魔族を活用したお化け屋敷開発構想②
俺たちは俺の部屋に戻り、お化け屋敷の映像をみんなに見せた。音声なしと言っていたがレナが映像を翡翠晶から読み出した初手から俺の絶叫が響き渡ったので、
「やめろ!」
と言おうとしたが声が出なかった。身体もうごかなかった。
レナ様が皇帝の俺に停止と沈黙の魔法をかけ、皇帝ながら完全に自由を奪われた状態で俺の絶叫映像をみんなに見せられることになったのです。
皇帝ってなんなのでしょうか?
「要はダンジョンと同じだけど生命の危険はないって事だな」
とパルマ。
「安全なら思いっきり怖がれますね」
とロイネ。
「そだね、リン様みたいに思いっきり大声出していいんだよ。恥ずかしがる必要なんてないの」
とレナ。
「リン様、生きているぞー!って感じ。素敵です!」
とユイナ。
「そうそう、まあでもリン様、この後あんまり怖がるからってことでこの女の子にフラれちゃったんだって」
違う!と言いたかったが声も出せず動くこともできず俺はただ凍り付いていた。でも俺、皇帝です。
「まあそうなんですか、リン様。お可哀想…私でよければいつでも慰めて差し上げますわ」
とロイネ。熱っぽい視線がヤバいんだが残念なことになんの反応もできない。
「リン様は優しそうだし、もう少し押しを強くすると良いと思うな。あたしが教えてあげてもいいよ。どうやって強引にするか、ね」
パルマがウインクしながら言ってくる。あれ? こんなキャラだったか?
「リン様、皇帝として、女の子の扱い方も学んでいただく必要があります。私はリン様の身の回りのお世話をする立場ですから、きちんとやらせていただきます」
とユイナ。本当に真剣に、教えてくれようとしている…いやそりゃまあ知らないけどさ…
「まあイメージはよくわかりましたし、そろそろ魔法は解除してあげて良いのではないかしら?」
ロイネ、ありがとう。
レナは俺を見て、
「ねえ、リン様、どうして欲しい? もう魔法解除してもらいたい?」
もちろんだよ!と言おうとしたがもちろん何も言えないし、動けない。
「そーう、返事ないってことは、そのままでいたいってことね? じゃあリン様から希望言われない限り、そのままにしておくね」
とまた可愛い素敵な顔でおっしゃるレナ様。いや無理なんだがそれ。
「レナ、もうそろそろいいんじゃないの? もうなんか飽きたし」
とパルマ。言い方はむかつくが賛成である。
「私はちょっとかわいいからもう少しこのままでもいいかなって思います」
ユイナが俺を見ながら、少しだけだがからかうような響きで話しかけてくる。あれ? 君そんな感じだったっけ?
レナは俺を一瞥し、しばらく見ていたが肩をすくめると、
「まあね、このままだと不便だし解除してあげましょう」
突然俺の身体に自由が戻り俺は身体を動かし
声を出せることのありがたみを実感しながら
「おいレナ流石にやりすぎだろ! 二度とやるなああああああああああいいいいたいいいい!!!」
俺は猛然とレナに文句をつけはじめた瞬間に身体中にまた激痛が走り俺は文字通り悶絶し身体を2つ折にして頭を抱えてのたうち回った。
「あたしに意見しようなんて、100年どころか200年早いのよ!」
エルフだけにか…と言葉にしようとしたところで激痛がまたぴったりと止み、俺は正気がえった。
「わかった? わかったなら返事して」
「わかったよ」
と俺は一応わかった感を出しつつも、
「でもさすがにこれはやりすぎだろ。俺が皇帝じゃなくても最低限のプライバシーくらいはもらえるんじゃないか? 俺の頭の中を全て大公開する必要なんかないだろ?」
「リン様の叫び声があるから臨場感があってどのくらい怖いかが伝わるんだよ。リン様の声が無かったら伝わらないよ。だから声も出したの。リン様の計画が成功して欲しいからって、私余計なことしちゃったかな。ごめんね」
とレナ。急になぜそこで可愛らしくなるんだこいつ。緩急自在かよ。
「いやそう言われると、なんとも言えなくなってしまうんだが…まあわかったよ」
レナは少し笑って付け加えるように言った。
「それとね、リン様とは私は相性が良いっていうか…なぜだかわからないけど私の魔法がリン様にはすごくハマって効くの。それが気持ちよくてついつい魔法かけちゃうの。ごめんね? 怒った?」
と上目遣いで聞いてくるレナ様。
「まあ、わかったよ。でも本当に魔法で強制的に自由を奪うのはやめてくれ」
「わかりました。リン様のその気持ちはね」
といってニヤッと笑うエルフ。俺は近いうちに必ず魔法を習得して、この隷属からの解放を勝ち取ることを心に誓った。
「まあとにかく、俺が動けない間お前たちキャッキャウフフしていたが、大体おばけ屋敷というのがどういうものかわかっただろ?」
俺は皇帝らしい威厳を取り戻そうと強めの口調で話してみたがいまさら手遅れであることは4人の顔に貼り付いたニヤニヤ笑いから明らかだった。
「リン様、はいそれはもう、よくわかりましたわ。リン様がとっても怖がり屋さんだってことも」
とロイネ。明らかに面白がっている様子である。
「それはいいんだよ。とにかくああいうもので、あの恐怖演出を魔族にしてもらいたいんだ。魔族は人の恐怖を喰らうとかそんなだろ? だったらもう、ぴったりだろ」
「確かにそうだね。問題は魔族のトップが話を聞いてくれる相手かどうかってこと」
とパルマ。
「私は冒険者の時にやりあった相手だけど、名前はフムヌンルルム。発音しにくいけど、これでも汎人用に発音しやすくしてあるの」
「で、そのフムルンヌルンはどんな奴なんだ? パルマはどこで会ったんだよ?」
と俺。
「早速名前が違うよ。フムヌンルルム」
「まあ…じゃあルルムとしよう。ルルムとはどんなやつなんだ?」
「ルルムは筋金入りの汎人嫌いだね。まだ魔王軍がこの世界を攻撃していた時、私とレナと他のパーティーでフムヌンルルムのダンジョンに入ったことがあるんだけど、まじで底意地が悪かった。宝箱と思ったらただの落とし穴だったり、出口と思ったら移動ポータルでダンジョン中央に戻されたり…」
レナが重ねた。
「危険な目に合わせたいとかじゃないんだよね。徒労とか無駄とか味わせて彷徨う様子が好き、みたいな。私が一番傑作だと思ったのはダンジョンをさまよって何日もかけて探索してトラップやループにもめげず戦い続けて中ボスも3-4体倒して最後フムヌンルルムも倒した、と思ったらダンジョン入った入り口でずっと手の込んだ幻影を見せられてて、身包み剥がされて裸でポータルから街へ強制転送された冒険者パーティーの話かな。まあフムヌンルルムはある種の変態だから、リン様とは気が合うかもね」
「なんでだよ俺は何も変態なところないだろ。というか、変態はどう考えてもお前だろ」
レナはまたニコニコと笑いながら、俺を小馬鹿にしたような表情となる。実際可愛いだけにタチが悪い。
「でも純粋苦痛好きでしょう? わざと私の神経逆撫でしているとしか思えないもん。わざと私を怒らせて苦しみたいんでしょ? そういうタイプの変態もいるって文献で読んだことあるよ。やっぱり20才童貞ニートともなるとそれだけ拗らせても不思議はないよねー」
と言ってレナが手を振ると星がキラキラと煌めきピロリリンと音を立てながら俺の周りを取り囲んだ。
「なんのつもりだこれは?」
レナがまた手を振ると星が止まった。
「リン様が童貞ヒキニートで20年間サバイブしたことのお祝いだよ。そんな人が皇帝になってくれて嬉しいな」
とレナ。
「リン様、もしかしてリン様は私にも丁寧に面倒見てもらうんじゃなくて、苦しみを与えてもらいたいんですか? もしそれがお望みなら、素直にお申し付け下さい。リン様の望みは、ユイナの望みです」
ユイナが心配そうな声色で、でも顔付きは笑顔を張り付けて俺に聞いてくる。
「いや、ユイナ、頼むから全力で俺を丁寧に面倒見てくれ。もう俺を痛めつけるのはレナだけで充分だ。いいな? フリじゃなくて俺は本当に苦しむのが好きな変態じゃない。純粋苦痛なんて大嫌いだ」
「わかりました。でも気が変わったら、いつでも言ってくださいね」
とユイナ。心なしか残念そうな表情をしているが…いやなんだ、こいつらみんなドSなのか? この世界大丈夫か⁇
「まあ、とにかく話を戻しますと、フムヌンルルムに会いに行って話をする必要がありますね」
とロイネ。ありがとう、俺の心の支えはお前だ。この中では最もまともな人間に思える。
「そうだな。基本的なお化け屋敷の骨格はフムヌンルルムに作ってもらう必要がある。それに合わせて魔法でトラップしかけて強制転移とかループとかで恐怖演出してみるとかも良いだろう」
ロイネは頷く。
「とにかく会わないことには始まらないからすぐにでも会う約束を取り付けてくれ。早ければ早いほどいい。あとフムヌンルルムに説明するための資料をまとめて欲しい。さっきのティルティウスの概要をまとめたみたいなものだ。早めにまとめて俺に見せてくれ」
「はい…もちろん速やかにやります。お仕事いただけてありがとうございます。何かまとめるにあたっての方針みたいなものはありますか…?」
とロイネ。上目遣いに頬を赤く上気させ、なんだかその様子は興奮しているような…何だ?
「そうだな。話を聞いているとフムヌンルルムは捻くれ者の変態ということだから、なるべく好みに合うように人間に嫌がらせをしてもらいたいというトーンを強くした方がいいだろう」
ここで俺は1つ重大なことに気がつき、皆に聞いた。
「ところでフムヌンルルムは魔族ってことだが見た目はどんななんだ? 目とか口とかちゃんとついているのか? スライムみたいな奴じゃないんだよな? 」
パルマが答えて、
「フムヌンルルムは見た目は汎人類の女性に近いよ。角とか生えてるけど…」
レナが続けて、
「そうそう、それと、リン様の大好きなふくよかな胸をしているよ。楽しみでしょう? 大きなおっぱい大好きだもんね?」
とニヤニヤ笑いながら聞いてくる。
「いや別にどうでも」
と言いつつ、少し楽しみな俺がいた。すみません、レナ様のいう通りです。
「でもフムヌンルルムは女じゃないから、勘違いしないようにね。魔族に性別はないし性欲とかもないよ。あるのは征服欲。汎人類の理屈は基本的に通用しないから。正真正銘の化け物なのよ。リン様の性欲並みにね」
「お前本当に勝手に俺のキャラ作りをするのはやめろ。俺の性欲は慎ましく質素、その様子は普通の人間となんら変わらない」
「フムヌンルルムとは何度か戦ったけど闘争本能みたいなものは多分魔族としては低い方だと思うな。そんなに追い込んでこないというか。私も戦いダルいからそういう意味ではあいつとは気が合うかも」
とパルマ。俺の抗議は流され無視された。
「ではその辺りも意識しましょう。それではいつ頃にアポを入れますか?」
とロイネ。実務的である。
「そうだな。早い方がいいだろ。このままではジリ貧なんだろ? 2,3日後くらいに入れられるか? その前に資料をまとめて見せてくれ」
ロイネはすっと息を呑みまた頬を赤らめた。息を荒くさせ舌なめずりをしながら、俺ににじりよりながら聞いてくる。
「まあ、そんなに早く…私はこのお化け屋敷というものを今日初めて知ったんですが予算組みから事業計画、改装の見積もりからプランニング、フィージビリティスタディまで終えて収支のシミュレーションもいくつかやって、それからこの2,3日でフムヌンルルムに会いに行こうというのですね! まあまあなんて厳しい…もうリン様はめちゃくちゃですね。こんなに凄いのもらったのあたし初めてです…」
恍惚とした表情で腰をクネらせながら語るロイネ。え? なにこれ?
「いや、別にそこまでは言っていないが…」
ロイネは俺の言葉を聞くと急に表情を曇らせ悲しそうに泣きそうな声で、
「え…必要ありませんか? 先延ばししますか?」
と今にも泣き出しそうな顔になったので俺は慌てて、
「いやいや違う違う、善は急げだ。大急ぎでやってくれ」
というとまたぱっと表情が変わりトロンとした目つきとなり、
「はい喜んで、リン様…」
とうっとりと言う。俺はなにか掴んだ気がした。
「とにかくスピードが大事だ。だからフムヌンルルム向けの資料はとにかく完璧なものを初回から出してくれ」
「ああ、はい! 喜んで…」
と目を潤ませながら語る宰相。腰がガクガク震えている…こいつは本当に相当な変態だな…
俺は荒く息をつくロイネを見ながら、急に猛烈に疲れを感じとにかく休みたくなり、また明日会議をすることにして、今日はお開きにすることにした。
ロイネも堂々たる変態であり、結局俺の周りはユイナ以外全員変人で包囲されているのだった。