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44、嫉妬−10

あの後、アイザック王太子殿下も忙しくなり、キチンと招待という形で時間を作った。

それまでに何度かオンバック副騎士団長の訓練が行われた。と言っても、どちらが訓練を受けるべきか微妙な関係になってしまったため、オンバック副騎士団長とクラウスが直接剣を合わせるようになった。

そして今ではベルーシャも同行するようになった。

セルベスもこっそり調べては出没している。


ベルーシャもクラウスも頼めば剣を合わせてくれる。ウルバスもキースもだ。

誰も圧倒的な勝ち方はしない。セルベスたちは真剣だが、クラウスたちはお稽古って感じで合わせてくれる、それが悔しくもあるが、楽しくもあった。

この国では最高峰と呼ばれ、大会を行っても常に勝ち進んでいくため、その環境に慣れてしまい慢心してしまっていた。この年で、この地位でまた挑戦者のような気持ちで臨み、自分がまた強くなれると思うと純粋に楽しかった。

そしてセルベスだけがベルーシャたちと一緒にいると聞いて嫉妬するアイザック王太子とロステリア隊長。

アイザック王太子殿下は職務上無理だったが、ロステリア隊長はセルベスと同じように自分の訓練時間や休憩時間をクラウスやベルーシャたちが来る時間にあて、いそいそと足を運んだ。


クラウスとベルーシャが来るであろう時間になると、馬車停留所にお迎えにまで来る始末。

それを苦々しい気持ちで見ているも者たちがいた。下級騎士、中級騎士、上級騎士…殆どの騎士が嫉妬の目を向けている。あの時の模擬戦の価値が分かる者は畏怖の念を抱き憧れの眼差しを向けていたが、大半の者は自分の国の上位騎士が接待模擬戦をして花を持たせただけだと思っていた。伯爵位と大した爵位でもないのに自分の国の高位騎士が諂う姿に、鬱屈とした気分になっていた。



今日もクラウスとベルーシャは昼餐に王宮に呼ばれていた。

実はアイザック王太子殿下に招待された日程が変更になったのだ。アイザック王太子以外はあの2人に会えているのに、アイザック王太子だけが会えないのでグレた。

そこで、クラウスとベルーシャは本来なら学園に行く平日に理由を作って呼び出したのだ。

だが、運が悪いことにベルーシャは学園でテストがあったので行くことができなかった。

女性だけのテストで、ドレス選びや装飾品、靴、などTPOにあった物を選べるかなど女性特有のマナーなどのテストだ。その為クラウスは関係がなかった。


それを知ったアイザック王太子は残念がったが仕方ない、そこまで我儘も通せない。それに2人揃ってと拘れば次がいつになるかも分からない。まずはクラウスだけでも時間を持つことにした。そしてテストが終わり次第合流することにしたのだ。


クラウスとベルーシャはいつも通り学校へ行き、約束の時間に合わせてクラウスだけが王宮へ馬車で行く。その後、ベルーシャは馬で王宮に向かう。用が済めば一緒に帰ると言う手筈だ。クラウスと暫しの別れも寂しい。


ベルーシャはテストが済むとウルバスの馬で王宮へ向かった。


王宮に到着した。

本来はキチンとした服装に着替える必要があったが、学園から直接来たので制服だ。

この格好で歩くので、多くの人間にジロジロと見られている。

いつもは迎えが来ているのに今日はいないので不思議に思っていた。


アイザック王太子殿下の謁見のため控室で待っていると、メディド卿がやって来た。


「失礼…ベルーシャ嬢、お一人ですか?」

「ああ、今日は事前にお話しした通り、クラウスだけ先に来て私は後から合流です」

「先に? そうですか、もう少々お待ちください」



セルベスはアイザック王太子殿下の執務室に向かった。

アイザック王太子殿下は憤っていた。

何故なら約束の時間にクラウスが理由もなく来なかったからだ。流石に目をかけているとは言え、礼を欠き馬鹿にしていると、立腹していた。


「殿下、殿下!」

「どうしたセルベス!」

「おかしい! 様子がおかしい!」

「ああ? 何の話だ?」

「クラウスは約束通り王宮に向かったらしい、今ベルーシャが控室で待っている」

「は? どう言うことだ?」


クラウスは11時には学園を出て王宮に向かったと聞き、嫌な予感がした。

すぐに調べさせると、クラウスの馬車は確かに王宮にあった。

ただおかしな事があった。いつもの馬車停留所ではなく、少し離れた王宮に勤めている者たちの馬車停留所にクラウスの馬車はあった。

御者もいない、御者とクラウスを探し回ると、御者は近くの掃除小屋に閉じ込められていた。


「クラウスは!? クラウスはどうしたのだ!!」

「分かりません、薬を使われたようで…、気づいた時にはここに閉じ込められていました」

「何と言う事だ!」

「いや、待て。今日は何故こちらに馬車を停めたのだ?」

「それは門をくぐる時に、兵の方が今日はお茶会があっていつもの馬車停留所は混んでいて、出る時にも混雑するだろうからと別の場所を勧められました」


『………その兵士は、うちの者か? それとも他所の者か?』

『分かっているだろう? 他所者にクラウスを襲う理由はない』

『それに、クラウスが本日こちらに来ると言うのも限られた者しか知りません』

『すぐに、その愚か者を探し出せ!』

『はっ。ところで…ベルーシャ嬢には何と説明されますか?』


アイザック王太子殿下たちは御者を医務室へ運ばせ、軍本部へ向かう。




突然のアイザック王太子殿下の来訪に何事かと集まった者たちは、ピリついた雰囲気に気を引き締めた。

そして騒つかせたのは、アイザック王太子殿下の横にはベルーシャとその護衛たちがいたからだ。ここは軍の本拠地、機密情報の宝庫、心臓部に他国の小娘を入れている事に衝撃を受けていた。


「殿下、何故その者たちがここにいるのですか?」

殺気が向けられる。

「聞け、本日私はクラウス・マイヤーと昼餐の約束をしていた。だがクラウスは来なかった」

それが何だ、と言う顔で聞く。一部は我が王太子に対する侮辱かと憤る。

ああ、この女は人質かと言う顔で納得する。


「クラウスは我が国の兵に拐われた。これよりクラウスの捜索にあたる。残念だがこの国の兵士が、他国からの留学生誘拐に関与していることを遺憾に思う。直ちに情報を持っている者は前に出よ!」


シーーーーーーン


「あの…、我々の内の誰かがが関与している証拠でもあるのですか?」

「今分かっている情報で、関与ありと判断した」


「殿下、勝手にいなくなったと言う可能性は?」

「その程度の人間だったと言う事ではないのですか?」

「なぜ、留学生が狙われたのですか?」

「留学生の1人がいなくなって、何故殿下が出て来られるのですか?」


シーーーーーーン


多くの意見が出ていたが、今の発言にそこにいた全員がアイザック王太子の発言を待った。


「お前の名前は?」

「…王宮警備兵 第13隊 フブナー隊 ブルックです」

「ブルックね、まず1つこの国に留学に来て我が国の兵に害されたとなれば、外交問題だ。

そしてもう1つ、私が招いた客人を私の宮殿で拐われたとあっては、私の顔に泥を塗ったも同じ。私は率先して問題を解決する事に何の不合理がある? 私はこの事件に関わった者を厳しく罰するつもりだ」


「殿下、お願いがございます」

「ベルーシャ、何だ?」

「私は私の愛する者を害そうとする者を許せません。犯人を捕まえる際に戦闘となった場合は、武力攻撃をご許可頂きたく存じます。そうですね、私、ウルバス、キース、クラウスの4名に対しご許可を頂きたく存じます」


「……そなたの怒りは尤もだが、我が国にも法がある。罪人はこちらの法律で裁く」

「ええ、勿論そうなさって結構です。ですが、理不尽な暴力に黙って耐えることはできない、と言うお話しです。迅速に情報を得て捜索する、敵の手から奪還する際に多少の暴力もやむなしと言う免罪符が欲しいだけです。何しろ我々は他国の人間で後ろ盾のないただの一般人ですから」

ビシバシと視線が飛び交う。


「過剰防衛でなければいいだろう。但し、相手が犯人だった場合だ。我が国の兵を無闇に危険には晒せない、いいね?」

「勿論です、不要な暴力を振るうつもりはありません」

「よし、いいだろう」


「では早速捜索に」

「その前にもう一つ宜しいですか?」

「なんだ?」


ベルーシャは並んだ兵の間にズンズン入っていく。その後ろにウルバスとキースもついていく。ある男の前で止まった。

「あなたは今回の件に関与しているわよね? 早く話した方が身のためよ? クラウスをどこにやったの?」

何故か確信を持って男にそう聞いた。


「な、何を言っている…、お、俺は知らん! 関係ない! 言いがかりだ!!」


皆何を言っているか分からず戸惑いを隠せない。

「ベルーシャ、ちょっと待ってくれ、何故その男に聞くのだ?」

この男は先程悪態をついたブルックではない。


「早く話しなさい、何処にいるの?」

「はぁ? 知らねーな。知ったてもお前みたいな人間に話すかよ、小娘が!」

「3つ数えるまでに言わなければ、あなたの大事な利き手が使えなくなるわ、どうする? それでも言わずに仲間を庇う? どの道、あなたも仲間もこのままでは済まないわよ?」


10歳以上も年下の小娘に威圧される。

見ると何も持っていない、それで利き手が使えなくなるとはどう言う意味か。

「1つ」

彼が着ている隊服が斜めに切れた。

「な、何だこれ!? お前の仕業か!?」

そこは兵士の隊列の中だが、誰もベルーシャが何かを振ったところを見ていない。だが、男の服は切り刻まれた。


「あなたの仕事は…、クラウスが登城する日程を調べて、仲間に伝えることかな?」


体が震える。

言葉が出てこない。

『何故知っているのだ? どこまで知っている!?』


「2つ」

男の聞き手の服がビリビリに破られ腕が剥き出しになり、薄皮を切られ血が流れた。


「何で、俺なんだ! 何の証拠があって言っている…ふぅぅぅた、助けてくれ。お、俺はただ…頼まれて…ああぁぁぁ、く、詳しいことは知らないんだ! 生意気なクラウスと言う男を少し痛めつけるって…そ、それだけで 何も知らないんだー!!」

騒ついた。

本当にこの男が知っていたのだ!


「お前は、その情報を誰に渡したのだ?」

大した拷問を加えているわけでもないのに、ベルーシャから立ち上る青白い闘気のような気にあてられて恐怖から話してしまう。


「ぐぅぅぅぅ」

仲間を売ることに多少の罪悪感がある。


セルベスが近づき、ドスの効いた低い声で問いただす。

「サッサと話せ、今更仲間の心配か? ふざけるな!! この面汚しが!」

そう言って殴り飛ばした。


「ふぅぅぅ、ダニールとジールです」

「ダニールとジールとはどこの者だ!」

「第20隊です」

「どこへ行ったのだ!?」

「ス、スベクソンの厩舎の話をしていたように思います。でも! 本当に知らないのです! 今度クラウスが来るのはいつか?って聞かれて…、恐らく…王宮門の台帳に…今日と記されていたと話をしました…」

「では何故、関係ない筈のお前がそんなに動揺しているのだ?」

「それは、ダニールとジールがこの場にいないので……」

ガタガタ震えている。

「お前が馬車の停留所を変更させたのか?」

「ひっ!」

「それで関係がない!?」

蛇に睨まれた蛙のように震えながら膝から崩れ落ちている。


「メディド卿、申し訳ありませんがスベクソンに連れて行ってください」

「承知した」

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