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21、剣術大会

剣術大会はサクサク進められる。

男性は全員参加を義務付けられているため、教師が対戦組み合わせを決める。

手っ取り早く強い者と弱い者を組み合わせて篩い落として、強い者を残していく。それが一番短時間で終わるからだ。


アルベル以外にも剣術大会にエントリーしている女性はいる。

同じように辺境伯の者だったり騎士の家門の者だったり、様々だ。女性の相手は強い者をぶつけられる。これは単なる嫌がらせだ。だが最近(マイヤー騎士団長になってから)は女性騎士も登用していることから、中級レベルと当たることが多い。弱い者は早く負ければ早く帰れる。この制度を皆大いに歓迎している。

王宮から騎士団長や隊長も観に来るのは午後からだ。



順調に試合は進められていく。

正直、キチンと訓練している者としていない者では勝負にならない。

相手が強者だと思えば初めから戦意喪失し、すぐに負けて帰る。中には、『俺はダークホース! 一発ぶちかましてやる!』と血気盛んに強者に臨む者もいるが、教師たちの目は確かだった、敢えなく敗退。


「嘘だ! 油断しただけ、もう一度! もう一度やらせてくれー!!」

そう叫んでいるのはニコル・ノーザンと対戦した者だ。

ニコル・ノーザンも辺境伯の娘。

アルベルより一回りは大きい女性だ。

相手が女性と油断したのかも知れないが、相手の力量を見極められなかったと言う事に他ならない。強者と弱者を組み合わせるからと、『相手は自分より弱い』と侮るなど剣を握る者として怠慢としか言えない。勝負は一回きりなのだ。


『それにしても見るからに女戦士アマゾネスみたいな人を見て自分より弱いと思い込めたな…ある意味凄い。どう見ても強者は……はは』


噂によると彼女も去年オリエンテーリングで完全制覇をしたらしいのだが、同じチームの女性を担いで往復したとか何とか…。あり得ないと思っていたがあり得なくもない!?



大抵 女性と対戦する男性は『女だてらに剣を振っていい気になっている』と思われている。

こちらの気持ちなどお構いなしだ。

クラウスが人気があるのも、見た目や個人の趣味などを固定概念で差別したり見下したりしないという事もある。

何でも出来る者は、出来ない者の気持ちが分からなかったりする。

だが決してクラウスだって最初から何でも出来たわけではない、必死に努力した結果にすぎない。だから努力する過程がどれ程、困難で苦しいものかはよく知っている。努力する者を笑ったりしない、結果が出ない者を蔑んだりしない、常に正しくあろうとする姿に皆が羨望の眼差しを向ける。


高潔なクラウスは数多くの女性の誘いを断っていた。女性に対し潔癖なのでは? そう思われていたが、アルベルが入学して以来、あの堅物クラウスがアルベルに甘く囁くところを幾度となく目撃されている。そのギャップに女性たちは腰砕けだ。そして愛する者にだけ甘くなる姿に人気は更に上がる。

1年2年とクラウスが優勝している大会、クラウスのファンたちが、アルベルがいると知っていても今日も黄色い声援をあげている。



他にも騎士の家門で、エントリーしている女性がいる。

女性王族の警護に就く為、小さい頃から騎士にすべく育てられている。一族で才能がある者は養女に出されて腕を磨く。その者たちも順当に勝ち進んでいた。


今年の女性たちは冷やかしではない、かなりの実力者たちだ。

強者と思われていた者たちが次々に沈んでいく中、以下の者が実力を示していた。


当然勝ち残る女性たちとは自然と仲良しになってしまう。

ニコル・ノーザン   辺境伯の娘   2年

メイリン・ガルーシャ 騎士の家系の娘 3年

ジャンヌ・マーロイ  騎士の家系の娘 2年

アルベル・デバール  辺境伯の娘   1年


「素晴らしい腕だったわ、ニコル様」

「ああ、止めてください『様』なんて、ニコルでいいわ」

「なら私もメイリンで」

「私も」

「私も」

「それにしてもメイリンは去年もその前も成績を残しているのに、相手はファシルだなんて、嫌がらせが酷いわね」

「あー、でもあれは仕方ないの。去年3回戦でファシルと当たって私が勝ったものだからもう一度対戦させろって直談判した結果らしいわ。明日こそは一回戦でお前をケチョンケチョンにしてやる!って捨て台詞吐いてたから」

「あら〜、雪辱を果たせなかったのね、残念。ふふ」

「アルベルは凄いわね、剣だけを叩き落とすだなんて、何かポリシーでもあるの?」

「別にないわ。ルールが剣を落とした場合、負けを認めた場合、これ以上戦えないと判断された場合、と決まっていたから手っ取り早く剣を落としただけよ」

「相手はよく握っていなかっただけとか言ってたわね、おかしいこと」

「あー、でも体を動かしている方が性に合っているから こう言うのって全然苦じゃないわ!」

「実は私も!」

「アルベルは成績もいいのよね? 凄いわね、どうやって両立させているの?」

「私は兄弟もいないし、母もいなかったから、勉強と稽古しか持て余した時間を使う方法がなかったから…」

「そうなのね。そんな小さい時からマイヤー様とご一緒に勉強も稽古もされていたの?」

「ええ、母がいない私にマイヤー伯爵夫人が母になってくださり、ディビット様とクラウス様が兄になってくださったの」


「ふふ、優しい顔をするわね。まあ、当たった時はお手柔らかに頼むわね」

「こちらこそ」



ニコルとジャンヌが当たった、そして死闘の末ニコルが勝った。メイリンは勝つには勝ったが怪我をしてしまい、棄権した。ニコルはクラウスと当たって負けた。

クラウスはこれまでアルベルのように相手を1分も使わず倒すことはしない。剣を合わせながら、隙を見せた瞬間に喉元に剣を突きつけた。だから相手は負けを認めやすかった。

対するアルベルは相手を始めまでに観察し、素早く弱点を見極める、始めの合図と同時に回り込み剣を叩き落とす。その戦いぶりは正直 剣士とか武道から言うと小狡く見えて、観衆からはアルベルの負けを求めるものが多かった。


「アルベルの奴、まともに負かしてやればいいのに!」

「全くだ、普通にやったって負けやしないのに!」

ウルバスとキースは苛立ちを募らせる。

「全く何も分かっていない、アルベルのあれは技能が高いからこそ出来る事だって言うのに!」

とは、カスタングの談。アルベルの試合が見たくて午後から半休を貰って来てしまった。表向きは、新人発掘。全然発掘する気なんてないのだが。

憤る3人の近くでマイヤー騎士団長もアルベルの技能の高さに感心している。

「流石はデバール辺境伯の娘と言ったところか。いい目をしている」

「ですがこれまで、まともに戦っていないのであの者が優勝では揉めるのではありませんか?」

副騎士団長が懸念する。

「そうだな…。見る目がない者が多いからな」


最終戦はクラウスとアルベルの対戦となった。

全体的にクラウスの優勝を望む声が大きい。そこで、騎士団長が一つ提案をした。

「最終戦はルールを少し変えようか、参ったと言うまでと言うのはどうかな?」


クラウスとアルベルは意義を申し立てなかったので、今回のルールはどちらかが『参った』と言うまでになった。つまり剣を落としても拾って戦える、これはクラウス有利に働くと思った観衆たちは「うぉぉぉ!」と盛り上がりを見せた。だが、もう1人盛り上がる人物がいた、アルベルだ。その姿にクラウスは苦笑いをする。


「ベル、別に遊びの時間が延長されたわけじゃないからね」

「クラウ手加減しちゃ駄目なんだからね!」

「酷いな…してないよ、いつも…結構必死なんだから」

「嘘よ、傷つけないようにって気を遣うくせに!」

「それはだって仕方ない、傷つけたくないもん」

「あーーー、ゴホン、恋人トークはその程度でいいかな?」

「「あ、はい」」


アルベルは深呼吸をすると、カスタング、ウルバス、キースを見てニコニコ手を振った。

『見ててね!』

カスタングに口をパクパクして伝えると、カスタングも『うんうん』と頷きながら応える。

明らかにアルベルの様子は最終戦に対する緊張感ではなく、大好きな人に成長記録を見せるかのようだった。お遊戯会の壇上の子供のように何度もカスタングを振り返る。

愛しくもあり、心配でもあった。集中せずに怪我をしたら…、いつの間にかカスタングは両手を合わせ祈るような形をしていた。


「始め!」

その声で激しく剣がぶつかる。

アルベルは先程までと纏う空気が変わった。

クラウスはアルベルと何度も剣を合わせている。勝つためにはクラウスの重い剣が必要となる。アルベルは素早く剣筋が読み辛い、実践特化した動きをするからだ。それに勘がいい、だからアルベルが逃げられないように振った剣に力を込めてダメージを持たせる作戦だ。

ところが、アルベルは剣を下からまともに受けることがない、上手に力を逃してしまう。そうなるとアルベルにダメージを与えられない。


周りの観衆はアルベルはすばしっこい小賢しい人間でまぐれで勝ち進んだと思っていた。ところが、目の前でクラウスと相対しているアルベルは先程までとは全く違う人間だった。

クラウスの攻撃を受け流すと、次には攻撃的に前にバンバン出てくる。クラウスがそれを受けて防御に回る。

「あ!」

一瞬バランスを崩した、その隙を見逃すほどアルベルは優しくなかった。すぐ様そこを狙って剣を鞭のように振るってくる。捌くのだけで精一杯だった。何とか持ち堪え、アルベルの癖はこの後左足を後ろに下げる、そこを狙ったクラウスの攻撃! ところがアルベルの足はそこになかった。しかもクラウスが受けたアルベルの剣の重さがダメージとなって、逆にクラウスに来ていた。目の前のアルベルは何度も剣を合わせた見知った者のはずが、今は別人に感じた。


「アイツやるなぁ〜」

「本当にマジで凄いな」

「見よう見真似でここまでやるか!」

アルベルはカスタングが練習しているところを見ていてカスタングを真似したのだ。

「俺たちの癖もよく見てるぞ」

「ああ、この間なんて俺 ウルバスとやってんのか?って錯覚あった」

「くそっ! 可愛いすぎんだろー。でも見ただけで真似されるなんてすげー悔しい」

「そう言うなよ、小さい頃からお前見て練習して、必死で真似して…お前を側に感じてたんだからさ。恐らくお前が目標なんじゃねーかー?」

「そうだな、1人でよく頑張ったな。まさか、さっきの見ててってこれか!?」

「あり得る、勝敗じゃなくて『上手になったでしょう?』って事かもな」

「ははは、相変わらず『カスたん』が大好きすぎんだろ」


「あ、やべー。アイツ俺の真似だけじゃねーぞ」

「おい、なんだあの動き!」

「あんなん周りにいたか?」

「アレは…はは、剣聖 ディラン・クロムウェル様の剣捌きだ。ああ、そう言えばこの間アルベルが来ていた時、横でご指導下さっていたな…アイツはすげーな。強くなったなぁー、アルベル」


その様子は当然騎士団長と騎士副団長も見ていた。

「はは、ここであれを見るとは…」

「全くですな」


クラウスは耐えきれずバランスを崩し倒れた。これでクラウスの首に剣を当てればクラウスの負けが確定。

「ニャーーー! アチョっ! うぎゃっ!」

アルベルはクラウスを避けた勢い余ってそのまま突進していった、クラウスを怪我させたくなくて、壁に突っ込んでベシャッと蛙のようになって地面に反対向きに倒れていった。

「ベル? ベル!大丈夫!?」

アルベルは意識がなかった。

剣を捨てて抱き起こしアルベルを呼ぶ。

「それまで! アルベル・デバール戦闘不能により、勝者クラウス・マイヤー!」


無責任な観衆は沸いていたが、見る者が見れば、完全にアルベルの勝ちだった。

クラウスはアルベルを抱き上げて、医務室に走っていった。


気がついたアルベルに試合のことを言うと

「あーあ、もっと遊びたかったな。カスたん見てくれたかな?」

「ああ、見て驚いてた。意識が戻るまでは居られなかったけど心配もしてた。俺たちも驚いたぞ、カスタングにそっくりだもんな」

「えへへ、一生懸命練習したんだ!」

「そう言えばいつもと癖が違かったけど何で?」

「んー、意識してないから分からない。ただね、試合の時はいつも相手を知らない人だと思ってやってる。その場で癖とかは探すようにしてるの、敵はいつも知らない人だからいつもの癖じゃなくて目の前の人を見るようにしてる、それと多分カスたんの真似してたからかな?」

「「勉強になります!!」」

「はは、完全に負けだな。アルベルに負けました!」

「ん? クラウが勝ったんでしょう?」

「まあ、だけど内容は僕の負け。あーあ、もっと訓練しなくちゃ!」

「クラウは十分強いのに…でもまたクラウが遊んでくれるなら嬉しい!」


クラウスとアルベルの試合を見ていたラティウス王子の護衛たちも正直ビビっていた。

とても学園生のお遊びではなかった。恐らくクラウス、アルベルどちらと対戦しても負けていただろう…。久しぶりに血が滾る試合を見て、自分も訓練したくなっていた。

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