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1、お転婆娘

私はアルベル・デバール3歳。

私の家は田舎の辺境にある。

お父様は辺境伯を任されている。この地はとても重要な地で、崖の向こうは隣国となる為、国防も担う重要な拠点となる。

お母様は去年流行病で死んでしまった。だから今は父と娘2人だけの家族。忙しいお父様の代わりに私についている護衛や私兵が何かと気にかけてくれるから大丈夫。お母様が死んでしまってからは偶にお父様の妹のマーガレット叔母さまが来てくれる。


お父様はとても忙しいので、マッチョなお兄さんたち 私専任の護衛や侍女が私の面倒を見てくれるので、今は寂しくない。寂しくなるのは、夜眠る時や、嵐の夜、1人ぼっちだと感じる時。

でもそんな時は侍女のマリーが『内緒ですよ』そう言って一緒に寝てくれるから寂しくなかった。それに護衛兵もずっと側にいてくれる。


それに友達もいる。

隣の領のマイヤー兄弟。

マイヤー伯爵様は王都で騎士をやっているらしい。だから滅多に領地には帰ってこない。そこで子供たちは週に何回かはうちへ来てお父様から剣術の指南を受けている。


マイヤー兄弟、長男はディビット 6歳、次男にクラウス 5歳、三男のウォルター 3歳だ。ウォルターが同じ年。

だけどお稽古って言っても、アルベルとウォルターは一緒に駆け回って遊んでいる感じだった。ディビットとクラウスは小さいながらに小さな木剣を振り、教えられた型を学ぶ。それをアルベルとウォルターも見よう見まねでやっている。


お稽古が終わると4人で遊ぶ、その際は大抵兵士のカスタングさんが面倒を見てくれる。

謂わばカスタングさんがアルベルの護衛兼お世話係。そしてマイヤー兄弟が来ると4人の世話係として奮闘してくれている。


私はカスタングさんを『カスたん』と呼んで懐いていた。

マイヤー兄弟が来ない時はこのカスたんがアルベルと遊びながら鍛えてくれる。

お父様はこの地にはいるが、辺境伯としての仕事をしているのであまり遊んではくれないので、カスたんとあっち向いてホイとか、手押し車とかしながら遊んだ。

カスたん曰く、私は辺境伯家の一人娘だから、お父様が再婚して息子が出来ない限りこの辺境伯領を私が継ぐことになるんだって、だから私も体を鍛えて勉強もいっぱいしなくちゃいけないって。よく分からないけど、私はこの領が好きだからカスたんの言う通りいっぱい遊べばいいって結論になった。



カスたんは膝をついてアルベルとチャンバラごっこをする。

「やられた〜〜!」

そう言って大袈裟に倒れてくれるのが楽しくて仕方ない! キャッキャ言いながら何度もせがんで遊ぶ。かくれんぼも鬼ごっこも普段は2人きり、カスたんを追いかけていると、あら不思議、小一時間走るのも何のその。するとあれよあれよと体力がついていく。スピードはないが、遊んでいる時の子供の体力は無尽蔵だった。

ある時は川を渡るのに飛石をジャンプして渡る。またある時は落ちていたロープで縄跳び、それを見たカスたんが縄跳びを覚えて、『お嬢さん、お入んなさい、さあどうぞ』歌を歌いながら2人で飛んで遊んだ。またある時は達磨さんが転んだをやっていたが、興奮から体が揺れてしまう、そこで鬼はカスたんがやってアルベルが芋虫のように匍匐前進で挑む。


朝から晩までカスたんと一緒に遊ぶ。

肩車されて最後は頭を抱えて寝てしまう。カスたんが大好きで大好きで仕方ない。

だが、そんなカスタングも子守だけしているわけにもいかない。彼は立派な辺境伯領の兵士だ、訓練も仕事の内。カスたんが鍛錬に行ってしまうと悲しくて、カスたんが鍛錬している場所まで泣きながら探し回ってしまう。カスタングの代わりのウルバスをよく困らせた。

だから早くアルベルもカスたんと同じ場所に立ちたいと一生懸命訓練をした。



今日はマイヤー兄弟が来る日。

遊び仲間が増えて楽しい日。

ワクワクしながら到着を待つ。


今日はカスたんは鍛錬の日でウルバスが子守の当番だった。


最初はお父様から指示された通り、グランドを10周しなければならない。

3周位走ると、ウォルターが脱落した。7周位するとクラウスも遅れ始めた。アルベルは最後までディビットと走り切った。終わるとぴょんぴょん飛んで喜んだ。


「わーい! ディビットと一緒に走れたー!!」

「凄いよアルベル! よく頑張ったね!」

「うん!」

「本当だよ、僕だってついていけなかった! どんな練習したの!?」

「うん、アルベルは会うたびに上達してる! 凄いよ!!」

「えへへ、カスたんと一緒に走って頑張ったの!」


ディビットとクラウスに褒められて有頂天だった。その時 泣きながらウォルターがゴールした。それを皆最後までよく頑張ったと褒め称えた。



数ヶ月後にはアルベルはディビットと剣を打ち合うまでになっていた。

身長的にも体格的にも同年代の方が良い加減になる。大人ではどうしても加減が難しい、だが子供の1年は差が大きくディビットは自身の父のように騎士になりたいので、本気で剣を交わせる相手を求めていた。型や指導は周りの者が出来るが、模擬戦は子供同士の方がいい。だから普段は6歳のディビットの相手をさせる為に、兵の子供で騎士を目指している10歳位の子と対戦していた。今回その相手役にアルベルが抜擢されたのだ。クラウスよりも兵の子供たちよりもアルベルの方がいつの間にか上達していたからだ。



正直なところ、ディビットが領を継いで、クラウスが父の跡を継いでも良いのだ、ただ今のところ剣の才能はディビットの方がありそうだった。まあどの子も同じように教えているので、今は才能もだが努力も必要な時期だった。兄と1年の差は大きくクラウスも今は負けてしまうが、なかなかの負けず嫌いで陰で練習しているのも知っている、大人たちは子供たちがどう変化するかこれから先が楽しみだと思っていた。



おチビの剣士は、大好きなカスたんと少しでも一緒にいたくて、夜ベッドに入った後起き上がっては剣を振っていた。手はマメが潰れて血が滲み、スプーンさえも持てないことも、ましてや剣を持つこともできない時もあったが、我慢した…でもどうしても痛い時は利き手とは反対の左手に置き換えて頑張った。

その甲斐あって、アルベルは騎士の訓練場への立ち入りを許可された。但し! カスタングの邪魔はしてはいけない! 邪魔をしたらまた立ち入り禁止!! なんて言われてショボン…、邪魔しない! 健気にも訓練場にいるカスタングには近寄らなかった、離れたところで必死にカスタングの真似をした。


カスタングもこれだけ慕われれば、アルベルが可愛くて仕方ない。まだ21歳ではあるが、父性とも母性とも兄とも思える感情を抱いて慈しんだ。ただ、カスタングも他の兵士も無骨な男で女の子らしい事はあまり教えてあげられないことを切なく思っていた。だから、せめて花が美しく咲く丘に連れて行ったりしたが、つい草を結んで簡単な罠の作り方を教えてしまう…。だって自分たちもそんな生き方しかしてこなかったから。



アルベルは1年も経つ頃には4人の中で1番実力をつけ、剣技の才能を見せた。

まあ、単純に練習量が違う。

そして子供の頃はそこまで男女の差もない。


ここにいる人間は辺境伯の唯一の跡取り娘に好意的、皆が揃って褒め称えるものだからやる気倍増! アルベルは褒められて伸びる子だった。褒めてもらえることが嬉しくてますます精進した。その頃になると、ディビットやクラウスも敵わない、ウォルターなんて手加減して見てあげる立場だった。すると何かとウォルターはアルベルに突っかかってくる。


剣の稽古は勿論、体術も、腕力も敵わないウォルターはエスカレートしていった。

他に気を取られているアルベルに密かに近づき、突き飛ばしたり、落とし穴を落としたり、動物を消しかけたりするようになった。


仲がいいと思っていたウォルターの悪戯が度を越していて、アルベルはウォルターを見るだけで怯えるようになった。


「ベル大丈夫?」

「クラウス兄さま、私ウォルターが怖い」

「うん、そうだよね、ごめんね。…多分、何をやってもベルに敵わないから嫉妬しているんだと思う。ベルは頑張っているだけなのにごめんね」

「クラウス兄さま! 私…私…ウォルターに嫌われちゃったのかな…」


「ベル 多分それは違うよ。きっとまだみんな子供だから、頭では良くないって分かっても気持ちだけではどうにも出来ないんだと思う」

「ヒック ヒック…」


「よし! 僕がなるべくベルの側にいるよ! ウォルターが来たらすぐに知らせるし叱ってあげる! 僕が守ってあげるから泣かないで!!」

「クラウス兄さまぁぁぁぁぁ!!」



それから程なくして大好きなカスタングが王都へ行くことになった。

ここ辺境伯領にはデバール家の私兵に、国に所属している国境兵、それから兵士や騎士を目指す兵士予備軍が所属している。それらの兵の統括をおこなっているのがデバール辺境伯となる。

カスタングも辺境伯から指導を受けながら、騎士を目指していた。

この国の貴族は16〜18歳まで王立学園に通う、卒業してから騎士試験を受ける。勿論、卒業してからすぐに試験を受けて騎士になる者もいれば、尊敬する人に師事頂き、推薦状を持って試験を受ける者もいる。

例えば、ディビットは卒業後すぐに試験を受けて合格して騎士になる道もある。普通で考えると爵位を受け継ぐ時に騎士を辞める、つまり足掛け感覚。次男以降は生涯騎士として生きていく覚悟がある者は、有名な将軍や辺境伯に師事することが多い。単純に技能を磨く者もいれば、コネ作りに来ている者もいる。

ただ、上を目指す者は誰に師事したかも重要で、誰々はすぐに推薦状を書いてくれる、誰は厳しくなかなか書いてくれない、誰それは貢物次第…など様々な事情があり、その中でもデバール辺境伯は厳しく確かな技能を伝授してくれ公平であると定評がある。


カスタングは今回王都で行われた騎士テストで合格し、騎士となったのだ。実力もあったので、辺境伯の一人娘の護衛を任されていた、アルベルにとっては父、母、兄 何にも代え難い存在であったが、多くの時間を過ごす中で騎士に対する熱い思いも聞いていただけに応援するしかなかった。1週間は泣きはらし食欲も無く、余計にカスタングの後をついて回っていたが、決して引き留める言葉は言わなかった。


「アルベル、休暇の時は遊びに来る。アルベルが大きくなって王立学園に通うようになったら王都でも会える。だから…大丈夫、俺は死ぬわけじゃない、会おうと思えば会える。

アルベルがピンチの時は絶対助けに行く、だからいつも通り食べて、寝て、元気に遊んで大きくなれよ! 出来るよな?」

「…ふぇぇ…うっぐ、抱っこ」

両手を差し出した。

「ほら!」

抱っこされるとカスタングの首にへばりついた。


「アルベルにはクラウスもいるだろう? それにここにいる兵士はみんなアルベルが大好きだ。努力家で健気で明るくてお転婆で優しいそんなアルベルが大大大好きだ!

困ったことがあったらウルバスや他のみんなでもいいから相談するんだぞ? それにこれからは淑女教育も始まるだろう? 字を覚えたら手紙を書いて送ってくれ、俺も空いた時間ができればなるべく手紙を書く…だから、元気でな!」


「…カスたん 大好き、すんごい騎士様になってね、応援…してるから。絶対死んだりしないでね…ベルのこと忘れたりしないでね…風邪ひかないでね…。

ちゃんとカスたんがいなくてもご飯食べて、運動して、よく寝て…お勉強も頑張って…、お手紙書く。

カスたん…カスたん…うぅぅぅ、ありがと ずっと側にいてくれてありがとう。大きくなったらカスたんに会いに行くからね! 元気で…ふぇぇぇぇぇ、一緒に行きたいよぉぉぉ」

「バカやろ、泣くなよ、…どこにいてもちゃんと見てるから。よしよし、ベル良い子だな、ほら、泣き止んで? これはアルベルに贈り物だよ、ほら降りて、つけてあげるから」


箱に入っていたのは綺麗な石のついたネックレスだった。

それをアルベルの首に付けたカスタング。


「これはなファイアオパールって言う石だ。黄色や赤や金色や多彩な色合いに眩しいくらいの力強さを感じてこれを見た時にアルベルみたいだって思ったんだ。太陽のように眩しくて生命力に溢れ、元気で…神々しい。これからずっと側にはいてやれないけど、代わりにこれを贈る、きっとこの石がアルベルを護ってくれる、だから何の心配も要らない。いいな? 俺の代わりのこれを置いていくから、大丈夫だな?」

「うわぁぁぁ、綺麗!」

石を握りしめて、への字口にしていた口元が緩むと、

「カスたんがくれたこの石に負けないように頑張るよ、心配しなくても済むようにちゃんとご飯も食べる! カスたんありがとう。あのね 私もね、アミュレットを用意したの」


アルベルが出してきたのは、ヘマタイトがついた剣につける飾り房と、騎士服のシャツに付けるためのオニキスのついたアミュレットだ。


「あのね、ヘマタイトは怪我をしないように剣につけてね。オニキスはね魔除けだったり厄災から遠ざけてくれるんだって、だから騎士服の内側にでもつけてね」


カスタングの目から大粒の涙が溢れた。

「折角泣かないように我慢してたのに…、あああぁぁぁぁぁ! ふーーーー、ふぅ、よし。アルベルは良い子だな! 小さいのに俺が王都に行くって聞いてたくさん調べて作ってくれたんだろう? 有難うな!大切にする、アルベルがくれたたくさんのものも想いも一生大切にするからな!」

いつまでも抱き合って別れがたいが何とか互いの贈り物を胸に別れを告げた。


こうして大好きなカスタングは王都へ旅立っていった。

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