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36、嫉妬−3

「おい、なんだってこんな事になっているんだ!」

「オンバック副騎士団長…」

「一体これはなんの真似だ! お前らしくも無い。何だってこんな所で令嬢を責めて立て泣かせているんだ!」

「この女はランデッド嬢を責め殴り、権力で護衛を始末すると脅し、淫売と罵っていたのだ」

クラウスも殺気を纏わせさせ、女を睨みつける。


「ベルはどうしたのですか?」

「ああ、クラウスすまない、体調が悪いらしい、その上この女に責め殴られ立ち上がることもできず、馬で先に帰ると言っていた」

「何ですって!? オンバック副騎士団長、メディド卿 お先に失礼させて頂きます」

クラウスは走って帰ってしまった。


「うぅぅ、どうして…あの女はよくて私は駄目なのですかぁぁぁ!!」

「頭も悪い、本当に苛つく!」

「貴方はどなたですか?」

オンバック副騎士団長までサルドネ・ミラージュ侯爵令嬢を知らないと言う。

実際は知っていたが、敢えて『お前誰だ?そんな良い女か?』と投げかけた。


サルドネはセルベス・メディド1点狙いで22歳のこの歳まで婚約者もいない、行き遅れ感はあるが、セルベスは自分のモノとロックオン。

そしてセルベスの周りに群がる女たちを蹴散らしてきた女。侯爵家で豊満なボディに魅惑的な垂れ目に厚めの唇、所謂 傾国の美女といった容貌に才女、高嶺の花なのだ。

これまでサルドネが笑いかけて落ちなかった男はいない。プライドを掛けて自分のモノにするつもりだった。だが、何年経ってもメディド公爵家からは色よい返事は貰えなかった。変わらずセルベスに近づく女は、権力や男を使って排除してきたので、セルベスは結局は自分を選ぶしか無い、そう考えていたのに、ここへ来てまさかのかなり年下の留学生にうつつを抜かしていると言う、身の程を弁えない女にはガツンと言って、知らしめないと そう思った。

『何を間違ったって言うの!?』


「この女はサルドネ・ミラージュとか言う者だそうですよ、まあ覚える価値もありませんが。体調の悪い令嬢に的外れに罵る、醜い欲の害虫が!」

「ミラージュ侯爵家の令嬢がなさる事ではありませんね、品格を疑われますよ。それに酷い顔をここで晒して良いのですか? 涙で化粧が落ちて…見られる顔ではありませんよ。

セルベス お前もいつまでもここにいても仕方ないだろう、戻るぞ」

「…はい」


ギャン泣きしているサルドネを放置して帰って行ってしまった。



「ベルーシャは大丈夫だろうか? 気になるんだろう? 見に行くか?」

「いえ、どこに住んでいるかも知りませんし、…今 私が行けば余計に迷惑をかけますから」

「そうだな。まあクラウスがいる、大丈夫だ」

「……はい」



今日はキースが連れて帰ってきていた。

「着替えるか?」

「ううん、もう少し抱っこしてて」

「ああ、分かった」

ソファに座り、膝に乗せ抱きしめている。

そこにクラウスが帰ってきた。

「ベル! 大丈夫?」

「お帰りクラウ、うん…大丈夫だよ」

いつもならクラウスの元へ行くが今日はキースの側から離れなかった。

側に行くと頭を撫で、頬を見ると赤くなっていた。

「ここを叩かれたの? 大丈夫? 何か冷やすものを持ってくるよ」

そう言うと部屋から出て行った。

ベルーシャはそのままキースの腕の中で眠ってしまった。


クラウスはウルバスのところへ行った。

ウルバスはヴァルトスに報告に行っていた。それを捕まえてクラウスは話を聞いた。

アルベルが自分の元に来なかった事に少しの不安を覚えていた。


「ああ、違う。あれはちょっとした懺悔…戒めだ」

「懺悔? 戒め?」

「ああ、ベルはウォルターを忘れる事にしたんだ。今まではマイヤー伯爵家と仲良くなればなるほど、息子を奪ってしまったと罪悪感に苛まれた。恐らく馬車に乗る時にいつもマイヤー伯爵家の幸せを奪ったことを忘れてはならないと思い出させていたんだ。マイヤー伯爵家の不幸の上に自分だけが幸せになって良いのかってな。自分の死への恐怖よりも罪悪感が勝って辛かったんだと思う。でも今日 『もう全部忘れる』って、全てを飲み込んで『クラウスと幸せになる事だけを考える』って決断したんだ」

「えっ!?」

「…過去と決別してるんだ。だから今 クラウスに甘えてはいけない、そんなところだと思う」

クラウスは涙が止めどなく流れていくのを気づかず、じっとウルバスの話に聞き入っている。

「だから今日は 俺たちに任せておけ。それからミラージュとか言う女に扇で頬を叩かれたが大した事はない。今日のベルはそれどころではなかっただけだ」

「うぅぅぅぅぅ、馬鹿だな…、とっくに僕にはウォルターよりアルベルの方が大切な存在になっていたのに…。ずっと背負わせていたんだな…。ウルバスさんベルの事 お願いします」

「ああ、任せておけ!」


その夜、アルベルはキース母さんとウルバス父さんと一緒に眠った。



翌日から馬車に乗り込む練習が少し進んだ。一人で馬車に乗り込んだ。扉を閉める事は出来なかったが、一人で乗り込むまでになった。少しずつ改善が見られた。



セルベス・メディドとサルドネ・ミラージュの話はすぐに広まった。

サルドネのプライドはガタガタだった。

「私も昔、メディド様の話をしていただけで『身の程を弁えなさい』って言われたわ!」

「私もよ!その程度で彼の横に並ぼうだなんて鏡見たことあるの?って、素敵なご容姿なのに プフフ お前の容姿は私よりどこが優れていると言うのだ?でしたっけ?」

「そうそう、メディド様に言われたら反論できないわよねー!」

「あれは酷な質問よね…メディド様より美しいなんて言える人間はそうはいないわ」

「私の何が駄目なのですか!? お前みたいな女が嫌いだ、はぁー痛快!!」

「その上害虫呼ばわり! あーいい気味!」

「私の男!なんて言っていたのに認識すらされていないなんておかしいったらないわ!」

「縁談も断りを入れたにも拘らず、執拗に頼み続けたって!」

「しかも10歳も年下の女性にまで嫉妬して暴力まで振るったとか、あり得ないわ! あの年になると必死になってやーねー。醜い醜い」

「あははははは」


女性は笑いものにし、いいように使われていた男性は怒りを露わにし、サルドネ・ミラージュの名は地に落ちていた。対するセルベス・メディドは酷い高位貴族として褒められた態度ではなかったが元から愛想がなかったので、メディドにバッサリやられたらしいぞ、程度で大したダメージにはならなかった。

ミラージュ侯爵も醜聞を逆手に婚約をゴリ押ししたいところだったが、無関係の女性に暴力を振るった結果と広まると沈黙し、サルドネも自宅から出て来なくなった。



学園でもベルーシャとクラウスは相変わらず仲睦まじく互いしか目に映さない溺愛っぷりに、ベルーシャの事は巻き込まれた被害者と認識していた。



「おい、俺にも会わせろよ」

「何のことですか? それより殿下はこちらの書類にサインをお願いします」

「お前が激昂した当事者のベルーシャちゃんだよ」

「早く仕事を終わらせないと休みがなくなりますよ」

「イヤイヤ、お前だって流石に自覚したはずだ。お前ほどの男であれば奪えるのでは無いか?」

「くだらない事言ってないで、ほら手を動かさないと叩きますよ?」

精一杯の平静に努めた。

「ふん、もっと崩れればいいのに…、はぁー。そうだ、先日孤児の就職した国営農園の視察に行く予定が行けなかったから、あそこに行くか!」

「あー、そうですね。孤児たちをキチンと使っているか抜き打ち検査にはもってこいかもしれませんね」

「ああ。目立たないように数人で行こう」

「大丈夫ですか? せめて影を忍ばせるべきです」

「まあ、お前に任せる。でも威圧しないためにそっとだぞ!」

「はいはい、煩い殿下ですね」


結果、殿下の左右にロステリア騎士隊長とメディド卿、背後に15人の兵を配した。

馬車で途中まで行って、歩いて視察する。


「この辺も変わったな」

「そうだな、ザックが手を尽くした甲斐があったな」

(ザック=アイザック王太子殿下の愛称)


王都で商売を出来るのは金持ちばかり、貧乏人は土地代を払えず王都で店を開くのは難しかった。それをアイザック王太子殿下が王都の中心地から郊外への道筋を買い上げ、そこに下級層の店が出店できるシステムを作った。下級層用商業ギルドを作り、商業ギルドに登録した者たちは低価格で出店出来るのだ。これにより一部の下級層たちも自分たちの力で生きていけるようになってきた。下級層らしく高級品ではなく、小さな店が軒を連ねている。だがそれこそ、下級層が生きるのに必要なものが多く揃っている。活気に溢れ多くの人で賑わっている。


この先も過去に謀反を企てた者たちの拠点となっていた場所がある。

そこは解体し、今は公園となっている。

公園になる前は皆が神経質となり、近寄るだけで謀反を疑われるのでは、と近寄らず閑散としてしまっていたが、公園とした事でまた多くの人が気軽に訪れるようになった。

それに伴い出店も出て明るい雰囲気に塗り替え悪い記憶を払拭できた。


アイザック王太子はとても有能だった。

アイザック王太子もセルベスと同じように人間不信ではあったが、セルベスの様にあからさまではなかった。表面上アイザック王太子は取り繕うことが出来ていた。

柔和な笑顔を浮かべ上手く人を使っていた。上手に情報を取り入れ、適材適所で利用もしていた。

この今の王都の街並みの発展はアイザック王太子殿下の手腕によるものだった。



『ん!!』

通り過ぎながら目が離せない。

『見間違い? いや、見間違うはずがない。あれはベルーシャだ!』


歩きながら目でベルーシャを追う。簡素な服だが間違いない。

ベルーシャはセルベスが知らない男の膝の上に乗り笑顔で男の胸にもたれかかり、足をバタつかせている。腕は男の背中に回り顔を擦り付けている。特別な関係に見えた。

男は優しくベルーシャの頭を撫で頬を摘み、頭にキスを贈り甘やかしている。


あまり派手な行動を起こすとアイザックにバレる、そう思うと静かに周りに気を配るフリをして、目で追いかける。

通り過ぎる前にもう一度見ると、ベルーシャと男の他に、ウルバスとキースもいた!!

『良かった! 男と密会ではない!!』


ベルーシャについてあまり知らないので、親族かもしれない、と自分に言い聞かせ過ぎ去って行った。

『あの男は誰なのだろう…』

ぐるぐるそればかりを考えていた。



「カスたん、会いたかったの。うぅぅぅぅ」

カスタングはデバール辺境伯捜索のため任務として国を出てきた。前の王妃陛下担当だった為配置換えとなり、捜索隊に入ったのだ。

最近、アルベルは精神的に弱っていたのでカスタングに甘えたくて仕方ない。


「仕方ないなベルは…、それで異国の地でやっていけるのか?ん? また痩せたんじゃないか? ちゃんと食べているのか?」

「うん、食べてるよ。それにウルバスとキースが甘やかしてくれるから大丈夫よ」

「そうだぞ、最近は3人で仲良く眠ってるよ」

「そうか…。ちゅう 無理してないか? 側にいてやれればいいんだが」

「カスたんはもう家族がいるんだから無理しなくていいんだよ。それに馬車に少しだけ乗れるようになったの、今は越えるべき壁って感じ…だから見守ってくれるだけで大丈夫」

「強くなったな、でもいつだって俺たちがいるからな。そうだ、今日はコイツを紹介したくて来たんだ」

カスタングが出したのはハヤブサだった。


「今まで手紙のやり取りが出来ていたが今は難しいだろう?」

今は王都にあるデバール家の情報屋経由でやり取りをしているが3週間から1か月掛かってしまう。それに頻繁に連絡を取り合えば何処にいるかバレてしまうかもしれない、とカスタングは違う方法を模索していた。そこで目をつけたのがハヤブサだ。伝書鳩ならぬ伝書隼だ。


「うわぁー、可愛い!」

「コイツに手紙を運ばせられるからな」

「お前は相変わらずだな。やっとカスタングへの報告書から解放されたと思ったのに…」

「名前はあるの?」

「いや、ベルと一緒に決めようと思ってまだつけてないんだ」

「うわぁー! 嬉しい!!」

「何がいい?」

「そうね…リラ! リラはどう? 繋ぐって言う意味よ、カスたんと私を繋ぐリラ」

「うん、いいね リラか。よし、リラが俺とベルを繋ぐ為に訓練しよう」

「はい!」


「はは、やっぱりすげーな。あのベルをカスタングは笑顔にしちまった」

「ああ。今ベルが苦しんでいるなんて知らなかっただろうに、ここまで来て側にいてやるなんてな」

「元祖カスタング母さんには敵わねーな」

「はは、違いねー」


その後、皆で公園に移動してリラを飛ばす練習をした。

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