第51話 美味しい食事
さてさて。
そんなこんなで温泉旅行が始まったわけであるが、まず先にしなくてはならない事がある。
それは、そう。『食事』だ。
「わーい! ご飯だー!」
「すごい……本格的……な、和食……だ……!」
「ふーん……まあ、こんなもんよね」
「へぇ……いい匂いがしますね……」
結衣、真菜、せーちゃん、緋依の順で、口々に料理の感想を零す。
部屋に運ばれてきた料理はどれも美味しそうで、少女たちの減ったお腹が「早く食わせろ」と唸る。
結衣はお母さんに目配せし、「食べてもいいか」と目線で訴える。
すると、お母さんと目が合い、お母さんはパチンとウィンクをする。
「じゃ、食べよっか♪」
その言葉が合図となり、結衣たちは一斉に手を合わせた。
「「「「いただきます!」」」」
箸を手に取り、それぞれ目に付いたものをよそっていく。
そして唾を飲み込み、よそったものを口に運ぶ。
――パクリ。
――…………
「「「「!?」」」」
思わぬ衝撃に、結衣たちの目が見開かれる。
「おいし〜い♪」
美味しすぎて箸が止まらない。
マグロとタイの刺身、白味噌の味噌汁、ホクホクとした温かい白米……
幸福感を得るには充分すぎるほどだった。
だが、それ以上に大物が待っていた。
それは――
「こちら当店名物の、すき焼きになります」
「す、すき焼き……!!」
誰かが感嘆の声をあげた。いや、あるいは全員だったかもしれない。
すき焼き鍋がテーブルの真ん中に置かれ、蓋を取ってみると、中からすごい量の湯気が溢れてくる。
「美味し、そう……!」
「ね、これ早く食べたいです!」
真菜と緋依が同時に零す。
だが、お母さんはふるふると首を横に振ると、
「ダメよ。まだお肉に火が通ってないんだもの」
言われてみれば……確かに所々赤くなっている部分が見受けられる。
「まだダメかぁ……」
結衣はそう零すと、テーブルの下に隠れていたガーネットにひっそりと声をかける。
「ねぇ……魔法で時間早めたり出来ない?」
「なんですか、急に? まあ、出来なくもないですけど……」
「じゃあ早くやってよ!」
結衣はガーネットに急かすように言う。
期待のあまり少し声が大きくなった気がするが、誰一人気付いていないようなので、結衣はホッと胸を撫で下ろした。
「ですが……その……」
ガーネットは口ごもり、何かを言うべきか否か。葛藤しているように見えた。
「『その』の後……なに?」
「あー、もう! 最初に出会った時、私一人じゃ魔法使えないって言いましたよね? だから、私に魔法を使えと仰るなら、結衣様は変身しなきゃならない――そういう事です」
「なっ!?」
確かにガーネットはそんな事を言っていた。……ような気がする。
だが、それでも、どこか納得いかない。
「でもさ、緋依さんに突撃した時に認識阻害かけてたよね? あれは何なの??」
結衣がその魔法を使おうと思って使ったわけではない。
そもそもガーネットを自分の手で持っていなくては、当然のことだが、結衣にも魔法が使えないのだ。
……まあ、何事にも例外(天使モードや魔王モード)はあるが……
そんな結衣の胸中を察してか、ガーネットは結衣の疑問に比較的丁寧に答えた。
「あれは私の……『固有スキル』だと思ってもらえればとぉ。つまり、元々備え付けられていた魔法――と言うべきですかねぇ?」
「え? つまり、どういう事??」
ガーネットの説明を受けてなお、未だ混乱が拭えないでいる。
むしろ、悪化している様子の結衣を見て、ガーネットが呆れながら零す。
「私は確かに自分の力で魔法を扱う事は出来ません」
結衣がガーネットと初めて出会った時の言葉を、ガーネットは反芻して言う。
「ですが、自分の身を守れなくてはあらゆる人の手に渡り、世界が混沌に満ちてしまうかもしれない。そういう事です」
「うーん、よくわかんないけど……解った。つまり自分の身を守るための魔法なら使える……って事だよね?」
「まあ、そういう事になりますねぇ」
なるほど……それなら納得がいく。
そんなやり取りをしていた間に、肉に火が通ったようで、みんながすき焼きを食べ始めていた。
「あっ! ずるーい! 私も食べるー!」
そんなこんなで、結衣たちは幸せな時を過ごした。
“食べ物は人を幸せにする”。まさにその言葉の通りだ。




