表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/50

2、悪夢

アルベルは5歳になると、淑女教育が始まった。だから今まで庭を護衛や兵士たちとかけずり回っていた時間は少なくなってしまった。家庭教師がつき様々な勉強をする。

そしてその中でもマナーは厳しく躾けられる。と言うのも本来辺境伯とは国境を守る要、関係次第では王家の嫁ぐ可能性もある立場だ。デバール家には現在跡を継ぐ者がアルベル1人なので、王家との縁組は考えていないが、辺境伯が持ち場を離れられない分、その代理は主要な要人に会う機会が多々あるのだ。その観点から辺境伯の子供たちは代々、武芸だけでは無く、勉強もマナーも完璧を求められる。


小さなアルベルには母がいなかったせいもあって、使用人や護衛たちと立場が近い関係でも許容されてきたが、淑女教育が始まるとそれらも線引きされ正しい在り方を求められた。

それがアルベルには寂しくて仕方ないが、カスタングとの約束のため我慢した。だけど、部屋に2人きりになると侍女のマリーがアルベルを甘やかしてくれた。その時だけは肩の力が抜ける瞬間だった。


それ以外にも変化があった。

今まではマイヤー兄弟が剣術を学びにデバール家へ来ていたが、アルベルもマイヤー伯爵家に行くようになった。マナーと社交と勉学を学ぶためだ。デバール辺境伯家には現在 女主人が不在だ、そこでマイヤー伯爵夫人がお茶会や令嬢としての学びを教えてくれている。

週に2回行き来しているのだ。


アルベルは朝早くにマイヤー伯爵家に到着する。そうすると、ディビットとクラウスと一緒に剣の稽古をしたり図書室で本を読んだり、勉強をしたりする。その後、マイヤー伯爵夫人から指導を受ける。マイヤー家には女児がいないのでアルベルを可愛がってくれ、母の代わりに世話を焼いてくれる。だからマイヤー家も大好きだった…1人を除いて。


そう、ウォルターだ。

相変わらず、アルベルを見ると突っかかって来る。

マイヤー家に行く前日の夜、密かに眠る時 『ウォルターがお腹を壊して部屋から出てきませんように』と祈っていることは内緒だ。


「ベル! こっちにおいで」

「クラウス兄さま なあに?」


「ふふ、この間来たお客様がね 持ってきてくれたお菓子だよ。とっても美味しかったからベルに食べさせたいと思って残しておいたんだ!」

「うわぁー! クラウス兄さま お菓子がキラキラしててとっても綺麗で食べるのが勿体無いほどです」

「うん、飴細工って言うんだって。お砂糖と同じですっごく甘くて美味しいんだ。でも、この鳥を作るのは大変みたいで王都では高価なのに人気なんだって」

「こんな綺麗な鳥さん初めて見たわ」

「さあ、お食べよ」

「勿体ないわ! 溶けたら鳥さんいなくなってしまうのでしょう?」

「ふふ、確かにね。でも食べなくても置いておけば溶けちゃうよ。折角ベルに食べさせようと思ったんだから、ね? 美味しく食べて。ほら、あーん」

「うん、分かった。あーん。ん!! 甘―い、フッゴフおいひい!」

「ふふ、良い顔。美味しいからベルに食べさせたいと思っていたから、すっごく達成感がある! それからね、この間続きが読みたいって言っていた本も届いたよ、後で一緒に読もう!」

コクコクコク

「ありふぁふぉー」

「ふふ、可愛い」


「ベルー! ベルー!!」


「ん? デビ兄さまだわ!」

「何だろね? 兄さまここだよー!」

「ベル、クラウス ここにいたのか。ねえ、ベル後で一緒に剣術やろうよ! 良いだろ?」

「はい、勿論です!」

「なら僕もやりたい!」

「はい、勿論です!」


「うわぁー!また負けた! ベルはまた腕を上げたんじゃない!?」

「うん、そう見える、どんな練習してるの?」

「前と変わっていません。カスたんがいないので今はウルバスさんに相手をしてもらっています」

「そっかー、練習が足りないのかなぁ〜」

「んー、淑女教育が始まるまではずっとお稽古ばかりしていたけど、今はその時間も取れないので、部屋で出来る訓練をしています。例えば…反復横跳びとか、廊下をダッシュ訓練、ベッドの上でジャンプとか」

「ベル? そんな事してると叱られるよ?」

「へ?」

「反復横跳びまでは、うん いいと思う。でも廊下ダッシュもベッドの上でジャンプもしちゃいけない事として教わるよ?」

「はい、でも爵位を覚えたり、王様の名前覚えたりベッドの上でピョンピョンしながら覚えると不思議と覚えられるんです! 最近はスワログ語の単語とかメーシャン語の単語とかもそれで覚えてます!」

「えー!! ベルはもう、そんな事まで覚えているの?」

「はい、辺境伯の跡取りは辺境伯の代理であちこちに行くからいろんな事覚えなくちゃいけませんって…、体を動かす時間が減ってしまいました」


「大変だね」

「ねえベル! 次の時間 僕と一緒に授業受けてみない?」

「そんなぁ〜、僕と散歩に行こうよ!」

「じゃあ、クラウスも一緒に受けようよ。ベルのレベル知りたくない?」

「あああああああ、確かに気になる。でもベルと手繋ぎお散歩もしたかったーー」

「大丈夫! なら最初の10分でベルには難しそうだったら出ていけばいいよ、それならいいでしょう?」

うん、ここに私の意見は反映されない。まあいいか、兄さま達が楽しそうだから。



取り敢えず3人はディビットの授業を受けた。

ディビット兄さま達の授業は国内の一般教養的な内容だった。国内の身分制度や歴史と言った基本的なレベルでアルベルも習っていた。この基礎内容が分からないと王立学園に入学どころか、貴族として生きていくことが出来ない。この内容は7〜8歳レベル、5歳のアルベルが出来ることが驚異だったのだ。可愛い妹分が優秀で2人の兄は大喜びだった。



「サムア、兄上達はどこに行ったの? アルベルも見かけないけど?」

「ディビット様たちは授業にお出になっております」

「あー、そっかディビット兄上は授業か、クラウス兄上は違うだろう? 2人で遊んでいるのか?」

「いいえ、ディビット様の授業にお2人もご出席なされております」

「は? 何のために?」

「さあ、ディビット様が面白いからと仰られて…」

「面白い? 何が?」

「アルベルお嬢様が大変優秀なようで、自分の授業も分かるか見てみたい、と言う事のようでございます」

「は? そんなの分かるわけないのに兄上は何を考えているのだ? あー、馬鹿にして遊ぶのか? …なら、私も誘ってくれればいいのに」

「いえ、アルベルお嬢様は既に他国の言葉まで習われていら」

「馬鹿を言うな! そんな事ある訳がない!! アイツはまだ5歳だ、私と同じ5歳だぞ?お前の聞き間違いだ!」


だからディビットが勉強している部屋を覗きに行った。

すると本当にアルベルは兄たちと一緒に勉強していた。しかも座っているだけかと思ったら、指されればキチンと正しく答えて褒められているし、兄たちも誇らしそうに褒め称え笑顔だった。


『兄上たちはあんな笑顔を私に向けてくれることはないのに…、いつも褒められるのはアルベル。本当にアイツ邪魔なんだよ』



授業が終わるとマイヤー伯爵夫人の社交のお勉強。

お茶会に呼ぶ時、呼ばれた時のマナーや、テーブルセッティング、食事、ドレス、流行、派閥、呼ぶ人間の選別、ドレスコード、お茶の種類、各家の事情・人間関係、犬猿の仲の人間、領地の状況・特産品、話を振る順番、序列などなど覚えることは沢山あって驚きだ。


女性の社交とは、噂話を姦しくひっきりなしに話している多くの嘘の中から僅かな真実を見つけることと、隠したい真実を気づかないふりで掬い上げること、そして人脈作り。

むむむ、高等テクニック。


どこにでもキーマンはいる。

噂話の根源であり、情報を操る人間、そういった人物は注意して目を離してはいけない。

それから『厄介な人』には注意すること。この場合、厄介とは常に中心人物でなければ我慢ならない人や、嘘を真実のように撒き散らす人や、他人を陥れようとする人など…。


5歳の女児に言われても正直よく分からない。

それはマイヤー伯爵夫人も分かっていることだろう。それでも伝えてくれるのは、老婆心…ケフン、母親のいないアルベルの母親代わりとして、伝えたいことが沢山あって、何もかもをと焦りすぎた結果だろう。有難いことだ。


こんな考え方をする私は5歳児とは思えない生意気な人間だ。



一生懸命マイヤー伯爵夫人の口から紡がれる言葉を聞き漏らさないように書き記していく。今すぐは使わなくてもいずれ必要なことだから。

その真剣な様子にマイヤー伯爵夫人も目を細めて微笑む。

5歳でこんな話を真剣に聞く子供はいない。その優秀さに密かに目をつけている。

もっともっと鍛えてこもマイヤー伯爵家に欲しい、そうほくそ笑む。



マイヤー伯爵夫人のレッスンが終わり、庭でお茶をする。

「アルベル、これは授業ではないから気楽にして頂戴ね」

「はい、マイヤー伯爵夫人」

「ふふ 今はカロラインでいいわ」

「はい、カロライン様」


たわいもない話をしていると、そこへクラウスが加わり、更にディビットが加わり話が盛り上がる。楽しい団欒の瞬間だ。そこへウォルターもやって来た。ウォルター以外で楽しそうにしていることに苛立ちを覚えた。


「何でここにお前がいるんだよ!」

ウォルターを全員が見上げた。

「何を言っている、今日はアルベルが来る日だろう?」

聞き流そうとしたが、尚も食い下がる。


「そうじゃない! 家での授業が終わったらサッサと帰れよ!」

「ウォルター、なんて言う口の利き方をしているの? それがマイヤー伯爵家の人間だなんて恥ずかしい。なんて礼儀知らずなのかしら、お前はまだ人前に出せるマナーを身のつけていない。部屋へ戻って一から勉強なさい」

「お母様! 何故私が叱られるのですか!? アイツと私のどこが違うって言うのですか!!」

持っていた扇で机をパシリと叩いた。

「サムア ウォルターを連れて行きなさい」

「はい、奥様。さあ、参りますよウォルター様」

「どうして? お母様! お母様!!」

遠くなる声、母や兄は残っているアルベルを気遣う声をかけている。

サムアに連れていかれるウォルターを気にかける者は誰もいなかった。


部屋に入っても泣いていた。

ウォルターがどんなに努力しても褒められるのはアルベルだった。アルベルが横にいると自分が無能と言われている気がして、アルベルを見ると訳もなく腹立たしくなった。

2人の自慢の兄も実の弟よりアルベルを可愛がって、剣術の相手をしてやる。あんな奴の相手をするくらいなら私と遊んでくれればいいのに!!

お母様だってあんな風に私とお茶をしてくれたことなんてない!

何でいつもいつもいつもアルベルなんだ! アイツなんていなくなればいいのに!!




夕方となりアルベルは家に帰る時間。

マイヤー伯爵夫人には屋敷の中で挨拶を済ませた。

馬車にはディビットとクラウスが来てくれた。


「ベル、今日も凄く楽しかったね」

「はい、デビ兄さま」

「気をつけて帰るんだよ」

「はい、クラウス兄さま」

「次は3日後 ベルのところだね」

「はい、楽しみにしています」


「待てよ!」

「ん? ウォルターも見送りに来たの? ちゃんとさっきの事謝りにきたんだね、偉いぞ」

「謝るようなことはしていません。ただ私は、きっとアルベルに会うのは最後だと思うから挨拶に来ただけです。俺はお前の事が大嫌いだ、もう二度とその顔を見せるな! じゃーな! お前の顔を見なくて済むと思うと清清する」

言って走って帰って行った。


『ムカつく奴だ! お前の顔を見ないで済むならこっちもラッキーだよ、バーカ!』

内心毒づく。


「ベルごめんね、アイツは同じ歳なのに優秀なベルに嫉妬して悪態ばっかりついて。僕たちはまた会いたいからね」

「僕もずっと一緒にいたいくらい大好きだよ!」

「兄さま…、デビ兄さまとクラウス兄さまがいれば寂しくないです! ではまた3日後遊んでくださいね! さようなら」

「ああ、またね!」

「気をつけて!」



そしてその帰り道、アルベル乗った馬車が事故に遭い大怪我を負ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] カスタングは父親ほどの年長者とはいえ、一介の兵士に過ぎない雑魚が騎士になったくらいで、なぜ辺境伯の跡取りを呼び捨てにしてタメ口きいてんだろう。 アルベル様+敬語では?名前の通り頭がカス…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ