第70話 やれると思ったのに……
「はぁ……はぁ……」
あぁ、嫌なことを思い出してしまった。
それと同時に、夏音の周りにどんどん黒い影が増えてゆく。
せーちゃんのせいで、思い出したくないことを……思い出してしまった。
せーちゃんのせいで、夏音はここまで怒り狂っている。
どれもこれも全部、目の前のお姉さんのせいだ。
夏音はせーちゃんを睨む。
せーちゃんは涼しい顔を崩さず、夏音を見つめ返す。
「どうしたの? そんなに怖い顔して」
わかっている。ノっちゃダメだ。
相手は夏音が攻撃するのを待っている。
その上で、夏音のことを負かす気でいると思う。
そんなの、させない。させるわけない。
夏音が黒い影に目配せすると、黒い影は一斉にせーちゃんさんの周りを囲む。
そしてせーちゃんを、攻撃せずに待機する。
そう、それでいい。
夏音はニヤリと嗤い、
「とった――ですにゃ!」
瞬間。せーちゃんさんの背後に、跳んだ。
これで、忌々しい気分も少しは晴れるだろう。
そう考えたら、何だか――
「――防壁!」
「――!?」
……何の悪夢だろう、これは。
そう思うことしか出来ない、目の前の悪夢。
「せーちゃん! 大丈夫!?」
「ん? え? 結衣!?」
この異能力での突進。せーちゃんと言えど、多少のダメージは与えられる。
そう、考えていたのに。
「邪魔……です、にゃ……」
あぁ、なんで……
「せーちゃん……これ、やばくない?」
「ええ、ごめんなさい。ちょっと煽りすぎたかもしれないわ……」
いつもいつも――
「夏音は……なんでいつも――」
上手くいかないのだろう……




