13、デート−2
クラウスとアルベルは美術館に行く前と行った後では親密さが違った。
護衛たちは『何かあったな』そんな気はしたが、見つめあってはニコニコしている2人が可愛くて、突っ込みたいところだが大人しく見守った。
これまた雰囲気の良いところで食事をした。
食事は護衛も込みで一緒にした。
美味しい食事に楽しい会話、幸せな時間。
「ここもお友達が紹介してくれたの」
「アルベル様はいいご友人が出来たのですね」
「はい、素敵な友人です。正直、派閥や何やら 人の裏側を探るのは苦手で、平穏に卒業できればって思っているのです」
「そうだね、辺境伯家は国内だけではなく他国との兼ね合いもある、気を張らねばならない。安易に大丈夫とは言えない問題だね」
「ええ、そうです。アルベル様のクラスには主要人物が集まっていますからね」
「確かに、王族と王族派、それに貴族派 どちらの肩を持つことは出来ない。あまり近づきすぎない方がいいかも知れないですね」
キースとウルバスもお外なので、口調がいつもより丁寧になる。どこで聞かれるかわからない、キチンと場を弁える優秀さ。
「クラウが卒業したら…寮に入らなきゃだわ。護衛もどうしよう…」
ボソッと独り言が漏れた。
これは今こそ考えなければならない問題だ。時間は時にしてあっという間に過ぎていく、来ると分かっている問題を放置はできない。
「そうだね、いつ結婚するかにもよるけど、多分アルベルが卒業するまではしないだろう? そうなると、恐らくアルベルがこっちにいる間は私もこちらにいてもお許しくださると思うんだ。ただ、女性の護衛は現在 辺境伯にはいないから寮に入るのは難しいのではないかな? 今からでは間に合わない、と言うかそのまま辺境伯で私兵になってくれる女性を探さなければならないし、第一に辺境伯がお認めになるかが問題だしね。
そうなると必然的に寮に入るのは無理じゃないかな?」
確かにその通りだ。万が一私が過信して人質に取られるようなことになっては一大事だ。
「そうすると、タウンハウスから通う事が前提になるでしょう? 考えられる手段は、歩いて通うか、馬で通うかのどちらかだよね。まあ、私も出来れば送ってあげたいけど、2年を無駄に出来ない、就職か辺境伯の勉強を本格的にしなければならないから、どこにいるか分からないし、送迎は難しいだろうね」
うんうんと頷いていると、ウルバスが
「先日、実際に歩いてみましたところ、25分といったところです」
「馬ですと、着替えの問題もございます」
「そうよね…歩いて通学が1番現実的かしら?」
皆が様々なことを想定して難しい顔をする。
「はぁー、どうしたら馬車に乗れるようになるのかしら…」
「焦らなくていいよ、ベルは十分頑張ってる」
「やはりこの中では現実的なのは、徒歩通学ですね」
「迷惑をかけますが、宜しくお願いします」
そう話が纏まったところで、次の馬車へGo!
次にご紹介頂いたのは、有名なお買い物スポットだった。
両サイドには店が立ち並び王宮へ続く道から波紋状に高級店、中級店、下級店と並んでいる。懐具合によっても道路を間違えなければ選び易い配置だ。はひー、流石王都! ここへ来れば何でも揃う、圧巻でもある。
クララちゃんやカレンちゃんにお薦めされたのは、宝石店だが今はそんな気分でもない。
と言うか、実際に見るとかなり格式高くあの店は、恋人同士で入店したら気軽に、
わぁー素敵!→欲しいの? 買ってあげる、なーんてするのは畏れ多い感じ。
ちょっと魂胆丸見えって感じでそこまであざとくなれない。まあ、十分もらっているし。
「どこか行きたい所あるの?」
「ううん、ここなら何でもあるから、散歩するだけでも楽しいって」
「うん、そうだね。僕はね、あそこの店で文具とか揃えたりしている。ああ、ベルに贈ったペンもあそこで買ったんだよ」
「そうなのね。クラウから頂いたペンは凄く使いやすいわ。私も行ってみたい!」
「うん、じゃあ行こうか」
手を繋いで歩いていく。
ウルバスたちはちゃんと後ろに控えている。
クラウスが愛用しているペンやインクなどの文具店は意外にも表通りではなく裏通りだった。
「こんなに沢山お店があるのにどうやって見つけたの?」
「うーん、見つけたと言うより聞いたんだ。使いやすそうなペンやノートを使っている人に借りて少し試して、気に入ったところの店を聞いたんだ。それで実際に店を訪ねて…それを繰り返すって感じかな?」
「え? そんなに!? 何軒目だったの?」
「んー、4軒目かな…デザイン性はバリエーションが多く出来るんだけど握り心地から変えられる、特注で対応してくれる店は少なくてね」
「凄いわ、あのペン本当にしっくりくるの。そんな苦労があったのね…」
「私たちは剣を握るからタコが邪魔になってね、いつもこうして握っている時に調べてたんだよ?」
「うぅぅ、恥ずかしい。もっと女の子らしい手だったら良かったのに…」
ショボンとして項垂れている。
そんな姿も可愛くて仕方ない。
繋いだ手を持ち上げてちゅっとキスを贈る。
「僕は好きだよ。この手はベルが小さい頃から努力してきた証でしょう? 恥ずかしいことなんて何もないよ」
「クラウス兄さま…」
腕に顔をつけた。クラウスはよしよしと頭を撫でる。
「さあ、次に行こう、手を繋いでね!」
「うん、有難う クラウ」
デバール辺境伯領やマイヤー伯爵領にはない、可愛らしい小物が売っている雑貨屋さんに連れて行ってくれたり、オーダーメイドの靴屋さんに連れて行ってくれた。
「どうしてこんなに沢山のお店がある中で、私の好みの店を見つけられたの!?」
「ん? いつもベルを見ているからかな? でも女の子が好みそうな店を事前に聞いてきたんだ。僕だってベルとの初めてのデートを楽しみにしていたんだからね! 楽しんでくれてる?」
「ヒック ヒック 嬉しいよぉぉぉ、うわぁぁぁん!」
「あははは、こんな所で大泣きして〜、目が赤くなっちゃうよ? 喜んでくれたなら良かった! そうだ、落ち着くまで散歩しようか? おいで」
手を引かれてハンカチで目を押さえるけど涙は止まることが無い。
『ああ、凄い凄い幸せだ。えへへ クラウスが恋人で旦那様になる、神様有難う!』
「はぁぁー、幸せだー!!」
「ぷっ、それって独り言のつもりでしょ?」
「え!? 声に出してた!?」
「うん、偶にあるよ? 変わった話し方で…これが素なのかな?って。いつも可愛いなって見てた」
クラウスはアルベルの頬を軽くつねった。
「そのままのアルベルが好きだよ。幼い頃から素直で頑張り屋でみんなに優しい、そんなアルベルが大好きだ」
「はぁう、クラウス様…もう貴方にメロメロです。世界で1番素敵なクラウス様が私の恋人だなんて、夢みたい…。私の婚約者が最高すぎる!! 有難う神様!! 有難うクラウ!」
「ははは、うん アルベルにそう言って貰えるなら僕も幸せだよ。僕もいつもアルベルにメロメロなんだからね!少しは手加減してよ〜。コホン僕だって 好きな子を喜ばせたいって…頑張ってるんだ。えへへ、またどこかに行こうね?」
「うん! 行く!行きたい!! クラウスとならどこに行っても楽しいもの!」
初々しいカッポーは、何をしても楽しいお年頃だった。
夕方、お菓子屋さんへ寄ってみんなにお土産を買って家に帰って、楽しかった1日をみんなにお裾分けと共に言って聞かせたアルベルだった。それをニコニコしながら聞いて2人の初デートをお祝いした。
「そうだ、もうすぐ校外学習でしょう?」
「そうなの…、グループに分かれて馬車に乗らなくちゃいけないみたい。どうしよう…」
「馬の申請はしたの?」
「うん…でも、馬車の中でもミーティングが入っているから、頑張ってみたらどうかって…」
「そうか…、僕も一緒に行ってあげられたらいいのに」
毎年1学年だけで向かう校外学習2泊3日の合宿。
連帯感を生む訓練…それって貴族に必要ですか?
はーーー、不安しかない。
カムトック山で泊まり込みオリエンテーリング、そこでチームごとに分かれて獲得ポイント制で競う。作戦が漏れないように馬車の中で作戦会議をするのだ。6人で1台の馬車…、ただでさえ苦手なのに男性3人女性3人も計6名で密集して乗る、もうトライする前から嫌で堪らない。狭い空間も苦手だし…、きっと私は乗ることができない…。後はメンバーが理解ある人である事を切に望む!
「ウルバスさん達はついて行くんでしょう? 大丈夫だよ」
「うん、そうだよね。はぁ……」
数日後、先ずはチーム分けがなされた。
『神様の…いじわる』
ラティウス殿下(王族)、ウィリアム(王族派)、ローアン(貴族派)
クレア(貴族派)、ソフィア(ヒロイン)、アルベル
胃が痛くなります。助けてください、苦行でしかありません。ヒロイン…怖い。
無情にもゲーム関係者がいるチームだった。
カムトック山のオリエンテーリングの日程が配られた。
当日朝9時に出発し、5時間かけてカムトック山へ向かう。途中2時間程の所で休憩兼昼食を摂る。到着してから荷解きをし、集合して早速チームに分かれ行動開始。
カムトック山に5ヶ所のポイントがあり、そこにある物を集め答えを導き出して報告する。ただ、フェイクもある。体力、知力、胆力、協調性、コミュニケーション能力、リーダーシップ、地図を読み全員の状況の把握、食事、時間配分などの総合力を鍛える為。
貴族としてその他大勢にそれって必要ですか? マジで聞きたい。
個人行動は禁止されている。
当然怪我や事故などの際に発見が遅れるからだ。山全体に兵が配置されている。ある意味兵にとっても実地訓練みたいなものだ。
泊まるところは宿泊施設があり、寝泊まりできる。ただ、5ヶ所あるポイントを毎回宿泊施設まで戻ってくると時間のロスになるため、野宿を選択する者もいる。食事も頼めば携帯食を用意してくれる。どう行動するべきかはチームで話し合って決めればOK、禁止事項に抵触さえしなければ良しとされる。例えばチーム全員行動を義務付けられているのは、騎士の卵だけ向かわれてポイントを稼ぐなどだ。チーム毎に分けられた腕章がある、チームを離脱していると減点される。
はぁぁぁぁぁぁ、私は兎も角、深窓の令嬢クレアちゃんや、箱入り坊ちゃん王子ラティウスくんとローアンくん、ウィリアムくんと山を攻略? 無理げ。見た感じ、ソフィアちゃんが1番根性ありそう。
「この地図で行くと、ここを突っ切るのが1番早いだろう」
得意げにそう言ったのはローアンくんだ。
おいおい、そこは崖だろう、突っ切る?天国へ?
しかしここは様子を見よう。
「そこは崖だよ、無理じゃないかな」
そう言ったのはラティウス殿下。
うんうん、そうだよね? 良かった、地図を読めて、はい、誘導を頼みます!
「なら、ここはどうでしょう? ここもこちら側に行くなら近そうです」
はぁう、そこは川の上です、橋がなければ渡れません。
「この記号は川ですね。目の付け所はいいですが、残念ですが通れません。別の場所を探しましょう」
ほう、ウィリアムくんは誘導が上手そうだ。
「どこにチェックポイントがあるんですか?」
全員が見ている先にはソフィアちゃん。
ソフィアちゃん、それが分かっていたらもっと楽なんだけどね。それをみんなで探す、所謂 宝探しゲームなんだよ?
「ソフィアさんはこのオリエンテーリングの趣旨をご理解されていないのですか? 何処にあるか分からないチェックポイントを探りながら、山を攻略し、チームの合計得点が高い順にポイントが与えられ、それが個人の成績に加算されるのですよ。分かったらあなたも少しは考えてください」
的確な意見を有難う、だけど、だけど!!
「ヒック ヒック クレアさんってすっごく冷たい人なんですね…。そんな言い方しなくたって…。ラティウスくんもそう思うでしょう?」
上目遣いで涙をポロポロ流していくソフィアちゃん。必殺ヒロインの涙、効果の程はいかに!!
はぁぁぁぁ、クラウスー! 助けてぇぇぇぇ!!




