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27、混乱−2

デバール辺境伯の登城、これは只事では無い。

だが、この状態で陛下はデバール辺境伯にすぐに会うこともできない。かと言って無理やり追い出すこともできない。取り敢えず暫く待たせることにした。


何か解決策を出さなければ、デバール辺境伯に対峙できない。



暫くすると、王妃陛下とクリムト侯爵夫人が到着した。

王宮はただならぬ雰囲気が漂っていた。それはデバール辺境伯が私兵を連れて来ていた事もある。ただこれは普通のことだった、辺境伯であり英雄であるヴァルトス・デバールは他国からも狙われている、移動の際にはこうして大勢の精鋭を引き連れている。平時であれば普通の光景だが、今は全員が殺気立っていて妙な緊張感を生んでいる。

あの辺境伯がとうとう動いた、それは最悪の結果かもしれないそう感じていた。


「これは何事だ?」

「王子殿下、危険かも知れないので自室にて待機ください」

「いいから、何が起きているのか報告せよ!」


「くっ、実は、…デバール辺境伯が謁見の許可なく登城しております。只今 陛下は王妃陛下たちと場を持っておりますので、控室にてお待ち頂いております」

「なっ! 辺境伯はどちらでお待ちなのだ!」

「お待ち下さい! こう言ってはなんですが危険です。殿下が人質に取られては陛下が窮地に陥ります! ここは堪えてください!」

「何を言っている? 何故デバール辺境伯が我々に危害を加えることが前提なのだ!? 私が知らない何かがあるのか?」


「…分かりません、ただ陛下が予言書の内容についてお知りになり、激怒して王妃陛下とクリムト侯爵夫人をお呼びになっておられます。デバール辺境伯は私兵も多く有しておりますし、殿下は…」

「逃げてどうにかなる問題では無い! デバール辺境伯の元へ行く」



タイミングが良すぎるのだ。

このタイミングで都合よく来れる訳がない! 辺境伯領からここまでどの位の距離があると思っているのだ! 考えられるのは既に王都に密かに入り様子を窺っていたのだ。

ここを間違えれば大変なことになる。


「デバール辺境伯、お邪魔しても宜しいですか?」

「ラティウス王子殿下、構いませんよ」

「今日はまたどうなさったのですか?」

「ええ、実は陛下にお願いがあって謁見の申請をしていたのですがいつまで経っても良いお返事をいただけないので、こちらまで直談判しにきた訳です」

「そうだったのですね。領地はどうなさったのですか?」

「ええ、まあ国軍がおりますのでお任せしてきました」


シーーーーーーン


「それにしても随分待たされておりますが、何かあったのですか?」

「これ、突然来たのはこちらだ、控えよ」

「申し訳ございません」


『くそ、目の前の人間は物腰は柔らかいが間違いなく獰猛な虎だ、雰囲気に呑まれる。気合を入れなければ体が震えるのを止められない』


「陛下の謁見はまだかかりますかな?」

「ふぅ〜、ご存知なのでしょうが、今回の事件を引き起こしたクリムト侯爵夫人と王妃陛下を呼んで予言書について問いただしていると聞いております」

「それであれば、その場に伺っても構わないでしょうか? 私も無関係とは思えないので」


『ああ、やはり辺境伯は既に予言書の内容をご存知なのだ、それでここまで来たのだ』


「デバール辺境伯、中では腹立たしい話を聞くことになっても武力による解決はしないと誓って頂けますか?」

この願いはひどく理不尽で甘い約束ではあったが、一国の王子として言わずにはいられなかった。

「ええ、勿論ですよ。私は話をしに来たのであって、喧嘩をしに来たわけではありません」


何もかもがデバール辺境伯の策にハマっている気がしたが、アルベルを友と側近にと望む自分が逃げるわけにはいかない、そう思った。



扉の前に立つと中から怒鳴り声がしている。

「貴様! これが予言書だとでも言うのか!!  ふざけるな!!」

「あああああ、ですが…それが正しい物語なのですもの…、皆が幸せになる」

「王妃、そなたも同じ意見なのか! ラティウスの結婚の意義を理解していないのか? ギルバート、ウィリアム、それぞれの婚姻も個人の意思でどうにかなるものでもない!ウィリアムは失われつつある力の存続で決まったものだ、アルベルにおいては聞けば辺境伯とする為幼い時からクラウスに教え込んでいたそうではないか! ウォルターは勉学はおろか剣すら触れない、お前はこの国を平和で幸せにするどころか崩壊させるつもりか! クラウスをウォルターにしたことによりマイヤー騎士団長は辞任した! 貴族派からはそなたと私の資質を問う決議まで出す始末だ! 

これが予言書? こんな物のために全てが狂ってしまった!」


「わたくしも知らなかったのです! ガルシアが予言の通りにすればラティウスが幸せになると言われて…鵜呑みにしてしまったのです!」

「お前は本気で平民上がりの男爵令嬢を王妃に迎えるつもりなのか?」

「っししし知らなかったのです。ただ、ラティウスが幸せになると言われて…、国にも末永く平和が訪れると言われて!!」


ガチャ

「陛下、失礼致します」

「ラティウス! 暫く待っていなさい」

「陛下、廊下で話は聞こえていました。それにここにはデバール辺境伯もお連れしています。この話は私も無関係では無いようなので同席させていただきます」

「なっ! デバール辺境伯! す、すまない…だいぶ待たせてしまった。入って話そう」


ラティウスは初めて予言書を呼んで絶句していた。

そして母を呆れて見ていた。


「母上いえ王妃陛下、王家を潰す気ですか? あの変なお茶会も私とソフィア嬢をくっつける為? あり得ない、ソフィアに王妃の資質なんてない、キャメロン・バリーと何度もお茶会をしていますよね? 彼女は幼い頃から王妃教育をされ教養も素養も申し分ない、だから婚約者として選ばれた、ご存じのはずですよね? あんなに実の娘のように可愛いと仰って陰ではこんなくだらない陰謀を企んでいたのですか?

アルベル! アルベルは素晴らしい人物です、私は自分の側近に加えたいとすら思っていました。しかも婚約者を変更したのは婚約破棄させるため? 狂っている! 貴女は人をなんだと思っているんだ!! 私が幸せになる?こんな結果が国の平和!?

ふっ、お聞きしますが、1人の女性をめぐって側近たちが夢中になる女性を権力で奪い取って、側近は私に心から仕えられると思いますか? 誰にでもいい顔をして弄ぶ女性を妻として私は本当に幸せになれるとお思いですか!? 婚約破棄された女性たちは? その家は? 報復を考えないとでも? 全く理解できない!!」


「ラティウス…母はあなたが幸せにこの国を護っていけるならと……ごめんなさい、ごめんなさいガルシアの予言を信じてとんでもない事になってしまった…ごめんなさい うぅぅー…許して頂戴」


デバール辺境伯は顔色一つ変えない。

それが返って恐ろしい。

クリムト侯爵夫人が王妃陛下のところへ持ってきた物だ。一体いつデバール辺境伯が知ることができたと言う?だが間違いない、デバール辺境伯はこの予言書の内容を知っている、知った上で今日 国王への謁見を求めたのだ。


「ガルシア・クリムト 貴様は反逆罪に相当する、牢に入れておけ!  貴様の罪を明らかにして処刑とする、分かったな!! 王妃、そなたも同罪だ、正式な処分が下るまで自室に蟄居を申し付ける、連れて行け!」

「陛下! お許しください! 騙されただけなのです! お許しください! ラティウス! そなたからも陛下にお願いして頂戴!!」


「王妃陛下! 私は予言をしただけです! 反逆罪だなんてあんまりです! 戦争だって流行病だって私のお陰で最小限に済んだではないですか! 何故こんな仕打ちをなさるのですか!! あんまりですーーー!!」



部屋から退出させられた後、デバール辺境伯と向き直った。

「待たせてすまなかった。そしてご息女のことに関しても申し訳なく思う」

「ご許可を頂かずに登城しましたことお詫び申し上げます。本日はお願いがあって参りました」

「願い…とは?」

デバール辺境伯の表情は冴えていた、動揺もない。


「辺境伯の任を返上したく存じます」

「ま、待て! 何を言う、そなたがあの地を離れるとなれば、隣国のリンザバラン国を抑えられぬではないか! アルベル嬢の婚約は今すぐ元通りにする故、考え直して欲しい!」

「ふっ、買いかぶりでございます。申し訳ございません」

「デバール辺境伯! こうして謝罪もしているそなたも多少 譲歩しても良いではないか! 辞めてどうすると言うのだ!? どこに行ったとしてもそなたは狙われる、であるならばあの地を守りながら、娘と暮らせば良いではないか!」


「……ふぅ、その娘が行方不明なのです。ウォルターの恐怖から逃れるために、傷が癒えてから少し旅をしたいと出て行ったのですが、連絡が取れなくなりました。ですから、妻の忘れ形見であるアルベルを探しに旅に出るつもりです、私が迎えにいってやらねば…お許しください」


ウォルターの名を出されると強くは出られない、しかも常に標的とされる辺境伯家、娘が行方不明となれば、敵に拐われた可能性もゼロでは無い。

「まずは、兵を差し向けて見てはどうか? こちらから兵を出しても構わない」

「もしアルベルが意図的に隠れているとするならば、そちらの兵では見つけ出すことは難しいでしょう。私も…、娘にこれまで親らしいことも出来なかったので、今後は1人の親として生きるつもりです。こちらは辺境伯を賜る時に頂いた剣でございます、全て返上させて頂きます。お世話になりました、失礼申し上げます」


取り付く島もない。

デバール辺境伯の意思は変えられないことを悟る。


「デバール辺境伯、アルベルは無事なのですか?」

「ラティウス王子殿下、先日は遠い辺境の地までお越しくださり有難うございます。

あの子が3つ領を越えたところまでは連絡が来ていたのですがね、私は私の手で探してやるべきだと思うのです。我儘を申しまして申し訳ありません」

「心配ですね、一刻も早く見つけてやらねば。こうして陛下もウォルターとの婚約は撤回してくださったのですし、アルベルにもクラウスにも知らせてやらねば」

だけどラティウスには分かっていた。アルベルには護衛がついている、あのアルベルが信頼する護衛を振り切ることはない、そして自分の立場も護衛の立場も理解している、その護衛は辺境伯の私兵か国軍、連絡を断つ? あり得ない。本当に行方不明などである訳がないのだ。剣術大会で見たアルベルはどんな敵でも負けることはないだろう、であるならば…。


「先日も申し上げた通り、アルベルの有能さを買っています、この先 共に働くことはあり得ましょうか?」

暗にアルベルやデバール辺境伯がこの国に戻ってくる可能性があるか聞いた。

「或いは、あるやも知れません」

私の問いにデバール辺境伯は『ない』とは言わずにいてくれた。今はそれを良しとしよう。


「辺境伯領の事は、国軍が管理しておりますので。では失礼致します」


国王の引き留めも虚しくデバール辺境伯は旅立ってしまった。辺境伯領にいた私兵でありながらデバール辺境伯と共に戦いあの地を護ってきた精鋭を連れて忽然と消えたのだった。


英雄を国から失った事は忽ち広がり、クリムト侯爵夫人の処分や王妃の蟄居などではとても治りつかない状態になった。マイヤー騎士団長もいない、デバール辺境伯も国から去った。

デバール辺境伯の地には進軍してくる兵が増え、周辺地域にも侵略者が増えているとの報告が上がってくる。国内は不穏な状況に、王妃陛下とクリムト侯爵夫人のせいにしているが、国王にも王妃陛下の横暴を止めることが出来なかった責任があると、貴族派を始めとする多くの貴族が声高に叫び、緊迫した緊張状態が続いていた。ただ現状はリンザバラン国の兵が押し押せている状況下で、後回しにされた。

ここで国王としての存在感を示さなければ、同じ場所に座ってはいられない。王家はここが正念場だった。



学園は緊迫した状況だったので休校となった。

ソフィアは婚約者の家に避難した。……え!? 婚約者!!

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