第114話 龍と天使の戦い
「結衣様っ!」
結衣の隠したい過去を思い出させるような大雨。
胸が締め付けられる。
もういっそのこと、自分を殺してほし――
「結衣様!!」
大雨と竜巻の轟音さえも破るガーネットの声に、結衣は思わず目を剥く。
心なしか、ガーネットが怒っているように見える。
結衣が何も言えずにいると、ガーネットが大声で責め立てる。
「何やってんですか結衣様! 諦めちゃダメじゃないですか! どうせ“勝てない”とか思ってるんでしょお。まったく……」
「で、でも……っ!」
「でもじゃないですよ! 結衣様はこれまでも様々な困難を乗り越えてきたじゃないですか!」
「だから――」と付け加えて、
「これぐらいで負けちゃダメです」
と言い放った。
そうだ。これぐらいで、負けていられない。
結衣はガーネットの言葉を受けて、立ち上がる。
すぐそばまで竜巻が迫ってきているが、結衣とガーネットはそんなことを気にしていない。
完全に二人の世界に入り浸っているからだ。
「……ガーネット」
「……はい、結衣様」
二人は強大な力を前にして、ただ覚悟を決める。
「少しだけ、別行動しよう。……アレを、見つけてきて」
「……わかりました、結衣様。ご武運を」
結衣は変身を解除して、ガーネットは一目散にある場所へ向かった。
☆ ☆ ☆
「……どうしはったん? まさか勝負を降りたんやないやろね?」
「……まさか。ガーネットがいない方がいいだけだよ」
変身を解除した結衣を見て、明葉が鋭く言う。
もう、破壊の嵐は目と鼻の先にある。
だけど、そんなものっ!
「――幻想展開、光刃!」
結衣はすぐさま変身し、光でできた刃を振りかざす。
すると、竜巻が消え、雲が晴れる。
先程まで降り注いでいた大雨も、今となっては面影すらない。
明葉が目を見開いて、それを見つめる。
髪を紅く焦がし、四つ羽を広げる――天使。
服装は普段の魔法少女衣装だが、明らかに違うものがある。
それは、そう、威厳だ。
もはや結衣は人類ではなく、文字通りの神の使者。
龍もたしかに威厳はある。
だが、所詮高次元の生命体でしかない。
「ちっ……なかなかやるやないの……」
だが、龍だって。
「けどなぁ……うちかて負けられへんのよ」
人々からの“信仰”を受け継いでいるのだ。
人々から崇め奉られれば、それはもう“神”なのだ。
「“龍神”と“天使”――どちらが上かなんて、今更言うまでもないやろ?」
明葉は――いや、“龍神”は不敵に嗤う。
もはやここにいるのは、転校生の明葉ではない。
「さぁ、存分に殺り合おうや!」
刹那。明葉の手のひらから、炎がビームのように繰り出される。
結衣はそれを、すんでのところで躱す。
空に羽ばたけば、天使の独壇場だと思っていた。
だが、違うらしい。
それもそうだろう。龍だって飛べるのだ。
龍神は、天使と対峙するように空を飛ぶ。
これは、今までより厄介な相手になりそうだ。
結衣は一層気を引き締めて、相手に向き合う。
妖しい天使と、神に等しい龍。
その二人が、本気でぶつかり合おうとしていた。




