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10、お茶会からの〜−2

着替えている途中で外から騒がしい声が聞こえてきた。

「何事かしら?」

「左様でございますね」


帰りはマリーだけをここに残すわけにはいかないので、全ての支度を終えてから一緒に帰る。マリーと荷物を馬車に押し込んでからアルベルはウルバスたちと厩へ向かい帰ってくる予定だ。マリーと一緒に荷物を詰めている。


「入っても宜しいでしょうか?」

ウルバスの口調がいつもより丁寧だ、どこで誰に聞かれるか分からないからね!

「ええ、構わないわ」

パタン


「どうかした、なんだか争っている声が聞こえたけど?」

「ああ、お茶会から帰るどこかの令嬢がどこかの貴族に絡まれているらしい」

「まあ! 王宮で?しかも王妃陛下主催に呼ばれた令嬢たちをですか!?」

「本当ね、誰がそんな真似を?」

「さあ、ここからでは詳細までは…」

「入るぞ!」

いきなり入ってきたのはカスタングだった。

「お前ノックぐらいしろよ!」

「ああ? 外にお前がいないって事は着替え終わってんだろう?」

ウォルターの事件以来、ウルバスもキースも決して着替えや入浴以外で目を離す事はない。ましてや外の場合は扉の前に立っていても中の音には注意を払っている。


「ああ、それよりこっちに着替えろ」

見ると近衛騎士の制服だった。

「何だよこれ?」

「ああ? だから近衛騎士の制服」

「そんなの見ればわかるって! だから何で、今これ着るんだよ!」

「外の騒ぎが聞こえるだろう?」

「ああ」

「厄介な奴が令嬢に声をかけているんだ、女好きで目をつけられると手を出されかねない」

「は?そんな奴捕まえろよ! ってか、ここは王宮だぞ!? どうなってるんだよ!」

「だから厄介な奴って言っただろう?」


「高官なのか?」

「…ふぅ〜、俺たちこっち向いているからマリー着替えさせてくれ」

「はい!」

「おい! …まあいっか。それで?」

「厄介な奴の正体はゲイリー・バーンズ卿、バーンズ子爵の息子だ」

「は? ゲイリー・バーンズ卿? 聞いた事ないな。なんでそんな奴がでかい顔しているんだよ?」

「ゲイリー・バーンズ卿は…先程話題に上ったガルシア・クリムト侯爵夫人の実の兄だ。

バーンズ卿はクリムト侯爵夫人が王妃陛下の覚えめでたい…と言うかかなり信頼を置く人物だ、その笠にバーンズ卿もやりたい放題って訳だ。

だが流石に公爵家や侯爵家だと揉み消すのも難しいから、先に帰ったところを見計らって手をつけにきたんだろう」

「はぁ!? クリムト侯爵夫人の兄って言ったら何歳だよ!? それで15歳の子供を漁っているってのか!!」

「王妃陛下はご存知ではないのか?」

「そうだよ、そんな蛮行お許しになるはずがない!」

「……ここだけの話にしておけよ、今王妃陛下はクリムト侯爵夫人のいいなりだ。クリムト侯爵夫人が『兄は神の啓示を受けて仕方なかったのです』などと言えば、何もなかったことにしてしまう…」

「おい、嘘だろう? ただの色情魔だろうが! どうなってんだよ!!」


「その話っぷりでは過去にも何例か出ているわけだな?」

「そうだよ!まあ神の啓示ではないが、ガルシアの兄に不祥事は困るって揉み消した。 このタイミングでアルベルが簡易ドレスでいるところを見かけてみろ! どうなるかは分かるだろう?」

「話は分かった。アルベルが最優先事項だ、ルートは任せるぞ?」

「ああ、この混乱に乗じてこの場から離脱する」

「了解、アルベル準備はいいか?」

「はい、出来ました!」

「マリーと荷物は後で俺が迎えに来る、まずはアルベルだ。アルベルを王宮から出してからマリーを逃す、マリーは俺が来るまで部屋から出るなよ、いいな?」

「承知致しました」



周囲を警戒し素早く行動した。


だが、トラブルが起きてしまった。

ゲイリー・バーンズ卿と遭遇してしまったのだ。

先程のことが騒ぎになった、令嬢が自分の父親の年齢くらいの男に付き纏われ卑猥な言葉を吐かれ無理やりどこかへ連れ込まれそうになり、ギャン泣きした。そこで警備に当たっていた者たちが王妃陛下とクリムト侯爵夫人に連絡したのだ。そこで注意され、むくれてフラフラしているところに遭遇してしまったのだ。


「おい待て!」

ギクリと冷や汗が流れる。

「何でしょうか?」

「お前は近衛騎士か、それにそんなチビっこいのも? おいこっちの奴らは何だ?」

「友人です、王都に来たので寄ってくれました」

「ふーん。こんな細っこくてチビっこいのが近衛騎士だと!? 本物かな〜〜?

本物なら今の近衛騎士の試験は簡単なのかな〜〜? (舐めるように見ている)

おい、お前 私は王宮警備隊長だ。どれ私自らお前をテストしてやろう、それでお前が本物かどうかが分かる。ついて来い!」

「お待ちください、その様な権限 貴殿には無いはずです、従う道理はありません!」


「お前は…王妃陛下の部屋で見る奴だな? いいのか? 私が王妃陛下にお願いすればお前は近衛騎士ではいられないぞ?」

ウルバスもキースも動けずにいた。何故ならば、アルベルが着た近衛騎士の制服を資格を有していない者が着ればそれは処罰の対象となる。騒ぎにするのは得策ではない、かと言ってアルベルをこの男の餌食にするわけにもいかない。いざとなったら代わりに殴られる覚悟でついていくしかない。


『おい、騎士団長に報告してくる、それまでベルを頼む』

コクンと頷いた。


カスタングは走って騎士団長に面会を求めた。

通常であればすぐに会えることは少ないが、相手がカスタングと言うこともあり、バーンズ卿が騒ぎを起こした事は報告も受けていたので、すぐに部屋に通された。


「どうした?」

「すみません、お耳をお借りしても宜しいでしょうか!」

「はぁ? お前ふざけているのか? サッサと話せ!」

「待て、カスタングが言うのだ。構わない」

許可を得てマイヤー騎士団長に耳打ちする。

「何!? …またバーンズ卿が問題を起こしてる。私が行く暫く後のことを頼む」

「は? またですか? 次から次へと…、団長自ら行かずとも、我々で対処いたしますが?」

「いや、よい。カスタングすぐに案内せよ!」

「はっ!」


走りながら確認する。

「アルベルは女とバレてはいないのか?」

「はい」

「そうか」



訓練場にはそこで訓練していた者たちが退かされていた。

バーンズ卿は若い女のハンティングが失敗して苛ついていた。だからこのムシャクシャした気持ちをどうにかしたかった、そこに現れた哀れな生贄の小柄な近衛騎士の少年。

バーンズ卿の顔は醜悪で目の前の子羊を甚振る気満々だった。

周りも子羊君は可哀想に思ったが、出て行って目をつけられるのも悪手だ。子羊君には悪いが、少し殴らせて早いところここからいなくなって欲しい、そう思っていた。


「おい、いいか? チビ助、この私 王宮警備隊長のゲイリー・バーンズ様が自ら見極めて更には指導してやろう。さあ、思いっきりかかってきなさい!」


「はあ、あのいつ始めますか?」

「ああん? ああ、そうか。 おい、そこの者合図を頼む」

「私? はい、分かりました」

「宜しくお願いします!」


アルベルは辺境伯で訓練をしているが、それ以外のレベルは知らない。

辺境伯のみんなはアルベルに甘い、だから王宮警備隊長のレベルをちょっと知りたい気持ちがあった。


「遠慮は要らぬ、思いっきり参れ!」

悲しいかな、アルベルには忖度は出来なかった。

「始め!」

アルベルはその掛け声を聞きすぐさま体を低くしバーンズ卿の脛を打ち抜き、その剣を流れるように背面へ回り背中を打ち抜き、更に首元に剣を突きつけた。


「そ、それまで!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

「やったぞあのチビ助!」

「やるじゃねーか!」

「伊達に近衛騎士を名乗っていないらしい!」

「いーぞチビ助!!」


「このヤロー、やってくれるじゃないか、ああ? 今は油断した。次はない、いいな?

合図!」

まだやんのかよ!

「始め!」

「おりゃー! ぶっ殺してくれる!!」

2人が持っているのは木剣だが、当たりどころが悪ければ当然死ぬ。

バーンズ卿はアルベルの頭を目掛けて横に剣を振り回す。

アルベルはその剣の軌道を利用して同じ方向にバーンズ卿の体を押した。バランスを崩して簡単に回ってしまう。アルベルは先程とは別の足の脛を打ち鳩尾を突き後頭部辺りに一撃を加え、バーンズ卿は地に沈んでいった。バーンズ卿はもう意識がない。


「それまで!」


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

先程より大きな歓声に包まれていた。


「ふぅー、何とかなったか。あの子はリアルに近衛騎士になれそうだぞ?」

「いつの間にあんなに強くなったんだか…。お手間を取らせまして申し訳ありません」

「いや、私もあの子が可愛い、あんな男に穢されては堪らん。気を失っている間に早く回収せよ」

「はい、有難うございます」


ウルバスに指示し、アルベルをすぐに移動させ、厩で着替えさせ馬で帰って行った。近衛騎士の服は回収し、マリーもそっと王宮から出し、何事もなかったかの様に過ごす。


だが恥をかいたバーンズ卿は烈火の如く怒り狂っている。

目覚めたのは兵士の医務室だ。目を覚ますと薬の臭いと硬いベッド、一瞬何が起きたか分からなかったが、隣から聞こえてくる話で思い出した。


「痛快だったよな!」

「ああ! あんなチビの癖にすばしっこい上に無駄がない! すげー奴だったな!」

「何てたって王宮警備隊長様を1分以内に倒しちまうんだから!」

称賛と皮肉で彩られた話題で持ちきりだった。

だがおかしなものだ、バーンズ卿は元から大した実力は持ち合わせてもいないのに憤っていた。


当然、王妃陛下に告げ口に来た。

だが、簡単に謁見できるはずもない。

妹に無理を言ってくっついてきて無理やりその話題に持って行った。


「生意気なそのチビを懲らしめてやってください!」


「貴方の言っている意味が分からないわ。何故罪もない子を懲らしめねばならないの? 懲らしめるべきは貴方では? 聞いているのですよ、お茶会に来ていた下級貴族の子供に手を出そうとして失敗し、その腹いせに近衛騎士の子供を甚振ろうとしたって。

大体貴方は本来王宮警備隊長の資格はないのを泣いてゴネるからその位置に就けてやったのよ? 実力なんて最初からない、近衛騎士の子に負けたって聞いても何ら不思議でもないわ。

ガルシアの頼みからだから何とかしてあげたいって思ったけど、聞こえてくるのは悪い噂ばかり、正直失望したわ。私の評判まで悪くなっているだなんて問題外よ。

悪いけど、王宮警備隊長の任は降りて貰うわ。それから今後ガルシアと一緒でも貴方とは会わないわ、帰って頂戴」


「王妃陛下…お待ちください! そんな私の何が問題だと言うのですか!」

「王妃陛下、兄のことは謝罪致します、ですが今一度チャンスをくださいまし!」


「出来ないわ、既に人事のついては後任を探させているわ」

「何故ですの? 兄の一度の失敗」

「一度の失敗? 近衛騎士を甚振ろうとした事ではないわ、これをご覧なさい!」


王妃陛下はゲイリー・バーンズが今までに起こした事件の詳細が報告書となって纏められていた。内容は1件や2件ではない。ガルシアも知らない内容がツラツラ書かれていて目を疑った。


「ガルシア、お前もあんなロクデナシを庇っていると、足元を掬われるわよ。決断なさい、わたくしの元にいたいのなら切り捨てなさい、出来なければここに貴方の場所はないわ」

「承知致しました…肝に銘じます」


ゲイリー・バーンズ卿は王妃陛下の後ろ盾を得た今、何も怖くなかった。世界は自分のもののような錯覚からやりたい放題していた。まさか自分が切り捨てられるとは思いも寄らなかった。上り詰めたと思った地位が掌からこぼれ落ちて、確かに手にしていたものまで失ってしまった。

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