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28、新生活

アルベルは怪我が治ると馬で出発した。

当てのない旅…では無い。

目的地はクラウスのいる地。

そう、マフォイ国。


クラウスはあの日アルベルが助けて欲しいと心の叫びをあげた事で、決断した。

国を捨てる覚悟だ。

6歳のあの日、アルベルを護ると誓い日々研鑽を積んできた。そのアルベルが助けて欲しいと泣いている、ならばする事は一つ、絶対に助けてみせる!


早速クラウスは穏便に国を捨てる計画を立てた。

他国への留学、今のクラウスであれば傷心のため留学すると言っても誰も不思議には思わない。密やかに強かに、留学先でアルベルを迎えるための準備をしよう。

クラウスは父に話をした。

クラウスの行動は後で露見すれば、王家の意思に反いた反逆罪に問われる可能性がある。


「父上、私はアルベルをこのままには出来ません。ですから、国を捨てる覚悟をしました」

私の決断に父は覚悟を感じ、静かに『分かった』そう言った。

反対も説得もしない、計画を淡々と聞いていた。


「であるならば、私が取るべき行動は……騎士団長を辞任する。それから、デバール辺境伯にはキチンと話をしなさい。私は暫くマイヤー伯爵領で隠居生活を楽しむよ」

「ぐっ、すみません」


自分も剣の道を志し訓練に励む中で、騎士団長の地位は努力だけでは成り得ないことは理解している。恐らく父の夢であった騎士団長の職を私の我儘によって奪うのだ。自分だけが幸せになっていいのだろうか…、どんどん揺るぎない意思が萎んでいく。


「クラウス、私に悪いと思う必要はない。私もアルベルの事は可愛く思っていたのだ。カロラインから聞くアルベルは、努力家で才能に溢れ、男であったならばと思うほどであった。

お前のことも優秀であったからデバール辺境伯家に取られるのは正直寂しくもあったが、それは全て幼き日にアルベルを護る為に身につけた誓いの結晶だ、だから2人の努力が報われることを誇らしくも思っていた。


陛下の護衛の任につき舞踏会で揃いの衣装で踊るお前たちは、とても似合いで幸せそうで、楽しそうだった。2人の幸せな未来を信じて疑わなかった、将来が楽しみだった。ところがウォルターと会った後のアルベルは日々やつれていき、あんな目にまで遭って!可哀想でならなかった。

私は陛下の側で予言は、全てはラティウス殿下が幸せになる為と聞いた。内心、ラティウス殿下の為なら、クラウスの幸せは? アルベルの幸せは? ウォルターの幸せは? 納得できない悶々とした想いを抱え、いつしか陛下への忠誠心をぐらつかせていた。

私としても限界なのだ、私の子供たちを不幸にする者たちを身を挺して護ることに、疑問に思った瞬間から私は騎士団長ではなかったのだ。

私は、自分の子供たちの幸せの方が重要なのだ。だからクラウス、お前はお前が幸せになる道を模索し全力でもがけば良い。私たちのことを気にせずとも良い」


「申し訳ありません。親不孝をお許しください」

「ふふ、親不孝ではない。自分の足で、力で生きる息子を誇らしく思う。他国では頼れる者がいない、油断せずにしっかりな」

「はい、有難うございます。父上もどうか、お元気で」



そしてその足でデバール辺境伯の元を訪れた。

同じようにデバール辺境伯に許しを乞うた。辺境伯はすぐにアルベルを呼んだ。そしてアルベルの意思を確認した。


アルベルは支えなしにはまだ歩くことが出来なかった。それでもクラウスの存在を喜び、クラウスの計画に二つ返事で賛同した。

「お父様ごめんなさい。ウォルターと結婚するくらいなら私はこの国を出ます。それも許されないならば自死を選びます。恐らく同じ結果でしょうから。

辺境伯家の家を継げるのは私しかいないのにごめんなさい。私はウォルターとでは未来を描く事はできません。クラウスを選べばお父様を窮地に立たせると分かっていても、私はクラウス以外を選べません。どうぞ、廃嫡なさってください」


「アルベル、私は今まで父親らしい事は何もしてやれなかった。 だから誤解しているかも知れないが、私はお前を愛している、お前の母親を今でも愛している。

ただ、武人として生きることしか出来なかった、私はこの国を護ることが私の愛する者たちを護ることだと思っていた。だが、王子の幸せのために私の娘を踏み躙られることに易々と納得出来るほど出来た人間では無かったらしい…ふっふっふ。

アルベル、私にとってはこの国の行く末より王子の幸せより何よりお前の幸せが大切だ。よって大切な宝であるお前と縁を切ることなど絶対にしない。それで反逆者としてこの国を追われようとも構わない。お前の好きに生きなさい、私が全力でお前が幸せに生きていくための助力をする。私たちは家族だ、未来永劫変わる事はない、いいな?」

アルベルはスカートを握り肩を震わせ何かを飲み込んだあと、キッと正面を見据えた。


「さて、作戦会議と行くか」

ニヤっと笑ったデバール辺境伯は、大将軍、英雄その両方を持ち合わせた、戦に臨むような顔つきになっていた。


デバール辺境伯はすぐに行動に移した。

密偵を放ち、同時にどの国に移住出来るかすぐ様調べ始めた。そして、同時に予言の内容についても探り始めた。これに関しては簡単だった、相手はクリムト侯爵夫人と分かっていたし、ある程度の情報は以前から入っていた。それは王妃陛下付きにカスタングが護衛騎士として付いていたからだ。積極的にアルベルに関する情報は流していた。当初、苛立ちから辞めようとも考えたが、敵の行動を知れていた方が良いと言う事で、そのまま続け情報を流すことになった。だから王妃陛下から責付かれ予言書を書き溜めている事は把握していた。その都度侵入し、内容を確認してはデバール辺境伯に送っていた。


その予言の内容は、あと少しの国に対する忠誠心を捨てさせるには十分なものだった。


デバール辺境伯は身辺を整理し、英雄として受けた資産でマフォイ国に屋敷や土地を購入していった。少しずつ私兵を向かわせ状況を整えていった。クラウスも郊外の屋敷とは別に隣に屋敷を購入、少しずつ購入した土地はある街の2/3、だが、あまり派手なことをして目立つわけにはいかない、表向きは側近たちの名義で購入したりして徐々に侵食していった。いずれは1つの領全てを手に入れるつもりだ。


そしてクラウスは一足早く留学した。

アルベルが寝ている間に着々と作戦は進行していった。


そして怪我が治った頃合いを見て、アルベルは『旅』に出発した。

密かにマフォイ国へ入り、クラウスが用意した屋敷で合流した。


「アルベル! 会いたかったよ! 怪我の調子はどう?」

「クラウス! 私もずっと会いたかった! 怪我はもう治ったよ! 一人で先に来て寂しく無かった? ごめんね、有難う!」

「アルベルに会えないのは寂しかったけど、また一緒にいられると思えば全然、やり甲斐すら覚えたよ! また一緒に暮らせるなんて 夢のようだよ」

「クラウ、大好き! これからはずっと一緒にいられるんだね!」

「うん、ずっと一緒。 そうだ、デバール辺境伯がね、アルベル・デバールでは危険だから、偽名を用意したって。『ベルーシャ・ランデッド伯爵令嬢』だよ」

「ランデッド伯爵!?」

「うん、ベルのお母さん アミーシャ・ランデッドから取ったって言ってた。ランデッド伯爵にお願いしたみたい。デバールだと、狙われるかも知れないからって。

因みにね、デバール辺境伯はヴァルトス・デバールからアミル・ランデッド伯爵になったよ」


「ベルーシャ・ランデッドか、クラウはクラウス・ランデッドになるの?」

「ふふ、それも良いけど、出来ればクラウス・デバールがいいかな? 辺境伯やアルベルが守ってきたものをそのまま受け継いでいきたい。でも、それが叶わなくてもアルベルが一緒なら幸せだからいいよ」


クラウスは、恐らくデバール辺境伯があの地を離れたことで、ウォルターとアルベルの婚約は解消されると踏んでいた。ただ、すぐに帰ることは出来ない。恐らく今後ヴァルフォーク国は混乱するからだ。そしてクラウスが立てた計画の中ではアルベルは傷心の旅に出て行方不明になる。だから所在が分かってはいけないのだ。


予定通りに作戦は遂行されていった。

頃合いを見てアルベルはベルーシャとして、クラウスと同じ学園に留学した。


そしてクラウスとデバール辺境伯がこの地を選んだのは、ハワード・ロダンに接触を図るため。彼から剣術を習うためだ。彼もまた有名な剣士なのだ。折角なら彼の技を伝授…、頂きたいが無理であれば盗みたい。アルベルであれば訳ないことだから、剣の寵児と呼ばれるその才能を間近で見るために選んだのだ。更に野望もある。



ウルバスとキースは国軍の辺境伯の家族の護衛の任についている。つまりデバール家の私兵ではない。今回の計画が持ち上がった時、ウルバスたちを巻き込むべきかどうか悩んだ。彼らがデバール家に従っているのは、デバール家が辺境伯として国からの任務を遂行しているからだ。ただ秘密に話に同席させるかどうかは…、アルベルは悩まなかった。


「ウルバス、キース…ごめんね 私この国を出て行くわ。だからもしかしたら反逆者として追われるかもしれない、そうなったら2人に迷惑をかけるから、もう私を守らなくて良いよ、どうせ出て行くまではこの屋敷から出ないから襲われる心配もない。2人の好きにしてくれて良いからね」

「「分かった」」

2人はそれだけ言った。アルベルは彼らの人生を自分の人生に巻き込むことは悩んだが、彼らに秘密は持たなかった。彼らが仕事として国にアルベルたちの計画を話しても構わないと思った。時間だけは稼ぎたいと思ったが、彼らがどこへ行く時もアルベルの側を離れないのは周知のこと、つまり2人が事情聴取された時に『気づきませんでした』なんてすぐバレる嘘をつかせたく無かった。だから、通常通りずっとそばに置いた。それにクラウスもいない今は、どの道魘うなされるアルベルの傍に必ずどちらかが付き添っていた。彼らが保身のためにアルベルを裏切っても、アルベルは彼らを裏切ることは出来なかった。


それからも2人はいつもの様に傍にいた。

ただ、いよいよ辺境伯領から出発する時、一緒に行こうとする2人に

「一緒に来たらウルバスもキースも犯罪者になっちゃうよ!?」

と聞くと、

「大丈夫だ、国軍を辞めてきた。今は私兵としてデバール様に雇われている。心配すんな、俺たちが傍にいなきゃ誰が背中をさすってやるんだ?」

「そうだぞ、夜中に泣いているお前をよしよししながら抱っこで眠らせてやるのは俺たちしかいないだろう?」

「うわぁぁぁぁぁん!! 有難う!有難う!大好き! 傍にいてくれて有難う!!」

アルベルは2人と別れる覚悟をしていたので、2人がこれからも傍にいると知って涙が枯れるまで泣いていた。


2人は生涯アルベルの傍にいるとことを決めた。

葛藤はあったが、1番は今の国に護る価値はあるのか? それは大切なアルベルを犠牲にしても護る価値があるのか? そして答えは出た、例え反逆者として国を追われることになっても目の前の少女を護るという事が自分の仕事だと。


私兵たちも皆ついてくる、それだけの魅力がヴァルトス・デバールと言う男にはあった。

私兵たちの家族も皆 デバール家の一員として面倒を見ていた。だから屋敷で働く使用人も私兵の家族だったりする。無理やりではない、『私たちにも出来ることをお手伝いさせてください、恩返しがしたい』と手伝う内にそのまま定着したのだ。だからクラウスが先に入国したが、王都の私兵の家族や使用人それからアルベルの専用の護衛の一部を先に向かわせることで賄えた。アルベルの世話をしてきた者たちは皆が父であり母だった。それぞれに意思に決定を任せたが誰も残ると言った者はいなかった。



アルベルはヴァルフォーク国を出た辺りから気分が高揚していった。

乙女ゲームの枠から離れられた気がしたからだ。

元々、ゲームの中のアルベル・デバールのその後については描かれていなかったため知らなかった。自分の未来がどの様に向かうか分からず漠然と不安だけを抱えていた。

幼い頃から温め育んできたクラウスとの未来も、ゲームの強制力か何かで捻じ曲げられた。だからやっぱり自分の人生は苦手なウォルターと婚約し、やってもいない罪で断罪されるのではないか、脇役である自分は良くて国外追放、悪ければ処刑…。もがいても結局運命は変えられないのだろうか? 乙女ゲームを知っているだけに、漠然と抱えた不安を拭うことができなかった。

だが、国外に出たことで、このまま攻略者たちが卒業するのを待てば、乙女ゲームのプレイ設定時間が過ぎ去れば、抜け出せるのではないか!? やっとトンネルの先に光が見えた気分だった。


やっと自分の運命を乙女ゲームに絡め取られて行く感覚が解けて行く、そう思うと心も体も軽くなっていった。マフォイ国でクラウスに会った瞬間、弾け飛んだ!

『もう絶体、クラウスのと人生を諦めたりしない!!』

全身からクラウスが好きだと言うのを醸し出している。


「アルベル、キスしてもいい?」

「クラウ、キスして欲しいって強請ってもいい?」

「ふふ、喜んで。ちゅう ああ…アルベル愛している、またこうして腕に抱くことができて幸せだ」

「私も幸せ!」

アルベルは足を絡ませ飛びついて抱きついた。

「わぉ! 熱烈だね、元気いっぱいだ」

「だって嬉しいの! ここでならクラウを大好きって言えるから! もう蛇みたいに絡みついて離れない。もう我慢しなくていいと思うと自分を抑えられないの!」

「プハッ! いいよ、僕もアルベルに絡みついて離さないから、互いに絡みついて連理の枝となろう。ちゅう 幾久しくよろしくね」

「勿論! 有難く幾久しくお受け致します。ちゅう 愛してますクラウス様」


もう余計なことは考えられなかった。今は、ただ浮かれて幸せを満喫した。

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