魔族を活用したお化け屋敷開発構想③
俺は自室に戻ってからレナにお願いをして自分の翡翠晶をもらい、また簡単な魔法の設定をしてもらった。
「魔法を使うためには”擬装回路”っていうのを身体に埋め込む必要があるの」
銀色の筒のようなそれはレナの魔法によってするりと俺の中に入った。痛みも感じず、身体の中に自然と定着する。
「擬装回路はニューロレベルで結合し自分の中の魔素を高めて空気中の魔導回路を開き自らをデバイス化してなんたらかんたら…」
ぽかんとした顔をしていた俺をみて呆れたような表情でレナは、
「リン様の理解力がないのはわかったからとにかくこれだけ覚えて。擬装回路の中に3つ魔法翠…この緑色のルビーみたいなカプセルだけど、これ入れておくから。爆裂、浮揚、回復の3つね。基本的に全部緊急避難のためのもので、一回使ったらしばらく使えないから使い所はよく考えて使ってね。リン様自身の魔力もそれなりにあるから、かなり効果は強くでるはずよ」
と言った。
が、俺はどうやったら純粋苦痛を止められるのかしか考えていなかった。
この擬装回路は魔術の訓練を受けていない人でも魔法を使えるように開発されたものらしい。
とすると、魔法を無効化する魔法翠とかあるんじゃないか? 世の中にはレナのような暴力女の被害にあっている可哀想な人が他にもいるはずであり、そう言う人たちは助けを求めているはずである。
俺は心のメモにこの件をまたもや大書してから、哀れな魔法被害者のために戦うことを近い、寝支度を整えベッドに横になった。
初日からバラエティに富んだ変人揃いで、まともな人間である俺は猛烈に疲れており、目を閉じるとすぐ睡魔に襲われた。
そうそう、飯はかなり、美味かったです…
夜寝ているともぞもぞと誰かがベッドで動いている感覚がした。俺はぼんやりと目を覚ますとまだ夜中、淡い光に照らされて動くのは…ユイナ?
「あらリン様、起きてしまわれましたね…」
ユイナは昼間の肩を出した涼やかなメイド服からさらに薄着で…露わになった白い腕に大きな胸を強調した格好で俺の身体に覆いかぶさっている。
「ユイナ…? なんだこれは?」
俺の意識は急速に覚醒し、気づくと俺の腕は頭の上で固く結ばれて動かせない。そして目の前には、にっこりと、でも含みのある笑顔で俺を見下ろすユイナ。
「すみません、お休みのところ…でも私、寂しかったんです」
といって少しすねるような表情を見せるユイナ。猫耳が合わせてぴょこんと垂れ下がる。
「なに? 寂しかった? なんで?」
と言いながらこの雰囲気からある程度予想はついていたが一応聞くことにした。
「だってリン様、なんのお申し付けもなく寝てしまわれるから…私、とっても寂しかったです…なんでもお申し付けくださいって、あれほど言ったのに…」
と言いながら俺の身体に自分の身体を押し付けてくる…! いや、童貞ヒキニートには刺激が強すぎるんだが…
「私はリン様のメイドですから、リン様のお世話はなんでも出来るんですよ? なのにすぐ寝てしまって…だからリン様のこと襲わせていただくことにしました☆」
と言って俺の身体をゆっくりと触ってくるユイナ。いやいやちょっと待ってくれ俺いろいろ、っていうか全部初めてだしっ!
「リン様は、苦しめられるのがお好きなんですよね? レナ様もおっしゃってました。リン様はこうやって責められるのが好きだって…恥ずかしくて言えなかったんですよね? 」
ユイナの手は少しずつ俺の身体の下の方に行く…やめてくれと言いたかったが初めての感覚に俺はめくるめき出していた。
「ねえリン様…ユイナはもっともっとリン様に気に入られたいです…」
と言ってユイナは顔を近づけ俺の頬のあたりを猫がやるようにチロチロと舐めてくる…
「だから、もっと可愛くなれるようにお洋服とアクセサリー買って欲しいんです…プルミエの新作が出たので…」
ユイナはここで身を起こし俺の顔を真っ直ぐに見てきた。
「リン様、買っていただけますか? プルミエのお洋服とっても可愛いの。買っていただければもっともっとご奉仕させていただきます…お願いです、陛下…」
と言って熱っぽいような潤んだ瞳で俺をみてくる。だめだこのままだとユイナのペースでいろいろやられてしまう。俺は今こそその時と思い、レナから習った魔法の使い方を思い出し、言われたとおり頭の中で自分の身体が浮揚するイメージを描き、
「浮揚!」
と叫ぶと途端に俺の身体は宙にぐわんと浮き上がりユイナは悲鳴を上げベッドに投げ出され、俺は腕を上に縛られたままの格好で天井近くにふわふわ浮いた。
「ユイナ、申し出はありがたい。だが、俺は童貞だ! あと女の子とそういうことになったことは自慢じゃないが一度もない! だからどうして良いかもよくわからない!」
と俺は空中にふわふわ浮遊しながらユイナに一言ずつ説いて聞かせた。
「だから、頼むから俺を今はほっておいてくれ。君はとっても魅力的だがいろいろ急過ぎて困るんだ」
ユイナは俺の話を聞いてまた笑顔になり、からかうような表情を浮かべ、
「まあまあリン様、誰にでも初めてはありますわ。さあそんなところで恥ずかしがってないで、私をママだと思って降りてきてください…いっぱい甘えてください…」
と言って腕を広げるユイナ。やっぱりこいつも普通じゃなかったか…
と、その時ドアが開いて
「何が起きたの!」
と言って部屋に飛び込んできたのは…レナだ。俺はあっけにとられつつ腕を縛られた情けない格好のままふわふわ中空を飛んでいた。
「いえ、リン様にご奉仕しようとしていたんですが…」
と気まずそうに答えるユイナ。
レナは俺を眺めて肩をすくめると何があったか理解したようで大きなため息をつくと、
「大きな魔力発動があったから何事かと思ったら…何? これはリン様の世界で流行っている特殊なプレイかなんかなの?」
「いや、違う、断じて違う。俺は単なる巨乳好きでしかない、性癖はストレートだ。ただ寝てたらユイナが俺に覆いかぶさってて…」
俺は床に降り立ち、ユイナに手を差し出し縛を解いてもらっていた。
「まあなんでもいいけど、とにかく夜中に魔法使わないで。リン様の魔力は結構強いから迷惑だから。あとあたしは人の性癖にはとやかく言うつもりはないけど、できれば私の城で変態行為は控えてもらいたいわね」
と俺を縛っていたロープを一瞥してそっと目を離すレナ。
「しかし童貞ヒキニートの上に縛られ好きの変態とはどこまで拗らせてんよのあんた…」
「違うこれはユイナが勝手に!」
俺は抗議したがレナは欠伸をし、
「まあいいわよ、大体想像つくから…おやすみ」
と言って部屋から出て行った。
しばらく気まずい時間が流れた。
ユイナが口を開き、
「リン様。お騒がせしてすみませんでした。今日はもうお休みになりますよね、また明日お会いしましょう」
少し気まずそうに耳をぴょこんと下げて、ユイナは部屋から出て行った。
俺はようやく1人になれたことに感謝して、今度こそと思い眠りについた。
翌朝何もなかったかのようにユイナは俺の身支度を手伝った。唯一、俺の手がユイナの手に触れた時少し微妙な笑顔を浮かべたくらいだ。気づいたらこいつが毎晩俺の部屋に来て俺は毎晩ふわふわ天井あたりを浮遊していた、みたいなことは避けたいな…
昼間の時間は帝国内を軽く見て回った。レナとロイネ、パルマも一緒だ。パルマは護衛という位置付けらしい。
「もし万が一トラブルがあってもあたし戦わないから、リン様浮遊の魔法使って逃げてね。昨日の夜もそれでユイナから逃げたんでしょ?」
と言って笑うパルマ。
「いやいきなり襲われたら誰だってそうだろ」
街並みは優美で美しい。白い石造りの建物が多く、海に面していることもあり開放的で明るい印象で、規模は小さいながらも元気な国に見えた。
「何を言ってるんだか…皇帝なんだから好きにすればいいのに、リン様は本当に骨の髄の芯まで童貞ヒキニートだね。まあ、全く私はどうでもいいけどさ」
と呆れたようにいうパルマ。
「俺はそういう立場を利用したようなことは嫌で…」
俺が話をしている途中で群衆から歓声が上がった。俺が即位した、ということへの歓声のようだ。
「まさかみんな、リン様が童貞ヒキニートとは知らないだろうねぇ。女の子に迫られて逃げるような童貞魔ロードだってわかったらどうなるだろうねー」
と、またパルマ。
「なんだ、今日はやけに攻撃的だな」
パルマは鼻をならした。
「別に…相手がわざわざベッドに来たのに何もせず返すなんてやっぱり童貞だなってだけ」
俺は心の中に脱童貞を大書した。
絶対的にだ。
「パルマはじゃあ、どうなんだよ。非処女なのか? 」
「その質問まじで童貞くさくて最悪。童貞皇帝まじ勘弁」
とパルマはdisってきた。
「お前も経験ないんだろ。そんな偉そうに童貞disかましてる暇あるなら誰か見つけろよ」
「わかってると思うけど念のため、処女には高い価値があるけど、童貞にはなんの価値もないから。そのくらいわかるよね?」
俺に手を振って祝福の声をかけてくる帝国臣民達ににこやかに手を振り返しながら俺とパルマは小声で親密な会話を繰り広げていた。
「じゃあお前も処女ってことじゃん。経験ないって意味では童貞と同じだろ。大体なんで俺が童貞だって決めつけるんだよ」
俺は笑顔をつくり遠くの少年少女に手を振りながら答えた。
「犬は4本足で歩く。これは事実でしかなくて決め付けじゃない。 それとおなじ、溢れ出る童貞臭から、リン様は間違いなく童貞」
パルマは俺の隣で同じくにこやかに手を振りながら答える。
「いや、俺は童貞じゃない。お前が処女だから、それがわからないだけだ」
「じゃあいつどうやって童貞捨てたか言ってみなよ」
俺は少し考えてから答えた。
「15歳の時、相手は25歳くらいのお姉さんとだよ」
レナもにこやかな顔で手を振りながら、完全に馬鹿にした口調で会話に入ってきた。
「いかにも嘘くさいよね。どうやってそんな人と知り合ったのよ? どうしてそんなことしようって話になったわけ?」
「俺は音楽が好きだったからとあるライブに行って、そこで声をかけられたんだよ。そういうことしようってなったのは説明しなくていいだろ…恥ずかしいし…」
「もうその時点で嘘だよね。まあどうでもいいけど。あと女の子が迫ってきたのに何もせずに返すとか本当にリン様ってダサいよね。まああたしからしたら突然襲われたりする心配もないからいいけどさ」
とレナ。
「じゃあレナはどうなんだよ? お前は処女なのか?」
「あたしのことはどうでもいいでしょ! とにかくあんたは童貞! そういう質問が童貞そのものなのよ!」
レナはさっと顔を赤くして俺に向かってまくしたてた。
ロイネが口を開き、
「レナ様、リン様との親睦を深めるのは後にして、今は皆さんに手を振りましょ」
レナは我に帰ったようで、
「まったく…くだらない話させないでよね…」
とまんまそれ俺のセリフなんだがと思ったが苦痛調教のおかげで賢くなっていた俺は固く口を結び黙っていた。ティルティウス帝国は綺麗な港のある風光明媚な都市国家だが、それを動かしているのは童貞と推定処女だということが判明した。
ふっと、俺の頭に素朴な疑問が去来した。
「レナは今200歳は超えてるんだよな?」
「ええそうよ。それがなんだっていうのよ」
「つまりそれって200年間誰も現れなかったってこと? 200年間処女を守り続けたってことだよね? それってすごい長い期間だけど、とにかくその間ずっと1人だったってこと?」
俺は言い終えてから異様な静けさが辺りを満たすのを感じた。
レナは無表情に俺を眺めると、手をすっとあげて俺の方にかざした。
すると異常なレベルの文字通り立っていられない爆発的な激痛が俺の全身を所狭しと猛スピードでめちゃくちゃな方向でかけめぐり、俺は倒れこみ意識の限界を意識しながら、それでもまだまだ鮮明に異常な猛烈な痛みが波動的に俺を襲ってきた。
「ご…ごめんっ!」
俺は力のかぎり声を上げた。
「俺はただっ…! レナがいかに難攻不落かってことを…! 言いたかっただけで…っうあ⁈」
痛みの度合いが限界を突破し俺の心は痛みだけが充満したが純粋苦痛の素晴らしさは意識が遠のいたりせず全ての痛みを鮮明にはっきりと知覚できるところである。さすがサディスト、その魔法の腕前たるや一級品であり俺は驚きを禁じ得ず賞賛とともに二度とこいつに意見をするのはやめようと深くこころに誓うのであった。
と、唐突に痛みがやんだ。
「ご、ごめん、レナ。ただ君みたいな可愛い子がなんで、と思っただけで…」
俺は立ち上がって心配そうに見ている国民の皆さんに笑顔を作った。
「皆さん、リン様は足を滑らせてしまっただけです! ご心配は無用です!」
とロイネ。いやまったく、優秀な補佐官がいて助かった…