やさぐれ王子は婚約者と旅行する
ウラヌス国は、木々の葉も黄色や赤に色づき少し肌寒い季節に入ってきた。
城や城下街は冬支度に入ろうと皆忙しそうにしている。
今日はアカデミーも休みで部屋で読書をしている。
最近は難しい本ばかり読んでいるので、たまには軽く恋愛小説だ。
「シェダル様、陛下よりお手紙を持って参りまた。」
アリアが部屋に入ってきた。
アリアは当家からついて来て貰った侍女だ。
私よりも年上でしっかりしており、お城の事も色々教えてくれる。
「陛下から?
また面倒な事かしら・・・」
「また そのような事をおっしゃって!」
「だって、いつも課題のような事ばかり。エルグス殿下と一緒に取り組むのも大変なのよね」
この間は短期留学で来た隣国の王子との交流会に参加するよう言われ、その国の言葉も勉強中であったため会話にも苦労した。隣国の言葉をスラスラと話すエルグスは得意げにしていてムカついた。
ため息をつきながら、手紙の封を開け目をとおす。
_____
この間の交流会は楽しかったか?
さて、この度 隣国ムスカ国との調印式を行う事になったのでエルグスと共にムスカ国に赴いて欲しい。
結婚前の旅行だと思って楽しんで来てくれ。
______
はぁ⁉
こんな大事な事に私達で良い訳?
それに旅行って・・・全然仲良くないのに楽しめる訳ないじゃない。
エルグス殿下はウラヌス国の第一王子だが、母親の身分が低い為 この国を継ぐのは第二王子のシリウス殿下とされている。
その為かエルグス殿下は器量はあるものの、やさぐれてしまった。
そんなエルグス殿下の婚約者になって3カ月
16歳になったばかりで王家に呼ばれ、個別講師を付けて勉強してきた。
隣国の歴史は何とか勉強したが、言葉はまだたどたどしい。
ムスカ国はこの間短期留学で来ていた王子のいる国だ。
「旅行だったら、家族か仲の良い友達と行かせてくれたらいいのに」
ここ最近誰にも甘えられていないシェダルはかなりストレスを溜めていた。
ムスカ国はウラヌス国の北に位置し、山を越えた所にある国で今はもう真冬である。
直線ではそう距離はないが、険しい山を避けて向かうので馬車で1日掛かる。
冬支度も必要だったがドレスやケープ、クロークは殿下が用意して下さった。
出発の日
冬用に改装した大きな馬車は椅子部分も暖かで弾力がある。
侍女のアリアや側近のレオが乗る馬車と荷馬車の3台で向かう。
勿論、私はエルグス殿下と同じ馬車だ。
急な斜面も多いので馬車は揺れが激しく、普段元気な私も時折休ませて貰いながら進む。
「具合は大丈夫か?初めての旅でこれはキツイか?」
「少し気持ち悪いですが、大丈夫ですわ」
珍しくエルグス殿下が優しい・・・
「そう言えばお前、ムスカの言語は習得したのか?
また恥をかかぬようにな」
優しいと思った私が馬鹿だった。
そうよ!殿下はこうゆう人だった!
幼い頃から教育を受けていた殿下とは違うのよ!
それでもこの3カ月頑張って頑張って・・・・
そう思うと悔しくて涙が込み上げてきた。
それでも殿下の前で涙は見せたくない、プイと窓の方を向く。
「ま、お前はただニコニコ笑っていればいいさ」
そう言って殿下は私の肩に触れた。
私はその手をパシッと振り払うと、向きを変え殿下を睨んだ。
目に溜まっていた大粒の涙は振り返ると同時にぽろぽろとこぼれ始めた。
「シェダ・・・」
殿下は目を丸くし驚いていたが、その後しばらく口を閉じていた。
険しい道のりよりも殿下との沈黙の馬車が居心地悪かったが何とかムスカ国までたどり着いた。
馬車から降りる際に殿下が手を差し伸べてくれたが、手をとる気にならずそのまま馬車を降りた。
まだ婚約者と言う事もあって、エルグス殿下とは別の部屋になっていた。
ただ、私の部屋と殿下の部屋は内扉1枚で繋がっている。
夕食はムスカ国の陛下や王子と共にする事になっており、翌々日に友好条約の調印式を行う手はずだ。
その後4日間はゆっくりし、ウラヌス国に帰る予定。
この4日間がアルデバラン陛下に頂いた”楽しい旅行”なのだ・・・
夕食はデルフィヌス陛下が息子であり王子のコルヴィス殿下と妹のヴェラ殿下を紹介してくれた。
ヴェラ様は体が弱くあまり外出はされないので透き通るような色白だ。
「ムスカは寒いから、少しでも気が晴れるように温室に薔薇を育ててるんだ。
シェダル嬢が良ければ調印式後案内しよう」
「まぁ、この季節に薔薇があるのですね!それは楽しみです。是非お願いします。」
この季節、街には屋台も出ておらず景色も雪景色の他見るところがないので楽しみだ。
今日は疲れただろと言う事で、案内は明日以降とし、部屋でくつろぐよう言われた。
くつろぐと言ってもエルグス殿下と二人、しかも来るときに険悪?な雰囲気になったまま
現在に至る。
部屋に入るとき微かに名前を呼ぶ声が聞こえたが、気のせいだろう・・・
翌日、日も高く上った頃、調印式が滞りなく行われた。
これで、友好国としてより一層貿易や旅行も盛んになるだろう。
調印式が終わると、コルヴィス殿下が声をかけてきた。
「エルグス殿下、シェダル嬢、調印式も終わった事だし、約束どおり温室に案内しようと思うがどうだろう?」
私は『ええ、是非!』と返事をするとヴィラが『私も』と入ってきた。
コルヴィス殿下は、ヴィラには今日は掛かりつけのお医者様が来るからダメだよ、と言い
私達3人で温室を見る事になった。
ヴィラは仔犬のように甘えた目でコルヴィスを見ていた。
サロンから繋がる扉を開けると周りをガラスに囲まれた温室が広がった。
温室には様々な種類の薔薇が咲き誇り、とても冬とは思えないほどだった。
私は薔薇が好きな事もあり、コルヴィス殿下と薔薇の種類や原産地などを楽しくおしゃべりしていた。
夢中になり過ぎて、後ろにいるエルグス殿下をすっかり忘れていた。
と言うか何も喋らないから忘れたというのもある。
「これはムスカ特産の薔薇なんだが、良かったら部屋にどうかな?」
差し出された薔薇は周りが桃色で中は白のグラデーションになっている小ぶりの可愛い薔薇だった。
「ムスカは寒い気候だから花は小ぶりだが、香は強い。小さな桃色の薔薇がシェダル嬢に似合っていると思って
エルグス殿下もそう思いませんか?」
「・・・」
「コルヴィス殿下、ありがとうございます。
お部屋に飾らせて頂きますわ。」
エルグスが何も答えないので私は愛想良く答える。
「お兄様、お医者様にも診て頂いたので、私もご一緒してよろしいですか?」
急いで来たのか息を切らせながらヴィラが入ってきた。
「ヴィラ、息が切れてるよ。
そんなでは心配だから、今日は部屋でゆっくりしていなさい」
「そんなの・・・大丈夫だから」
はぁ はあぁと息を整えながらしゃべるも少し苦しそうにしているとメイド達が駆け寄ってきた。
「ヴィラ様、さぁお部屋に戻りましょう。
コルヴィス殿下、申し訳ございませんでした。」
メイド達はヴィラを両方から支えながら温室を後にした。
ヴィラは何度も後ろを振り返りながら寂しげな表情を見せていた。
「すまない。
この季節、客人も珍しいし一緒に遊びたかったのだろう。
体が弱いから少し我儘に育ててしまったかな」
「お気遣いなく。
いつもお部屋では寂しいでしょう。
私で良ければ話し相手位は出来ますわ。」
「あぁ、シェダル嬢 ありがとう。
では、今日はこれくらいにして、明日は街を案内しよう。」
私たちも温室を出て、お茶にする事にした。
私達の為に用意された来客用の部屋に移動し、侍女のアリアが紅茶を入れてくれた。
ムスカで採れる紅茶はほんのり柑橘系の香がした。
「随分楽しそうだったな
コルヴィス殿下の方が良かったんじゃないのか?」
「エグルス殿下も少しはお話されたらどうでしたの?
嫉妬など大人気ないですわよ」
「し、嫉妬ではない!」
エルグス殿下は顔を真っ赤にして部屋を出て行った。
「エルグス殿下も素直でないですね~」
「アリア、殿下は嫉妬したと思う?それともただの意地悪?」
「それは勿論嫉妬にしか見えませんけど
シェダル様が大人にならないとダメなようですね」
アリアはクスっと笑うと殿下の分の紅茶を下げた。
明日は少し優しくしてあげるか、と思うシェダルであった。
翌朝
食後シェダルの支度を整えるとアリアは一度退出した。
コンコン
扉を叩く音がするので開けてみると、ヴェラの姿があった。
「ヴェラ様、どうかなさいましたか?」
「あの、先ほどエルグス殿下とお会いしまして、屋敷の先にある建物で待っていると
伝えてくれ、と」
窓から見える山小屋を指差した。
「まぁ、それなら直接私におっしゃればいいのに・・・
ありがとうございますヴェラ様。行ってみますわ。」
昨日は拗ねていたし、朝は大勢いるから自分から仲直り出来ないのね
まったく素直じゃないんだから。
シェダルはふぅっと呼吸すると、窓の外を見た。
屋敷の少し先に木々に覆われて小さなログハウスのような小屋がある。
小屋に行くまでは1本道で両側が崖になっている。
天気が良いからいいけど吹雪いていたら道を踏み外しそうだ。
私はストールを羽織り、ブーツに履き替えると小屋に向かった。
外に出ると空気は冷たいものの、日が照っているので左程寒さを感じない。
お城周辺は雪は少ししか積もっていないが
石畳から砂利に変わり歩きにくくなってくる。
さっき上から見たとおり道の両脇は斜面になっていて、うっすら雪で覆われている。
砂利の道からなだらかな下り斜面になっていて、思ったより距離があるのか私の速さで15分程かかった。
まったく、こんな所まで呼ばなくても部屋でいいのに
エルグス殿下にも困ったものだわ。
殿下の事より自分の事で手いっぱいよ!
そんな事をぶつくさ呟きながら山小屋の扉を開けた。
まだエルグス殿下は来ていないようだ。
小屋は作業小屋のようで、小屋の外側の壁に蒔きが山と積まれていた。
中に入ると右壁には鉈や斧が掛けられており、左側にテーブルと椅子が置かれている。
椅子の上にハンカチを置き、その上に腰を下ろす。
それにしてもエルグス殿下遅いわね、かれこれ1時間程は経ってると思うのだけど・・・
窓がカタカタ音がする
外を見ると風が出てきており、雪も風と一緒に窓に打ち付け窓枠に積もり始めていた。
「まぁ、どうしましょう。
殿下はいつ迎えにくるのかしら、このままだと凍えてしまうし、帰るに帰れないわ」
吹雪の中帰るのは危険だと考え、小屋の中で納まるのを待つ事にした。
もう少し早く諦めて戻った方が良かったかしら・・・。
更にいく時間かたち、天気が悪くなってきたので昼間でも暗くなってきた。
吐く息も白く、手足もかじかんでくる。
それに何だか眠くなってきた。
―――――
その頃 城ではアリアが城を駆け回っていた。
『シェダル様を見ませんでしたか?』
色んな人に聞いてまわっていた。
朝食を食べたらヴェラ殿下の所に行ってみようか・・・なんて言っていたから
てっきりそうなんだと思っていたが、昼食時になっても姿が見えないので慌てふためいている。
それを察知してか皆がアトリウムに集まってきた。
「どうした? シェダルはいないのか?」
エルグスはアリアに声を掛けた。
「あぁ、私、どうしましょう。」
「お前が慌ててもしょうがない。落ち着いて話せ」
「はい。シェダル様が朝食後、私が出ていった隙にいなくなったのです。」
「どこへ行くとか言っていなかったのか?」
「ヴェラ様の所に行こうか・・・と言っていたのですが、そちらには行っていなかったようで・・・」
二階でカタッと音がした。
見上げると階段を上った廊下にヴェラが来ているのが見えた。
元より色が白いが今日は一段と青白く肩を上下させ呼吸している。
「具合が悪そうだな、ヴェラ殿下。
それで、シェダルはどこへ行ったのか」
エルグス殿下の声が低く響く。
別の部屋からはコルヴィス殿下も駆けつけていた。
「エルグス殿下、ヴェラは体が悪い。いくら婚約者がいないとは言え、その聞き方はどうかと思うが」
「何かあってからは遅いのだぞ!
ヴェラ殿下、今朝シェダルの部屋に来ていただろう
今のうちに喋った方が身のためだぞ」
「ヴェラ、そうなのか?
シェダル嬢の居場所を知っているなら話してくれ」
「もし外に出たなら、この天候じゃ・・・」
ヴェラは手すりを滑らせながらしゃがみ込んだ。
はぁはぁ息をつきながら、うっうぐっと口を手で押さえおえつをちている。
「シェダル様は・・・あ・の 向かいの山小屋に」
「アリア、クロークを持ってこい!」
「はい、ただいま」
エルグスはクロークを羽織ると吹雪の中扉を開け山小屋に駆けて行った。
横殴りの吹雪に足がとられそうだが、山小屋まではさほど遠くないのが救いだ。
坂道からは雪が積もり始めていて歩きずらくなっている。
身をかがめながら一歩一歩山小屋に近づいてきた。
扉を開けると、シェダルは椅子に腰かけ、頭を垂れてうとうとしている。
「シェダル!大丈夫か!?」
「で、殿下・・・おそ・い」
「おい、寝るなよ!」
エルグスはシェダルを自分のクロークで包むと抱きかかえ、来た道を戻った。
城に入るとアリアがまだかまだかと落ち着かない様子で待っていた。
「アリア、部屋に来い!」
「はい!」
シェダルの部屋に運ぶとベッドにゆっくり寝かせた。
「薄手の寝間着に着替えさせたら下がれ
湯あみは朝しろ」
「は、でもそれは」
「お前は気絶した人間を風呂に入れる事が出来るのか?
いいから着替えさせたら下がるんだ」
「かしこまりました。」
アリアはシルクの薄くてしなやかな寝間着に着替えさせると、隣の部屋のエルグスに合図した。
「そ、それでは、失礼いたします。」
アリアが出ていくのを確認するとエルグスはガウンを脱ぎ、シェダルとベッドの中に入った。
「こんなに冷たくなって・・・」
寝間着の紐をほどくと肌を直に密着させた。
冷たいが心臓はちゃんと動いていることに安心し、眠りについた。
翌朝
コンコン
ノックをし、アリアが入ってきた。
薄く目をあけ、『おはよう』と言うとアリアは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「シェダル様、ご無事で良かった!心配したんですよ」
「う ん そう言えば・・・私、小屋に居たような」
「吹雪になったのでエルグス殿下が運んでくれたんですよ」
「殿下?私殿下を待っていたのよ・・・」
「まぁ、その話は後で。
先に湯あみをいたしましょう。」
ゆっくりと起き上がると寝間着の前身ごろは紐がほどかれはだけていた。
「あら、私 昨日ちゃんと着なかったのかしら」
「・・・」
お風呂から上がると、アリアが何やらバツが悪そうに話し始めた。
「あの、シェダル様、お食事の前にお伝えしておいた方が良い事がございまして・・・」
「なぁに?」
「昨日の吹雪の中、エルグス殿下に助けて頂いた後ですが
シェダル様は気を失われていたので、おそらく・・・おそらくではありますが」
「アリア、早く言って!食事に遅れるじゃないの
大丈夫よ、遅れて来た言い訳はじっくり殿下に確認するから」
「いえ、遅れて来たのは、殿下のせいではなくですね
それは、広間に行ったらお話があると思うのですが、そうではなくて、
シェダル様の体が冷え切っていたので、それを温めて下さったのがエルグス殿下だと思われます。」
「温めた?」
「はい」
一瞬頭が真っ白になった。
ん、冷静になろう、私。
殿下が温めてくれた。
私の体が冷え切っていた。
寝間着がはだけていた。
・・・それってつまり体を温めてくれたって事?
色々考えると一気に顔が真っ赤になった。
よ、嫁入り前なのにぃ
しばらくの間、アリアが私を呼ぶ声が耳に入らなかった。
食事をしに部屋に入ると、エルグス殿下一人だった。
出来るだけ普通を心掛け目線は下向きでやり過ごそう…
「おはようございます。エルグス殿下。」
「ああ」
「あの、他の方は?」
「昨日の件でバタバタしている。
今朝は俺とお前だけだ。」
通常と変わらないエルグス殿下にほっとしつつ、食事をとった。
食事の後のお茶が終わった頃、コルヴィス殿下が入ってきた。
いつも明るいのに、今日は何やら疲れたような顔をしている。
「シェダル嬢、具合はどうかな?」
「はい。すっかり体も温まりました。」
「そうか、エルグス殿下、シェダル嬢 この後陛下が話があるそうなのだ
謁見の間までご足労願いたい」
私達はそれを了承し謁見の間に案内された。
謁見の間は神々の天井画が描かれており、壁は白地に赤と金とで装飾された豪華な部屋だ。
その奥、正面中央にデルフィヌス陛下が待っていた。
陛下の前まで進むと私達はカテーシーをし、片膝を立てて頭を低くした。
「顔を上げてくれ」
私達はそのままの姿勢で顔を上げた。
陛下は立って私たちの前まで来ると片膝をつき
「シェダル嬢、この度は愚女が迷惑を掛けすまなかった。
エルグス殿下にも申し訳なかった。」
「デルフィヌス陛下、私達にそんな、どうか顔を上げて下さいませ。」
「シェダル嬢、話はまだ聞いておらぬか」
「はい。」
「昨日、山小屋に呼び出したのはエルグス殿下ではない。」
「はい…」
「娘のヴェラがそなたに嘘を付いたのだ。
あんな天候になるとは思わなく、少しからかう程度にと思っていたらしい。
幼い頃から体が弱く、兄のコルヴィスが面倒をみていてな、
コルヴィスが大好きなのだ。
それが、シェダル嬢とあまり仲良くしているのでやきもちをやいたようだ。」
「やきもちで人が死んでいたかもしれないのですよ、陛下。
それにシェダルは私の婚約者だ。
友好国の提携を結んだ矢先、これでは・・・
納得のいく御判断をして頂けるのでしょうな」
「ヴェラは自然の多い田舎で暮らしてもらう。
今後は外に出ず、家の中で領地の為になるような事をしてもらおうと思っている。
そして、ウラヌス国には、我国のみで採れる鉱石の独占権でいかがだろうか」
「それは、もしかして、錆びないという金属・・」
「うむ」
噂でしか聞いた事がない位知る人ぞ知る金属。
他に売ってもいないので、これはかなり良い話だ。
「ウラヌス国としては問題ない。
シェダル、どうだ?ヴェラに関しては甘い気もするが」
「ヴェラ殿下はお体が弱い事もあり、今まで大変な思いをしてきたことと存じます。
私は何事もありませんでしたし、自然の多い中で穏やかに暮らして頂けたらと願いますわ。」
「そうか、二人とも感謝する。
アルデバラン陛下にも書面をしたためたので渡して欲しい」
「はい、承ります」
そうして、私達は残り二日を有意義に過ごしムスカ国を後にした。
また馬車で二人きりだ。
ただ、帰りは眠かった。
色々疲れたからか、隣にいる殿下の肩にうとうとしながら寄りかかってしまう。
気づいては元にもどり、の繰り返し。
すると、すっと腕を肩にまわされた。
「寝てると良い」
「殿下のいじ・・わ・る」
むにゃむにゃ
いつの間にか意識は遠くなっていた。
おでこにほんのり柔らかいものが触れた気がするがきっと気のせいね・・・。