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26、混乱−1

クラウスはマイヤー伯爵領とは反対側にあるマフォイ国に留学した。

マイヤー伯爵領の隣はデバール辺境伯領で隣国とは停戦中とは言え、緊迫した状態だ。国交があり留学できる場所となると限られてくる。いくつかある候補の中でクラウスはマフォイ国を選んだ。


クラウスはあと1年も経たぬうちに卒業だったが、2年として編入した。

この国にヴァルフォーク国の関係者は殆どいない。

誰も知る人がいない中で勉学に励んだ。


クラウスは寮には入らず、大きな屋敷を購入した。

郊外で王都からは離れ少し不便ではあるが、広大な敷地もある。そこで日々訓練も欠かさない。1人では広すぎる家で生活を始めた。

それはまるで二度とヴァルフォーク国には戻らないと言う覚悟のように感じた。



そしてまた問題が起きた。

学園で一人ぼっちのウォルターにソフィアが話しかけたのだ。それは優しい光景であった。

「ウォルターくん、最近いつも1人だね。大丈夫?」

「君は誰?」

「ソフィアよ、ソフィア・マルティナ。なんで最近1人なの?」

聞き耳を立てている者たちは、目を丸くする。何故ならウォルターの暴力事件は噂が広まっているし、ソフィアは実際にその場にいたからだ。


「さあ、知らない。以前は話しかけてきた人が話しかけてこなくなったってだけだよ」

「そうなんだ」


「ウォルター・マイヤー ちょっと来なさい」

「はい」


ウォルターは成績が悪いので呼び出された。

「ウォルター・マイヤー 君のこの成績では2年になる事は出来ない。どの様な勉強をしている? 家庭教師を雇っているという話だったが、ずっと修道院に入っていた為ついていけないのは分かるが、これは酷すぎる。これまで王妃陛下のご命令で大目に見ていたが、次回のテストからは規定の成績が取れなければ留年どころか退学もある。その前に保護者の方と面談が必要だ、もっと頑張りなさい。……君はあのクラウスくんの弟なのだろう? やれば出来るのだからもっと努力しなさい。いいね?」

「……はい」


ウォルターは5歳から修道院へ入っていた為、勉強についていけないのは間違いなかった。小学1年生が大学生の問題を解くようなものだった。王都に来てから家庭教師を雇い勉強していたが、1〜2ヶ月でなんとか出来るレベルではない。

アルベルさえいなくなれば比較されないはずが、またしても比較され否定される方の人生だった。


「ディビット君もクラウス君も勉学だけでなく剣術も一流だったが、君はそちらも出来なのだね。血筋は良いはずなのだがな〜、努力が足りないのではないかな? お父上やお兄さんたちに泥を塗らないようしっかり頑張りなさい」

「…はい」


『くそっ、こっちは5歳から祈ることと掃除くらいしかしてないんだよ! あー、面倒くさっ! 勝手に期待して裏切られたみたいな、こっちが迷惑なんだよ!

あーあ、面倒なことばかりだ。何をやっても面白くない』



そして後日、現在王都には母がいなかったので父親が学園にやって来た。また成績の話をされた。バツが悪く感じたが、父は成績について何も言わなかった。やはりずっと勉強していなかったのだから仕方ないと思っているようだった。その夜

「ウォルター、お前の将来について考えたか?」

そう切り出された。ここでも父は成績の話はしなかった。


「正直に言っても良いですか?」

緊張して少し幼い言い方をしてしまう。

「ああ、構わない」

「僕は5歳から修道院に入っていて勉強も剣術もして来なかったので、いきなり他の皆と同じようにやれって言われても無理です。僕はずっと家にいたいです、それが本当の望みです」

「そうか。だが働かなければ生きていくことはできないが、それのついてはどう考えている?」

「僕に出来そうな事を見つけます!」

「お前が出来ることとはなんだ?」

「これから探します」


「……ふぅー、残念だが時間がない、現実の話をしよう。お前に残された道は修道院に戻るか、野垂れ死ぬしかない。以前にも話した通り 私は職を辞した、もうこの国に残ることができない為、いずれ国外に行く。その為に領地や爵位は国に返上する。だからお前が住む家がなくなるのだ」

「は? なんで? やっと出てきたのにまた入れだって? 母上は? ディビット兄さん、クラウス兄さんは? どうするの!!」

「カロラインは私についてくると言っている。ディビットは…今は騎士として働いているが、もしかしたら国外へ脱出するかもしれない。クラウスは恐らく留学先から二度と戻ってこない。それぞれが生きる道を決めた。もしどうしても学園に残って勉強すると言うならば、寮に入りなさい。その費用は用意する。理解したか?」

「そんな…、僕には1人で生きていく力なんてない! どうしたら良いんだよ!!」

「全てお前のせいではないか! 醜い嫉妬でアルベルを害し、大きくなって戻ってきてもアルベルに危害を加えた、だから私は騎士ではいられなくなったのだ! そしてお前は住む家を無くしたのだ! 分かるか? 全て自業自得、お前の尻拭いのためにこんな事になっているのだ!! ハーハーハーハー」

いつまでも現実を理解しない息子につい苛立ってしまった。


「僕のせい? 悪いのはアルベルでしょ?」

「アルベルの何が悪かったと言うのだ?」

「大好きな兄さんたちや母上を僕から取った! 僕だって頑張っていたのにいつだってみんなが褒めるのはアルベルだった! アイツがいるから僕は評価されない! いつだって『アルベル、アルベル、アルベル』うんざりだ。だからいなくなれば良いと思って何が悪いの?  今回だって…お茶会の時だって王子も周りもアイツをチラチラ見てた。ほんと腹立つ! アイツを見ているとイライラするんだ。気づいたらアイツを蹴り飛ばしてた。それだって僕をイラつかせるアイツが悪いんだ! 全部全部アルベルが悪いんだ!!」


「ウォルター、お前はいつまで経っても子供のままだな。うまくいかない事を全て他人のせいにして言い訳して、逃げ続けている。アルベルは関係ない、お前の近くにいたから狙われただけだ。お前は努力が報われない事を他人のせいにして逃げているだけ。心が成長していない、自分が1番と思っている子供が他人に嫉妬して側にいた優秀なアルベルに当たっていただけだ。


ふーーーー、結論から言えばお前は1人で生きていく力はない。誰かの庇護の下生きていくしか出来ない。1番良いのは修道院へ入ることと思うが、それが嫌なら自分の道を示しなさい、前にも言ったがもう時間がない。話は以上だ」


父は自室へ戻ってしまった。

自分がどうするべきか、そんなの分からないよ! お前たちが勝手に修道院に入れてまた勝手に戻したくせに、ここへ来てどうしたいかだって? 知るわけがないだろう!!

僕の心が成長してない? は? 勝手なこと言ってくれる! 煩い! 煩い! 煩い! 僕の味方なんてどこにもいないんだ! 

あれって、僕が邪魔だから出て行けってことだろう? 修道院へ行くか、野垂れ死ぬか選べって、そう言うことなんだろう? 僕を邪魔者にしたこと許さない! 絶対に許さない!




学園では相変わらず授業について行くことが出来ない。周りは粗暴なウォルターと距離を取り、ヒソヒソと噂話をしている。

「クラウス様の弟でありながら…何もかもが劣る凡人以下だなんてね」

「ああ、騎士団長の息子でありながら剣も振れない愚鈍さだ」

「ウォルター様って誰でも分かることもご存知ないのよ?」

「ああ、天才家系で唯一の馬鹿だから使い物にならず修道院に入れたんじゃないか?」

「ちょっと言い過ぎよ! クスクス」


『ああ、どうしてこう自分の悪口って耳元に聞こえるんだか…。お喋り雀め』



「ウォルターーーーーくん、どうしたの?」

ヒロイン ソフィアは一人ぼっちのウォルターに声をかけた。

「何か用ですか?」

「ううん、用は無いけど…寂しそうに見えたから」

「ソフィアさんはよく人を見ているのですね」

「ああーーーーー、もしかして! 婚約者のアルベルちゃんがいないから寂しいんでしょう!! ウォルターくんてば案外寂しん坊なんだね!」

「はぁ?」

「だってアルベルちゃんがクラウス様には笑ってくれるのにウォルターくんには笑ってくれないから、拗ねちゃってあんな事したんでしょう? 同じ幼馴染なのにクラウス様だけ特別になったから妬いてたんだよね!」

「勝手なことをどいつもこいつも……ふざけるな!」

ウォルターはソフィアの顔を殴りつけた。

「「「「「キャーーーーーーーー!!!」」」」」


「知ったふうなことを言うな! この馬鹿女!!」

「痛――い! やめて! やめてよ!!」

「や、やめろ!」


騒然となりウォルターは周りの男子生徒に取り押さえられた。

そしてマイヤー騎士団長が再び呼び出され、自宅謹慎となった。


そしてこの事も世間にはすぐに広まった。

王妃陛下の横暴で被害者が続出している。マイヤー騎士団長も辞任、クリムト侯爵夫人の予言は確かなのか!? 予言を信じて周りが見えていない! デバール辺境伯も何度も謁見を求める書状が届いているが陛下は全て却下されているって話だ。

貴族派がクリムト侯爵家を断罪すると息巻いている。そしてその矛先は王妃陛下にも向かっている。その王妃陛下の予言者の言いなりを好きにさせている国王陛下にも王としての資質があるのか?

少し前までは予言者の存在は実しやかに囁かれる程度だったが、ここへきてクリムト侯爵夫人は『王妃陛下のお気に入り』から『予言者ガルシア・クリムト』と明らかになってしまった。神秘的なベールを脱ぎ今や詐欺師として、王妃陛下を騙しこの国を陥れるつもりだ、王妃陛下は情報操作で自分のお気に入りを予言者に仕立て上げて王妃の座に就いたなど様々な悪評が広がりを見せた。


マイヤー騎士団長がウォルターを世に出せないと判断し修道院に入れたのに、わざわざ呼び戻して問題を起こさせ辞任に追い込むなんて、やり口が汚い。優秀な息子も国外へ出たらしい。デバール辺境伯の息女は大怪我を負い寝たきりらしい、あそこは唯一の一人娘だと言うのにどうするのだろうか?


王家に対する批判は日に日に強まっていく。




国王陛下は王妃の護衛を呼びつけていた。

「そなたらは王妃の部屋でクリムト侯爵夫人の予言を聞いたり予言書を見たりはしていないか?」

「予言書の存在は分かりません。ただ、クリムト侯爵夫人が王妃陛下に話されていた事は…国の未来とは関係ないものばかりでした」

「どんなものなのだ?」

「ソフィアと言う男爵令嬢と王子殿下と恋に落ち最後は結ばれると言ったものでした。よく巷にある絵本の内容かと思っていたのですが、それが実在していて…どうやらラティウス王子殿下とソフィア・マルティナ男爵令嬢の話のようでした」

「ソフィア? ソフィアとはどう言った者なのだ?」


「はぁ…、マルティナ男爵の落胤で学園に入学する前までは平民として生きてきた者です。取り分け王子殿下と親しそうにも見えませんが、その2人をくっつけようとしている節がありました」

「何を言っている? 理解できない、ラティウスの婚姻は政略的に必要な戦略だ、それをただの男爵令嬢と恋愛? 国を潰すつもりか?  それで、デバール辺境伯の令嬢とマイヤー騎士団長の倅を入れ替えたのはどう繋がる? どう関係しているのだ?」

「分かりかねます、ただ間違っている。正しい配役でこそ物語が進む…と」

握り拳を作る護衛。


「クリムト侯爵夫人の言う予言の内容を探れ! そして報告せよ!」

「はっ、承知致しました」



しかしそれは案外早く見つかった。

ブランシェス王妃も予言の内容をせっついていたのだ。そして一向に持ってこないガルシアに苛立ち罰をちらつかせ持ってこさせたのだ。だがその内容に驚愕し、王妃は隠していたのだ。

公に出来るわけがなかった!


それを近衛騎士が国王陛下の元へ提出し、激震が走った。

「これは何の冗談だ?」

正にその冊子に書かれていた物は子供が喜ぶようなシンデレラストーリーだった。

しかも世間を騒つかせているウォルターとアルベルは、ラティウスの人生とは何の関係もなかった。ウォルターは婚約者がありながらソフィアに心を寄せてアルベルに婚約破棄を言い渡す、婚約破棄を言い渡すために婚約させたというものであった。


「何なのだこれは! クリムト侯爵夫人と王妃をここへ呼べ!!」



しかし、その前に想像していなかった人物が到着していた。

「陛下、デバール辺境伯がお見えになり謁見を求めております」

「な、何を言っている? 書簡ではないのか? まさか本人が!?」


辺境伯が国王の許可もなく持ち場を離れ王都まで来たのだ。それは只事ではなかった。

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