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46、新しい人生−1

あの事件から更に2ヶ月が経った。

そろそろクラウスも全回復したところだろう、アイザック王太子殿下は4人を晩餐に迎えるべく招待状を送った。ところが、使いの者は仕事を果たせずに帰ってきた。


「どう言う事だ!? どこへ行ったのだ!」


クラウスもベルーシャも忽然と姿を消してしまった。

学園に確認をすると2人は学園を辞めてしまっていた。それもクラウスが目を覚ましてすぐに手続きは取られ、王宮から出る頃にはとっくに辞めていたと分かった。


王都の郊外の屋敷は売却はされていないものの、誰も住んでいなかった。


「どこへ行ったのだ!」

「ヴァルフォーク国へ帰ったのではないでしょうか?」

「……そんな。何故何も言わずに!」

分かっている、彼らにそんな義理はない。勝手に有用性を見出し目をかけていたに過ぎない。

何も言わずに姿を消したのは、この国に対する不信感だと分かっているが、それが酷く寂しい。少なくともセルベスは4人とも信頼に足る人物だと思っていた。

ベルーシャだけではない…クラウスもウルバスもキースもそれぞれ、騎士として尊敬もしていた。

あの時クラウスのあんな状態を見てもベルーシャたちは兵士を昏倒させるだけで危害は加えなかった。報復しても仕方ない状況にも拘らずだ。強い精神力も自制心も尊敬していた。


彼らは私たちを見限り去ってしまった…それが酷く悲しい。

あっ! ベルーシャ嬢には父君がいると言っていたな…どこに! いや、恐らく父君も一緒に出国した事だろう…。思えばあまり個人的な事は互いに話さなかった。


いつかまた会えるだろうか。




ヴァルフォーク国では、マイヤー伯爵夫人がやっと実家から領地へ戻った。

そして初めてウォルターが行方不明だと知ることになった。

だが日付を見ると既に4ヶ月も前のことだった。慌ててデバール辺境伯領の夫に連絡を入れたが、やはり持ち場を離れられる状態ではなかった。王都の警備兵を信じるしかなかった。


マイヤー伯爵夫人は急ぎ王都の屋敷へ向かった。



「お帰りなさいませ奥様」

「一体どう言う事なの!? 何故ウォルターが行方不明になったの!!」

「そ、それが…、街に出られて遊びに夢中になられて、次々店を回られていたんです。朝になってもお戻りにならず待たせていた御者が辺りを探したのですがどこにも見当たらず、いなくなられてしまったのです。その後 憲兵に捜索して頂いているのですが未だに見つからず…留守をお預かりしておりますのに申し訳ございません!!」


「それで、憲兵からは?分かっていることはあるの? 何か要求は来ているの!?」

「いえ、要求もなく目撃者もいない為……、憲兵の見立てでは金を使いすぎて目をつけられたか、もっとギャンブル性の強い場所に移動したかではないかと…」


「もう、だいぶ経つのに何も進展はないのね…」

「はい」

「分かったわ、私もこちらにいるようにするわ」

金銭で目をつけられたならば何かしらの要求があって然るべき、ただ音沙汰がないとなると素行の悪いウォルターには恨み・報復の可能性も捨てきれない。1番恨んでいてもおかしくない人間はこの国にはいない。では事故? いや、それなら憲兵から連絡が来るはず。

『どこに行ってしまったのかしら…ウォルター』



それから暫くして来客があった。

客人はある書類をマイヤー伯爵夫人に託し帰って行った。




リンザバラン国は宿敵のデバール辺境伯領を陥落させたかったが、相変わらず侵入できず、周辺地域だけに留まらず各地で出没するようになり、各地で紛争が絶えなくなった。

英雄デバールの名が無いと広まっただけで、こうも影響が出るとはと王宮も騎士も兵士も疲労感を滲ませた。


ラティウス王太子殿下が放った者たちは、デバール辺境伯と娘アルベルの消息は掴めず戻って来ていた。恐らく国内にはいない、それが結論だった。

可能性のありそうな国にも向かわせたが、未だ発見できていない。


『一体どこへ行ってしまったのだ、アルベル…』



学園では思わぬ事態が起きていた。

ソフィア・マルティナ男爵令嬢が学園を辞めることになっていた。

「ソフィアさん 急に辞めるだなんて何があったの!?」

「クレアちゃん…実はね、結婚するの!」

「ええ!? 何故今ですの!? 卒業なさってからでいいではありませんか!」

「内緒なんだけど…赤ちゃんが出来たの。うちの家は貧乏で援助して貰う条件もあるから、別に私に学力はいらないの、ただ男爵家の娘であればいいの。だから辞めてお腹が目立つ前に式を挙げなさいって」

「ま、まあなんて言ったらいいのか…。ソフィアさんはその結婚を喜んでらっしゃるの?」

「うん、すっごく! 別に勉強なんて好きじゃ無いし、あっでもお友達ができた事は楽しかった!」

「そう…、あなたが幸せならいいわ。お幸せにね」

「有難うクレアちゃん!」


まさかの正ヒロインがメインストーリーから退場してしまった。


その連絡を聞いたアルベルはびっくり仰天。

『なんで? どうしてこうなった!?』


だってこの後の話はヴァルフォーク国に新たな宗教を立ち上げるレオナルド・カヴァウェイが出てきて、貧困、医療に尽力し『救いの手』を設立する。迫害されながらも民の立場にたち救済する、そこでソフィアと出会い一気に救世主としての名声を得るようになるのだ。それが、ただの男爵令嬢を聖女たらしめ、平民のソフィアは国民と言う後ろ盾を得てラティウス王太子殿下の妃となるのだ。


ラティウス王太子殿下の両親は国王であり王妃だったり、ゲームと違う事が多いけど、変更多すぎ! 国民の救世主登場、そんな重要な話の前にソフィアが商家の息子と結婚してフェードアウトとは驚かずにはいられない。レオナルドにとってのお助けキャラが現れなければ、円滑に国民の救世主としての立場を得るのは難しいかもしれない。


考えてみれば、私はウォルターではなくクラウスと婚約した。その後ゲームの強制力か変更はあったものの、今はこうしてクラウスといる事ができている。私が今他国にいる為、ウォルターとの関係に変化はない、ラティウス王太子殿下を含め攻略者たちはソフィアに夢中になるはずが、その素振りもなくソフィアが別の男と結婚。悪役令嬢も登場せず、取り巻きもいない、ソフィアを虐める人間もいない、いたのはイレギュラーな予言者だけ…。


考えてみると、辺境伯の娘はラティウス王太子殿下とは関係がない。ただ、ソフィアに夢中になったウォルターから謂れのない罪で婚約破棄をされた訳だが、簡単に婚約破棄出来たのかな〜? ゲーム上ではその後のアルベルがどうなったかなんて説明なかったけど、辺境伯は守り人が必要なわけで…お父様は英雄、黙っていたのかな?

それになんか大事なこと忘れている気がするするんだよねぇ〜。なんだろう、モヤモヤする。


色々変わっててもう訳が分からん、でもレオナルドはいるのかどうかこっそり聞いてみようっと。



「ベル、そろそろ寝よう?」

「クラウ もうそんな時間? ごめんなさい」

「いいよ クス ずっと難しい顔していたけどどうしたの?」

「ん? 向こうでソフィアさんって人が結婚するために学園を辞めるって聞いて…。もしあのまま逃げ出さずにウォルターと結婚していたらどうなってたんだろうって考えてしまって…」


ごめんクラウ、乙女ゲームのことは話せないんだ。


「そっか…、今すごく幸せだから僕の隣にベルがいない未来なんて考えられないな、ううん、怖くなる。来て?」

クラウスの傍に行くと

「ふふ、こうして触れることが出来る 傍にいてくれて有難う、僕の声に耳を傾けてくれて有難う、僕の腕の中にいてくれて有難う。

僕がベッドで横たわっている時、たくさん祈ってくれたでしょう? 早く良くなってとか元気になったら旅行に行きましょうとか、いつもみたいに抱きしめて とか」

「えっ! 聞こえてたの!?」

「うん、僕と一緒にしたい未来を聞いてすごく温かい気持ちになった。その未来をすぐにでも実現させたくて早く元気になろうって思えたよ…ちゅう」

「他にどこら辺…聞こえた? 全部では無いわよね? もっと大人の恋人っぽいキスしたい…は聞いてないわよね?」

「ぷっ! ううん聞いた、あの時も聞いたけど今も聞いた」

「!?!?!?」

「可愛いなぁ〜、物凄い動揺が分かる…心臓の音がここまで聞こえるよ?」

そっとベルーシャの心臓にクラウスが手を当てた。


「あ……あぁ、ヤダ聞こえる?」

『聞こえる?の前に気にすることがあるだろうに…。僕を試してる?』


「大人の恋人のキス…してみる?」

クラウスの視線が熱を帯びててゾワゾワする。

『胸にクラウスの手が!? でも それより、もっと近づきたい!』

クラウスの胸に手を置いて背伸びして唇を寄せた。

「いいの?」

コクンと頷いた。

「ねえ、ベル僕たち正式に夫婦になったんだね」

「…そう…だね。旦那様」

ズクン

『ヤバイ』


いつ母国に戻れるか分からない状況で、クラウスとアルベルが隣にいる名分を手に入れる為、籍を入れることにした。ただ、他国にいて手続きができない為、カスタングとマイヤー伯爵夫人が手続きを行ってくれた。つまり今はヴァルフォーク国の貴族として正式に夫婦となった。ただ、クラウスはデバール家に入る事になるので、クラウス・デバールとなった訳だ。アルベルもクラウスも偽名みたいになってしまった。

2人で一緒にいる未来を決めたが、自分たちの思いを優先させて周りの人を犠牲にしたのではないかと、偶に不安に襲われるが、それでも愛する人との人生を諦めたくなかった。



クラウスはアルベルの腰を引き寄せ頬に手を当て唇を合わせた。

幸せな時間だった。



気づいた時は隣にクラウスが眠っていた。

『あれ? 夢!?』

夢でも現実でもクラウスとの未来を望んでいる自分に安心した。

そしてクラウスの隣で眠る現実を幸せに思い、もう一度クラウスの腕の中でゆっくり眠った。

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