらもう一度お願いしてみますから!」
「うん、うん そうですわね スンスン」
「カレン様の幸せを祈っておりますわ! スンスン」
「クララ様はどなたかお相手はおりませんの?」
「私はまだ正式なお相手はいませんの。でも…、家が商売をしておりますから都合のいい相手になるかと思います。だから私もアルベル様とクラウス様の相思相愛の関係が羨ましく思いますの。せめて、年が近い相手だといいなって思いますのよ」
「クララ様…、きっとお金持ちのイケメンですわよ!」
「未来の旦那様が素敵な人だといいですわね!」
ちょっとしたガールズトークもして、楽しい時間を過ごした。
そろそろお茶会もお開き…そんな頃にヒロイン登場!
『えーーーー!! あり得ないんだけどー!! だってこれ王妃陛下主催のお茶会だよー! 遅れてくるなんて不敬を取られてもおかしくない案件。乙女ゲームはこのシーンはない。学園に入学式から遅刻寸前で飛び込むイベントから始まるのだが。
これもイベント!? でもあり得ない! ヤバいでしょう!!』
全員がその礼儀知らずの女性に釘付けだった。
「はぁー、やっと着いたわ。ハーハーハーハー」
そこにいる全員が隣の人間の息遣いが聞こえるほどの緊張感の中にあった、王妃陛下の一挙手一投足をヒヤヒヤしながら見守る。
その静まり返った会場で王妃陛下は隣の女性と何やら話している。信じられないような目でその女性とヒロイン ソフィアを見比べている。
ソフィアちゃんはキョロキョロしてどうするべきか分からず、給仕の者に声をかけている。ソフィアちゃんはマナーも何もなく、お茶会に呼ばれて美味しいご飯が食べられる…まるでビュッフェに来たかのようだった。ただで食べられるならお腹いっぱい食べないと損、そんなハンティングの目だった。この空気感に全然気づかない。
少し時間を置くと、王妃陛下がその緊迫感を破った。
「遅れてきた者がいるようだな。こちら参れ」
ソフィアちゃんは自分が言われているとは思っていない。周りの話なんて全く聞いていない。テーブルに置いてあるお菓子をトングを持って移動しながらひょいパクしている。皿に取る事もなく食べる姿を皆が見ている。周りの者は石になったかのように目を見開いたまま固まっている。
王妃陛下はワナワナしながらもう一度呼ぶ、周りの使用人がソフィアに声をかける。
ちょっと面倒そうにその方向を見た、明らかな権力者の風格にすぐ皿を置いた。口の中の物を急いで咀嚼し、置いてあった誰のか分からないコップの水を一気に飲み干して、王妃陛下の元へ向かった。
その様子に皆呆気に取られている。
「お呼びでしょうか?」
ペコリと挨拶したが、この世界にそんな挨拶の仕方はない。商人や平民など下級層のみが行う挨拶に、皆二度見する。
王妃陛下は一瞬天を仰いで深呼吸する。
「お前、名前は?」
「名前ですか? ソフィアです、ソフィア・マルティナ…えっと、マルティナ男爵家って言う貴族になりました」
「は?」
あまりの常識のなさに眩暈がする。
『これが未来の嫁ですって!?』
「時間は指定してあったはずです。何故遅れたのですか?」
「ああ、実は招待状を忘れてしまったんです。間違いなく招待されているから通してって言っているのに通してくれないから、仕方なく家に取りに帰ったんです。融通が効かない兵士のせいです、ごめんなさい」
王妃陛下は何度も隣の夫人に何かを話そうとして口を開いて呑み込んでいた。
「それからお前、今日のドレスコードは『大事な物』と書いてあったはずだ、身につけている様子はないが、お前の大事なものはどこにある?」
「私の大事な物は…」
ポケットの中から銀貨を取り出した。
「これが大事な物です。こんな大金持ったことがなかったので、初めて貰った記念に取ってあります」
流石にこれには騒ついた。
王妃陛下付きの女官長が口を挟んだ。
「この国において『大事な物』とは家紋が刻まれた徽章の事だ。身分と出自を示す大切な物、5歳の子供でも知っている常識だぞ? 知らなかったと言うのか?」
「へぇー、そんなんですね。なら最初からそう言ってくれれば分かりやすいのに…」
見回してみると全員胸にリボンとメダルがついた物を着けている。
「ごめんなさい、次からは気をつけます」
常識はないが素直な性格なのか、腹を立てるでもなくそう言った。
「ふぅー、今日はもうすぐ始まる学園生活を有意義に過ごすために集まってもらいました。皆さんは社交界デビューし、今後は1人の紳士淑女として常識のある振る舞いをし、切磋琢磨しながら培った能力を遺憾なく発揮なさってね。今日はご苦労様」
お茶会は終了した。
続々と侍女や侍従が主人を迎えにくる、馬車は一度に出られない為、爵位が高い順に帰る。帰る支度が整った者から会場を後にする。そんな中、ソフィアが残っている菓子やケーキを口に詰め込んで、更に気に入った物はテーブルクロスに包んで帰ろうとする。
「ちょっとあれご覧になって! 浅ましいわ」
「物乞いだってもう少し遠慮するのではなくて?」
「おい、遅れてきてアレか、どこの者だって!? ソフィア・マルティナ男爵令嬢? 近寄らないようにしよう」
そんな話で持ちきりだった。
「アルベル様はどうなさるの?」
「着替えてから馬で帰るわ」
「そう、お気をつけてね」
「ええ、皆さまも。楽しかったですわ、またお会いしましょうね!」
「ええ、勿論ですわ!」
「ごきげんよう」
ウルバスとマリーと一緒に貸し与えられた部屋へ向かった。
着てきた簡素な服に着替えて帰ろうと部屋に入ると、ドッと疲れを感じた。
「はぁー、強烈だったわ、何だか精神的に凄く疲れちゃった」
心の声がうっかり漏れていた。
「まあ、そんなにお疲れなら少しお掛けになってお茶でも飲まれたら如何ですか?」
「それがいい、どうせ今は混んでいるだろうから」
来る時もそうだったが、簡易なドレスに身を包みウルバスと2人乗りで来たのだ。男装で王宮を闊歩するわけにはいかない、気づかれないようになら問題ないが、王妃陛下主催のお茶会に出席する為となると、不敬をとられてしまう。事前に申請は出してあるので調べれば理解はされるだろうが、余計な摩擦は防ぎたい。
「そうね、実はね」
マリーやキースにもお茶会であったことを話して聞かせた。
「強烈だな…」
「ああ、聞いたことがございます。マルティナ男爵の落胤の事はちょっとした噂になっておりました。なんでも、借金のカタに売るおつもりらしいです。平民のままでは高く買って貰えないから引き取って貴族籍にいれたとか…」
「どうせなら、キチンと教育もすればいいのに」
「兎に角、彼女が来てから会場中の空気が張り詰めて…恐ろしかったわ。
それに王妃陛下の反応も妙だったの。ソフィア・マルティナ様の事ご存じだったのかしら…? 王妃陛下の隣の女性は誰なのかしら?」
カチャリ
「お疲れ様…、ん? どうした?」
「カスたん! 王妃陛下の隣にいらした女性はどなたか知ってる?」
「あの方は王妃陛下のご友人でガルシア・クリムト侯爵夫人だ。何でも予知能力があるとか、先見の明があるとか…、それで王妃陛下から絶大な信頼を得ていらっしゃるのだ」
「なるほど! 王妃陛下が何度もクリムト侯爵夫人に意見を求める仕草をしていたのはそう言う訳なのね」
「公爵家、侯爵家はそろそろ馬車に乗っただろう、そろそろ準備するか?」
「そうね、マリーお願いね」
「はい、承知致しました」
男性陣は部屋の外に出て行った。