表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

魔族を活用したお化け屋敷開発構想


「お化け屋敷っていうのは…そうだな、俺のいた世界にはそもそも魔族とか妖魔というものがいない。人間の生活は基本安全で恐怖を覚えることはないんだ。だからお化け屋敷って場所があって、魔族とか妖魔みたいなのに扮した人間に驚かされたり怖がらせられたり、ってことにお金を払うんだ」


レナが完全に馬鹿にし切った表情で、


「あなたのいた世界って、ほんっとうに退廃的で頭おかしいわね。そんなことにお金を払うだなんで愚かとしか言いようがないわ。リン様みたいなニートが平気で生きていられるのも納得ね」


と辛辣に言葉を重ねながらニヤニヤと笑う。相変わらずの子供声でこんなことを言われると苛立ちで笑いそうになってしまうが、抑えて俺は続けた。


「でもさっき聞いてて思ったんだが、こちらの世界は今平和なんだろ? 勇者様とか、レナ様とかパルマとか、とにかく退廃さのかけらもないご立派な方々が魔王を倒して魔族と仲良くしようとしてるんだろ? 今はもう危険はないんだよな?」


レナは少し考えてから、


「そうね、それは確かにそうだね」


「だろ?」


と俺は勢い込んで言った。


「それが何なのよ」


とレナ。


俺は勝ち誇った顔で続けて、


「だからこそお化け屋敷は重要なんだよ。魔族という根源的恐怖を忘れないことが自分たちの生の実感に繋がるんだ。平和な今だからこそ求められているんだ」


ふふふ、どうだ。悪くないだろう。


「素晴らしいアイデアだと思います。私は賛成です。いろいろと新しく準備するのは大変だと思いますが、私全力で頑張りますわ」


とロイネ。また顔が紅潮して少し目がトロンとしている。

恐らくこいつは豪腕上司から難しい課題を与えられる、というシチュに興奮する輩なのだろう。難儀な性格だ…


「私は戦いにならないほうがいいからもちろん賛成。なんなら私が害ない範囲で魔法使って怖がらせてあげてもいいよ。熱なしの炎爆裂とかね。レナもできるでしょ?」


「まあ、そりゃめちゃくちゃできるよ。確かにリン様の言ってることはよくわかるし皇帝様って感じするね。判断スキルにボーナスついてるしね」


とレナ。ここでぱっと思いついた顔になり、少し意地悪い笑顔になった。またなにか俺の嬉しくないことを思いついてくれたんだろう。


「リン様はそのお化け屋敷に行ったことあるの?」


俺は記憶を検索した。


「あるよ」


そう、あれ俺がニートになる前、まださわやかな少年だった頃、学校のお友達と行ったのだ。確か俺が当時好きだった女の子も一緒だったな、ゆきちゃんだったか…


「そう。それは素晴らしいわね」


とレナ。相変わらずニヤニヤ笑っている。


「ねえリン様、これから皆で魔族に話をしなければならないんだけど、リン様以外誰も見たことないのは不利だと思わない?」


「思わない」


と俺は即答した。


「いや思えよそこは」


とレナ。手の周りに白い粒子が集まり出しているのを見て俺は即答した。


「思います」


レナはにっこりと笑い、


「でしょー?」


と言ってきた。騙されてはいけないんだが可愛いんだよなこういう時だけは…


「実はね、魔法でリン様の心の中に入って、記憶をサルベージすることができるの。犯罪捜査とかの用途で使われるのが一般的だけどね。これを使ってリン様の心から映像でお化け屋敷の経験を切り取ることができるの」


なるほど、笑っているのはここでか。


「レナ、まずひとつ聞きたいんだが、そうなるとお前は俺の頭の中を覗き放題ということか?」


「意図してみるわけじゃないけど、どうしても目に入ってくるのは仕方ないわね。人の心の記憶っていろいろ絡まっているから、お化け屋敷の記憶を探すのに不可避的にいろいろと目に入っちゃうの。でもなるべく見ないようにするから安心してね」


と言いながらその目は全部克明に見てやるという決意でいっぱいだった。


「レナよ、思うんだがそれ、俺が自分で行くのはだめなのか?」


「それはお勧めしません」


とロイネ。先ほどとうってかわって心配そうな顔をしている。


「自分で自分の精神の中へ旅立つことももちろん可能です。でもそれをやってしまうと自己統合性を失調する可能性があります。人は皆、塞いで忘れている記憶や都合よく改竄している事柄などがあります。最近退廃的な貴族が自分探しと称してやっている事例がありますが多くが精神的ダメージを負うか発狂するかで、法律で禁じられています」


「わかったわかった、やめるから」


そこまで言われてやる奴はなかなかいないだろう。


「私もそれは皆で見た方がいいと思うな。リン様が良ければだけど」


とパルマ。やる気なさげな口調は相変わらず、だが考えてはいるようだ。


「リン様しかどんなものかわからないっていうのはやめた方がいいと思うんだよね。成功させたいなら、ちゃんとみんなわかってすすめたほうがいいと思うの」


なるほど。


正論だし、確かに本気になれば将の器なんだろう。


レナはニコニコ笑っていた。


「わかったよ、じゃあやってくれ。ただしまずみんなに見せる前に俺に確認させてくれ。それからだ」


と俺が言うとレナは、


「ありがとうリン様、やっぱり理解があるね。器の大きさ感じちゃうなー」


と全くそんなことなさそうな口調で応じるレナ。いやこいつのこのひねくれ方、なんとかならんのか。




———————————————




俺たちは最初に俺が目を覚ました部屋、魔法室に移り、レナが準備をしていた。俺とレナの2人だけだ。


俺は歯医者の椅子みたいな、でも歯医者の椅子には絶対にない水晶状の細かな線状がびっしりと頭の方に植えられたものに座らされていた。


「リン様、リラックスしてね。リン様にはゆったりと休んでもらって、少し寝てもらうから。気づく頃にはもう全部終わってるからね」


俺はレナの声を聴きながら、魔法の影響か少しずつ眠気を感じ始めていた。


「この魔法はイマージョンって言うの。心の中に私が入って、ちょーっと余計なもの見ちゃうかもだけど、全部リン様と私の秘密にするから安心してね」


俺は少しずつ靄のかかったような頭の向こうでレナが話すのを聞いた。


「そうそう、ひとつ大事なこと。時々精神の中から出ることに手間取ることがあってそう言う場合は強制離脱する必要があるの。その時ほんの少しだけリン様に激痛が走るかもしれないけど、リン様は特別痛みに強い人だから大丈夫だよ。安心してね」


いやそれ全く安心できないしフリでしかないだろ!と俺は叫ぼうとしたが心はどんどん安らかになってきて、俺はゆったりとした眠りに落ちていった。こいつのこの底意地の悪さ、いつか必ず思い知らせてやるぞ…




———————————-




うすぼんやりとした意識の中で周りの声が聞こえはじめ、俺は少しずつ覚醒していった。


なにか心地よい、童心に帰ったような時間だった…と言って俺はそんな年でもないんだが、幼い頃のいろいろな思い出がオーバーラップして俺は暖かい気持ちになっていた。夕焼けまで外でたっぷりと遊んでお家に帰り暖かい食事をとってテレビをみんなで見て…


うすぼんやりとしたまま、目を開けようとしてみるがまだ開かない…なんか微かに笑い声が聞こえるが…


笑い声は次第に大きくなっていき、俺はようやく目を開けると…


身を2つにおって大笑いしているレナ様がいらっしゃった。


「あーっはっはっはっはっはははひひひひひひはははは! あー…」


と涙を浮かべながら笑う女。この国の所有者である。


「レナ」


「あーはっはっは…」


レナは目から涙をぬぐいながら笑い声をとめ、俺の方を見た。


「あらあら、リン様。お目覚めですね。よかったです。うふふふふはははははははは!!!」


もううんざりだったが俺は一応聞くことにした。


「レナ。で? 結果はどうだったんだ?」


「結果? ああはいはい、もうばっちり、リン様の貴重なご経験、サルベージさせていただきました」


さらにうんざりさせられたが俺は重ねて聞いた。


「で、なんでお前はそんなに笑ってるんだ」


「いえもちろんそれはリン様が無事にお目覚めしたことが嬉しくてあーっはっはっはっはははははははは!!」


こいつ、明らかに何かを見たな。


レナは少し落ち着いてから、俺の方を意地悪そうな、でも少し嬉しそうな様子で見た。


「…リン様はよっぽど胸の大きな女性がお好きなんだね。あんなにいっぱい翡翠晶みたいなもので薄着の豊満な女性ばかり見て…」


といって何とも言えない笑いを浮かべた。


「いや、そりゃ俺だって健全な男子だから…」


「他には私は大したものは見てないよ。ただリン様が翡翠晶みたいなもので、いっぱい猥雑なものを夢中で見てたから…あんまりその様子が真剣で、つい笑っちゃったははははははは! …本当に、ごめんね?」


と言って上目づかいで小馬鹿にしたような表情で胸を寄せ、


「ね、リン様まさか怒ってないでしょ? 誰にも言わないから、私のお胸にだけしまっておくから、ね」


俺は胸から目をそらした。そうなのだ、こいつはビジュアルだけならめちゃくちゃかわいいんだよな。


「どう考えても俺のことを皇帝どころかただのバカと考えているとしか思えないんだが」


「何言ってるの、ただのバカの訳ないでしょ。ただのニートなのに皇帝になれた超ラッキーな人だよ。素敵だよ!」


といってウインクしてくる…こいつ本当に俺のこと馬鹿にしてるな。


「で、お化け屋敷の映像だけど、見る? もうこれもすごい傑作。これ世界中の人の翡翠晶に送りたいくらいだよ」


といってまたニヤニヤ笑いだす。

いやなんというか、こいつを俺の心の中に入れたのは本当に間違いだったな…


「いや、見ない」


「なんでよ。見なさいよ! 私がせっかくあんたの中に行ってきだんだから!」


と叫んで映像が映し出される。選択の余地なんかねーじゃねーか。


「ぎゃああああいいいいあああ!!!」


と俺の絶叫が虚空から響き渡る。

チカチカと光が瞬いて空に映像が現れ、出てきたのは誰かの一人称視界。俺の一人称、FPS状態だ。


思い出してきたが、これは俺が中二病真っ盛りの中学三年生の時だ。男女グループで遊園地に遊びに行った、俺の人生史上最もリア充に近づいた瞬間である。

※視界の隅で身体をおって爆笑しているレナはもう無視することにしました。


空に浮かぶ映像には血みどろのピエロがのたうち周り、引き続き俺の絶叫が響き渡る。


壁からは無数の手?のようなものが生理的嫌悪を催させるような形でわさわさとこちらに手を伸ばす。


はっきりいって非常に気持ちが悪い。


「これがずっと続くのか?」


思い出してきた。

ノリノリでおばけ屋敷に突っ込んでいき俺だけ異常にびびっていたのだ…


「凛、大丈夫? ちょっと大げさだと思うけど」


と声が俺の視界=中空の映像から聞こえ、横からカットインしてくる女の子は、


「俺が好きだったゆきちゃんだ…」


お下げ髪に整った顔立ち、フリルのついた水色のワンピース。可憐だ…


「へー、リン様はこういう方がお好きなんだねー。胸の大きな女性ばっかり翡翠晶で見てたのにこの子は全然ないじゃん。誰でもいいの?」


とレナが笑いながらからかってくる。

※俺は引き続きレナを無視することにした。


「大丈夫なわけないだろ、こんなの見て…」


とあっさり弱音を吐く映像内(というか見えないから映像視点起点の)俺。


ああ俺よ、そんなこと言わないでくれ。なにかもっと、もっと楽しくウイットに富んだなにかを言ってくれ。お前がそこで気の利いた事言わずにビビりまくるからゆきちゃんはドン引きして、それからお前と適度な距離を置くようになるんだよ!


「リン様この頃は思春期真っ只中って感じだね。いろいろと大変ですね、”思春期”って…」


とやけにネットリした視線で思春期を強調しながら俺を見るレナ。


「この密室でそうされると本質的に単なるオタクである俺は対処のしようもなくモップしゃぶってしょげかえるしかない心境になるぞ」


と俺。


「あはははは!! リン様はユニークだね。何言ってるかよくわからないけど」


とレナ。でもなんか、前より少し友好的? なんでだ?


映像内では俺が相変わらずぎゃああぎゃあ言って喚いているなかでゾンビやらなんやらが血みどろ臓物わたわたで大騒ぎしている。


時々ゆきちゃんがカットインしてだんだんとうんざりした表情になりかけている。ああ、俺よ、もうやめるんだ…叫ぶのをやめてくれ…


「大体こんな感じで続くけど、これなら見せてもいいよね? 」


「いいよ。でも音声は消してくれ」


と俺。


「それだと面白さは全くなくなってしまうんだけど」


とレナ。とっても残念そうな顔をしている。


「いや、レナ、相変わらず君は何か大きな勘違いをしているが、これは全く、面白くある必要はないんだ。ホラーハウスがどんなものか伝わればいいだけだからな」


「わかったよ」


そしてレナはニヤッと笑った。


「じゃあリン様の若い淡い想い、ぜんぶ私の胸の中に閉まっておくね」


と言って自分の豊満な胸を撫でさする。


「目のやり場に困るわ」


と俺。


レナはニコッと笑って、


「まあまあ。皇帝さんはなにをしても自由なんですよ? 好きなだけご覧になっていいよ。だってあんなにいっぱい翡翠晶でみてたもんね?」


俺はややウンザリしながら答えた。


「レナ、わかったからそれはもう忘れてくれ。それは俺のごく個人的なことだし健全な男子なら普通のことで…」


と言っている間にもドレスから覗く谷間が強調されるようにかがみこんで腕に挟んで寄せて上げる赤毛エルフ。


「別に普通なことだよ、もちろん。だから目をそらしたりする必要はないの。だってあたし魅力的でしょ?」


と言って俺をからかうような目で見てくる暴力女。


「と、とにかく! もう戻るぞ。もう動画も撮れたんだからいいだろ」


と言って俺は立ち上がりドアへ向かった。機嫌の起伏が激しいのかなんなのか…俺はまだ少し紅潮しているのを感じた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ