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3、事故か事件か

突然馬が暴れ出した。

暴走した馬が猛スピードで暗くなった道を走り、馬車の中に乗っていたアルベルは咄嗟に何かに掴まろうとするも掴まる場所がない、右に左に体を打ち付けて気を失いかけていた。

「何があったの!? トーマ爺、トーマ爺!」

必死に語りかけるが、余裕がない。

「お嬢様、顔を出してはなりません! 突然馬が暴れ出して…、危険ですのでどこかに掴まって…おあっ!!」

猛スピードの馬車は形を保てず歪み分解し始め、何かに激突し大破した。

そこで意識は途絶えた。




深い深い意識の底で夢を見ている。

『あれは…覚えがあるわ。誰だっけ?』


何かの映像を見ているこの世界とは違う女の子たち。

学校帰りのコーヒーショップで甘い飲み物を飲みながら、スマホを見ている。

(スマホ? うん、なんか自然に出た)


「何でヒロインにすぐに靡くん? チョロすぎでしょ!」

「マジで顔と金しか魅力なし!」

「イヤイヤイヤイヤ、それ重要でしょう! 推しは愛でるもの、チョロさも魅力!」

「あー、確かにアイドルがすぐ横にいたら多少性格悪くても好きになっちゃうかも、そんでアイドルと付き合えるなら我慢…しちゃうか!」

「しちゃうな」

「のんのんのん! 生身より2次元でしょ! 完璧な顔、類稀な権力を持ったお家の子、魅力が他者と被らない、脱げば芸術的な筋肉、ヒロインが困った時には現れちゃうその能力、ええやん ええやん!」

「あははは」


『ああ、あったあった。菅ちゃんにゆかりんにまなっちに…おーちゃん 私だ!

何だっけ今重要なこと話してたよねー。確か内容は…乙女ゲームの話だ、イケメンは正義! 推しのいる人生、ご都合主義万歳! ヒロインの魅力を引き立てるためのモブ達や引き立て役の存在価値、悪役令嬢…美人 ヒロイン…可愛い系→美人好きはいないのか!? 

沢山話したなぁ〜。そうだ私はおーちゃん大山薫おおやまかおる…えっ? アルベル アルベル・デバールだよ!  あれ何だっけ? どっちが正しいんだっけ? あー分かんない、 はい、少し冷静になってください、一つずつ検証しましょう!』



「旦那様! 旦那様!!」

「何事だ、騒々しい!」

辺境伯の家令であるロータスが慌てる事など滅多にない。そのロータスが慌ててデバール辺境伯の元に来たのだ、落ち着けと言いながら嫌な予感がする。


「お嬢様が! お嬢様が!!」

「アルベル? アルベルがどうしたのだ!!」

「マイヤー伯爵家より戻る際、馬車が暴走し…大破し…重体でございます」

「な! 襲撃か? 護衛は何をしていた!?」

「キース殿がついておりましたが停められず、現在お嬢様に付き添っておられます」


辺境伯がアルベルの部屋に着くと、小さな体は血だらけで意識がなく死体のように血の気がなく動かない。辺境伯も今までにないくらい動揺している。

ベッドの傍に膝をつき手を握るがその手には芯がなく父の手から滑り落ちた。その感触が恐ろしくて強く握り直した。

『どうか、無事であってくれ!!』

「アルベル…駄目だ…目を開けてくれ!!」


「キース、報告してくれ」

「申し訳ありません!! くっ、馬車はマイヤー伯爵邸を出て5kmほどした所で、急に馬が暴れ始めました。特に襲撃などではなく、暴走した馬を何とか宥めようとトーマ爺さんが操作していたのですが…、馬は目を剥いて別々に走り出し馬車が歪み車輪が外れ…お嬢様は馬車の中で打ち付けられ、馬を止めようと近づいた時には馬車が大破し、アルベル様が外に投げ出され…木に打ち付けられて! 申し訳ありません!!」

「トーマ爺はどうした? 馬は?」


「…ずず、はい トーマ爺さんは…、お嬢様を確認した際トーマ爺さんも確認したのですが、既に亡くなっておりました。お嬢様をこちらへお連れした後、引き取りに行かせました。馬も同じように探しにいかせました」

「そうか、お前から見て馬の暴走はどう感じた?」


「………はい、今考えると2頭同時にあの様に暴れ始めるのは異様に感じます。ちょっと驚いたと言うものではありませんでしたあれは…怯え? 元々馬車の馬は気性も穏やかなものを選んでおりますし、トーマ爺さんの技量も間違いありません。…故意だったのかも知れません。でも一体誰が……?」

「現場を見に行く。ウルバス、 アルベルを頼む。キースは一緒に来い」

「「はい」」




3日後、マイヤー伯爵家の子供たちがデバール辺境伯の屋敷を訪ねた。

訓練にアルベルが参加しないことに疑問を持ち、訪ねた。

「アルベルは何故いないのですか?」

一瞬の間の後、辺境伯が答えた。

「アルベルは、事故に遭い今は会えないのだ」

「「「えっ!?」」」

3人の表情を辺境伯は見逃さなかった。


「いつですか?アルベルはどうなのですか? 怪我をしたのですか!?」

「アルベル…アルベルに会えますか! ここに来れないだけで元気ですよね!?」

「アルベル…はどうなったんですか?」


辺境伯は腕を組み突き刺す様な視線をウォルターに向けている。


「事故ってどんな事故だったんですか? 酷い事故じゃないですよね?」

「アルベル…、可哀想に…怖かっただろうに、スンスン アルベル…アルベル」

「どこで馬は暴れたんですか?」

「馬? どうして馬が暴れたと思うんだい?」

「えっ? 事故って聞いたから馬車の事故かな?って思っただけです」

その顔には愉悦の色が滲んでいる。兄2人も違和感を覚えた。辺境伯の目は鋭く笑っていない。


「本当に馬車の事故なのですか?」

「ああ、その通りだ」

「馬車の事故!? アルベルは本当に無事なのですか!?」


「…ふう、君たちのところから帰る途中事故…に遭い、未だ意識は戻っていない」

「「嘘だ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」」

泣きじゃくる兄2人と下を向いているが微かに肩が揺れているウォルター。

そこにいる大人たちは確信していた。


「アルベルに会えますか?」

「アルベルに会わせてください!!」


「…君たちはここに訓練しに来ている訳だから、訓練に入ろう」

「「嫌だ! アルベル、アアルベル…うぅぅぅ」」


「ふぅ、では少しの間だけだよ」

部屋に入ると小さな体はまるで人形みピクリとも動かない。

泣きながらアルベルの手を握るディビットとクラウス、腕を組みながらそれを見下ろすウォルター。

アルベルの体は布団から出ている部分は痣だらけだった。顔は青紫色で腫れ上がり瘡蓋が痛々しい、事故の凄惨さが伺えた。

「アルベル…アルベル…」

「アルベル…早く目を覚まして! 早くまた一緒に遊ぼう…」

「アルベル、ねえ 起きたら何がしたい? 何が欲しい? 目を覚ましたらアルベルが飽きないように本を沢山持ってくるよ、どんな話がいい?」

意識のないアルベルに懸命に話しかける兄たち。部屋を見回すウォルター。


「さて、訓練に向かうぞ」

涙目で兄たちは見上げ首を振り懇願するが辺境伯はもう譲らなかった。

溢れる涙を堪えきれず訓練に身の入らない2人、それでも辺境伯はいつも通り訓練をさせた。

帰る時間になると2人はもう一度アルベルに会いたいと言って会って挨拶をしてから帰った。



マイヤー伯爵邸に戻った3人。

上機嫌なウォルターを他所に2人が感じた違和感を母に話した。


「お母様、実はアルベルが馬車の事故で意識不明です」

「我が家から帰る途中の事故でもう3日も意識が戻っていないそうです」

「まあ! 一体どうしてそのような事に!? アルベルは無事なのでしょうね!?」

「…うぅぅ、分かりません! もう、3日も経つのにまだ意識が…意識が戻らないのです!」

「そんなに酷い事故だったのですか!?」

「はい、そのようです」

「その事でお話しがあります」

「何です?」

「実は今回馬が暴走して馬車が大破しアルベルは怪我を負い、御者は死にました。

それで………………。」

「それで何なのです!」

「その事故にウォルターが関わっているようなのです」

「な、何を言っている? 滅多なことを申すな!

ふぅ…………、根拠は何ですか?」


「実は思い返すと、あの日アルベルが自宅に帰る時、2人でアルベルを見送っていると、ウォルターがやって来て妙なことを言ったのです」

「妙なこと?」

「はい、ウォルターはてっきり謝罪に来たのだと思ったのです。ですがウォルターは…

『謝るようなことはしていません。ただ私は、きっとアルベルに会うのは最後だと思うから挨拶に来ただけです。俺はお前の事が大嫌いだ、もう二度とその顔を見せるな! じゃーな! お前の顔を見なくて済むと思うと清清する』

などと言ってアルベルを泣かせたのです」


マイヤー伯爵夫人の顔色はみるみる悪くなっていく。

「更に本日私たちは何も知らずに屋敷に伺い始めてアルベルが事故にあったと知ったのです。事故としか聞いていなかった…馬車の事故とは知りませんでした。それなのにウォルターは馬が暴れて馬車が暴走したと聞く前に知っていたのです」


「そんな馬鹿な! 偶然ではないの?」

「ウォルターは笑っていたのです!」

「僕も見ました! どうしたらいいのでしょうか! うぅぅぅぅ」


「デバール辺境伯様はお気づきになられたか?」

「…はい、我々で気づくくらいですから」


「私たちがアルベルの心配をしている間、部屋を品定めしているようで恐ろしかったです」

「なんてこと! ………ウォルターを呼びなさい、本人に確認します」



呼ばれて来たウォルターはニコニコと機嫌が良かった。母カロラインは単刀直入に聞いた。

「ウォルター、アルベルの事故の件を聞きましたね?」

「はい、それが何か?」

「あなたはあの事故に関わっていますか?」

「……………。」

沈黙が恐ろしかった。

「あはは、バレましたか? そうです、本で読んだことを実践してみたのです、僕だって凄いでしょう? いつもアルベルを褒めるけど僕だってやれば出来るんです!」

「何をしたのですか?」

「聞きたいですか!? ふふん、馬に毒虫を仕込んだんです。でもすぐに刺してしまっては意味がないので走っている途中に蓋が外れるよう細工して付けてやったんです。

上手くいくか不安でドキドキしましたが、今日行ったらちゃんと事故が起きていて成功した事にすっごく興奮しました! アルベルが死ななかったことは誤算でしたが、まあ、まだ意識も戻っていないと言うし、成功といえると思います」


意気揚々と話す自分の息子が得体の知れない者のようで怖かった。


「ウォルター、お前がやったことは犯罪です、ちゃんと理解していますか? 今回アルベルは助かりましたが、御者は死んだのです。これは犯罪なのです、やってはならない事を仕出かしたのです」

「アイツが生意気だから痛い目に遭わせただけで僕は悪くない! 僕から兄上や母上を奪ったアイツの方が悪い奴だ!!」

カロラインはウォルターの純粋な悪意にこれ以上言っても無駄だと知った。


「いいですか、お前は殺人者であり、殺人未遂の悪人です。辺境伯家は我が家より家格も上で、重要なお役目に就いておられる家柄です。その家の娘を害そうとしたのですから、あなたには相当の罰が下されます、いいですね? 下手をすればお前は処刑、我が家は身分剥奪、お父様も職を失う事になるでしょう。兄たちはどこかの家に使用人として引き取られ、一家離散です、それがお前のした事です。

ウォルターを部屋から出してはなりません、連れて行きなさい。

ウォルターは部屋で反省なさい。そして奪ってしまった命に向き合いなさい」


カロラインはすぐ様、王都にいる夫に手紙を書いて早馬で出した。

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