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35、嫉妬−2

ベルーシャには会いたい時に会うことが出来ない、それはメディド卿とベルーシャは約束をしている訳ではないから。

オンバック副騎士団長が忙しくなってしまった。よってクラウスを王宮に呼ぶことがなくなったからだ。偶然を装って会うことが出来ない。あれ以来真面目に稽古もしていると言うのに…。

近頃は親しくなったと自負しているのだが、流石に10歳の歳の差に気軽に会うこともままならない。悶々と内に思いを募らせていった。



今日は殿下のお供で街に出てきている。

あちこちに視察して回る。

今まで宝石やドレスや美術品や絵画、何を見ても何とも思わなかった。だが今は何を見ても『ベルーシャに似合う』『ベルーシャに見せてやりたい』『ベルーシャならなんと言うだろう』頭の中はベルーシャでいっぱいだった。


店に入って無表情で王太子の後ろに立っているだけのメディド卿が、店に入ると店内を見回し熱心に見ている。今までにない行動に、王太子殿下を見ていなくちゃいけないのに、つい目はメディド卿を追ってしまう。すっごい真剣。


「何だ? 良いものでもあったか?」

「いえ、興味深く拝見していただけです」

「ふーん、これが似合いそうなのか?」

「うわぁっ! なんだ…ゴホン、何ですか? 見ていただけですよ? 別に何も考えていません、見ていただけです」

「ふーん」

皆がニヤニヤ見ている、だが本人だけは気づかない。


メディド卿の変化はこれだけではない。


「メディド様、少しお時間を頂いても宜しいでしょうか?」

「あなたは?」

「エリーネ・マグワイヤーと申します」

「手短に頼む」

以前であれば、完全無視。皆も無視されると分かっていても声をかけて、案の定玉砕。お約束だったが、今は止まって名前を聞いて話を聞いてくれる。ただ、2人きりになったり、人に聞かれない場所には行ってくれない。何故ならば、狂言を吐く女がいるから。


「メディド様、お慕いしております、私をあなたの恋人にして欲しいのです」

「残念ですがそれは出来ません。では失礼」

「何故ですか? 私の何が気に入らないのですか? あなたの気にいるようになりますから! お願いです私を側に置かせてください!!」

「迷惑だ」


『ああ やっぱり面倒だ、無視するのが1番だな』


それからやっぱり女性の誘いは完全無視。その無表情イケメンが度々少女と一緒にいるところを目撃されるようになった。

殆ど仕事以外で話しているところ見たことがないセルベス・メディドが柔かに話す相手についてすぐに調査。学生で婚約者と思われる者と非常に仲が良いと分かると、一先ず加熱していた令嬢たちの調査隊はなりを潜めたが、気になるものは気になると直接聞きに来る者が後を絶たない。


「少し宜しいかしら?」

「はい、何でしょう」

「単刀直入にお聞きするわ。セルベス・メディド様とはどう言う関係なのかしら?」

「は? メディド卿との関係とは…、どう言う意味でしょう?」

キョトンとした姿からはあざとさは感じられない。

「ごめんなさいね、特別な関係はないのかって事よ? 普段無口なのに貴女とはよく話をしているようだから、特別な関係なのかと思って…。どうなの?」

ぐいぐいくる。全然引く気はないらしい。


「えーっと、私は留学生なので恋人と旅行に行くならどこが良いか探していたら、色々とアドバイス頂いたんです。それ以外の話はしていないので、ちょっと分かりません」

「あら、そうなの?ふふ、お邪魔しちゃったみたいね。ごめんなさい」


『うん、この対処が1番早い』

以前から絡まれて、なんとか説明しようとするが、事実を捻じ曲げてヒステリーを起こすので、面倒になったベルーシャは『恋人と旅行』このワードを出すことにより円滑に話が進むことに気がついた。婚約者は調べられると困るので恋人と公言している。



ある日の午後、図書館でベルーシャは集団心理と戦時下の抑圧と欲求、劣等感と行動心理学、人間関係論などを読み漁っていた。

その中で、ウォルターの気持ちに触れた気がした。


4人の中で常に劣等感を抱き、努力は報われず、自分で自分を否定し続ける毎日。

アルベルが楽しく面白い毎日は自分も周りも成長させたが、ウォルターには苦しさとやるせなさと不甲斐なさと様々な感情を生んでいた。ウォルターはそれらの感情を成長する上で上手く処理できなかったのではないか。

対話をもっと出来ていれば何か変わったのだろうか? 幼いながらにプライドが邪魔して言えなかった言葉があったのではないか? 


私さえいなければ…兄や母ももっと自分を見てくれた。

確かに私は実母の代わりにウォルターの母を求めていたのかも?

おば様やお兄様たちに褒められたいと言う気持ちもあった。結果的にウォルターを追い詰めたのかしら?


悶々と自分とウォルターの気持ちを見つめた。

それは苦しくもあったけど、ただ怯えるだけではなく、冷静に分析する事で、トラウマを克服しようと頑張っていた。


「おい、大丈夫か? 苦しそうだぞ?」

「うん、ずっとねウォルターが…友達が自分を殺そうとする事が怖かった。それがどうしてかとか、子供だったからとか考えても、うっくぐぅぅ、上手く飲み込めなくて……、ただ怯えてた。ヒックヒックふぅぅぅ」

「ベル、大丈夫か? ほらおいで、大丈夫だから」

「少し外に出よう」


外のベンチでウルバスに抱きついて落ち着かせてる。

「よしよし、ほら大丈夫だから。慌てなくて良い、ゆっくりで良いから よしよし」

「いつも考えようとしても、怖くて考えたくなくなっちゃって……ふぅぅぅ、だけど今日 本を読んでいたら、もっと話をすればウォルターも…ヒックヒック…ずっと一緒に育つ事ができたのかな? とか、私がお母様を欲しがったせいなのかな?とか考えると…やっぱり私のせいだったのかなって怖くなって、クラウスや家族 ウォルターの関係を壊したのかも知れないって思うと…取り返しがつかないって…お、恐ろしくなって…うわぁぁぁぁん」

「うん、うん…ベルは悪くない、何も悪くない! 俺たちが知ってる、ベルは何も悪くなかった」

「そうだぞ、お前はいつだって一生懸命なだけで良い子だった。子供が2人以上集まればどうしたって比べられる、兄弟だって同じだ。だけど、だからこそ皆頑張るんだ、邪魔だって殺そうとしたのはウォルターだからだ! ベルのせいじゃない!」

3人で抱き合って大泣きする。

未だに心のーしこりとなって残って、気にしているアルベルが可哀想でならない。

「ウォルターも私も子供だったからって納得してはいけない気がしていたの。でもね、もう許してあげようかなって…、自分のこともウォルターのことも。もう、どうにも出来ないのなら、忘れようって。うっく…、もう苦しくてどうにもならないから、忘れて生きようかなって。ねえ、それでも良い? 許してくれる?」

「ああ、それでいい、それでいいんだ。お前の好きにしていい。俺たちはいつだってお前の味方だし、お前の意思を尊重する。誰に何言われても俺たちはずっと側にいるから!」

「そうだぞ! いざとなったらまた旅に出ればいい! もっと我儘に好きに生きていいんだ!!」


恐らく1番のネックはウォルターがクラウスの弟だからだ。

アルベルが愛するマイヤー伯爵、伯爵夫人、ディビット、クラウス…彼らから息子を奪うことになった原因が自分にあると考えると苦しくて仕方ないんだ、だから何も悪くないのに自分を許せないんだ。マイヤー伯爵家と関わりを持たなければもっと早くに忘れられただろう。馬車に乗ろうとする度に、罪悪感とトーマ爺の死とウォルターの殺意を思い出し、忘れれるなと刻み自分を傷つけている。何もかもを忘れて、クラウスから弟を奪いながらクラウスと幸せになっていいのか? そう責めていたのだろう。

それをもう解放する、そう決意したアルベルを今はただ抱きしめてやりたかった。



「ちょっと、貴女がベルーシャ・ランデッドよね?」

キースがベルーシャを庇い、ウルバスが前に立つ。

「何のご用でしょうか?」


「へぇぇぇ、男に庇われていい気なものよね。男好きって言う噂は本当なのね。

ねえ、貴女 メディド様と親しいのでしょう? どんな手を使ったの?」

今は感情が昂って会話ができる状態ではなかった。

「………………。」

「申し訳ありません、気分がすぐれないのでお引き取りください」

「はぁ? 何様なの!? たかだか伯爵令嬢が侯爵家である私にそんな口の利き方をしてただで済むと思っているの? 大体お前はただの護衛であろう? 生意気だな、お前を不敬に問うぞ!」

ヨロヨロとキースの腕から立ち上がり、ウルバスの前に出て頭を下げる。

「お、お許しください。この者は私を庇っただけですので…お叱りは私に」

「サッサと出てくればいいものを! ふーん、お前がランデッドか…言うほど大したことも無い、噂とは大抵誇張されていて…信じる価値はないな」

上から下までネットリと品定め。

下を向いたままなのでフラついた、それをキースが支える。

「若いくせに男に甘えるのが上手だな。それで、メディド様にはどんな手を使ったのだ? 話題か? 体か? 他にも手管があるのか?」

ウルバスとキースから殺気が立ち上る。

「わ、私はメディド卿と特別な関係にありません、勘違いでございます」

「何ですって! 生意気な女ね!」

持っていた扇でベルーシャの頬を打った。

弱っているベルーシャはそのまま倒れていった。ウルバスとキースはベルーシャに止められていたので見ているしか出来なかった。

倒れたベルーシャに向かい、喧々囂々と捲し立てる女、それにじっと耐えている図であった。

ただ、今のベルーシャには心が悲鳴を上げて目の前の女のことなど眼中になかった。

何を言っても何の反応も示さない事に更に激昂していく。


「何をしている!!」

そこに現れたのはメディド卿だった。

「今 私の名が聞こえたようだが、お前は誰だ?」

ウルバスとキースは女を二度見した。

今までの話ではメディドの親しい間柄の女がベルーシャが出てきた事により相手にされなくなった、と言う話だと思ったのに、まさかのメディドからは『誰だ?』発言。

「失礼ながらこちらの女性は、貴殿と親しい間柄と聞きましたが? ベルーシャが貴殿との間に割り込み迷惑を被っていると、口汚く罵り暴力を振るわれている状態です。更に身分からベルーシャを貶め、我々を権力を使って殺すと脅し、誤解だというのも聞かず、結果…暴力と暴言にただジッと耐えている状態です」

「我々は留学生でこの国には何の力もありません。勉強をしに来ているだけなのに理不尽です! これはこの国から出て行けという事ですか!?」


驚愕した顔で拳を握った後、女に向き直ると無表情で尋ねた。

「お前は誰だ?」

「わ、わ、私は…サルドネ・ミラージュ、ミラージュ侯爵家の者です! な、何度も婚約を申し入れています!」

「は? 知らない、というか興味もない。大体何度もという事は何度も断っているという事だろう? 私に纏わりつくな、迷惑だ。理解できないようなら正式にミラージュ侯爵家に抗議させて頂く」

「ま、待ってください! 何故私では駄目なのですか!? 私は家柄だって容姿だって全て貴方に釣り合います! どうして私ではいけないのですか!!」

「釣り合う?何故駄目なのか…、理由は簡単だ、お前みたいな女が嫌いだからだ。お前みたいな頭の悪い者も、家柄と容姿だけが取柄の者も、権力が好物で人を人とも思わない者も大嫌いだ。だからお前たちみたいな女と結婚などしない。

彼女と私の関係? はっ! お前に何の関係がある? 彼女や私が真実を告げても曲解して勝手に妄想を膨らませるんだろう? いつも都合が良いように解釈しているくせに。 お前たちは彼女が出てくる前までは私は王太子殿下とデキてるって言ってたくせに、女が現れてホッとしたか? 本当にお前たちはくだらない」

ワナワナと震えている。


「メディド卿、そちらの話はそちらでして貰えますか? ベルーシャは体調が良く無いのです。申し訳ないですが、クラウスが来たら馬で帰ったと伝えて貰えますか?」

「え!? ああ、分かった。ランデッド嬢は大丈夫なのか?」

「…………、今は何とも…ただ戦っています。それでは失礼します」

「戦う?」

ベルーシャを抱き上げると帰って行ってしまった。


残ったメディドがミラージュ嬢に尋問開始。

泣いて許しを乞う姿が皆に晒された。


そこへ戻ってきたクラウスとオンバック副騎士団長は、ドン引きした。

声をかけるべきか無視するべきか…。ただ、オンバック副騎士団長は見て見ぬ振りもできず、声をかけた。

女性は顔をぐしゃぐしゃにしながら座り込み泣いて謝罪しているが、メディドは冷たい目で見下ろし、女のプライドを抉っていく。

「お前のどこが容姿端麗だと言うのだ?」

「うぅぅぅぅ、私の顔はセルベス様の好みでは無いのですか? どう駄目なのですが〜?」

「お前の顔は私と比べて美しいと言えるのか? そこにいる者に聞いてみるか?」

「何故、何故セルベス様と比べるのですが〜〜〜、あっっまりでずぅぅ」

「あー、それからそのセルベス様だが、いつ私がお前に名で呼ぶことを許したのだ? あ? お前などから名前で呼ばれると鳥肌が立つ!」

自分の腕を見せると、ブツブツした皮膚が見える。


「分かるか? 心の底からお前みたいな女が気持ち悪いのだ! 二度と顔を見せるな!」

「おい、その辺にしておけ!」

オンバック副騎士団長が止めに入った。

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