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4、後始末

マイヤー伯爵夫人の早馬は王都で仕事をしている夫の元に届いた。

「まさか! そんな…、なんて事だ!!」


ファビル・マイヤー伯爵は、王都で近衛騎士をしていた。第二部隊の隊長で所属は王妃陛下の担当をしている。だから滅多の領地に帰ることはない。そのマイヤーが騎士団長に理由を説明し、休みをとって領地に帰る事にした。それだけ事態は不味い状態という事だ。


「マイヤー、分かっていると思うが…、子供可愛さに情に流されるなよ」

「はい、分かっております」



マイヤー伯爵はその足で王妃陛下の元へ向かった。

王妃陛下は来客中だった。

「どなたがお見えなのだ?」

「ご友人のクリムト侯爵夫人です」

「ああ、あの方か…、長いな。仕方ない」

来客中の王妃陛下の部屋に入室したマイヤー伯爵、それに気づいた王妃陛下の方が声をかけた。


「あら、マイヤー隊長どうなさったの?」

「ご歓談中にご無礼申し上げます」

「構わないわ、急ぎの用があるのでしょう? 何かしら?」

「はい、自領にて問題が生じまして急ぎの帰郷したく持ち場を離れます事をお許し頂きたいのです」

「まあ、それは大変ね、ええ勿論構わなくてよ。」

「有難う存じます。尚、後のことは副隊長のスホークが執り行いますのでご心配なく」

「分かったわ、気をつけて行ってらして」

「はっ、ではこれにて御前を失礼申し上げます」

恭しく跪き王妃陛下の手に忠誠のキスを贈ると、立ち上がって出て行った。


「マイヤー隊長が領地に戻られるなんて珍しいですね?」

「ええ、そうね。わたくしの担当をしてからは初めてのことね、心配だわ」


「そうだわ、王妃陛下に巷で行列が出来る美味しいお菓子を持って参りましたの! ご一緒に頂きましょう?」

「まあ、実は少し気になっていたの、流石ガルシアね」

「お褒めに与り感謝申し上げます」

王妃陛下のお茶会は続いていた。



マイヤー伯爵は馬を飛ばして急ぎ領地に帰る、休憩も取らずに馬だけ替えて領地を目指した。やっと5日後に着いた時にはアルベルの事故から既に2週間近く経っていた。

子供たちは久しぶりの父の姿の喜んでいたが、その顔を見れば喜ぶこともできなかった。


父は挨拶もそこそこに母と執務室に入り籠っていた。

そして家族全員を集めて、もう一度ウォルターから話を聞く事になった。ウォルターの主張はあの日と同じものだった。兄たちに劣ると思われている自分が大きな事をやって退けたと誇らしさまで覗かせている、その横で母はずっと泣いている。

母にあれだけ諭されても、自分が何をしたかも悪いことをしたと言う自覚もない。


「お父様―! 私は一人で毒虫が馬を刺すよう仕掛けを作り成功したのですよ!」

その顔は未だに反省はなく、褒めてと言ってくる。兄たちも自分の弟に常識が通じないことに怖く感じた。


「ウォルター、お前は人を殺そうとした自覚はあるのか?」

「はい、アルベルが死ねばいいと思っていました」

「人を殺すことは良いことか?悪いことか?」

「人を殺すことは良いとか悪いとか判断できません。重要なことは大義名分があるかどうかです!」

得意げに話すウォルター、恐らくこれも本で学んだことなのだろう。

「私にとってアルベルは目障りで邪魔だったからいなくなればいいと行動を起こしました。そして仕留めることはできませんでしたが、概ね計画通りに運んだのですから成功と言えると思います」


「では何故アルベルが目障りで邪魔だったのだ?」

「アイツは大したこともないくせに皆にチヤホヤされて調子に乗ってて、お母様や兄上たちを独り占めして、本当に生意気なんです! 女のくせに剣を振り回して良い気になってムカつく奴なんです。だから正義の鉄槌を下してやったんです!!」

「ふぅー、聞いていた以上だな…。

ウォルター、お前のどこに正義があると言うのだ。弱い者を守るための力をお前はアルベルに使ったのだぞ? アルベルは跡取りとして剣を持っていたのだ!正義の鉄槌など何様なのだ!?」

「お父様、アルベルは私より剣も体術も強い、アイツは守られる側ではなく守る側です」

もう諦めたいが、ウォルターはまだ5歳、これから先 正しく生きていくために教え導くのが親の務めと、何とか理解させようと奮闘する。


「ウォルター、お前は正義の鉄槌を下したのではない、努力し結果を出した者に嫉妬し、理不尽に命を奪おうとしたのだ。お前が言っていた大義名分などどこにもない」

「どうしてですか!? 私は私の正義を示しただけです! お父様だって騎士として人を殺すのでしょう? 何が違うと言うのですか!!」


『ああ、この子に何を言っても無駄なのか…』

家族全員が感じた違和感。


「アイツは大したこともないのに女だからって!褒められて!生意気なんだよー!!

フーーフーーフーー」

体を揺らして両手で握り拳を作りこちらを睨んでくる。


「アルベルは大したことなくなんかない! アルベルは私たち兄弟よりずっとずっと練習して頑張ってるー! アルベルは辺境伯を継ぐ者として様々な事を覚えなくちゃならなくて…ヒックヒック、お母様がいないから…ヒック、早く立派な跡取りになろうと朝から晩まで鍛錬をしてて…ヒックヒック」

「そうだよ、空いた時間も眠れない時も常に自分だけで出来る事を考えて訓練している! お前なんていつも 頭痛いとかお腹痛いとかサボってばかりいて、どこを褒めろって言うんだ! 僕たちはいつも一生懸命なアルベルに刺激を受けていたし、年下だけど尊敬していた! お前なんかにお前なんかに!!」


「そ、そんなのアイツが言っただけで本当のことか分からないじゃないか! 僕たちはまだ子供なんだ、サボっても仕方ない、やってるなんてアイツの嘘だ!そんなの嘘だ!」

「アルベルの手を見たことある? マメが潰れてスプーンだって持てない時があったよ! そんな時は反対の手を使ってた。訓練しながら語学を学んだり努力してた!」


実の弟に大切な者を害されたやるせなさで兄たちは大泣きしながらも『アルベル』について言って聞かせた。


「へん! 皆結局アイツの味方なんだ!! 僕の話は嘘でアイツの話は正しい! 僕の努力は不足で、アイツの努力は十分って! なんでだよ! どうして僕を否定ばかりするんだ!! やっぱりアイツなんか死んじゃえば良かったんだ!!」

自分の息子が歪んでしまっていることに母は目を丸くした。

何を言っても自分を正当化し、最終的にアルベルを悪とする、その自己中心的思考になす術がなく、頭を抱えた。


「ウォルター、お前はただの殺人者だ、お前が自分の罪を理解できたなら、これから共にデバール辺境伯様の所へ行って謝罪に行こうと思っていたが、お前は人前に出すことができない。お前は矯正出来ないほど歪んでしまっている。だから謝罪には私たちだけで行ってくる。

私たちが戻るまでウォルターは部屋から出さないように」

「お父様! 私たちも連れて行ってください!!」

「私は謝罪に行くのだ、子供が一緒に来るべきではない。辺境伯様のご息女を害そうとしたのだ、事と次第によっては、私は職を辞して爵位も返上しなければならないかも知れない、見舞いは辺境伯様がご許可下さらなければ叶わぬ。結果を待ちなさい」

「「はい」」

青ざめた顔をしている。


「何でお父様が辞めなきゃならないのですか! アイツ如きが何だって言うんだ!」

パン!

母がいつまでも何も理解しないウォルターに手を出した。

それをキョトンとして見上げた後、目に涙を溜めて大泣きし始めた。


「お前は人を簡単に殺してはならないと言うことが理解できないようだから、別のことを聞きます。貴族の身分については習っていますね?爵位を身分を序列順に言いなさい」


「エッグエッグ…、王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵です」

「間違っているわ。辺境伯が抜けているじゃない、もう一度」

「え? 伯爵と同じですよね?」

「先日も言いましたが違います。伯爵より上だと先日も教えたはずです」

「何でですか? 辺境伯は伯爵位の上位かも知れないけど…アイツの家なんて伯爵と同じでしょう?」

「はぁー、辺境伯は伯爵より上です。侯爵と同等に扱われる程この国では重要な存在です。つまりお前は侯爵家の令嬢を害そうとしたとなればどうなる? 当然罰せられる、それが道理だ」

「そうだ、しかもデバール辺境伯様はこの国にとって重要な方だ。英雄と呼ばれている存在だ、あの方が望めば私の首など簡単に飛ぶ」

「あなた達は家で大人しくしてて頂戴、良いわね?」




謝罪に行ったマイヤー伯爵夫妻、辺境伯を前に重苦しい空気が流れた。

やはりデバール辺境伯様は全てお気付きだった。


「誠に申し訳ございません、ウォルターの処分は辺境伯様のお望みの通り致します」

「マイヤー伯爵、マイヤー伯爵夫人、同じ5歳の子供を持つ親として非常に難しい選択です。アルベルもウォルターも未来ある子供で、今重い処分をすることが正しいのかどうか。

ウォルターがご両親に正直に話せたことを評価出来ると思いましたが、罪の意識がないとなると、今厳しく罪を教え罰を与えねば今後エスカレートしていく、そう思います」

「はい、私も妻も人を殺すと言うことは悪いことだと言っても理解できず、アルベル嬢を目の敵にし、野放しにすれば今後も危害を加えようとするのではないかと考えています」

「私もあの子が何かに取り憑かれているとしか思えないのです! 言葉が通じず…恐ろしいのです…。何度諭しても邪魔な者を消そうとしただけ何故悪いのかと言って うぅぅぅ、申し訳ございません!!」


「親の目から見て、更生の余地はありますか?」

「難しいと考えております。そしてアルベル嬢の近くに置くことも危険だと認識しております」

「いやはや困ったものだ…」

「あの、アルベルさんはどうされておりますか? まだ意識が戻らぬのですか?」

「いえ、既に意識は戻りました。ただ…まだ恐怖の中にいて混乱しているようです。それに、御者が死んだと知って、泣きじゃくっては気絶するを…繰り返しています」

「会うことは可能ですか?」

「……本人に聞いてみます」


侍女が伝えにいくと、アルベル本人がやって来た。

カロラインは立ち上がり、アルベルに駆け寄る。

その姿は痛々しいほどまでに痩せこけ骨と皮になってやつれていた。以前から華奢であったが今はもう出涸らしレベル。支えないと歩けないほどだった。

「アルベル! ああ、こんな姿になって…可哀想に。ごめんなさい、ごめんなさいねアルベル…ううぅぅぅぅ」

アルベルはポケットからハンカチを取り出すとカロライン夫人の涙を拭った。


「アルベル嬢に話したのですか?」

「ええ、辺境伯の者として、真実を知ってどうしたいかは自分で決めるべきと思ったので」

「アルベル、ごめんなさい あなたは何一つ悪くないのに…」

ポロリと涙が溢れてしまった。

私が事故に遭ってからもう3週間近く経っている。あれからどれ位泣いただろうか、2つの人生合わせても1番泣いた。そう、私は転生者だと分かった、前世を思い出し記憶を整理したり、現状を理解したり、もういっぱいいっぱいで感情がオーバーヒートを起こしポンコツ化した。中身は21歳の大学生、きっと私は前世をハッキリ思い出したのは今回の事故がきっかけだと思うが、今回より前から多分生まれた時から前世を持って転生していたんだと思う。引き出しにしまってあったみたいな感じ。これまで生活していてあれ◯◯と違うとか行ったこともない場所とか常識とか過ることがあったからだ。だから、バイトのしすぎで死んだ!? あー、やっちゃった!って感じで、自分の前世の死については飲み込めたんだけど、トーマ爺の死とかが全然受け入れられなくて、事故がフラッシュバックして恐怖に支配されて気を失っちゃう。巨大な掃除機のホースに吸い込まれていくみたいな感じで気づくといつもベッドに寝かされていて、泣いた跡がある。


トーマ爺はアルプスのおじいちゃんみたいなお髭があって優しそうな下がり眉でたくさん可愛がってくれた人。全部記憶があるだけに失ったものの大きさに身動きが取れなくなってしまう。この屋敷の人たちはアルベルには母親がいないし、父親は忙しくて側にいないから、と優しく見守ってくれていた。

思っていた以上にこの屋敷で見守ってくれていた人に依存していたようで、失うことに対する恐怖心が拭えずにいた。


「トーマ爺……私のせいで死んでしまった」

突然、ひきつけを起こし呼吸もままならず、気を失ってしまった。


「アルベル! アルベル!?」

「このような状況です」

デバール辺境伯はアルベルを抱き上げると悲しそうに顔を歪ませ、苦悶に満ちた顔になり背を向けた。一呼吸おくと説明した。


「この家の者達は母親がいないこの子を優しく見守ってきた。その為、自分のせいで御者が死んでしまったと自分を責め続け、限界になるとこうして気を失ってしまう。

やはり5歳の子には受け止めきれない事実だったようです」

その背中は泣いているようだった。


「「申し訳ありません!!」」

カロライン夫人も可愛がっていただけに、可哀想でならない。


「ふーーー、今後ウォルターを娘アルベルと会わせるつもりはありません。ですから…、

ウォルターの処分はそちらにお任せします。 それ以上の罪の追求は考えていません」


デバール辺境伯からすれば精一杯の譲歩だった。

それはウォルターの将来を考えてのことではない。この状況のアルベルにウォルターまでアルベルのせいで処分されたとなれば、心を壊してしまうと考えたからだ。

マイヤー伯爵家の未来は首の皮一枚で繋がった。


「承知致しました。寛大な処置に感謝申し上げます。それでは…、ウォルターは王都の屋敷に軟禁か修道院に入れようと思っております。整理がつきましたらお知らせ致します」


そう言ってマイヤー伯爵夫妻は帰って行った。

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