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31、変革

どこから漏れたのか、デバール辺境伯の一人娘 アルベルの婚約者を交換したのも全ては、自分の息子を幸せにするための事で、婚約破棄を前提とした縁組だった。それはもう否定しようもない周知のこととなった。


元平民の女をラティウス王子殿下の妃とすることが果たして幸せに結びつくだろうか?

クリムト侯爵夫人の策に嵌った、王妃陛下は被害者。

貴族派の陰謀、リンザバラン国の策略。


王族派、貴族派などが入り乱れて舌戦を展開していた。


ただ一致しているのは、稀代の悪女 ガルシア・クリムトを断罪せよ!



王宮にはクリムト侯爵と息女ジャクリーンが陛下に謁見を求めた。

「私は王妃陛下の命令でガルシアを妻にしたのです! 我々は無関係です! 何故このような目に遭うのですか!? 我々はリンザバラン国となんの関係もありません!」

「お母様は王妃陛下と親しくさせて頂いただけです! あの予言書だって、きっと本当は王妃陛下が望む通り書いた小説を予言書だって言い間違えたに過ぎません! 何故 お母様だけが悪く言われるのですか!!お母様は敵国の間者なんかじゃありません! 優しいお母様ですーーー!! 助けてください! お母様を! お父様を、クリムト家を見捨てないでください!!」


泣き叫んでいるが、謁見が許可されることはない。

衛兵たちも冷たい目で見下ろすだけで、少しも同情は引けない。

虚しく『許可はおりなかった』そう言われて追い出された。



牢の中のガルシアも突然 自分の身に降りかかった大事件に動揺していた。

何故、自分が稀代の悪女と呼ばれて牢に収監されているか理解できない。

牢の中に投げかけられる悪意・憎悪は相当なもので、食事にも虫が入っていたり、髪や石が毎度入っている。「私は王妃陛下の友人! クリムト侯爵夫人! 偉大なる予言者なのよ!!」不満を訴えても改善されることはない。


こんな筈では無かった!

私はただ正しい乙女ゲームのキャストに戻しただけ!

みんなが知らないから私がプレイヤーとして導いただけなのに!!

どうして!? こんなのストーリーには無かった! どうなっているの!?


ブツブツ牢の中で考えていた。

そうだわ! 私は予言者として、今回のことを肯定させる、皆が納得させる予言をすれば流れが変わるかもしれない!! 

考えろ! 思い出せ!! あの予言書には書いてない驚くべき事実!

あの後の展開で何が起きた? 

主要キャスト以外のところで何か、何か…。ナレーションで何か…。




デバール辺境伯たちもマフォイ国に着き、平穏な生活を始めた。

やっと親子らしい生活を始めたいのに、アルベルはクラウスの家で生活し、帰ってこない。

凄く寂しく思っていると、クラウスは一緒に暮らさないかと誘った。

クラウスの屋敷の使用人もデバール家の者、戸惑いはあったがその誘いに乗り、3人で生活するようになった。まあ、元々辺境伯領にクラウスが共に過ごしていたこともあったので、考えていたより違和感はなかった。


ヴァルトスはアルベルの変化に驚いた。

こんなにもリラックスした娘を見たのは初めてだった。

幼い頃 馬車の事故にあって以来、娘の顔にはどこか恐れがあった。ウォルターが修道院に入ってもそれは変わらず、不思議でもあった。そして予想だにしなかった婚約者の変更。アルベルは日毎体調を崩していった。その報告を聞くことが苦しくてならなかった。


自分たちは国に所属し、騎士として王家に忠誠を誓い、辺境伯として任を負っている。

アルベルとウォルターの婚約を反故にすることは、叛逆の意思ありと取られても仕方なかった。

そしてマイヤー伯爵も騎士団長として、王家の意思に背くことは難しかった。マイヤー伯爵にとってはクラウスもウォルターも同じ子供だが、アルベルも幼い頃から本当の子供のように可愛がっていて、クラウスとの未来の準備をしてきてくれた。マイヤー伯爵夫人は本当の母親のようにアルベルを見守ってくれていた。

子供たちと同じようにそれぞれの親も割り切れない想いがあった。婚約者を変える事に正当な理由はない。しかもウォルターには辺境伯の資質はない、クラウスとの縁が切れたとして、ウォルターをその位置に就ける事は国のためにもならない事だった。

そこで、マイヤー伯爵と協議の上、婚約は避けられずとも婚姻は回避する方向でお互いに納得した。


ヴァルトスはそこから密かに、養子を取るか、誰かに譲るかを考え始めた。

だが、どう考えてもクラウス以上の人間を見つける事はできない。

ヴァルトスもまた、幼い頃から見守ってきたクラウスを実の子供のように想ってきた。最終的にはクラウスを養子に貰い、婚姻は叶わずともアルベルと辺境伯で生きていって欲しいと思い始めていた。


だがそんな時、クラウスが辺境伯領まで訪ねてきた。

「私は国を捨てるつもりです。私は国を捨てられてもアルベルだけは捨てられません」


衝撃的な言葉だった。

私には考えもつかなかった。

そして父親として愛する娘の未来を守りたかった。

アルベルが選んだ男が何よりもアルベルを大事にする男で誇らしくもあった。


ヴァルトスは頭が冴えていくのを感じた。

「であるならば、私もその覚悟を受け入れ、全力で手助けしよう。お前たちだけに国を捨てさせたりしない。私はお前たちの父だ、絶対に守ってみせる」


そして皆で話し合い計画を立て実行した。

なんの痕跡も残さず忽然とヴァルフォーク国から消えたのだった。


国軍も辺境伯が身辺整理している事に薄々感じていた。

それを国に報告するべきか悩んでいた。


デバール辺境伯は国軍のリーダーである、ライオット・ハーベイを呼び話をした。


「ライオット すまない、私はアルベルが静かに暮らせるよう付いて行きたい。私がこの地を離れればここを守るそなたたちには多大な被害を与える。故に…無視して旅立つ事はできない。だから、そなたには話をしておく」


馬鹿だ! 辺境伯は馬鹿だ…。これで私が国に報告すれば辺境伯の計画は失敗し、お尋ね者として英雄の名を汚す事になる。それなのに、自分の身ではなく、この地を守る仲間のために最善を選び死力を尽くす、やはりこの方は英雄たる方なのだ。その方にこのような決断をさせるなど、なんと酷いことか! 怪我を負ってアルベル様がお戻りになったことで全てを決めたのだろう。もう、この方の決意を変える事はできない。


「承知致しました。 今のうちに出来ることをしましょう!」


ライオット副将軍はそれ以上何も聞かなかった。

ただ、辺境伯が抜けた後、この地この国を護るための手段を考えていく。

その動きに辺境伯にいる誰もがデバール辺境伯がこの地を捨てる覚悟をしたのだと理解したが、国に報告する者は誰もいなかった。



マフォイ国ではランデッド伯爵として妻を亡くし、娘の留学についてきた父として過ごしていた。辺境伯の息子と生まれ、領を守り民を守り、国を守る生きるために精一杯出来ることをしてきた。その結果英雄と呼ばれたが、今初めて息を吐いた気がした。


娘と共に食事を摂り、剣の稽古を見て、学園へ送り出し、部下の訓練をし、娘と婿(仮)の帰りを待ち、食事を共に摂り、たわいもない話をする。

平穏すぎて気が抜ける、それを楽しんでいた。


アルベルと過ごす時間が増えただけで、やる事は大して変わらなかった。

こんな生き方もあったのだと幸せを感じていた。




ヴァルフォーク国ではとうとう王妃だけではなく国王もこのままではいられなくなってきた。これまでの失策まで穿り出されて失脚は免れなくなった。

王を無理にでも擁護すると自分たちの立場も危うい、と対抗する人物を担ぎ出し円満解決を謀る。

王弟 アレキサンドル・ワグナールを王族籍に戻し国王と立てることで一致した。


国王と王妃には味方もなく国王と王妃は王族籍を廃され、辺境の地へ軟禁される事になった。次期アレキサンドル・ワグナールはアレキサンドル・ヴァルフォークと改め、14代国王となった。アレキサンドルには娘が2人いるが、息子がいなかった。

ラティウスは王子としても王太子としても申し分なかった。そこで、次期王はラティウスで問題ないと判断された。

勿論、王族派を強固にするためにキャメロン・バリーを婚約者にしたのだ。バリー公爵が大仕事をした。


アレキサンドル国王陛下は権力に固執する人間ではなかったため、余計な争いを生まないためにも、早々にラティウス王子を立太子させた。そして王家は盤石であると示した。


クリムト侯爵夫人はクリムト侯爵から離縁された。

捜査の結果、クリムト侯爵家と他国との繋がりを見つけることは出来なかった。そこで、クリムト侯爵家を断罪する事は出来なかった。だが、ガルシア・クリムトがこのヴァルフォーク国を混乱に陥れた事は事実であった為、処罰は免れなかった。クリムト侯爵家は元王妃であったブランシェスの実家 ガートン公爵家とも繋がりが深く、王族派の家を潰す事は得策ではなかったため、ガルシアを切り離す事でなんとか収めた。全てはガルシアが自分の地位を守るための陰謀であったと発表された。



ラティウス王太子殿下も王家の失態を挽回すべく奔走した。


ラティウス王太子殿下がバリー公爵家と破断になり、マルティナ男爵家と婚姻する事に利益を見込めないため、大筋はガルシアと貴族派の策略と吹聴したことが浸透する結果となった。よってラティウス王太子殿下にまで影響は出なかった。

しかもソフィアは自分の婚約者と仲睦まじかったので、マルティナ男爵家も無関係と判断された。

学園には平穏が戻った。

ただそこに、アルベル、クラウス、ウォルターはいなかった。



ウォルターを憲兵に捜索させて、マイヤー伯爵領にもウォルターの行方不明を伝えたが、マイヤー伯爵夫妻には連絡が取れなかった。

マイヤー伯爵は、デバール辺境伯領の指揮を執るように言われてマイヤー伯爵領にはいなかった。マイヤー伯爵夫人は実母が倒れてしまった為、実家へ帰っていた。そして、デバール辺境伯領や周辺は危険になるかもしれないので、暫く実家に留まるように言われていた。

だから王都からの手紙は読まれることがなかった。


王都の使用人たちが出来る事は、心配する事しかできなかった。

ウォルターの手がかりは何もなく、直前に多くの店で遊んでいた目撃情報もあり、悪い人間にカモとして連れて行かれたか、身代金目的の誘拐か…? 一応 捜索はしてくれているが、今は人員が避けない状況、相手からの接触を待つしかなかった。

しかし、なんの連絡もないまま時間だけが過ぎ去り、ウォルターは戻らぬままいつしか捜索は打ち切られていた。




デバール辺境伯領はライオット・ハーベイ副将軍が、デバール辺境伯と事前に準備をしていた為、突破される事はなかった。マイヤー伯爵が現場に行っても殆どやる事はなかった。

流石、鉄壁の防御を誇るデバール辺境伯領だった。しかし各地には様々な余波が出ていた。

王家にとっては話題の矛先を変える良い口実になり、王も交代したことで、目の前の危機に関心は移っていった。




マフォイ国の王宮騎士たちはクラウス・マイヤーと言う逸材に興味を持ち、度々王宮の騎士訓練場に呼んだ。学園内はウルバスたちは気づかなれないように遠くから見守っていたが、王宮内は護衛としてついていった。

心配性の父親がつけた、としてベルーシャに付き従っている。


指導教官より上の上官も面識を持った。

この国は平民の騎士の出世は隊長止まり、基本的には貴族の身分を持つ者が兵士を管理するのだ。上官は貴族、その下に平民の兵がつく。

その平民の指導教官たちがクラウスに指導していると、上官たちの目に留まった。そしてまた実力試しが行われる、クラウスは毎回 ちょっとの差で負けてみせる。

だが 見る者が見れば、クラウスがわざと負けていることが分かる。また上の人に呼び出される、の繰り返し。

そこで、目をつけてきたのがジェフリー・オンバック副騎士団長だ。


オンバック副騎士団長はクラウスに目をかけ可愛がった。

そしてそれは多くの嫉妬の感情を向けられることとなった。

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