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41、嫉妬−7

上で見ていたアイザック王太子殿下と他の者たちも先程までとはベルーシャの動きが違うことに気がついた。

「あれはどういう事だ?」

「ルールを変えたようです。剣を落とすでは大して剣を交えるまでもなく終わってしまうので」


ロダン指南役はすぐに驚愕した。

そしてそれは 上で見ていた者たちもだ。


ベルーシャの動きは先程、ロダン指南役とセルベスが剣を合わせていた時のロダン指南役の動きそのものだったからだ。


「ベルーシャ嬢はどうなっているのだ!?何を考えているのだ!?」

「ああ、さっき自分自身と戦ったらどちらが勝つのかしら?って言ってたので、確かめてみたくなってんだと思います」

「な、何!?」


ロダンも悪夢を見ているようだった。

その動きには見覚えがあった。自分の中で完璧だと思っていた技だ。それが目の前で完璧に再現されているのだ。我ながらどこにも隙がない。戦いながらどんどん余裕を無くしていく。

最初は油断したと思っていたが、もう言い訳できなかった。

必死に剣を捌き食らいついていく、仕掛けようとするも行動が読まれているようで決めきれない。それならばスピードで圧倒しようにも同じスピードで打ち込んでくる。まるで鏡と対戦しているようだった。全く手応えがない。ならばとパワーで押そうとすると、それはするりと逃げて躱されてしまう。自分の弱点をよく知っている。

くそっ! 何をどうしたいいか 分からねー!!


「オンバック副騎士団長、私は夢でも見ているのか? あれは本当にロダン指南役なのか?」

「い、いえ 私も信じられません!」

「ウルバス殿はご存知だったのですか?」

『そりゃね…なんて言えないしな』

「ロダン指南役に剣を合わせて頂くのに、ただの素人はお相手させませんよ」

「何故だ! 何故あんなの強いのだ!! うちの騎士よりも強いではないか…」

「言った通り自分の屋敷で我々と小さい頃から訓練していた、と言うだけです」

「そんなレベルではない! あのロダン指南役と同レベル…いやあのロダン指南役より高いレベルです! あり得ない! あり得ないです!!」

ロステリア隊長が興奮して2人の試合に見入っている。


上位レベルであれば現状を正しく判断できる。

この国の最高峰が、他国の伯爵令嬢以下だと言うことを。


ロダン指南役はスタミナで勝てるかと思いきやベルーシャは全く疲れてない。寧ろこちらの方が先にバテる。若さは向こうに分がある。剣技も隙がない。弱点も癖も見つからない。もう、限界だった。これ以上出来ることはない、それが結論だった。

「参った」それを言うだけ…その一言を今の自分が言うのは難しかった。次はどんな形が1番納得できるか…、いや私ではなく、ここにいる全ての騎士は納得出来ない。私が「参った」と言えば、ベルーシャを貶めるだろう、彼女を恨み怒りを向けるかもしれない。どうしたものか…。


「きゃー!」

ドテッと転んだ。

「痛―い!! いたたたた、ごめんなさい 参りました」

「えっ!?」

立ち上がった彼女は、一礼すると、

「キースーー!!」


「ふっ、仕方ねーなー」

そう言うとベルーシャを迎えに行った。

キースが迎えにいくと両手を伸ばし抱っこをせがむ。キースはベルーシャを縦抱きにして連れて帰る。


会場は我らがロダン指南役が勝ったと大盛り上がりしていた。

その場に立って呆然としているのはロダンだ、ベルーシャがコケた場所を見つめる。

あの時彼女は転んでなどいなかった。

彼女の背中を見つめた。

「あー、疲れた。でも楽しかったー!」

「良かったな。検証結果は?」

「決着はつかない! だけど体力がある方が勝ち!」

「あはは、真理だな」


「今は何があったのだ? 何故ベルーシャ嬢が負けたのだ?」

アイザック王太子殿下の問いに、そこにいた騎士たちは何も答えられなかった。

『ベルーシャ嬢がわざと負けた、なんて口が裂けても言いたくなかった』

だが、お陰でロダン指南役のメンツもこの国の騎士のレベルのメンツも保たれたのは事実だった。


戻ってきたベルーシャは元気いっぱいでキースに抱かれていた。

キースの首にしがみつき頭をその上に頭を乗せている。

「降りないのか?」

「だって足痛いし、居心地いいし」

「さよか…、甘ったれめ」


王太子殿下の前でも抱っこされたまま。

目の前の少女が同一人物とはとても思えなかった。

「あ、有難うウルバス、剣返すね。あまり傷ついてないと思うけど…」

「まあ、手入れするから気にするな」


アイザック王太子殿下は聞かずにはいられなかった。

「何故 わざと負けたの?」

そこへロダン指南役も戻ってきていた。

聞きたくないが、聞きたいものでもあった。


「わざと負ける? わざと負けてなんかないですよ?」

「いや、どう見たってあれはわざとだろう!」

「わざとじゃないんだけどなぁ〜。えーっと、この後どうしようかな?って考えてたら集中力が切れて足が絡れちゃったんです。それに左の腱の古傷が痛むようだったし、それを庇うのが顕著になってきてそれを真似するのは難しくて…、だからどうしようか考えてただけで、わざと負けた訳じゃないですよ?」

「はははは、ベルーシャ嬢には全てお見通しか。私の古傷のことまでバレていたとは…凄いいい目をしているんだね。ベルーシャ・ランデッド様、私は貴女に完敗しました。参りました」

抱っこされたままでそれを聞くベルーシャ。

「ええー!? 負けたのは私の方ですよね? そう言うルールでしたよね? ん? どうなるの? えっと、模擬戦してくれて有難うございました」


「凄いなぁ〜、ベルーシャ嬢の実力を見たいなど傲慢だった、すまない。

ねえ、ベルーシャ嬢は自分がどれくらい強いか知ってる? 剣士になりたいとは思わないのかい?」


「? 私の夢はクラウスのお嫁さんです。将来クラウスと領を守っていければ良いと思って…ま〜す〜た〜? みんなと一緒にいられれば何でも良いと思っています。みんなで商売をしながら外国を旅してもいいかなって」

「おい、嘘だろう!! これだけの才能を持っていてただの妻?」

クラウスを見るとニコニコしている。


「おい、嘘だと言ってくれ! 何してもいいならこの国にいればいい! そうだろう?」

「何だったら私の隊に入って欲しい!」

「私も教えを乞いたい!」

「そうだ、どんな条件ならここにいてくれる?」


「騎士にも兵士にも入りません。私が守りたいものはここにはありませんから」

バッサリ切った。

そして、少なくとも辺境伯の身に生まれて他国を守る兵にはなれないと思っていた。


「もうテストも終わったなら帰ってもいいですか?」

「この後 何もないなら食事でもどうかな?」

「足も痛いですし、ずっと抱っこだと申し訳ないので帰ります。有難うございました」


「うわぁー、案外キチンと主張するんだね、意外だな。じゃあ、椅子に掛けてよ。もう少し話がしたいな」

「話? 何の話ですか?」

「もっと ベルーシャ嬢の事が知りたいんだ。時間を貰えないかな?」


「んー、今日は用があるので帰ります。お世話になりました、さようなら」

「そう、なら帰さないって言ったらどうする?」

ベルーシャはキースの腕から降りた。

「どう帰さないと言うのですか?」

「んー、そうだな…、力づくで、とか?」

「クスッ、力づくで止めてみますか?」


「へぇー、剣術は確かに強かったけど、これだけ屈強な騎士が揃っている中で逃げられるかな?」

アイザック王太子殿下にこちらを害する気持ちはない、だけどベルーシャを煽って引き止めたいと考えている。だが、それにいい加減ベルーシャがイラついてきた。これは不味い状況だ。


「殿下、お戯はその辺で。機会があればまた後日という事で」

ウルバスが割って入ったが、アイザック王太子殿下は止まらなかった。


「だって、次の機会なんて来ないんだろう? まだまだ知りたい事があるんだ。語学のレベルや体術のレベル、他に出来ること出来ないこと、もっと知りたいんだ」

「私はこれ以上拘束されるのは嫌です。私はこの国の人間じゃない、この国の兵士でもない、最低限の礼儀は果たしました。確か、この間のお礼を言いたいと言った結果がこれですか?」

ビシビシと殺気がダダ漏れになってきた。

「おい、落ち着け」

カスタングも止めに入る。


「ああ、そうだった。すまない、最初はそのつもりだったんだが…知れば知るほどベルーシャが欲しくなってしまってね。手放したくなくなってしまったんだよ」

「私は帰ります」

「どうやって帰る?流石に拘束されて仕舞えば帰れないんじゃない? ここにいる近衛騎士は精鋭だ、流石に5人だけでは無理だと思うけど?」

「帰ると言っているのに帰してくださらないなら、命令系統である殿下をのして行きます。痛い目を見たくなければサッサと帰してください」

「へぇー、それは面白い! これだけの護衛を前に私を叩きのめすというの? 是非やってみせて欲しいな!」

「ではお約束を。私が殿下を張り倒しても不敬に問わない、張り倒されたら大人しく私たちを家に帰す。お約束頂かないともっと痛い目に遭いますよ?」

「ほぉー、例えばどんな目に遭う?」

「目には目を…、追ってくれば追って来た者を殺します。何人で追ってこられても構いませんよ? それから…あまりしつこいと殿下を狙うかも知れません。元凶を取り除くだけです」

「伯爵令嬢に人が切れるの?」

「剣を握る者が、人を傷つける覚悟もなく握りますか?」

アイザック王太子の背中に冷たい汗が流れた。

実はさっきから自分の勘はもうやめておけと警鐘を鳴らしている。だけど好奇心が優ってしまう。この国の王子と生まれ思い通りにならない事がなかった所以か。


「では、力ずくで捕まえさせて頂こう、やれ」

「マゾなんですね」

やりたくない、はっきり言ってアイザック王太子殿下の指示は何でも従う覚悟だが、今回は流石に殿下の横暴だろ思った。確かにお礼をすると呼び出し、実力を見たいと色々やらせて、監禁する発言。相手が怒っても仕方ない。しかも相手はこちらのメンツを守るような良心的な人間にも拘らず、だ。

やりたくない、先程の剣術見ても只者じゃなかった。この余裕を見ると体術も出来るのだろう、心の底から殿下を恨みたくなった。だが、命令だ仕方ない。

そう、思っていたが、気づいたら王太子殿下が床に倒れていった。昏倒されて白目剥いて倒れていくのを見ているしか出来なかった。


「それでは帰ります、さようなら」

一礼して出ていった。


何が起きた? こんなに側にいてベルーシャ嬢を見ていたはずなのに何も出来なかった。

考えてみれば先日の公園での時もあっという間に敵を倒していた。

殿下…やっちゃったよ。

ベルーシャはアイザック王太子殿下以外は誰にも手を出さなかった。多くの兵がいる間を縫って殿下に辿り着き、後頭部を回し蹴り?昏倒させた。

はっきり言えば、殺そうと思えば殺せていたという事だ。



「ベル、何で帰ることにしたんだ? もう少しくらい付き合ってやれば良かったじゃないか、用ってなんだよ?」

「だって…、カスたんといられるのはあと少しなんだよ? これ以上は時間が惜しかったんだもん!」

「あーー、それな。ん、納得。確かにな…ベルには大問題だな。殿下も付いてなかったな、タイミングが悪かった。カスタングに勝てるものはないと知っていればなー」

「やめろ! 俺が拘束されることになるじゃねーか!」

「やだもん! カスたんは誰にもあげないもん!」

「はいはい。さっきは何で試合やめたんだ?」

「んー、もう参ったって言うつもりで戦意喪失してたから、もういいかな?って」

「そっか。潔いな」

「よし、帰ろう!」

「「「「おお!」」」」

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