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38、嫉妬−4

カスタングがベルーシャの側にいるのは限りある時間。

ベルーシャは片時もカスタングの側から離れなかった。その間はクラウスも近づけないほどラブラブだ。

早朝訓練でも

「カスたん一緒にやろう!」

「いいぞ」


学園も休んでべったり一緒。

夜寝る時も深夜にカスタングの部屋に忍び込んだ。

寝ているカスタングのベッドの下で寄りかかりながら寝る。

「なーにしてるんだ?」

頭に手を乗せる。

「カスたんがいるのに一緒にいられないのは寂しい」

「はぁーーー、ベルお前ももういい年だろう? こんな所に来ているとクラウスが寂しがるぞ?」

「だって、カスたんといられるのはあとちょっとだから…」

「まったく、ほら冷えるから入れ」

「いいの?」

「コイツめ、調子がいいな」

ベッドの中にベルーシャを入れると昔のように抱きしめて眠る。

「ふぁぁ、久しぶりだ、温かい」

「ん、おやすみ」

「おやすみなさい」


ところが暫くするとまた人の気配。

ベルーシャはスヤスヤ眠っているが、カスタングは起きて声をかけた。

「どうした?」

「ベルがいないから」

「そっか、じゃあ送って行こうか?」

「ううん、ベルが悲しむから…」

「クラウスも健気だな。一緒に寝るか?」

「いいの?」

「まあ、3人だと少し狭いが我慢しろや」

「ふふ、有難う…ございます」

カスタングはてっきりアルベルを挟んで眠るかと思いきや、カスタングを挟んで3人で寝た。クラウスにとってもカスタングは頼れるお兄さんで、尊敬する剣士だ。

『まったく可愛い奴らだ』


翌朝ウルバスとキースが目覚めると、アルベルの護衛がカスタングの部屋の前に立っていた。不思議に思い中を覗くと3人で寝ていた、その姿に思わず笑いが込み上げた。

早朝訓練から食事から一日中ずっと一緒にいる。


ハヤブサのリラはカスタングとアルベルを繋ぐものだったが、いつどこでどんな状況になるかは分からないので、結局 カスタング、アルベル、クラウス、ウルバス、キースの5人に慣らさせることにした。


「なあ、カスタングに手紙送ってたの、もうお役御免だよな?」

「何言ってる、リラでもっと早く確実に届くようになったんだからベルと一緒に送れよ」

「なんでだよ! 手間だろう! 何で男と文通すんだよ!」

「馬鹿! ベルが意図的に隠したら分からないからだろう?」

「ぐっ」

『隠したい事は隠させてやればいいじゃないか…』

そう思ったが、飲み込んだ。だってものすんごい熱量で説き伏せられ結局はやる事になるから。

オンバック副騎士団長の誘いも、今は先日捕まえた者たちの捜査で忙しくしており、お呼びはなかった。

心置きなく5人で訓練や話を出来た。

ヴァルトスも久しぶりにカスタングに稽古をつける。

それに影響され、アルベル、クラウス、ウルバス、キースもヴァルトスによる本気の訓練。

学園にも行かず、足腰が立たなくなるまで訓練に明け暮れた。

カスタングもウルバスもキースもボロボロだけど少年のように目を輝かせて、夢中になって訓練をする。最近ここまで体を酷使したのはないと言うくらい疲れて風呂に入って寝ようとした時、扉を叩く音。そこには自分の枕を持ってアルベルと…クラウス。


「はは、今日も一緒に寝るか?」

「「うん!」」

「ちゃんと歯を磨いたか? 風呂も入ったな?」

「やってきたよー」

「クラウスこっち来い、お前髪が濡れてるじゃねーか。ここ座れ」

「…はい、すみません」

わしゃわしゃ拭いてもらい、子供に戻ったようだった。

今日も3人で仲良く寝た。


翌日、王宮からあの時 公園にいた人物と話がしたいと王太子殿下から召喚状が届いた。

クラウスもいないと馬車に乗れない、そこで5人で王宮に向かった。




ヴァルフォーク国も新しい国王と王太子の下、失った信用を取り戻すべく頑張っていた。

ラティウス王太子殿下は学業とに両立で忙しい日々を送っていた。

こうなってみると、学園にいる時だけ子供でいることができた。


「ラティウス様、顔色が宜しくありませんわ。ちゃんとお休みになっていますの?」

「キャメロン、読みたい資料が多くて時間が足りないんだ」

「まあ、私にお手伝い出来ることがあれば何でも仰ってくださいね。」

「有難う……、なら外国語を覚えてもらってもいいかな?」

「外国語ですか? いくつか習ってはおりますが、特に必要なところはございますか?」

「流石だね。うん、王太子妃となった時、キャメロンにも隣で外交をして貰う事になるからね。今から習っていた方がいいかと思って。今は覚えることも多いから補ってもらえると有難い」

「嬉しゅうございます、ラティウス様の手助けできると思うとやる気が漲ります!」

「ふふ、キャメロンは案外体育会系なんだね。期待されると頑張るタイプなんだ。 キャメロン…、きっとこの先つい甘えて無理を言ってしまうこともあるかも知れない。だけど無理なことや出来ないことは出来ないって言っていいからね。出来る時も出来ない時も沢山話をしよう、そして私たちにとっての最善を模索していこう」

「うぅぅ、有難うございますラティウス様、温かいお言葉胸に沁みます。

私…自分一人で解決しようなどと思いません、何でもご相談させて頂きます」

「うん、思い込みは危険だからね。それに…仕事のことだけじゃなくキャメロンのことも知りたいよ? 沢山話をしようね」

「はい、ラティウス様」


雨降って地固まる。

あの忌まわしい事件は予言者がかつての栄光を取り戻そうと撒いた嘘だったと発表した。

それによりアルベル以外の婚約者たちは特に影響もなく関係を続けている。少し警戒したソフィアも婚約者と仲睦まじく過ごしている事から、貴族の中では予言書は自作自演と広まり落ち着きを取り戻した。


前国王と王妃は既に王族籍から抜かれ軟禁されている。こちらは顔を合わせるたびに歪みあっている。

『お前のせいで』『終わったことを言っても仕方ない』『余計なことをしおって』『予言書を持って来いなんて言うから』同じことの応酬。

結婚して初めて同じ宮で暮らしているというのに、今では顔を合わせないように暮らしているのは皮肉なものだ。

国王と王妃は度々ラティウス王太子宛てに手紙を送る。

内容はせめて王族籍に戻れるよう、国王に進言して欲しいという事。

全くもって不必要で望まぬ事として焼き捨てている。

『我が両親とは言え、強欲で無能だったのだな』

寂しく思っていた。



ラティウスは忙しい毎日を過ごしながら、アルベルとデバール辺境伯の行方を探していた。各地に人を送っているが未だに掴めなかった。

ラティウスは政務を行う時、アルベルならどうするだろうか? アルベルならなんと言って説得するだろうか? 後々必要になるその布石を打つためにはどうするべきだろうか? アルベルだったらこうするだろう、常に自分の中でアルベルを指針にして考え問いかけ答えを出していた。


『アルベル辛い思いをさせてごめんね。今 君はどこにいるの? 早く戻ってきて』





ベルーシャたちは王宮に到着すると、アイザック王太子殿下の護衛の者たちが待っていて出迎えてくれた。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

対応は至って丁寧だった。何かを疑って、と言う事ではなさそうだ。


兵士たちはギョッとしてこちらを見ている。なんなんだ?


「すみません、お気になさらないでください」

「何故みんな驚いて見ているのですか?」

「恐らくですが、皆さんはオンバック副騎士団長がよく連れているので有名人です。そこへきて私の制服が王太子殿下付きと分かるので…嫉妬ではないですかね?」

「ああ、そうなんだ。彼らは私どもが連行されているとは思わないのですか?」

「そうですね、もし連行であれば 私一人と言う事はありませんから」

「なるほど…」

ウルバスの問いに丁寧に答えてくれる。


「実は、公園での出来事…私もいたのです。この国の兵士として礼を申し上げます。我々だけでは敵を取り逃し、尚且つ令嬢を危険な目に遭わせていたと思います。今 平穏に過ごせているのは皆様のお陰です、感謝申し上げます」

「お役に立てたなら良かったです」

「ベル、そんな事があったの? 怪我はなかったよね?」

「バレないように顔を隠したのに意味がなかったみたい、てへ」

「あー、違う、違う。メディド卿が顔を隠す前にこっちを見てたんだ。お前たちが食べさせ合いっこしてたのも見てたらしいぞ? それであの騒ぎになって、まあ同じ服着てたしな。それで後から聞かれたから答えたんだ」

「そうだったんだー。えっ! じゃあ、カスたんと体術ごっこしてたのも見られたのかな〜? うわー、恥ずかしい!!」

「まあ、見てただろうな。カスタングにへばりついてたのも見てたと思うぞ。って言うかガン見してたな」

「あははは、まあズボン履いてたからいっか!」

「こらベル、お前も女の子なんだから気にするところはそこだけじゃないぞ! ごめんな、育て方を間違ったか」

「まあ、手遅れだな」

「ベルは何しても可愛いです。あーあ、僕もそこにいたかったな…今度は僕も連れてってくださいね!」

「クラウスが思うよりカスタングとベルはイチャイチャしてるそ? お前に耐えられるか? お前たちよりも恋人っぽいぞ!」

「僕もカスタングさんとイチャイチャしたいです!」

「おい! そこは違うだろ!」

「したいよね! しよしよ!」

「じゃあ今度はクラウスも行こうな!」

「はい!」


この5人は王宮だと言うのに関係ないことをベラベラ話しながら歩いて行く。聞かれていることなんてこれっぽっちも気にしていない。全く緊張感のない奴ら。

案内役も苦笑いしか出来ない。

しかもクラウスと言う人物はオンバック副騎士団長のお気に入り。品行方正で落ち着いた人物と聞いていた。それがここでは少年っぽさがある普通の男だった。とてもオンバック副騎士団長が目をかけるほどの腕の持ち主には見えなかった。


『警戒心がない? それとも何があってもどうにでもなるって事か?』


「この先が謁見室となっております」

コンコンコン

「お連れ致しました」

「入れ」


扉の向こうにはアイザック王太子殿下とメディド卿などがいた。

アイザック王太子殿下は野生的な印象で直感力に優れた出来る男と言った感じだった。

燃えるような野心を孕んだ瞳をして、圧倒的なカリスマ性を持っていそうだった。

まあ、一般ピーポーはきっとこの雰囲気にすぐに飲まれるだろう。一言二言会話をすればもう信奉者の出来上がりだ。

横にいるメディド卿が氷のような冷たさを纏っているので対照的だ。


「ああ、よく来てくれたね。私はこの国の王太子 アイザック・ヴィル・マフォイだ」

5人は膝をついて首を垂れる。

「さあ、堅苦しいのはここまでとしよう、立って楽にしてくれ」

全員立ち上がったが、目を伏せて目を合わせない。

これはマフォイ国の作法だ。

「ヴァルフォーク国の方がこの国の作法にも精通しているのだね。今日は改めて礼を言いたくて呼んだのだ、さあ、頭を上げてくれ」

ここでやっと普通に顔を上げて並んだ。

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